NHK短歌 題「食器」 2014.02.04

ご機嫌いかがでしょうか?「NHK短歌」司会の濱中博久です。
第一週の選者小島ゆかりさんです。
今日もどうぞよろしくお願い致します。
冒頭の今日の歌は?片付けたんですね。
これはしまうとかこれは捨てるとか。
そして全てきれいになってふと気づくと私が残っていたんですね。
私を片付けなきゃいけなかったとそういう歌です。
さあそれでは今日のゲストをご紹介致します。
詩人のアーサー・ビナードさんをお迎え致しました。
ようこそお越し下さいました。
よろしくお願いします。
ビナードさんはアメリカご出身でいらっしゃいますが大学卒業後の90年に来日されまして以来日本語で詩を作り始めました。
詩集「釣り上げては」で2001年に中原中也賞。
去年絵本「さがしています」で講談社出版文化賞を受賞されるなどご活躍中でございます。
そしてごく最近の刊行作品はこちらですね。
絵本なんですが「雨ニモマケズ」宮沢賢治ですね。
「RainWon’t」と英訳されておりますがこちら開いてみますと…。
いい絵ですね。
山村浩二さんの絵ですか。
そうですね。
宮沢賢治作品をこのような形にしようとされたのは?日本に来てわりとすぐに有名な詩を集めた本の中で出会って宮沢賢治の事何も知らなかったんですけど漢字とカタカナの不思議な言葉に引き込まれて辞書と首っ引きで読んだ時に例えばこの場面の「玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ」というここのところとか「萱葺きの小屋」とか「寒さの夏おろおろ歩き」「稲の束を負い疲れた母あれば」ってそういう里山の中の生活と作業食べ物を作るそれを食べる。
そういうところに強く惹かれてそこがとっても重要だと思ったんですけど後に「雨ニモマケズ」が教育現場でどういうふうに使われてるとかみんながどういうふうに読んでるかって聞いた時に何か教訓くさくて…。
道徳的なね。
根性論とかになってて違うでしょっていうふうにすごく思ったんですね。
でも僕がガミガミ言って違うよって言っても効果ないし僕が思ってる「雨ニモマケズ」はどういう世界かってそれを絵本という形でアメリカの人もイギリスの人もみんなが読めるようにして新たな英語の視点を加えればもしかしたらそういう形で伝えられるかなと思って。
23年後にやっと本になったんですけど。
すばらしい本が生まれましたね。
今大変話題なんですよね。
ビナードさん日本語で詩をお作りになりますが非常に短い詩型の短歌についてはどんなイメージをお持ちなんでしょうね?短歌を最初に作り出した時は器のような定型の中に言葉と題材を盛るという感覚だったんですけど。
器ではなく…。
器じゃないんですね。
やってみたら器じゃなくて足場。
「短歌は足場」じゃないかなと。
足湯ではないんですね。
足湯も魅力的ですけど足場って感じじゃないかなという気がするんです。
後ほど話を聞かせて頂きましょう。
どうぞよろしくお願い致します。
それでは今週の入選歌のご紹介にまいりましょう。
題が「食器」または自由でした。
小島ゆかり選入選九首です。
一首目自由題で頂戴しました。
おむすびの役というのが何ともほほ笑ましくてそしておむすび役を演じたお子さんがほんのり笑むというのがほんとにぴったりだなと。
その子の様子が目に浮かんでくるようです。
お孫さんの歌はかわいすぎて成功しにくいんですけどこの歌は全体によく出来たいい歌だなと思いました。
では二首目です。
ビナードさんいかがですか?これは多分震災直後の光景だと思うんですね。
停電になってそうするとほんとに夜の暗闇に包まれる。
そういう時間を持つ事になるんですね。
ふだん電気がついてると夜も明るいんですけど闇の中で過ごした時間があって夜が明けたら虹色に光るグラスの破片が。
これ多分闇が生みだした発見だと思うんですけど暗闇の事は書いてないです。
本当に切迫した状況大変なものが失われた状況の中で虹色の輝きをすくい取るっていうこれがすばらしい短歌ならではの作品だなと思いました。
