スコラ 坂本龍一 音楽の学校 シーズン4「“20世紀の音楽”編」(1) 2014.03.20

「schola坂本龍一音楽の学校」。
今回のテーマは「20世紀の音楽」です。
「schola坂本龍一音楽の学校」。
今回から取り上げるのは20世紀の音楽です。
テクノロジーの発達そして2度の世界大戦。
世界が大きく様変わりした激動の時代。
西洋音楽においても実験的な試みにより新しい音楽が次々に誕生。
更に周辺といわれていた国々の音楽家たちが注目されるようになりました。
今回から3回にわたり音楽という概念が大きく揺れ動いた20世紀の西洋音楽について学びましょう。
今回のテーマは「20世紀の音楽」という事なんですけどもおおまかな20世紀の音楽の特徴っていうんですかねまずその音色の拡大とか機械文明がより身近になってくる。
自動車も走る。
速度への欲求みたいな事。
そういう事がやはり音楽家にも当然影響を及ぼしていて大きな特徴かなとは思うんですけどね。
それからもう一つは20世紀っていうのは大衆社会ですからつまり大衆音楽っていうものが圧倒的な影響力を持つようになって。
だから従来の芸術音楽を志す人たちが何らかの形で大衆音楽に対抗せざるをえない。
それがやり方の一つとしては前衛音楽の方に走るみたいな事になったりする訳ですけどね。
どんどん先鋭化していくという事はあるでしょうね。
ここからは西洋音楽の概念を大きく変えた無調音楽とは何かについて学びます。
西洋音楽の流れで見た場合にはやはり一番大きいのがそれまでは調性というねハ長調とかト長調とか変ロ長調とかそういうキーといわれる調性に基づいて音楽は出来ていた訳ですけど。
だからある調でしたらここから始まっていろいろあるけれども最後は…この主音に落ち着くという約束事があった訳ですけどもそれが崩壊していくと。
調性はバッハが活躍したバロック時代に確立された長調短調2つからなる音楽体系の事です。
例えばハ長調の場合中心となる音は「ド」です。
原則として使用する音階はこちらの7音。
この音階から次のような和音を作る事ができます。
このように中心となる音と音階を決める事で音と音とが関係づけられ安定した音楽として聴こえるようになります。
音楽家たちはこの調性を用いて作曲を行いました。
しかし19世紀に入ると中心の音が曖昧な不安定な響きを追求するようになります。
やはりモーツァルトは…。

(ピアノ)ドミソというのはハッキリしている訳ですけどもそれから何十年かたってですねワーグナーになると…。
かなりもうここでこの…ラファミっていうのは明らかにイ短調的なフレーズですけどその次に出てくる和音が…。
これは何て言うんですかね。
変ロ短調に属している調性の関係として一番遠いところにあるんですね。
それがいきなり来るという。
とんでもない…ヨーロッパ中がパニックになったようなこの有名な和音ですよね。
しかしそれでもなお残ってたドミソの支配を取っちゃって無調でいいじゃないかっていうのでシェーンベルクという人が出てきたと。
だからある種すごいガッチリした音楽の流れからそれを知的に脱構築するというか解体してシェーンベルクの無調というのが出てきたというのは面白い。
オーストリアの音楽家…20世紀初め調性を全く用いない音楽を発表しました。
ヨーロッパに大きな衝撃を与えたこの響き。
後に無調音楽と呼ばれるようになります。
例えばワーグナーの響きドビュッシーの響きに慣れちゃったらもっと強い毒が欲しいもっと強い禁断の実が欲しいになってなってエスカレートしてこうなっちゃったのかなという感じを受けましたね。
長調のドミソの和音は例えば甘い。
短調のラドミの和音は苦いとかいうのがもっと複雑な味を求めるんですね。
屈折した重層した味を求めだすというのはありますよね。
しかしそれは決して健全な精神の在り方でない事も確かだし文化っていうかな人間の社会がこういうものを求める作り出すようになるという事は世も末だったのかなと今にして振り返ってみて思いますね。
全てこういうものというのは第一次世界大戦の前ですからね。
不安な時代の始まりといいますかね。
20世紀は戦争と革命の時代だと言ってもいい訳なんですけども。
それが始まった頃ですからね。
無調音楽には当初作曲のためのルールはなく作曲家の感性のみで作られていました。
そんな中シェーンベルクは無調音楽を理論的に生み出す作曲システムを考案します。
調性の音楽というのを解体した時に全ての音を平等に扱うっていう事になるともう空中を漂う無調の世界になってなかなか大きな曲を作る事が難しくなる。
…でその12の半音をある種の形で組織していくというメソッドを特にシェーンベルクが生み出したと。
だからこれを一般に十二音技法と呼ぶようになった訳ですよね。
シェーンベルクの作品23のピアノ曲5番の有名なテーマあれが十二音技法を一応確立した。
それがですね…。
こういう音列になってます。
