100分de名著 孫子(新番組)<全4回> 第1回「戦わずして勝つ!」 2014.03.05

そこは戦乱の時代でした。
その中で生まれたのが史上最高の兵法書と言われる「孫子」です。
今でもビジネスやスポーツなどの現場でリーダー必読の書として愛読されています。
気力だけで頑張って勝ちましょうという戦いはしない。
戦争にかかわらず我々の暮らしの中でも本当に即効性がある。
「100分de名著」「孫子」。
組織のあり方や部下の統率法など現代にも役立つ知恵を4週にわたって学びます。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…伊集院さん今回の作品はこちら「孫子」でございます。
「老子」などと同じ古代中国の書物ですね。
先に白状しときますけども全く知識がありませんから「孫子」「老子」「孔子」区別が全く…。
「老子」はここで教わりましたんで何とかですけども全く分かりません。
これから天下取ろうという人はこの「孫子」らしいですよ。
天下取ろう!よし理解しよう。
これがいいそうです。
今週から4週にわたってご紹介するのは「孫子」です。
今回の指南役ご紹介いたしましょう。
中国思想史の研究者で大阪大学教授湯浅邦弘さんです。
こんにちは。
よろしくお願いします。
先生この「孫子」の魅力というのはひと言で言うとどういうところでしょう?即効性があるという事ですね。
即効性?読んだその日から自分が変わる。
あるいは明日の組織を変える事ができる。
中国思想史の研究者湯浅邦弘さん。
中国で発見されたさまざまな文献の解読を行い「孫子」をはじめ古代中国の思想の成り立ちを研究しています。
今日は先生に珍しいものをお持ち頂きました。
竹簡というものなんですけれど「孫子」の時代まだ紙が無かったんですね。
このような竹の札に墨で文字を書いていたんです。
こういうものが最近発見されまして「孫子」の研究が進んでいるんですね。
そのレプリカ?ええ。
これ幅としたら1cm無いぐらいの所に細かい文字が書いてありますがこれは?「孫子曰く兵とは国の大事なり」という「孫子」の冒頭部分が書かれています。
これ何年ぐらい前に書かれたものですか?今から2,500年ぐらい前です。
すごい。
お互い漢字を使ってるから2,500年も前のものだけどよく見ると知ってる字が入ってたりするんですね。
ちょっとドキドキしますね。
その時代のものが見えたというところでこの「孫子」について基本情報を押さえておきたいと思います。
著者は孫武。
孫子じゃないんですね。
孔子や老子と同じように「子」というのは「先生」を表す敬称なんですね。
なるほど。
「孫先生」。
はい孫先生です。
本当の名前は孫武と呼ばれていて紀元前500年ごろに呉の国の王様に仕えた兵法家だと言われています。
「孫子」は13篇で構成されています。
最初は「計篇」。
戦争の基本と戦争に入る前の計画について説いています。
次の「作戦篇」から「九地篇」まではおおむね戦争の流れに沿って時系列で解説しています。
そして「火攻篇」は火攻め「用間篇」はスパイを使った情報戦について記しています。
2,500年前の戦争が全然想像つかないんですけどもうスパイみたいな事も…情報戦略諜報戦略といいますかそういうものも既に「孫子」は網羅してる?はい。
という事はこの「孫子」が書かれた時代は戦争が多い時代だった?そうですね。
大体今から2,500年くらい前王朝が周の王朝といいます。
ところが周王朝の権威が衰退しましてたくさんの国が乱立して戦争を始めたそういう時代なんですね。
具体的にはどんなふうに?それまでの戦争というのは比較的小規模の貴族を中心とするプロフェッショナルによる戦争ですね。
そしていいかげんなところで勝敗がつきましたら撤収をする。
こういう一種の…言い方悪いけどスポーツじゃないけどこの戦いこの試合の結果で「お前勝ったんだからこうしろよ。
お前負けたんだからこうしろよ」みたいな事を決めると。
ところが孫子が活躍したこの呉という国は呉越あるいは呉楚という国と20年30年にわたる長期戦争を繰り広げていくんですね。
この時は兵力数も数万から数十万へと膨大していきましてプロフェッショナルだけではない…じゃあ僕らの思うザ・戦争ほんとに殺し合いの泥沼の戦争という事ですね。
はい。
はぁ〜…。
いや全くそのとおり。
あっどうも。
