クローズアップ現代「原発事故にどう備えるか 検証 避難計画」 2014.03.05

福島県を走る国道114号線です。
原発事故の翌日撮影された一枚の写真。
あのとき避難を巡って何が起きていたのか。
新たな事実が明らかになってきました。
事故が起きたとき原発近くの病院にいた看護師。
患者とバスで避難したところ渋滞に遭遇。
その後、体調を崩し亡くなった患者も出ました。
なぜ渋滞が起きたのか。
避難者1万人の調査で原発事故に直面した住民の予想外の行動が浮かび上がってきました。
放射性物質を出し続ける原発。
避難できない患者を支えるため決死の覚悟で病院に残った人もいました。
全国の原発周辺の自治体は今、再稼働に備え避難計画を作っています。
福島の経験は生かされているのか。
原発事故にどう備えるか検証します。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
福島第一原子力発電所で一体何が起きているのか。
深刻な事故が発生したことを伝えられた原発の周辺地域に暮らす人々はその後、国、東京電力そして報道機関からも十分な情報が示されない中突然の避難を強いられました。
メルトダウンや大量の放射性物質が放出される大事故が起きることが想定されていなかったため心構えも備えもないまま、突然着のみ着のままで家を離れ13万5000人もの方々が事故から3年たった今もふるさとを失ったままになっています。
現在、国の安全審査を受けている原発は48基あるうちの17基。
原発そのものの安全性についての審査が行われています。
一方、自治体が作ることになっている周辺住民の安全を守る避難計画ですが国の指針はありますが国の審査対象とはなっていません。
福島の事故の教訓から、原発には絶対の安全はないという想定で避難計画も考えなくてはならない中で今、原発周辺にある135の自治体では新たな避難計画作りを進めています。
計画の大きな柱が段階的避難です。
ご覧ください。
この段階的避難ではまず原発から5キロ圏内の人々が最初に避難します。
5キロより外の地域の人々は避難せずに建物の中にとどまります。
その後、風向きや放射線量を考慮して順番に避難をしていきます。
この段階的避難によって住民の安全を守れるのか。
福島で被害を受けた地域の住民の視点に立って検証していきますと大きな課題が浮かび上がってきました。
浜岡原子力発電所がある静岡県。
先月、原発事故を想定し段階的避難の訓練を行いました。
まず、危険性が高い原発から5キロ圏内の住民には被ばくを避けるためいち早く避難を指示します。
一方、5キロ圏の外側の住民には自宅などにとどまるよう呼びかけます。
5キロ圏内の住民と同時に逃げると渋滞が発生してしまうためです。
段階的避難を行えば渋滞を防ぐことができるのか。
福島の事故を検証するとその難しさが分かってきました。
事故が起きたとき、原発から4キロの双葉厚生病院にいた看護師の渡部幾世さんです。
当時、病院には寝たきりの人を含む130人を超える患者がいました。
国は避難指示を段階的に3キロ10キロ、20キロと出しました。
双葉厚生病院は10キロ圏内に指示が出たとき避難を始めました。
車いすの患者をバスに乗せ病院を出た渡部さん。
しかし、経験したことのない大渋滞が立ちはだかります。
近くの町の病院に着くまで5時間以上もかかってしまいました。
渋滞に巻き込まれた患者の中にはその後、体調を崩して亡くなった人もいました。
段階的に避難していたはずなのになぜ大規模な渋滞が発生したのか。
取材を進める中でまだ避難指示が出ていない時点で10キロ圏の外側の住民が逃げていたことが分かってきました。
その一人、原発から12キロの浪江町立野地区で暮らしていた木村正廣さんです。
原発で何が起きているのか。
国や東京電力から情報がほとんど伝えられない中で身の危険を感じて避難したといいます。
避難指示を待たずに逃げた住民は、どれほどいたのか。
専門家と分析することにしました。
東洋大学の関谷直也准教授です。
用いたのは福島県の避難者1万人を対象にしたアンケートです。
黄色い棒は事故が起きた直後原発周辺にいた住民の数を示しています。
10キロの避難指示が出たのは12日の午前5時44分。
一斉に避難が始まり住民の数が激減します。
このときの10キロ圏の外側の動きです。
避難指示が出ていないにもかかわらず大半の住民が逃げ始めていたのです。
関谷准教授は、こうした動きが大規模な渋滞を引き起こしたと見ています。
段階的避難がうまくいかないことを前提に対策に乗り出した自治体があります。
福島県の南相馬市です。
福島第一原発の廃炉作業で事故が起きることを想定。
避難による渋滞を、少しでも減らそうとしています。
市内を3つに分け赤い地域は宮城県。
青い地域は山形県。
そして、緑の地域は新潟県に避難させたいと考えています。
特定の避難ルートに車が集中しないよう分散させるねらいです。
しかし、南相馬市の桜井市長は受け入れ先の自治体との調整を一自治体だけでするのは難しいとしています。
今夜は政府の原発事故調の委員を務められ、その後、独自に住民避難の実態の取材を続けていらっしゃいます柳田邦男さんにお越しいただきました。
国の指針の大きな柱となっているのが、避難を行ううえで、段階的避難ということですけども、福島で実際に起きたことをこうやって検証してみますと、この段階的避難というのは現実性があるのかなというふうにも、見えてしまうんですけれども、どのように捉えていらっしゃいますか?
