今からおよそ2,500年前の古代中国で生まれた兵法書「孫子」。
そこにはいかに勝つかの戦略が説かれています。
戦略これを孫子は「詭道」すなわち「だます」という言葉で表現し重視しました。
相手をだますという事なんですね。
普通の戦いが基本だけども決め手になるのは「詭道」知恵であると。
敵を上手にだますには何が必要なのか勝つための知略に迫ります。
(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…今回も「孫子」でございます。
はいよろしくお願いします。
私全然「孫子」というものに興味がなかったのでこれまで気がつかなかったんですけどいろんなところで「孫子」って引用されてる。
あの大河ドラマの「軍師官兵衛」の中にもすごく出てくるんですよ。
そうですか。
そうなの。
官兵衛も「『孫子』はこのように言っている」とかね。
僕は野村監督の本かなり「孫子」だというの気付きましたね。
気付かなかったものですね。
ほんとにいろんな事が見えてきている今回の「孫子」でございますけれども今日は戦いに勝つためには一体どうすればよいのかというその方法をひもといていきたいと思います。
今日も指南役は中国思想研究者の湯浅邦弘さんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
こんにちは。
よろしくお願いします。
先生「戦わないで勝て。
それがいいんだ」みたいな事にもちょっとびっくりしましたけれども。
「孫子」は戦力をできるだけ使わずにそして敵国まで保全して勝つと。
そのためには敵の裏をかくとか謀略を仕掛けるとかそのようなさまざまな戦略が必要となってきます。
さあでは「孫子」の考える勝つための戦略とはいかなるものなのかひもといてまいりましょう。
(部下A)私は3枚。
(部下B)私は2枚。
(孫武)私は1枚じゃ。
1枚?さあどうする?降ります。
降ります。
そうかじゃあ私の勝ちだな。
それで将軍の手札はどうだったんですか?
(孫武)ほれ。
(2人)ブタ!?これこそが戦いの本質「兵とは詭道なり」!「軍師官兵衛」も言ってましたよ。
「兵とは詭道なり」。
そうですか。
あれはポーカーだとブラフとかあと麻雀だと「三味線を弾く」とか言うんですけど。
それ何ですか?嘘をつくって事。
要は翻弄するみたいな事なんですけど。
もちろんそういう事は分かりますよ。
そういう事があるというのは分かるけど戦いの中で本道であるというのがすごいでしょ。
自分がどれだけいい手を作るかが本道でこっちは邪道なイメージですけど。
戦わずして勝つための方法をね「孫子」は「詭道」という言葉で表すんですね。
ちょっと難しい漢字ですけども「詭道」の「詭」というのは「いつわり」という意味です。
相手をだますという事なんですね。
この詭道こそが実は勝敗を決めると言っていましてその原則を「孫子」の中でこのように言っています。
どういう意味でしょう?戦争というのはまずは正攻法で対戦するとこれは基本ですね。
しかし最後の勝利の鍵を握るのは奇策であるというわけですね。
奇策をうまく出す者というのはさまざまな戦術を繰り出せるそして大河のように尽きる事がないというふうに詭道の有効性を述べています。
なるほど。
先生の解説で少し分かるのが本道というのはちょっと違うんだね。
普通の戦いが基本だけども決め手になるのは詭道知恵であると。
スポーツの世界でも言えるんですけどもスポーツでもまず基本を学びますね。
しかし一流選手同士の試合となるともう紙一重なんですよ勝つか負けるかというのは。
そうすると最後は…例えばサッカーでも左へパスをすると見せかけて右へドリブルで抜いていくとか。
フェイントですね。
こういう戦法というのは別に…これはスポーツにおいては常に使われていると思います。
そうか面白いものですね。
さあでも勝つための知恵を繰り出すための前提として最も重要なものは一体何なんでしょうか?こちらをご覧頂きましょう。
詭道を繰り出すために最も重要なもの。
それは情報です。
「孫子」の中で有名な言葉の一つにこんな一節があります。