私「孫子」の著者孫武と申します。
私が生きた時代戦争が大規模になりましてな大きな損害が出るようになりました。
国民全体を巻き込む激しい戦争を目の当たりにした孫武は一つの信念を持つようになります。
戦争は個人の勇気や腕力で勝つものではない。
組織の力と計算に基づいた知恵で勝つものだと。
それこそ「孫子」の冒頭を飾る言葉です。
(国王)孫武よ戦争とは何であろうか?戦争とは国家の一大事です。
人の生き死にを決める分岐点であり国家の存亡を左右する道ですからこれを深く洞察しないわけにはいかないという事です。
漫然と構えていては国は滅びてしまいます。
まさしく先ほど先生の竹簡の最初に書いてあった「兵とは国の大事なり」というのがこの「孫子」の始まりでここにものすごく孫武の思いがこもっているという事ですか?今では当たり前の事なんですが戦争が国家の一大事だという認識ですね。
そしてその背景にあるのは戦争というものが基本的に割の合わないものだという認識なんですね。
だからできるならば戦わない方がいいとそういう発想が基本にあるんですね。
先生最初におっしゃったとおり今だと割と当たり前に皆「まあそうだろうな」と思ってますけどさっき聞いた戦争が変わってく歴史の中でもともと美学に基づいたものから変にエスカレートしてこうなってるから「戦争って割に合わないよ」という認識はちゃんと押さえておかないと皆分からなくなってる時代ですか?こういう事を言ったのは「孫子」が初めてなんですね。
こちらのフリップをご覧下さい。
一日に千金もの大金を費やしてそのあとでようやく十万の軍隊を動員する事ができる。
つまり…もちろん勝つという事がいいわけですけども長期戦は貴ばない。
できるだけ短期で切り上げるという事を尊重しています。
それはやはり経済的なダメージという事を考えているからですね。
当時は10万の軍勢に見ほれてるだけでこれに金がかかってるという事がよく分かってなかったりとか「勝った勝った」ってなってるけど長くかかっちゃってるという事が分かんなくなってるのが当たり前。
それじゃ駄目なんだよと。
はい。
そうしないためにはどうしろというふうに?事前の計画?はい。
勝つために。
こちらを見てみましょう。
「孫子」は「五事」という事を言ってるんですけども5つのポイントを挙げています。
「孫子」が説く敵と味方の優劣を比較するための5つのポイント「五事」。
「道」とは王が民の心をつかむ正しい政治をしているか。
「天」とは天候などの自然条件。
「地」とは戦場までの距離や地形。
「将」とは将軍の能力や資質。
そして「法」とは軍を運営するためのさまざまな決まりの事。
これら5つのポイントについて自国と敵国どちらが優れているかを検討して方針を決めろというのです。
こういう比較ポイントを挙げて事前に…そんな近代的な事をしてたんですか?はい。
そのポイントが多い方がおのずから勝ちになるとそういう発想です。
古い時代の事だからもっとオカルトっぽい事とか。
占いとかね。
あとガッツとか。
「あいつはほんとに根性がある」みたいな事とかを言ってそうですけどそういうのじゃないんですか?当時の戦争というのは大体戦う前に占いをするんですね。
やっぱりそっちが普通ですか?これが普通なんです。
「孫子」は一切そういうものを認めない。
全て勝敗はこういうポイントによって決まるという革新的な事を言ってるんですね。
でも自分家で戦争に行く前にこれ考えるわけですよね。
という事は「こっちの方が全部いけてるよ」みたいなふうになりがちじゃないですか?特に「将」のあたりなんか「あいつとよく飲みに行くけどあいつは優れてるよ」みたいな事にひいき目になりかねないじゃないですか。
そういう事は?我が身かわいさというのはありますのでどうしても自分の方にポイントをあげたくなるんですね。
しかし「孫子」は徹底的にそれをしないと。
あくまでも…興味があるのは分析しました。
分析してすごい憎い敵もいます。
けど「あそこに負けてる」って思ったらどうするんですか?それはやはり開戦に踏み切ってはならないんですね。
つまり「孫子」というのは「負けない兵法」という事を説くんですね。
もう「しない」を選ぶ?そうです。
でもしばしば世の中はそういう局面になりますよね。
そうですね。
例えば先の戦争太平洋戦争の時なども日本はアメリカと物量を比較してるんですね事前の情報によって。