とりあえずの青写真として、区域を限って、順番に避難するというのは、それはそれで、論理性があるんですけれど、ただ住んでいる人口、あるいは土地の特性とか、交通事情、交通手段、それを考えたときに本当に実効性があるかどうかというと、福島の実態を見るとかなり難しいのではないかと、そう思いますね。
本当に被害を受ける地域にいらした人々の、事故が起きたことを知ったときの、この心境とか恐怖というのは、相当大きいんだなというのが伝わってくるんですけれども。
やはり、原発事故の特異性というのが、ほかの地震災害なり、津波災害なり、あるいは大きな工場災害なり、そういうものとも全く違うところがあって、それは目に見えない放射能汚染というのが、どこでどうなってるのか分からない、そして、その結果、何がもたれされるのか分からない。
それが人間心理に大変微妙な影響を与えて不安感を増幅する。
しかも、地域防災計画の中で特に重要な避難計画が、非常に不明確で、机上の空論に終わっていたっていうところがあるんですね。
これから、原発というものを仮にでも、稼働するとなると、この避難計画というのは、とても大事な意味を持つんですが、なぜかと言うと福島原発事故の最大の教訓をあえて2つ挙げれば、1つは、災害というのは科学的に想定したつもりでも、それ以外の何かとんでもないことが起こりうる、それに備えられるかどうかということと、それから、地域の住民の安全、命や健康の安全、これを考えるにあたっては、原発のプラント自体がいかに技術的に安全で保証されたにしても、今度は住民の目線に立ったときに、本当に大丈夫なのか、想定外のことが起こったとき、どうするんだという目線から言うと、最悪の事態を前提にした避難計画というのが、技術的なプラントの安全性とは独立して、きちっと確立されていないと、住民の命は守られないという、これが最大の教訓であるわけですよね。
そういったときにやはり、逃げないといけないという事態がきたときに、ああいった渋滞を、どうやって本当に防げるのかっていうことを考えてしまいますよね。
これは線引きをして、こっちが先にって決めるだけではなくて、避難がスムーズに行くためには、いろんな段階の準備と訓練が必要になってくる。
まずは、地域防災計画が綿密に地域の特性に合って作られているということ。
最悪の事態に備えて、それが住民一人一人に啓発活動の中で地域として徹底している。
それから2番目には、それが、実際に避難できるのかどうかを全員参加の訓練でやって、その実効性を試さないといけないと同時に、住民が避難を体で覚える。
どういう避難のしかたをしなきゃいけないのか、これを体で覚えるということとか、さらには、いざ、事故が起こったときに正確な事故情報、避難指示っていうのがきめ細かく伝わるということ、さらには、地域にある病院とか福祉施設、あるいは老人施設、そういう体の動かないような人たちをどうするかという問題とかですね、さまざまな問題があって、それが一つ一つが全部クリアされて初めて避難計画っていうのが意味を持ってくるわけです。
これは大変な作業です。
一自治体でできますか?先ほど南相馬の市長のおっしゃった。
防災計画というのは、基本方針を国で決めて、そして具体的なものは自治体に任せてしまうという、丸投げ的なところがあるんですね。
しかし、原発事故のように非常に広域にわたって大変な事態が起こるときに、一自治体の計画だけではにっちもさっちもいかなくて、その地域全体の自治体が連合したり、あるいはどうあるべきかについて、国がもっと本質的に、原発事故とはこういうものだから、こういう防災計画、避難計画が必要だっていうことについて、積極的に関わらないといけないんですね。
また、後で伺いたいんですけれども、今ご覧いただきました段階的避難と共に、もう1つ大きな柱となっていますのが、屋内避難です。
高齢者や寝たきりの方々、自力で動けない方々については、国は一定期間、施設内にとどまることとしています。
これは福島第一原発の事故で、無理な避難の影響で亡くなった方が相次いだことからきています。
しかし、屋内避難への対応を求められました医療機関や福祉施設では、本当に屋内避難ができるのか、不安を抱えています。
佐賀県の玄海原子力発電所。
再稼働に向けた準備が進んでいます。
原発から3キロの特別養護老人ホームです。
およそ100人の入所者のうち8割が自力では避難できません。
屋内に待避するための工事が今月から始まります。
この赤いラインがダクトが付く部分になります。
放射性物質の侵入を防ぐ装置を中庭に設置。
部屋に空気を送り込むダクトも張り巡らせます。
費用は3億円。
すべて税金で賄われます。
しかし、国から費用が出るのは原発に近い一部の施設に限られています。
NHKは玄海原発30キロ圏内の医療機関や福祉施設にアンケートを実施しました。
113の施設のうち6割以上が屋内退避はできないと回答。
設備の対策が進まないことに加え施設に残る職員の確保が被ばくのリスクがある中では難しいというのが理由でした。
玄海原発から26キロ。