本当にそのとおりですね。
これは夜が明けて寒々とした不安感の中で虹色っていう美しさゆえに痛々しい心境が際立つんですね。
そこがすばらしいと思います。
三首目です。
これもビナードさんいかがでしょう?最初読んだ時通りすぎそうになったんですけど改めて読んでみたらこの歌には温度計が入ってるし時計もついてるし時の流れも温かさが冷めていくそれが時間軸になっていて紙皿でその感覚が伝わるんですけどそれが手のぬくもりとつながってて距離も地図の上でこの祖母がどのぐらいの距離の所に住んでるかという事も分かっててほんとにこの紙皿ってすごく具体的にいろんな事を教えてくれるなと思いました。
たくさんのご投稿歌頂いたんですが「食器」という題でこの紙皿が一番温かかったです。
祭り囃子が聞こえるぐらいの距離かもしれないですね。
では次です。
大変日常的なパスタを食べる場面なんですが食べ終えてみたら月の砂漠のような不思議な世界がそこに表れたんですね。
これとっても面白いと思いました。
お皿の絵ですね。
パスタのスパゲッティですかね。
そうするとらくだのひもとつながってスッとスパゲッティのひもですね。
食べてる男そして皿の男何かつながる感じもしますね。
では五首目です。
これも不思議な歌ですね。
お皿を割った事と日蝕月蝕は全く関係ない事なんですけど一首の中でこうして歌われますとまるで作者はお日様とお月様を何枚も割ってきたような変な錯覚が起こってくるんですね。
恐らく円形という形それがそういうイメージを起こさせるんだと思うんですが「蝕」という字がよく働いてるんじゃないですか。
欠ける。
そうですね。
六首目です。
ビナードさん。
枕草子をちょっと思い出したんですね。
清少納言も妙なところに気づいたりこだわったり言われてみるとあっほんとにそうだなってこれもねガラスだから透明で長いスプーンが見えちゃうんですね。
余計それで「痒いところ」という言葉がピンとくるしきっとこのスプーンもねじれてるスプーンだろうなってそういうところまで想像させてくれる歌ですね。
普通の長さのスプーンだとね届かない〜。
内容と口語の文体が大変よく合ってると思いますね。
では七首目にまいります。
ほんとに奇妙なカレーとオムライスとシチューは1本でいいかなと思うんですけどでも君にはこだわりがあってそのこだわりを作者はちょっといとしくも思うしまたあっこんなところあるんだなっていうようなねその作者の心境も面白いですよね。
分けておられませんか?全然。
今日から悔い改めて分けないと。
では次八首目です。
これはおかしいような切ないような歌ですね。
なぜとりわけ父の湯呑み茶碗だったかというのがいろいろに想像できますよね。
大事なものこそ欠いてしまうとも思えるし一方では世代などを考えると口にはできなかった憤懣がそこに…。
ちょっと怖くなりました。
何か濱中さんも大事なお茶碗を奥様が割ってしまわれたとか。
割られた事ありますけどその時に…。
2回も。
何でわざわざ大事なものをって怒ってはいけなかったですね。
Don’tmindIt’sonlyaccidentと言って相手の「しまった!」という思いをいたわる気持ちが僕にはなかったなという事を反省しておりますね。
次いきましょう。
では九首目です。
これもいい歌ですね。
何か底力を感じるような歌です。
八代盆地これは山口県の周南市ですね。
もう一つ鹿児島の出水市にも鍋鶴の越冬地がありますけれどこれはお蕎麦の汁は普通はあんまり熱くはないですけども「汁熱し」という事でその寒さ鶴の飛来のイメージ鶴の息の白さまでそして雪まで感じられるようなそんないい歌だったと思います。
以上入選九首でした。
ではこの中から選ばれた特選三首です。
まず三席から。
三席は岡本和子さんの作品です。
二席です。
二席は大見光昭さんの作品です。
ではいよいよ一席です。
一席は齋藤恭司さんの作品です。
