(最終回)僕のいた時間 #11 2014.03.19

(拓人)死にたいわけじゃない…。
生きるのが怖いんだ…。

(救急隊員)澤田さん聞こえますか?澤田さん分かります?澤田さん!澤田さん!澤田さん!
(救急隊員)澤田さん。
助けて…。
(救急隊員)気が付きましたね。
もうすぐ病院に着きますからね。
死にたくない…。

(恵)先生…。
(谷本)車椅子から転倒したようですが頭や頸椎には外傷はありませんでした。
軽い脳振とうを起こして呼吸が少し弱まっていましたが今は元に戻っていて心配ありません。
(恵)ありがとうございました。
澤田さん。
(佐和子)拓人。
分かりますか?病院ですよ。
何で…?ここに来るまでのことは覚えていませんか?救急車で…。
(谷本)はい。
それまでのことはどうですか?いえ。
(谷本)うん。
大丈夫です。
大事には至りませんでした。
よかった…無事で。
すごく不安定になっていて…。
人工呼吸器を着けるのも着けないのも怖いって。
(陸人)着けるのも?着けた後いつかまったく体を動かせなくなって自分の気持ちを伝えられなくなったときその状況に耐えられるのかどうか分からないから。
今は拓人さんが周りの人たちと一緒に生きている幸せを実感できるよう一日一日を積み重ねていくことに専念しましょう。
はい。
食べられそう?食べたくなったら…。
食べる。
うん。
(すみれ)先生今行ってもいい?ちょっと入院してて退院したところなの。
(すみれ)大丈夫?
(すみれ)先生これ見て。
このロボット型のスーツって着けた人が脳で考えたことをロボットが読み取ってその動きをするんだって。
すごくない?研究開発が進めば先生やいろんな病気の人がまた歩けるようになるかもしれない。
私もこういうロボットを作る人になりたい。
大学は工学部に行くって決めたんだ。
でね今度隣の中学と合同で生徒会が中心になってイベントやるの。
先生ゲストで来て何か話してくれない?えっ何を?何でもいいの。
頑張ってる先生見てると勇気湧く。
私だけじゃないと思う。
会社辞める?
(守)すぐじゃないよ。
でもそうなったらいいなって。
何で?
(守)自分の店持ちたいんだ。
(守)こだわりのカフェ。
あっ自分のこだわり押し付けるカフェじゃないよ。
客のニーズに応えられるカフェ。
「コーヒーカフェイン抜き」とか「コーヒーぬるめストロー付き」とか。
(守)会社の愚痴ぐだぐだ言ってないで自分でやろうって。
前はそんなこと考えもしなかった。
これでいいかな?どう?
(陽菜)どんな感じ?何かすごい。
これでまた受験勉強できるな。
うん。
あっ競争な。
俺が店持つか拓人が医学部受かるか。
何か書いてみてよ。
メグ。
うん。
書けたね。
うん。
メグすみれちゃんが言ってた話やってみるよ。
ホントに?ねえ何?イベントでね大勢の中学生や保護者の前で話すの。
(陽菜)講演するってこと?そんなんじゃないよ。
そう講演。
聞きに行っちゃお。
いいよ来なくて。
絶対行っちゃうもんね〜。
(陽菜)ね〜。
(陽菜・守)フフフ…。
フフフフ…。

(陽菜)じゃあね。
(守)あのさ…。
拓人が救急車で運ばれたとき繁先輩も一緒に捜してくれたから。
(守)繁先輩には「言うな」って言われたんだけど。
(従業員)おい!それそこじゃないよ。
(従業員)すいません。
(従業員)頼むよ。
こないだも言ったでしょ。
書いてあるから。
(従業員)すいません。
(従業員)注意してね。
(従業員)この辺の入荷さ早めた方がいいと思うんだよね。
(従業員)あっそれ私も思ったんです。
(陸人)トリケラトプス。
(永井)えっ?
(陸人)セントロサウルスの鍵型に湾曲した骨って魅力的だよね。
でもスティラコサウルスの大きなホーンレットもカッコイイよね。
(永井)うんそうだね。
(陸人)セントロサウルスとスティラコサウルスどっちの頭骨が好き?スティラコサウルス。
(陸人)あ〜僕はセントロサウルス。
あっアヴァケラトプスってどっちだと思う?セントロ…。
何か緊張してきた。
えっ?みんなの前で話すの想像したら。
何話すか決めた?まだ。