明らかに日本はアメリカに及ばないという結果が出てるんですよ。
それでも開戦に踏み切ってしまった。
戦わざるをえないとこまで追い詰められるとかいろんな事あるんでしょうけれど普通に終わったあとで冷静に五角形考えてみれば行かなくてもいい「孫子」の言葉をかりれば行くべきではなかった?そういう事ですね。
じゃあその時代に孫武さんが日本にいたらばその戦争には反対していただろうと?恐らく反対したと思いますね。
こちらをご覧下さい。
…という言葉があります。
勝利の軍隊というのはまず計画の段階で十分な勝算があるとそれが分かってから実際の戦争を始める。
この「先ず」というのは「事前に」という?そういう事ですね。
それに対して敗れゆく軍隊というのはとりあえず戦ってみてそのあとで勝ちを求めようとするから敗れていくんだと。
なるほど。
頭いいですね。
これは戦争にかかわらず我々の暮らしの中でも即効性がある。
こういう事あるよね?あります。
耳が痛い。
砕けた所に持っていきすぎかもしれないけど大掃除一つとったってこんなですよ。
今時期だから大掃除ってやって余計散らかるパターンです僕。
それはまず掃除を始めてという感じ。
だけどまず計画だと。
きちんと分析と計画を全部してこれはいけると思ってから何事も始めろという事にもとれますね。
「当たって砕けろ」というけどその当たって砕ける前の準備段階が非常に重要なんだと。
自分らの固さ当たる角度どれぐらいとんがってるか向こうの材質全部分かっての当たって砕けろだからほんとに砕けに行くやつはバカだねという事だもんね。
ズキズキズキッとくるお言葉がたくさんありますけども。
冷静な計算を求めた「孫子」ですがこの五事の他にもさまざまな方策を述べているようです。
更に詳しく見ていきましょう。
(国王)孫武よ戦争に勝つかどうかに分析が必要なのは分かった。
では具体的にはどうすればいいのだ?…と申します。
敵の国を撃破して勝つのは次善の策です。
相手を屈服させ戦う前に降伏させてしまえば相手の財力兵や武器などそっくりそのまま手に入れる事ができますから。
孫武は最小限の被害で最大限の成果を得る戦い方についてこのように述べています。
最上は…2番目に…3番目に…下策は…水面下での謀略による勝利。
これこそが理想だと「孫子」は言うのです。
僕がちょっと感心するのはこれは兵法なんだって聞いて臨んでそのあと冷静に分析して戦わないのが一番だって話があったからすごく平和的な話になるのかなと思ったらやっぱりちゃんと兵法だから泥臭いというかねまずスパイで相手を攪乱して…みたいなのがまずだと。
最終的に軍事力を使った戦争なんていうのはしないで済むんならしないがいい。
それは平和とかって話じゃなくて。
単純な平和主義とも違うんですね。
違いますね。
ごっそり頂いちゃうにはそれが一番利口な方法だろという。
これは敵国の政治経済文化これをそっくり手に入れるのが一番いいと言ってるんですね。
例えば企業の話でしますとお互いにしのぎを削って共倒れをするというのが一番良くないわけですね。
特に今の世の中安売り合戦をした結果リストラが相次いで…みたいな。
企業自体が結局勝った企業も立ち行かなくなるみたいなそういう事ですもんね。
先ほどのVTRでも出てきましたけども戦いを極力避けながら勝つための方法が出てきました。
まず「謀略戦」。
そう。
すごいですよね。
1・2の違いはどういうところですか?まず1番は表立った動きをしないという事ですね。
水面下の戦いなんですね。
スパイを使って例えば敵国の世論を誘導して反戦気分を盛り上げるとかあるいはスパイを使って要人を暗殺するとかさまざまな諜報活動謀略活動をすると。
その段階で勝利を収める事ができれば一番いいと言っているわけです。
生々しい…。
ちょっと腹黒い感じ。
そして2番目の「外交戦」というのは活動が目に見える形での外交ですね。
ただしこれは一国対一国の外交となるとはかぎらない。
第3国第4国の協力を仰いで例えば包囲網を築いてしまうとかそういう事も考えられます。
順番が普通外交からのイメージじゃないですか。
これが平和のためのみの本なら「外交で仲良くできればそれが一番いいじゃない」だけどそうじゃなくてまず謀略戦で…。
暗殺も許す。
ある程度の勢力争いを制してから外交に持ち込んで優位な形で同盟が組めれば勝ったも同然だったりとかそういう事になりますよね。