先ほどビナードさんがおっしゃいましたけどパスタとらくだのひもそれと同じようにこの絵の男と食べてる作者がスッと入れ替わっちゃうような不思議なファンタジックな世界に誘われるなかなか魅力ある作品です。
以上今週の特選でした。
それでは「うた人のことば」です。
昭和5年前川佐美雄が27歳で出版した初めての歌集「植物祭」の一首です。
幻想的な光景を定型に託して歌う新しい短歌。
それはモダニズム短歌と言われました。
佐美雄は明治36年奈良県葛城市で農林業を営む地主の長男として生まれました。
絵と文学が大好きな少年だったといいます。
18歳で「心の花」に入会。
佐佐木信綱に師事し大学進学のため上京します。
卒業後はいったん奈良に戻りますが23歳で再び上京。
ヨーロッパのシュールレアリスム運動に触れそれまでの作風を一新。
モダニズム短歌の道を歩む事になりました。
続いて「入選への道」です。
皆さんから頂戴するご投稿歌の中少し手を入れるととてもよくなるというのを小島ゆかりさんに二首取り上げて頂きます。
今日の一首目はこの歌です。
とても楽しい内容で男性の方共感なさると思いますが「音聞きつつ」とかルビを振って「理由」ってこの辺りが少し煩わしいですからこんなふうにしてみました。
これでいいと思います。
分かりやすい。
次はこの歌です。
これもね内容が斬新で大変注目した歌なんですが「立食」と書いて「パーティー」とルビを振るこれはちょっと便利すぎるのではないかなと思って「は」を省いてこんなふうにしてみました。
これで入選ですね。
なるほど。
どうぞ皆さんも参考になさって下さい。
それではご投稿のご案内を致します。
では選者小島ゆかりさんのお話「うたを読む楽しみ」今日は「若草のひと」というお話です。
宮内という人は後鳥羽院に才能を見いだされた若き女流歌人でした。
まだ10代の若さで当時大変大きな舞台であった「千五百番歌合」というのに抜てきされたんですね。
すごいすごいプレッシャーの中でしかし頑張ってベテラン歌人の中でこの歌勝ちをとったんです。
それで「若草の宮内」なんていう呼び名までできたという歌ですね。
これは一面に萌えだした若草を見ると緑の薄い所と濃い所がある。
それは雪の解け方が早かった所と遅かった所それが今でも分かるよというようなちょっと知的な新鮮な視覚的効果緑と白ですね。
それが鮮やかないい歌だったんですね。
ただねこの人ちょっと歌に夢中になりすぎて体をこわすほどに歌に頑張っちゃったんです。
お父様が歌よりも体の方が大事だからって何度もいさめたんだけど。
あんまり根を詰めずにと。
でも聞き入れずにほんとに体を壊して20代の若さで亡くなってしまいました。
本当に情熱を持った人なんですね。
すごい情熱の歌人でした。
「選者のお話」でした。
さあゲストにお迎えしているアーサー・ビナードさんにもいろいろお話をして頂きましょう。
まずは最初のキーワードをもう一度お見せ頂いて短歌は何ですか?「短歌は足場」。
どういう事でしょう?最初作る時定型の決まった形があるので三十一文字の器のように考えてたんですね。
でもいろいろ作ってみると短歌を作る作業は器に料理を盛るのとちょっと次元が違う。
いろいろ組み立ててまるで建造物を造り上げるような作業なんだなって。
もちろん自分はうまくできなかったし今もできてないんですけどでもそういう感覚があってそしていろんな歌人たちの作品を読んでみたら例えば宮柊二というすばらしい歌人がいてそれから柳原白蓮というすばらしい歌人。
全然違いますね。
同じ三十一文字とは思えない。
全く違う世界をつくり上げていくのにどういう事だろうと思って自分が短歌を作っていろいろ三十一文字っていう定型で組み立ててみたらその定型に寄っかかって作ると倒れちゃう。
ある時はっと気づいたんですけど三十一文字は器じゃなくて足場。
建設現場の足場を組んでから建物を造るんですよね。
足場を組んで造って完成したら足場を外すんです。
ですから寄っかかってたら駄目なんですね。