敵の実情を知りまた自軍の実態を知る。
そうすれば百たび戦っても危うい事はない。
つまり情報収集と自己分析両方が万全であればピンチは訪れないというわけです。
では敵の情報を得るにはどうすればよいのでしょうか。
通信機器も発達していない当時頼れるのは生身の人間つまりスパイ間者です。
「孫子」は間者の種類とその活動についてこう述べています。
「内間」とは敵国の役人を買収するつまり内通者の事。
「死間」とは死を覚悟の上で敵国に潜入し偽の情報を流す最も高度な任務を負います。
彼らスパイがもたらす情報があってこそ「孫子」の考える詭道は成り立つのです。
だんだんちょっと手が込んできましたよ。
すごいですね。
スパイですよスパイ。
いろんなスパイがあって。
でもこのころにもやっぱりスパイというのはすごく登用されてたというかいたんですね?はい。
軍事の世界ではこれは半ば常識ですね。
ただ目に見えない存在ですから例えば都合が悪くなると切り捨てられてしまういわば捨て駒のようなそのような立場の存在ですね。
全然大事にされてない?そうですね。
だからこそ「孫子」はこのような言葉を残しています。
どういう意味ですか?これはスパイに対して十分な爵位や給与を与えないそれを惜しんで敵の実情を知らないという事では国民に対してあまりにも無慈悲な態度であると言うんですね。
つまり私たちは目に見えるものについてはお金をかけたがるんですけども目に見えない情報にはなかなかお金をかけない。
ところがそういう時代にあって「孫子」はスパイにこそ十分な立場とお金を与えなさいと言ってるんです。
割と情報にちゃんとお金をかけなさいというのって僕らからしてみたらこのコンピューターの時代ネットワークの時代に言われてきた事なんじゃないかと思ってたけどもうこの時代から「情報だよ」って?2,500年前に情報の大切さをここまで力説してるわけですね。
言われてみればさいつ始まるか分からない戦争に備えて敵国に行ってたりする人でしょ?一番不安定でそれこそもうこのころから「反間」二重スパイはいるわけだからそうなりかねないという怖さも分かってるって事ですよね。
将軍というのはこのように闇に生き闇に死んでいくスパイにも十分な愛情をかける。
これが前回勉強した将軍の資質の一つ「仁」という事にもつながっていくわけですね。
思いやりですね。
そんな「孫子」でございますけれども情報が勝敗を決めたという歴史上の有名な戦いがあります。
こちらをご覧頂きましょう。
「三国志」の名場面「赤壁の戦い」。
魏の曹操軍と呉・蜀の連合軍が長江沿いの赤壁で対峙します。
呉と蜀の兵力およそ4万に対し曹操軍80万。
数では圧倒的に曹操軍が上回っていましたが…それを知っていた呉と蜀の軍は勝機ありと踏み火攻めを計画します。
この時蜀の軍師であった諸孔明は一日だけ風向きが変わる日がある事を事前の情報で知っていました。
孔明が祈とうを行うと予想したとおり…その風に乗って呉と蜀の軍は火を放ちます。
強風にあおられて火は瞬く間に広がり曹操の船団を焼き尽くしてしまいました。
たとえ兵の規模では劣勢でも最後は情報の有無が勝敗を決めたのです。
お〜…諸孔明は気象予報士だったわけではなく情報を集めてた?どっちから風が吹くか。
たくさん情報を実際得ていればいろいろな奇策も出しやすいと思うんですけれども。
軍隊というのは敵の充実した所を避けて相手の手薄な所を撃つ。
手薄な所から各個撃破していくという事を言ってるんですね。
じゃあ実と虚はどうやって分かるかというとそれは情報なんですね。
何かちっちゃいお店を経営してたけど隣にコンビニが出来ちゃったといった時にほんとにコンビニのブランド力みたいな一番強いところとかそこの一番主力商品で対抗したらそれは一店の小売店では負けるけどそこのお店に入る人を見てて「あれは弱いな」って事って多分あると思うんです。
あそこに限ってはコンビニエンスよりも我々お店の方が強いんじゃないかみたいな事そこからいかないと負けますよまして消耗戦になりますよという事ですよね。
なかなか難しい。
何かいい方法はあるんでしょうかしら?「孫子」はそれについても言っています。