(陸人)ただいま!兄さん聞いてよ!友達ができたよ。
(拓人・恵)えっ?たまたま恐竜の話で盛り上がっちゃって。
大学行ったら僕にも友達たくさんできるんじゃないかって元気出てきた。
あっこれ赤飯!買ってきちゃったよ。
何で赤飯なんだよ。
おめでたいときには赤飯でしょ。
よし食おう。
あいつ1つしか買ってきてない。

(ドアの開閉音)何の本?栄養の本。
ALSは栄養がすごく大事だって先生から聞いたから。

(昭夫)今後当院としては地域と連携しながら難病患者とその家族の支援体制をつくっていきたいと考えています。

(陽菜)お店の名前どうする?
(守)気が早いなあ。
勉強しないといけないこといっぱいあるんだから。
絶対失敗できないし。
(陽菜)子供の名前どうする?
(守)気が早い…。
えっ?まさか…。
できた。
やった。
えっやった!えっ絶対成功させないと。
やった!
(陽菜・守)イェ〜イ!
(繁之)固まんな固まんな固まんな。
広く…広く使って広く。

(繁之)はいもう1回!この前はご心配おかけしました。
ありがとうございました。
すいません。
(繁之)あっこれ知り合いに頼まれちゃってさ。
いいっすね。
あっこれ…。
そこで俺みんなの前で話をするんでよかったら来てください。
(繁之)行くよ。
とちんなよ。
はい。
フッ。
(男の子)コーチ!
(繁之)うわあいつらまた…。
じゃあな。
はい。
(繁之)拓人。
体大事にしろよ。
お前一人の体じゃないんだから。
ありがとうございます。
(繁之)おい!どうしたどうしたどうした?ほらやめろ。
どうした?フフ…。
毎日前向きに過ごせています。
ただ人工呼吸器のことをどう考えているかは分かりません。
(生徒)こんにちは。
(生徒)こんにちは。

