あなたには今愛する人がいますか?その人とどう向き合っていますか?「愛するということ」の中で精神分析家エーリッヒ・フロムは「愛」とは与える事だと言います。
与えるのは物ではなく喜び知識ユーモア悲しみなど自分の中に息づいているあらゆる表現です。
相手に働きかける事によって愛は深まるのです。
今回は異なる人間同士が融合し分かち合うためにはどうすればよいのかその答えを探ります。
(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さあ「愛するということ」ですが前回は孤独であるからこそ愛が必要であるとか社会構造を変えるような事態にもなるとかいろんな愛の意外な事が分かってきましたよね。
孤独と愛の関係性あたりからちょっと僕もすごくぐいぐいきてますんで今日も楽しみです。
さあ今回は本当の愛とは何かに迫っていきたいと思います。
指南役の先生は鈴木晶さんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
人間は長い事自由を求めていたわけですね。
20世紀になって物が豊かになったおかげで一気に人間は自由になった。
それと引き換えに孤独になってしまったわけです。
その孤独を癒やすためというか…そこで偽物の愛と本物の愛という事をフロムは言うわけですね。
フロムはこの本当の愛をどのようなものだと言っているんでしょうか。
ご覧頂きましょう。
ではお答えしましょう。
本当の愛とは成熟した愛。
成熟した愛とは独立した大人同士が結合する事です。
私はこう書きました。
…という事なんです。
どうですか?深い。
深くて難しいですけど要は犠牲的献身とか服従みたいな事とはやっぱりちょっと違うという事ですかね。
それぞれでありながら融合する。
もう僕はいいとあなたが幸せであれば僕なんかいいんだっていう事ではちょっとないですね。
前にもこの番組でプラトンの「饗宴」をやったと思うんですけれどもあの中に昔人間は4本手があって4本脚があってものすごく走るのが速かった。
あんまり威張るものだから神様は2つに割ってしまって今でも我々は片割れを探し続けているというこれはプラトンよりもっと昔からあったお話のようですけれどもこれはなかなか納得のいく話で。
ちょっと赤い糸伝説のね。
自分は片割れであってパズルのピースみたいに自分とパカッとうまくはまる人を探しているんだと。
それではちょっとまずいんじゃないかとフロムは。
片割れ同士だと何がいけないかというとある意味で寄っかかり同士ですから…こういう事が起きるんだというんですね。
それは成熟した愛なんだと彼は説明してるわけです。
僕は具体的にどういう事なんだろうと思うんですね。
僕は今日はラーメンが食べたいかみさんはハンバーグが食べたい時にどういう心持ちでどうなるのが愛なのかみたいな。
一つは自分が食べたいものを相手にも要求する強要する。
もう一つは自己犠牲ですよね大げさに言えば。
相手の食べたいものを食べる。
これはどっちも駄目だと。
最終的にどっちになるか分からないけど…なるほど合わせりゃいいみたいな事ではないんですね。
そこで話し合ってお互いを重んじ合ったりするところがまた違うという事ですね勝手に思い込むだけというのと。
「愛は人間のなかにある能動的な力である」というところはどういう事なんでしょうか?フロムはこんなふうに説明しています。
なかなかこれ難しい事なんですけどもやっぱり大事なのはまず「与える」。
この人に与えたくないなと思った時はその人を愛してないという事なんでしょうね。
そこは分かりやすいですね。
こいつに何かやってなるものかとそれは愛ではないですね。
でも実際にはやっぱり自分はどうしても何か欲しい。
でももらうためにはまず自分が与えなければいけない。
これがフロムの一番中心にある考え方ですね。
愛は与える事という事ですが一体何を与えるのでしょうか?何を与えるのかそれは自分の一番大切なもの自分の命を与える事なのだ。
その命とは…。
愛される事ばかり求める現代人に果たしてできるかな?「与える」というのはプレゼント攻勢をするとか物ではもちろんないんですね。
だけども一方命を与えるっていわゆる命ではないんですね。
これはちょっと説明要ると思うんです。
与えるという事は言いかえると共有するという事ですよね。
つまり与えたからこっちに無くなっちゃうものではなくて2人が分け合うそこが出発点で意外とこれができないんじゃないかと。
与えると必ず何かが返ってくる。
そこでいい意味での交換が成立するわけですけれども…これが大事なわけですね。
これはもちろん具体的には自分が何かいいものを見たら相手にも見せてあげたりそれから面白いものを読んだら君も読んでみなさいみたいに与えるという事は分かち合う共有する事だと考えるともっと分かりやすいんじゃないですかね。
今すごく腑に落ちましたね。
与えると自分のものがゼロになる自分がマイナス1で向こうがプラス1とやっぱり考えちゃいがちですが与えると向こうで何かが生まれてそれをまたもらえたりするから全然それはゼロにならないみたいな。
でも与えるところからしか始まらないってところがみそだと思うんですけど何かもらいたいという気持ちがとても強い人が多い私も含めてですけど…と思うんですけどどうしたらいいんでしょうかね?そのためにはそういう意味で…精神的にケチって言いかえると自分ばかりが大事ですごく自分がかわいいという人が意外にいるわけですね。