「先に戦場に入って余裕を持って敵を待つ者は楽だ。
しかし逆に遅れて戦場に到達し慌てて戦争に突入するような軍隊これは疲れてしまう。
戦上手の者というのは相手を支配するのであって相手にコントロールされるような事はない」。
これはまさに機先を制すそして主導権を握るという事の重要性を言っています。
僕これすごい思い当たる事があって。
しかもここで。
NHKで?僕NHKの「新人演芸コンクール」というのを二十歳の時出たんです。
その時にものすごい緊張するんです。
僕落語の修業をしてる時代であまりに緊張しすぎてスタジオ入りの時間を間違えて4時間早く来ちゃったんです。
不思議なもんで緊張してんのバカらしくなってきたんですよ。
4時間の間に?これはほんとに怪我の功名でその4時間の間に緊張するパターンが全部出ちゃってそしたら本番で俺ほんとにまぐれもいいところで決勝に残る事ができてそこで調子に乗って決勝は普通の入り時間で入ったら負けましたね。
でも商談は自分の好きな場所にはなかなか設定できないけども相手方に行くんでも相手方の会社の例えば近くで一旦落ち合って自分の上司とちゃんと何か対策を練ってるとかこれ損はないと思うんだよね。
情報を入手してさまざまな戦術を敵に仕掛けるんですけども実は味方に仕掛ける事もあるんですよ。
えっ?何を?味方にこの情報操作すなわち「だまし」のテクニックを使う事もあるんですね。
兵卒の耳や目要するに情報を遮断するという事ですね。
情報というのは最近は情報の開示情報の管理共に重要だと言われますけれども将軍から末端の士卒まで全員が同じ情報を共有する必要はないと言ってるんですね。
もしも士卒にどうでしょう全情報を提供してしまったらある人はおびえて逃げてしまうかもしれない。
あるいはその情報を持って敵に内通する人が出てくるかもしれない。
これはすごい!さっきのVTRで僕すごく「ははあ」と思ったところがもともと風が吹く日をある程度計算して言ってるにもかかわらず祈とうのふりをしてるでしょ?これって多分末端の部下にとってはこっちの方がいいんです。
あの人はものすごい神通力を持ってるという方が「風が吹くぞ」という事じゃない「俺が吹かせるからその場で行け」っていう。
だって分かんないけどここで「何時頃から風が吹くからその時に」って言うと悪気はなくても少なくとも敵に情報を漏らさなくてももう弓矢の用意を始めちゃったりそういう事の自信が満面に出ちゃったりとかする事で。
相手に知られたり?相手に知られる。
たださそれは下っ端からしてみると殺されるかもしれないわけじゃん。
大変な話だけどここがやっぱりゾクゾクするのはリーダー論ですもんね。
そうですね。
リーダーはもしかしたらリスクがある時にちゃんとリスクがありますよって言う必要があるかどうかって難しいところですよね。
うちの子も「昨日すごいゲーゲー吐いてたんだけどおばあちゃん今日大丈夫だから保育園連れていくから」とか無駄な情報を教えちゃうと保育園に行って「先生この子昨日ゲーゲー吐いたんですけど」。
先生が「何か吐いたって言ってますけど」みたいな電話がかかってきてお母さんもう大丈夫…お医者さん行って大丈夫だって言ってるのに知っちゃったがゆえに言っちゃうみたいな。
身内をもたばかるという事が大事という。
さあ相手に有効な奇策まだまだございます。
こちらをご覧頂きましょう。
(上司)この仕事頼むよ。
(部下)え〜…。
そんな事言わずにさ。
特別ボーナス弾むよ!えっ特別ボーナスですか?分かりましたやりましょう。
ありがとう!はい。
人というのは「利」つまり利益につられる存在なんじゃな。
やっぱり甘っちょろい事は書いてないですよね。
道徳論ではないんですよ。
人間の本性が善か悪かという話をしてるんではなくて人間というのは利害利につられ害を避けて動くという事を冷徹に観察してるんですね。
これ面白いのはボーナスを増やしてあげるのがこの人にとっての一番の利だとか休暇をあげるのがこの人にとっての一番の利だみたいな事もちゃんと情報として持ってるのを前提とした上でじゃないとこれって動きませんもんね。