(チャイム)
(すみれ)次のプログラムはゲスト講師の澤田拓人さんによる講演です。
午後1時より行いますので…。

(ノック)はい。
あっ。
お母さん!俺が呼んだ。
ありがとうございます。
(翔子)頑張ってね。
いや何かもう私まで緊張しちゃってゆうべはもう眠れなかった。
はっ?ハァ〜。
あっ何かドキドキしてきた。
そんなこと言ったら余計緊張するでしょ。
あっそうよね。
あっ深呼吸するといいわよ。
はい。
ハァ〜。
フフ。
何でマモちゃんが緊張してんの?いやするでしょ。
ありがとう来てくれて。
いえ。
あと15秒。
(すみれ)1時になりました。
それではゲスト講師の澤田拓人さんのお話です。
澤田さんは病気と共に生きてらっしゃいます。
よろしくお願いします。
澤田です。
よろしくお願いします。
誰もが一度は考えたことがあると思います。
自分は何のために生まれてきたんだろうって。
病気になる前の僕は特にこれといった目標もなく漠然と毎日を過ごしていました。
自分ってものがなくて家族にも本音を隠しいつだってキャラクターを演じてる自分のことが好きじゃありませんでした。
大学4年の終わりに同級生が自殺しました。
理由は分かりませんが彼は就職が決まっていませんでした。
僕は大きな衝撃を受けましたが死というものは人ごとでした。
僕の人生はまだまだ当たり前に続くと思っていたから。
そんな僕が病気を告知されたのは社会人1年目のときです。
ALSという筋肉が衰えていく病気です。
最初は左手に違和感を覚えました。
物がつかみづらいなって。
次第に左手に力が入らなくなり左腕が上がらなくなり左足が動かなくなりました。
右手は今もまだ少し動かせますが腕はあまり上がらず右足も動かせず歩くことも立つこともできません。
いつか物をのみ込んだり呼吸をすることもできなくなります。
呼吸ができなくなったら死んでしまうので人工呼吸器という呼吸を補助する機械が必要になります。
人工呼吸器を着けたらしゃべれなくなります。
しゃべれなくても顔や体のどこか一部でも筋肉を動かすことができればセンサーでパソコンを打つことができ自分の気持ちを伝えることができます。
どこも筋肉を動かせなくなったら自分の意思を伝えられないかもしれません。
それで生きている実感を持てるのか分かりません。
人工呼吸器は一度着けたら外すことはできないのです。
僕はこの病気になって何度も覚悟をしてきました。
病気を周りの人に話そうと決めたとき。
病気を受け入れて今を生きようと決めたとき。
左腕がまったく使えなくなったとき。
歩けなくなったとき。
仕事ができなくなったとき。
僕はたくさんのものを病気に奪われてきました。
奪われていくことに目を向けても怖いばかりで…。
今できることに目を向けるしかありませんでした。
目標を見つけては失うことの繰り返しです。
今は大学の医学部に入学するのが目標です。
合格するのに何年かかるか分からないしいつまで目指せるのかも分かりませんが僕が今医学部に入学したいという気持ちだけは病気には奪えません。
この先全ての目標を奪われたとしても僕が目標に向かって生きたという事実も奪われないのです。
それに病気から与えられたのは苦しみや絶望だけじゃありません。
僕は人の温かさを知りました。
家族と真正面から向き合えたりわがままを言えるようになりました。
愛情を信じられるようになりました。
自分のことがちょっと好きになりました。
自分が持っている幸せにも気付かせてくれました。
こうやってしゃべれること。
歩けること。
走れること。
食べられること。
笑えること。
触れ合えること。
風を感じること。
太陽の光に包まれること。
今生きていること。
この世に生まれてきたこと。
僕は今新たな覚悟をしなければならなくなりました。
人工呼吸器を着けるか着けないか。
死ぬのも怖いし生きるのも怖い。
死ぬ覚悟も生きる覚悟も簡単にはできません。
周りの人は僕がただ生きてくれさえいればそれでいいと言います。
家族や大切な人のためだけに生き続けることができるんだろうか。
自分の意思を伝えられないかもしれない状態で生き続けることができるんだろうか。
それはまったく分かりません。
ただ一つ分かっていることは…。
僕がどんな状態になっても僕が愛とぬくもりに包まれているということです。
家族。
友人。
先輩。
主治医の先生。
病院のスタッフの皆さん。
介護スタッフの皆さん。
そして…。
いつも僕の隣にいてくれる彼女。
僕は愛とぬくもりだけで生き続けることができるんだろうか。
それだけで僕は自分が生きている意味を感じることができるんだろうか。
僕は何もできないどころか生きているだけで手が掛かります。
排せつ入浴食事たんの吸引。
それでも生きていていいんだろうか。
そのことをずっと考えてきました。
僕が生きているだけで周りの人たちが生きがいを感じてくれるんじゃないか。
僕が生きてるだけで生きる意味を社会に問い掛け続けることができるんじゃないか。
じゃあ生きているだけの状態で僕が僕であり続けるにはどうしたらいいんだろうか。
そうなったときに僕を支えてくれるのはそれまで生きた時間…。
僕のいた時間なんじゃないか。
僕は覚悟を決めました。
生きる覚悟です。
いつかそのときが来たときのために今を全力で生きていきたいと思います。
今日はこのような場を与えていただき心から感謝しています。
皆さんにお会いし…。
新しい目標を見つけることができました。
これからも今日のように自分の思いを伝えていけたらなって思います。
今日はどうもありがとうございました。
拓人!よかったわ。
母さん恥ずかしいよ。
(昭夫)拓人は私たち家族の誇りだ。
人工呼吸器を着けることにしました。
はい。
よろしくお願いします。
これから先ALSとの付き合いはとても長くなります。
まあALSのことを敵だと思わないでください。
自分の一部だと思って一緒に生きていきましょう。
はい。
はい。
(谷本)キーを打つと…。
「こ」
(谷本)その文字が音声で発せられます。
「え」
(谷本)あらかじめご自身の声を録音しておくと澤田さんの声で発せられることになります。
そして…。
「め」「ぐ」
(谷本)よく使う言葉は単語や文章で録音することもできます。
どうぞ。
「あ」「い」先生これって…。
先生?春ですね。
ありがとう。