それが独立した一種のビルとして一種の寺院として一種の建物として建たなきゃいけなくてだからみんな足場を組んで同じ三十一文字に世話になってるのに宮柊二の歌は宮柊二の建造物だし柳原白蓮の歌は柳原白蓮の建造物っていう足場として最終的に定型を外すんだという事を考えるとちょっと僕にとってはそれが作っていくうえで大事な発見だったんですね。
伺ってね大変すばらしい短歌の本質論だと思いますね。
今のお話を考えれば前衛短歌とか口語と文語の問題もわりと説明がつきますね。
でもねビナードさんね論だけじゃなくて作品がすばらしいんですよ。
是非一首ご披露頂きましょうか。
いい歌ですね。
福島県の南相馬浜通りという町に行った時に飯舘村川俣も通ってその時途中で人に会ったり泊まったりして測定器を持っていたので測る所もあったんですね。
測定器はいろんな種類があるんですけど正確な値が出るまでに少し時間がかかる。
平均して出してくるので一瞬測って数字が出て終わりだったら虻はとまらないんですけどしゃがんでじ〜っと1分を測っているんですね。
そしたらブ〜ンと来て目が合って数字よりも瑠璃の目の美しさに日ざしが当たって虻に見返されてて自分が何をやってるんだろうっていうふうに自分を虻の目で見るような瞬間があってもちろん測って高い所と低い所を私たちは把握しなきゃいけないし今起きてる事をちゃんと理解するためにもそういうデータが必要なんですけど僕らがいくら測っても虻の助けにはなれないしツバメにも伝えられないしイノシシたちにその情報を提供して対応してもらう事もできないし人間として結局人間の範囲内でしか何もできてなくて虻に逆に自分の無力さを突きつけられたような思いでしたね。
私も同じ事を思って歌を作ってきたのでとてもうれしい気持ちです。
この歌に注目するとこれやっぱり虻だからいいのでチョウチョウだとはかなすぎて歌が甘くなるんですね。
虻っていう耳で聞いた言葉「あぶ」っていう濁りの音それから虻そのものですねそれにとても猥雑なエネルギーがありますでしょ?それがこの歌をすごく生かしてるんですよね。
すばらしいと思います。
チョウチョウがとまらなくて虻がとまってくれてよかったです。
虻の目が私たちには必要だなと思いますね。
今日はビナードさんの短歌論も聞かせて頂きましたしこんなすばらしい歌もご披露頂きました。
ビナードさんの歌集はいつ出るのか?楽しみに待っています。
今年出すつもりですっていうと締め切りが…。
「NHK短歌」器を用意してお待ちしております。
是非建物を見たいぞ。
アーサー・ビナードさんでございました。
ありがとうございました。
では小島さん来月もどうぞよろしくお願いします。
「NHK短歌」時間でございます。
ごきげんよう。
2014/02/04(火) 15:00〜15:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「食器」[字]

選者は小島ゆかりさん。ゲストは詩人のアーサー・ビナードさん。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を英訳したビナードさん。自然との共生感をいかした訳を心がけたという。

詳細情報
番組内容
選者は小島ゆかりさん。ゲストは、詩人のアーサー・ビナードさん。ビナードさんは、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を英訳した。自然との共生感を生かした訳を心がけたという。題「食器」。【司会】濱中博久アナウンサー
出演者
【出演】アーサー・ビナード,小島ゆかり,【司会】濱中博久

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 480i(525i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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