そのとおりです。
つまり相手にとって何が利なのかという事をきちんと押さえておかなければ駄目なんですね。
大きな戦いの場でもそういうのあるんですか?実際の戦争でもそういう局面は度々あります。
こちらをご覧下さい。
これは有名な「三国志」の時代の戦いなんですけども。
魏の曹操と袁紹が争った「官渡の戦い」。
この戦いでこんな場面がありました。
曹操軍は白馬から撤退する際袁紹の軍の前にわざと食料を置いていったのです。
すると袁紹の軍隊はその食料を奪取するのに精いっぱいでまんまと敵を逃してしまうんですね。
なるほど。
ある意味保険じゃないけど追っかけてこない。
兵力の温存にもなるわけですね。
そうです。
すごいな。
でもそんなにうまくいく事ばかりじゃないですよね?そうですね勝てない事ももちろんありますね。
その時の事は「孫子」は何か書いてるんですか?これが不思議な事に…ああそうなんですか!はい。
自分の兵法を守っていれば負ける事はないというふうに思っているのかもしれませんね。
ただもし「孫子」だったらこう言っただろうという言葉が残っています。
これは「孫子」からだいぶ時代は後になるんですけども「三十六計」という兵法書があります。
1,000年もあとに書かれたもので「孫子」の兵法などをはじめとする中国兵法のエッセンスをまとめたものです。
第一計第二計第三計とずっとその奇策がありまして三十五計までいくんですね。
ところが三十五計まででも勝てない時どうしたらいいか。
すると三十六計目に「走為上」「走るを上と為す」という言葉があります。
この「走る」というのは「逃走」という意味なんですね。
つまり「逃げるが勝ち」とそういう事ですね。
「三十六計逃げるが勝ち」という言葉はここから出ています。
聞いた事ある!「三十六計」ってこれの事?何で「三十六計」なんだろうと思ってましたけど。
ちゃんと36あるんだね。
たとえ勝ちは得られないにしても…私たちはやはりはらはらと美しく散っていくそういうところに美学を感じますよね。
でも中国大陸って広いですから逃げて逃げて逃げまくるそして最後に勝つとこれがいいんですね。
そうか国土の大きさの差もありますか。
だから先生が再三再四仰ってるだから最終的に死者も少なく済んだりとか最終的に幸せになるための事なんでしょうねきっとね。
これをほんとに我々とかに置き換えてくといっぱい参考になる気がするんだよな。
夫と妻の関係ではちょっと泳がしておきますよ。
あれ?うちのかみさんは「孫子」を読んでるのかな?かなり弱点をついてくるけどな。
たまにおやつくれるけど。
さあ今回は「孫子」が説く勝つための知略「詭道」について見てまいりました。
次回は「孫子」が考える「組織論」についてひもといていきたいと思います。
湯浅先生次回もどうぞよろしくお願いいたします。
2014/03/19(水) 23:00〜23:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 孫子 第3回「勝つための知略」[解][字]
古代中国の兵法書「孫子」を読む。孫子は、勝つためには、相手を上手にだますことが大切だという。その真意とは何か?第3回ではライバルに勝つための知恵を明らかにする。
詳細情報
番組内容
正面からバカ正直に戦っていては、勝利はおぼつかない。そのため「孫子」は、奇策を取ることの大切さを語っている。ただしその奇策とは、決してその場の思いつきで行われるものではなく、用意周到に計算された上でのものだ。この時に重要になるのが、優れた情報をどのようにして入手するか、そして得られた情報をどう管理するかということだ。第3回では、敵はもちろん、時には味方をもあざむく、情報操作の極意を語る。
出演者
【ゲスト】大阪大学教授…湯浅邦弘,【出演】斉木しげる,【司会】伊集院光,武内陶子,【語り】山崎和佳奈
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
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