(宮下)今日の勉強会には元社員の澤田さんにアドバイザーとして来ていただいています。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
おいしい。
育つかな〜?大きくなるかな〜?どうかな?メグ。
んっ?また海に行きたいな。
行こうよ。
瓶を埋めない?あの瓶?うん。
新しいメッセージ書こう。
うん。
また3年後の自分に?今度は俺は3年後のメグに。
《私は3年後の拓人に?》《うん》絶対メグには内緒だからな。
分かってるって。
いくよ。
うん。
(拓人・恵)せ〜の。
12345678910。
ぴったり。
でしょ?できた。
いくよ。
うん。
いい?いいよ。
目の不自由な方に食事を出すときは置き場所を説明してあげましょう。
「3時の所にご飯があります」という感じに。
ただいま。
「おかえりメグ」陸人君今日大学の子とご飯食べに行くって言ってたじゃない?な〜んか相手女の子みたい。
「マジで?」さっきメール来た。
「兄さんとメグさんは大学の時割り勘だった?」「ハハハハ」今週の講演会着いたらすぐに1時間ぐらい打ち合わせしたいって言ってるんだけどいいよね?ていうかもう「いい」って言っちゃったんだけど。
「やだ」えっ?「いい」って答えちゃった。
どうしよう。
えっじゃあ断ろうかな。
「嘘」何だ。
もうびっくりした。
じゃあ1時間ぐらい打ち合わせあるから忘れないでね。
あった。
見て。
あっ私のだ。
「拓人へ」「私のとなりにいてくれてありがとう」「恵より」一緒だ。

奮ってご応募ください
2014/03/19(水) 22:00〜22:54
関西テレビ1
[終]僕のいた時間 #11[字]

「命の選択」
三浦春馬 多部未華子 斎藤工 浅田美代子 原田美枝子ほか

詳細情報
番組内容
 死にたいわけじゃない、生きるのが怖いんだ・・・。
 突然姿を消した拓人(三浦春馬)は、降りしきる雨の中、車椅子ごと転倒し病院に収容される。病院へかけつける恵(多部未華子)、守(風間俊介)、弟の陸人(野村周平)、母の佐和子(原田美枝子)、父の昭夫(小市慢太郎)。「今は、拓人さんが周りの人たちと一緒に生きている幸せを実感できるよう、1日、1日を積み重ねていくことに専念しましょう」と、
番組内容2
主治医の谷本(吹越満)は、恵たちにそう伝える・・・。
 生きる意味とは?自分が自分であり続けるためには?
 恋人、友人、家族・・・大切な人たちの思いの中で、拓人が見つけた答えとは・・・。
出演者
三浦春馬 
多部未華子 

斎藤工 
風間俊介 
山本美月 
野村周平 
浜辺美波 

吹越満 
小市慢太郎 

浅田美代子 
原田美枝子 


スタッフ
【脚本】
橋部敦子(『僕の生きる道』『フリーター、家を買う。』他) 

【プロデュース】
橋本芙美(『フリーター、家を買う。』『マルモのおきて』他) 
江森浩子(『ストロベリーナイト』『遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜』他) 
元村次宏(『世にも奇妙な物語』他) 

【編成企画】
中野利幸(『私が恋愛できない理由』『ラスト・シンデレラ』他)
スタッフ2
【演出】
葉山裕記(『ラストホープ』『スイッチガール!!』他) 
城宝秀則(『リーガルハイ』『dinner』他) 

【音楽】
出羽良彰 
やまだ豊 

【主題歌】
Rihwa 

【応援ソング】
ゆず 

【制作】
フジテレビ 

【制作著作】
共同テレビ

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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