それでも駄目ならやっと俺たちがリアルに思う戦争みたいな。
最後に「城攻め」?中国の街というのは「城塞都市」と呼ばれていまして街を四角い城壁が囲ってるんですね。
これは日本のいわゆるお城とは少し違うイメージでこれまさに軍事都市なんですよ。
そこを攻めるというのは非常に難しいんですね。
将軍が将が「勝った!やった!」と思う瞬間は城を攻め落とす瞬間だろうしもっと言えば日頃訓練したりいろんなものを買い集めて軍事力を上げてるわけだからその軍事力を使いたいと思いがちだと思うんですけどそこは違うよと。
地味な方で。
ある意味1番2番はものすごい地味じゃないですか。
なぜそういう考え方になったんですか?これはやはり当時孫子が体験した戦争というのが非常に悲惨なものだったと思うんですね。
「孫子」に書いてある事は一種思想ですから現実をトレースしたものではない。
孫子が体験したのはもっと血生臭い悲惨な戦争だったかもしれない。
そうするとやはり人命を損なったり国が滅んでしまったりというのは最悪なんですね。
それを防ぐそのためのステップが1番であり2番であるという事なんですね。
一種の反省を込めた思想だったと思いますね。
これ多分思想だけど「勝ちを収める」を度外視した平和論みたいなやつは多分書いた人もいるんだろうなとは思うんですね。
宗教家の人なんか多分唱えたと思うんですけどそれに偉い人は耳を貸さなかったと思うんですけど「勝ちたい」という事は絶対的に押さえた上での思想じゃないですか。
そうですね。
これが現代においても即効性があるのはそこの部分だと思うんです。
まさにそうですね。
先生ここまで「孫子」見てきましたけれども「孫子」の兵法の神髄っていうとどういうところでしょう?それを表す言葉をそれではご紹介してみます。
百回戦って百回勝つというのは私たちはいい事だと思いますね。
ところが「孫子」はそれは最善の策ではないと言うんですね。
戦闘力を使わずに「人の兵を屈する」。
先ほどの謀略戦や外交戦ですね。
これが最上の善であるというふうに言っています。
でも百回戦って百回勝ったら気持ちいいでしょうけどね。
でもみんな見失うところはそこなんでしょうね。
勝つという事の喜びで多分見失っててそもそもしなくていい時はしなくていいんじゃねえかとか思わない。
やっぱり勝つのも大変だから。
でもそこが冷静なのがすごい。
…と「孫子」は言っていますね。
この先楽しみなのはそれでも戦わざるをえない攻め込まれるとか。
書いてあるかどうかは知りませんけど負けを最小限に食い止めるとかそういう事が出てくるのかしら今後。
それがちょっと楽しみ。
そういうところはどうですか?はいお楽しみに。
今回は「孫子」が考える「戦争」とは何なのかについて迫りました。
次回は組織を運営する将軍リーダーのあり方についてひもといていきたいと思います。
勉強になりそう。
次も即座に役立ちそうですね。
楽しみです。
では先生次回もよろしくお願いいたします。
どうもありがとうございました。
2014/03/05(水) 23:00〜23:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 孫子[新]<全4回> 第1回「戦わずして勝つ!」[解][字]

中国の兵法書「孫子」。これまで誰が書いたものなのかはっきりと分かっていなかったが、近年の研究でそれが明らかになった。第1回では不戦を重んじた孫子の実像に迫る。

詳細情報
番組内容
「孫子」は、戦争では、国や軍隊を消耗させずに勝つのが上策であり、勝利を目指すあまり、多くの犠牲を強いるのは下策だと述べた。つまり、兵法書でありながら、不戦論=戦わずして勝つことを求めているのだ。なぜ孫子は不戦を説いたのか? 当時の戦争が直面していた厳しい現実が背景にあった。第1回では、「孫子」著者・孫武の人物像を紹介するとともに、犠牲を最小限にとどめながら、最大限の効果を生む方策を学ぶ。
出演者
【ゲスト】大阪大学教授…湯浅邦弘,【出演】斉木しげる,【司会】伊集院光,武内陶子,【語り】山崎和佳奈

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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