それを1オクターブの中に押し込めるとですね…。
…となっていまして一度も同じ音がこの中には重複されてないという事ですね。
十二音技法は1オクターブに含まれる12の音を1音1音重複する事なく使って作曲する技法です。
そのためにまず音列というものを作ります。
音列とは12の音を1回ずつ使って並べた楽曲の最小単位。
音列を繰り返したり展開したりする事で12の音が平等に使われる音楽が完成するのです。
この音列をどうやるかって言うと後ろからいくと。
見ていくと。
後ろのとこどうなったかって言うと…。
この音で終わってたんですけどもここから遡っていく。
前にいくと。
こうなります。
もう一つは鏡を置いて鏡に映ったもの。
つまり上下が逆さまになるというものがあります。
「ド」のシャープからこう上がるとするとこれはこっちに下がると。
同じ音程だけ下がるという事になります。
そうするとですね…。
こうなります。
最初のメロディーと随分違うものになる訳ですけども。
そしてもう一つ今鏡で上下をひっくり返したものを今度は後ろからたどっていきます。
今この音で終わったんでここから遡るとですね…。
こうなりますね。
こういうような技法を使ってたった一つの音の列から多様なメロディーが作られると。
音列に注目しながら作品の楽譜を見てみましょう。
音列を構成する12の音はオクターブや音の長さを変えて順に使われています。
更に和音を構成する音もその順に従い作曲されています。
それでは作品をお聴き下さい。
十二音技法とか何とか難しい事言ってて聴いてると頭が痛くなる音楽っていうふうにすぐもう門前払いっていう人がとても多いと思うんですけどよくよく聴くとね何か機械的でゴチャゴチャしているように見えるものの中にすごい強烈な情緒入ってますよね。
絶望であったりその絶望の向こう側にある虚無感であったりという。
ちょっとたまらなくいいものですよ。
面白いのはシェーンベルクが十二音技法なんかを考えた一つ一つの音が全部等価だっていうのを考えた事とソビエト連邦の共産主義っていうかなあれが人はみんな同じだっていう事を考えたと。
ほとんどパラレルの時代だっていうところは面白いですよね。
不思議ですよね。
全ての音列の音は平等な回数使わなければいけないというのはこれは一人一票というのと非常に似てる訳ですよね。
ところが音の世界でこういう平等な世界を実現した途端にカオスが生まれてくるというのは非常に不思議というか当然といえば当然かもしれない。
当然ですね。
中心がない訳ですからね。
またあと十二音技法からもう100年近くたっているという事で僕らもより客観的に音楽を味わう事ができるようになってきたともいえるんです。
音楽を体験しながら学ぶ「scholaワークショップ」。
参加するのは作曲を学ぶ3人の学生です。
今回は十二音技法による作曲に挑戦。
音列を作った過程を説明しながら作品を発表します。
十二音技法をもう一度原点に立ち戻って音列から作って楽曲を作ってみようという事で。
多分今逆に21世紀になって十二音技法でって書く事はあまりないかもっていう…。
ないでしょ?習った?一曲としてしっかり完成させたっていう経験はそこまでなかったかなと思います。
みんなも習った?そうですはい。
じゃあ一応知ってるんだね。
今回のワークショップ。
学生たちは2週間前から課題に取り組みました。
どのようなアプローチで十二音技法による作曲を行ったのでしょうか。
じゃあ最初に石川君からお願いします。
まずは石川潤さんの作品です。
どのような音列を作ったのかコンセプトから発表します。
こちらが僕の作った音列です。
今から弾いてみますね。
(石川)このような感じです。
音列の最初の部分に「es」「c」「a」「fis」「e」の音を使いました。
「fis」を「p」に置き換えて「escape」という「逃げる」という文字を使った音列を作りました。
この「escape」っていうのはこの作品全体のテーマでもあります。
十二音技法は前とは違う音を常に進み続けているという性質があるのでその点を着目し今のこの状況から違う方へ逃げ続けるような特徴があるというふうに捉えたのです。
もとに戻らないっていう事ね。
一つの音列を用いてひたすらリズムを変えるような。
…っていう事は何?音列はこの順番でずっと使い続けてるって感じ?はい。
そうです。
言ってみればRepetitionっていうか反復ですよね。
作品ではescapeと名付けられた音列がリズムを変えながら繰り返し演奏され逃げるというイメージが表現されます。
普通反抗とか逆行とか何て言うの…技術を尽くしてやってやろうと思うかもしれないけどもやってないところが面白くて。
僕が一番面白かったのはやはりここですね。
最後のペダルのとこですね。
これは十二音技法とか何とかって関係なくて非常に短いペダルの交換によってフォルテで来た残響音が残って何回かやってもまだ残ってるというピアノの特性を生かしたもので。