精神分析ではそういうのは「ナルシシズム」と呼んでいますが簡単に言えば自己愛ですね。
これは全ての人が持っているものです。
しかしある程度これを克服しないと与えるという事ができない。
はい再びフロムです。
ナルシシズムは本当に克服するのが難しい。
そもそも人間は自分が一番大事だと思っているしそれは当たり前の事。
自分を大切にできなければ人を大切にする事もできません。
ナルシシズムも必要なのです。
しかしナルシシズムが強くなると本当の愛を達成する事が難しくなっていきます。
フロムはこう言います。
つまり自分のやりたい事ばかり求めてしまう。
例えば…。
彼女は一緒にいてリラックスできる人がいい!…とか。
ぐいぐい私を引っ張っていってくれる人!…など「自分に都合のいい相手」を無意識に求めるでしょ。
特に若者たち。
これがナルシシズムの表れなのです。
このナルシシズムは暴走すると自己愛から利己主義へと向かいストーカーになる事もあるのです。
さてあなたは果たしてナルシシズムを克服できるのか?いやこれも難しいけどちょっとホッとするのはフロム先生は自己愛がいけないと言ってるんじゃないですよね。
「自分の事が好きじゃない人は他人も愛せない」とは言ってると。
それだけになってしまうとそれはもう暴走状態ですよという事。
その自己愛ナルシシズムが強すぎるとストーカーにもなってしまうというような。
結論から言うとバランスの問題でどうしてストーカーというのが起きるかというと自分がかわいいあまりこのかわいい自分を支えてくれる人がどうしても必要になる。
その人がいなくなるなんて許せない。
相手の事は考えないわけです。
うん。
ひたすら自分の満足もっと言うと前に出てきた自我という言葉がありますけど…そのために人を求める欲しがる。
それがナルシシズムの一種の病的な形ですね。
自己愛。
要はバランスが問題だという事でしたけどもどういうふうにバランスを取っていったらいいんでしょうか。
それがね人間が成熟する事だと思うんですね。
人間はだんだん成熟して精神的には大人になっていく。
結局現代の問題というのは…赤ちゃんはそれが食事時だろうがお母さんが手が離せなかろうが今おむつが気持ち悪いから替えてくれって泣き叫ぶよね。
この自分の不快をどうにかしてくれっていって泣き叫びますよね。
これは幼稚なというか一番基本のというか生まれたばかりのナルシシズム。
だけどある程度大人になってくると自分の不快は嫌だったとしてもこれを快に変えるために今自分が要求していい事はどこまでなのかとかを考える?そう。
簡単に言ってしまうと…なるほど。
「僕は君がいないと嫌なんだ!」っていうだけのそこに何の理屈も何の判断も何の分析もない。
それが何だか分からないけど解消されてればニコニコしてるし何だか分からないけど解消されなければむずかるしと。
まあ成長がないという事ですよね。
そこから人間はだんだん抜け出していくわけですけれどそのまま育っちゃったみたいな人が結構いるんじゃないですか?成熟した大人が持っててもいい程度のナルシシズムというのはどこが違いますか?例えばこういうふうに考えるといいと思うんですよ。
自分を大切にしない人というのは努力もしない。
つまりこういう自分でいいやみたいになっちゃう。
向上心がなくなってきますよね。
これはなぜかというと客観性というかな人から見て自分がどう見えるかという事をそういう人は考えないわけです。
こいつは駄目なやつだなとか大抵の人はそう思われたくないから人からもっと愛されるような人間にならなくちゃいけないかなとかまた努力したりするわけですよね。
もう一つは人間というのは理性というものがないとやはり成熟できない。
感情だけで気分だけで決めるとかそれから嫌だとか好きだとかそういう非常に単純なレベルで考えてるうちはなかなかこのナルシシズムが克服できない。
あ〜なるほど。
でも愛するにはそのナルシシズムをコントロールして成熟した人間にならなくてはならないという事なんですけど更に必要なものがあるとフロムさんは言っておられるんです。
成熟した人間だけが人を愛する事ができる。
では成熟した人間とは?それは配慮尊重責任理解を身につけた人物の事だ。
そしてこれが実践できれば愛する事ができる。
名付けて「愛の4要素」と呼んでおる。
まず一番基本となるのが「配慮」です。
他人に対し何をすれば喜んでくれて何をすれば嫌がられるのか。
相手の気持ちを想像し行動する。
これが「配慮」です。
2番目は「尊重」です。
ただし一方的に相手を褒めるのではなく自分自身と同じように大切な存在であると認める事です。
3番目は「責任」です。
これは「我慢」とも言えます。
嫌な事があっても我慢して関係を続けるのがお互いの「責任」となるのです。
そして最後が「理解」です。
相手を理解するという事だけではありません。
自分自身を知るという意味も含まれます。
…という4つが「愛の4要素」となるわけだがはてさて実践するのはなかなか難しいぞ。
はい…という事で「愛の4要素」をまとめてみました。
これ自体はよく分かるんですけど。
頭では分かりますよね。