伊万里市にある中核病院です。
失礼します。
屋内退避の対策を任されている医師の山元謙太郎さんです。
自分自身は病院に残ると決めています。
ほかの職員も使命感で残ってくれると思っています。
福島で事故が起きたとき医師や看護師はどう考えたのか。
先月、山元さんは屋内退避を経験した南相馬市の病院を訪ねました。
院長の金澤幸夫さんです。
金澤さんは事故の4日目職員一人一人に病院に残るかどうか判断を任せることにしました。
原発事故が深刻化する中職員の3分の2が病院を離れていきました。
その一人看護師の佐藤理香さんです。
悩んだ末、小学生の娘と息子を連れて、県外に避難しました。
一方、病院に残った職員も当時の判断が正しかったのか今も悩んでいます。
看護師の小野田克子さんです。
一度は福島市に避難した中学生の娘。
お母さんと離れたくないと言われ病院で一緒に寝泊まりすることになりました。
娘を危険にさらしてしまったと考えています。
使命感を持って病院に残った職員たち。
金澤さんは、あまりにも大きな覚悟を迫ることになったと感じています。
原発事故が起きたとき病院に誰が残るのか。
職員の使命感に頼るだけでいいのか。
山元さんは悩みを深めています。
柳田さん、今の南相馬の病院で働いていた看護師の方々が、果たして自分たちの判断は正しかったのだろうかと、今も葛藤している姿をどのようにご覧になられましたか?
これ、いみじくも原発災害というものの特異性を端的に表していると思うんですね。
本当にこの心理や家族関係や、そういうことまで含めて一人一人が抱え込んでしまうわけです。
それは看護師一人だけの問題ではなくて、被災した何万という数の、こういう困難な問題が生じるのが、まさに原発災害、それが地域の避難計画や防災計画に関わる大事なところなんです。
ところが、技術的にプラントの安全性だけでうらがきして、もういいという見えてこない部分なんです。
これこそが、住民目線の本質なんですね。
これに対して自治体や…の長やそれに対策本部に丸投げするのではなくて、国が基本的にはこうするという倫理の問題まで含めて方針を出さないと解決しないですね。
例えばああいう防災とか、あるいは命を守る職業の人たちっていうのは、自分が去っても後悔が残る、残っても後悔が残る、いろんな問題抱え込む。
そういう中で、問題になるのはやっぱり、命の倫理、生命倫理の問題なんですよね。
これは非常に難しい問題で、災害時に問われる防災関係者やあるいは医療福祉関係者、共通して問われる問題、特に津波の場合なんかは、消防団の方々がもう本当に何十人、何百人と亡くなったわけです。
これはもう、住民誘導のために、そのときにやっぱり、そういう義侠心やあるいは人助けというものの精神で燃える人っていうのは自分の命を省みなくなってしまう。
それでいいのか。
それを何か期待して、防災計画を立てちゃ絶対いけない。
そういう人たちはどういう行動をし、どういう判断をするのか、これについては、例えば、この日本の国はこういう方針でこの問題を臨むという意味では、かつて脳死問題について、脳死倫調っていうのを作って、脳死を巡る人間の倫理の問題というのを、議論して方針出しましたけど、それと同じぐらいに大災害や原発災害のときに、そういう防災関係者、医療福祉関係者がどういう判断と行動をすべきか、これは基本的な方向づけっていうのを国がなんか臨調みたいな問題を作って、議論すべきだと思うんですね。
2つのこの段階的な、そして屋内退避、この2つの柱を見ましたけれども、それぞれが福島の教訓を踏まえたそうしたその避難計画にまだなっていないと?3年たってますけれども。
これは政府事故調も提言した全調査をしてそこから教訓を探し出して、対策を立てるべきだというのに全く手付かずになっているんです。
全体の被害はどうなのか、一つ一つの悲劇が何万件、起きたのか、その全体を見つめてこれから原発っていうものを再稼働するのか、エネルギーに頼るのか、そういうところまで踏み込まないで、技術論だけで結論を出してはいけない、こういうことが3年にして、やっとなんか表にはっきり出てきたっていう、こういうふうに私は2014/03/05(水) 19:32〜19:58
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「原発事故にどう備えるか 検証 避難計画」[字]

原発事故から3年。再び原発事故が起きた場合に、住民の命をどう守るのか。1万人アンケートをもとに福島の避難の実態を取材。全国の原発立地自治体の取組みと共に検証する

詳細情報
番組内容
【ゲスト】ノンフィクション作家…柳田邦男,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】ノンフィクション作家…柳田邦男,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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