なかなか興味深い作品が最初に出てきました。
どうもありがとう。
続いては芳澤奏さんの発表です。
この音列はルーレットを回す形で偶然性に任せるという形を用いました。
芳澤さんは偶然できた音列から豊かな響きを導きだすためにフルートによる演奏を選びました。
フルートの多様な音色を生かし音列の音1音1音に対して最も適していると思われる奏法を当てはめたのです。
連打音がすごく何度も出てきてそれと持続音とのコントラストで全体が出来てますね。
連打っていう事は結局使ってる音は1つな訳で言ってみれば1音で表現する事に近い訳じゃないですか。
それは十二音的な考えから言うと割と反対方向という事になる訳ですけど。
そういうものをあえて使ってるっていうのはなかなか面白い。
どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
最後は網守将平さんの発表です。
十二音技法を用いて20世紀に生まれた音楽の技法だったり響きだったりそういうものを取り入れたいと思って。
この音列を設定する上で一番重要だと思って用いた音楽がありましてそれはブルースなんですけども。
多分20世紀はポップミュージックの台頭が大きかった訳で現状としてはブルースの存在は欠かせないと思ったんですね。
そうですね。
アメリカに連れてこられたアフリカの黒人の人たちがアメリカで醸成した音楽ですね。
ジャズやロックなど20世紀の大衆音楽の源流となったブルース。
網守さんはブルースやジャズで多用されるブルーノート音階に着目。
3つの音階からそれぞれ4つの音を選び音列を作りました。
どう?ブルースの音列って着眼点が具体的で確かに十二音音列を使ったちょっと不協和音を含む音楽ってなるとジャズって響きが似てるなと思う事が多少ありまして。
この3度のねマイナーとこう…。
これが交換する。
あるいは同時に鳴る…みたいな事っていうのは伝統音楽的に言うと長調か短調か分からない不安とか落ち着かないというような表現になってくると思うんです。
それがブルースなんかの場合には同時に存在していると。
3人の人たちの十二音技法音列に基づく音楽でそれぞれ使い方っていうかな解釈のしかたも違っていてそれぞれが作っているあるいは関心を持っている音楽が少しかいま見えるようなね。
ちゃんと個性が出ていて面白かったと思いますけどね。
シェーンベルクが確立した十二音技法。
ここからは2人の音楽家に注目しその後の十二音技法の発展について見ていきましょう。
シェーンベルクの弟子のヴェーベルンやまたベルクといった人がその音列の使い方を非常に洗練させていくと。
独自の追求をしていく訳ですよね。
そのヴェーベルンの方はですね作品30のバリエーションですね。
非常にシンメトリカルな構造をしてます。
これだけでも随分きれいな音楽に聴こえてくるんですけどもなんとこれこの音列はですねまず使われている音程が2つしかないんです。
短2度と短3度しかないと。
恐ろしい事ですね。
それからですね12の音の真ん中に鏡を立ててひっくり返すと最後の音になるというね非常に緻密な。
もう一人の弟子であるベルクの音列になりますとまたとても異なった洗練のされ方をしていてですね彼の遺作となったヴァイオリンコンチェルトですね。
こういう事ですね。
なんと最初の3つの音は…ト短調の主和音になってますね。
その次の3つをとるとですねト短調のドミナントになるんです。
ここに…ト短調の主和音と属和音が最初に提示されているというね。
本来調性を壊して無調に走っていったはずなのにベルクの最後の作品においてはそれが調性をまた取り戻しつつその十二音技法と合体したような形になっているという。
何か十二音技法って教科書的に考えるとすごくつまらないというかな算数のようにして出来ると思ってるんだけどでもやっぱりそれに対してどういうアプローチをするかによって全く変わってくる。
だから第二次世界大戦以降でもいろんな人が十二音技法使いますよね。
だけどそこに才能とかセンスが出てしまうっていうのが面白いんですよね。
そうですね。
だから単なる数学の…。
遊びでは全然ない。
数字の遊びではないんですよね。
シェーンベルクヴェーベルンベルクが発展させた十二音技法っていうのが第二次世界大戦以降ドイツやフランスの作曲家によってまたね新たな発展がある訳ですけどもそれはまたこの先も取り上げる事になるでしょう。
2014/03/20(木) 00:30〜01:00
NHKEテレ1大阪
スコラ 坂本龍一 音楽の学校 シーズン4「“20世紀の音楽”編」(1)[字][再]

今回から20世紀の音楽編がスタート。バッハの時代に確立した調性音楽からの脱却を図った20世紀の西洋音楽の流れを紹介。1回目は、無調音楽を取り上げる。

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