「配慮」と「尊重」というのは簡単に言っちゃうと思いやりのような事で相手の事を考える事ですけれどじゃあ相手の事ばっかり考えて他の事を考えなくて生きていけるかというような問題ありますからやはりそのバランスなんですね。
私たちが生きていく上で「責任」だっていろんな仕事上の責任家族における親との関係における責任とかいろんな責任を担っていますので相手との恋愛関係だけでの責任だけではないわけです。
最後の「理解」というのは人間を知る事という事なんですけれど相手の人間の事ばっかり知ろうとしていて他の事をしないというわけにもいきませんから全てこれに集中しろというわけでもないんですよね。
でもこれがないとさっき出てきた本当の愛ではないよと。
一番難しいのは頭で分かっていても実践するのは難しいよとそれはフロムも言ってるんですけどね。
ただ少なくともこれに関して考えてるべきではあるというかいつもこういう事なんだという事は分かってないと少なくとも本当の愛には向かっていけないというか。
そういう意味ではチェックリストのように使えるかもしれないですね。
何かを言ってしまったあとにやっぱり配慮がなかったんじゃないかとか相手を尊重してないんじゃないかとか結構反省するんじゃないでしょうか。
今の日本の状況ではどうでしょうね。
相手の事を思いやったり自分の責任理解人を知ろうとしたりというところって…。
現代社会を一口で言うわけにはいきませんけれど目立つ側面は…昔はもっと狭い人間関係の中で生きてたと思うんですよ。
社会の中で歩いていけない所の人には会わない。
そういう事。
ところがインターネットで爆発的に人間関係というのが広がったわけですね。
広がったら一つ一つが薄くなった。
人間関係希薄になってますよね。
俗に言う顔が見えない。
そういう関係を続けているとよく言う生で会うじかに会うのはちょっと近すぎると感じてるような人が増えてるかもしれないですね。
僕ね最近考えてた事がすごくはまったというか。
僕はネットもやりますしそういうものの恩恵もいっぱい受けてると思うんです。
恩恵もいっぱい受けてるからマイナスマイナスというような論調もあんまり好きじゃないんです。
だけど今までの面倒くさい世の中って面倒くさいがゆえに例えば自分が誰かとコミュニケーションをする能力を高めていかないと会える人数って上がらなかったからもしくはこの手続きが大変だからより運命の人より理想に近い人にも会えなかった代わりに殺人犯にも会わなかったみたいなところもあると思うんです。
恋愛というか人間関係教習所をちゃんとやってかないと人と出会わないから。
だけどこの出会えるという便利な機能ができたのを間違って使うと誰とでもまだ自分に出会う才能が成熟してないのに出会っちゃうという事が起こると思う。
それがさっきおっしゃってた成熟した自己愛を持ってないとか自己愛をコントロールできてないにもかかわらず出会えちゃう怖さにちょっとつながってるような気がするんですよね。
ネットに代表されますけれども…もう一つは一方的にやめられちゃうというかな何かをきっかけにファーッと人は去っていくかもしれない。
何よりも大事な事は愛が生まれるにはちょっと遠すぎる薄すぎる。
もうネットのない社会に戻る事はできないからそれを知った上で愛とは何だって。
愛ってこういう要素があってしかもかなり難しいですよという事も知っててもうちょっと生身で触れないと高いものになりませんよと分かった上で生活するべきだと分かりますね。
それは今までよりは摩擦もいっぱいあるだろうし大変な事はいっぱいあるでしょう。
そんな若い世代じゃない私ですらちょっとメールにしとこうかなとか思っちゃうところあります。
メールにしてるって事は一段階前の手順を踏んでるんですと分かってやるべきかなという。
恐れてちゃいけないんですかね。
それが次回に出てくる勇気という事ですね。
勇気?愛には勇気が必要である。
次回はいよいよ「愛するということ」の最終回。
本当の愛を手に入れるためにどうすればいいのかというところに迫っていきたいと思います。
鈴木先生どうもありがとうございました。
2014/02/19(水) 23:00〜23:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 愛するということ 第3回「生身の人間とつきあう」[解][字]
精神分析家・エーリッヒ=フロムの作品で、愛の本質を分析した思想書「愛するということ」を読み解く。第3回では、感情に強く訴えかける愛とはどういうものかを考える。
詳細情報
番組内容
愛とは本来“与えること”にある。しかしそれは、“ギブ・アンド・テイク”が保証されているものではない。しかしたとえ見返りがなくても、与えなくては何も始まらない。なぜなら人は、与えられたことで、変わるからだ。フロムはさまざまな角度から、どんな気遣いが正しいのか、どんな人間関係を築くのが望ましいのかを、詳細に記している。第3回では、フロムの言葉から、成熟した大人の愛とは何か?そのあるべき姿について探る。
出演者
【ゲスト】法政大学教授…鈴木晶,【出演】斉木しげる,【司会】伊集院光,武内陶子,【語り】山崎和佳奈
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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