(岩田千吉)うわーっ!
(近藤恭一)千吉さん!千吉さん!千吉さん!
(恭一)千吉さーん!千吉さん!千吉さーん!千吉さーん!
(恭一)千吉さーん!
(丸山環)ここから落ちたんですね。
(右近誠)これじゃ助からないだろうね。
乗車していた金原記念病院の理事長金原寿一とその妻洋子。
そして運転手の小宮和雄。
3人とも即死ですよね。
(高木刑事)はい。
(ブレーキ音)
(ブレーキ音)調書にはブレーキの跡はなかったと書いてありましたね?はい。
当日車は急ブレーキを踏まずにこのカーブに突っ込んできてしまったようです。
ということは車に何らかのトラブルがあったのかもしれない…。
いや。
車は車検から戻って来たばかりでしたからそういうことは…。
で車を処分してしまった?はい。
運転手の不注意によるミスということで。
もちろん金原家の遺族も納得しています。
そうですか…。
それではあの日本来なら院長の彬さんあなたも奥様とご一緒に老人ホームにいらっしゃる予定だったんですか?
(金原彬)そうです。
あのホームはうちが経営している老人ホームで月に1回は4人で訪問して職員やお年寄りと昼食を食べるのが定例なんです。
理事長夫妻である私の両親と院長の私と妻とで。
それがなぜ?はい。
全く医者の不養生でお恥ずかしいんですが生憎あの日は私も妻も風邪をひいていまして。
それでも私は両親と一緒にホームへ行くつもりで出勤していました。
しかし病院を出る頃になると咳が激しくなってきて…。
それでやむなく行くのをとりやめたんです。
(環)奥様は初めからご自宅に?はい。
(金原保)ほらホームにいるのは老人ばかりでしょ。
体力の衰えた老人たちに風邪が移ると厄介なんですよ。
肺炎にでもなったりしたらもう簡単に死んじゃいますからね。
そりゃそうでしょうね。
でもよかったです。
せめて兄貴夫婦だけでも生き残ってくれて。
ところで事故を起こした車のことなんですがなぜあんなに早く処分してしまわれたんですか?検事ですからそれは…。
車検から戻って来たばかりだったということはわかっていますが。
実は事故後運転手の小宮さんが以前から弟の保に体調不良を訴えていたことがわかったんです。
ええそうなんです。
元警察官の小宮さんは退職後運転手としてうちの採用になり実によく働いてくれました。
(彬)律儀で真面目な性格でしたから私や理事長には弱音を吐きにくかったのかもしれません。
しかしその小宮さんを私は引き留めてしまったんです。
もう少し頑張ってくださいと。
ですからこの事故の原因は私たちにもあったのではないかと。
だから今さら車を調べたり小宮さんを責めたりせずに早くこの事故のことは忘れようと兄貴と話し合ったんです。
では小宮さんを提訴なさらないおつもりですか?
(彬)はい。
今さら死者を鞭打つようなことをしても両親は生き返りませんから。
(ノック)
(金原清美)失礼致します。
あ…ごめんなさい。
お客様だったんですね。
申し訳ありませんでした。
紹介するよ。
家内の清美です。
事故のことでいらした検事さんだ。
あ…お世話になります。
(保)あ清美さんそれまた兄貴の昼飯ですか?ええ。
いいよなぁ〜兄貴は毎日愛妻弁当で。
しかも出来たてのホッカホカが届くんですよ検事さん。
同じ兄弟でありながら不公平だと思いませんか?保何バカなこと言ってるんだ検事さんの前で。
いやいや…私も十分に羨ましいですよ。
では。
高木さん。
はい。
小宮さんが退職前に在籍していた警察署どこだかわかりますか?八王子西署だと聞いてますけど。
じゃ明日そこへ行きましょう。
それと小宮さんの病歴も調べてみましょう。
ええっ!?なぜですか?遺族は小宮さんを提訴しないと言ってるんですよ。
今さら何を調べるんです?単なる事故なんですよこれは。
高木さん単なる事故か事件か…最後に私が判断します。
ええっ!?それが私の仕事ですから。
それにはもう少し情報を集めないと。
ぜひ警察の協力をお願いします。
はっ。
(業者)岩田さん宅配便だよ。
(岩田美幸)はーい。
すいませんどうも。
どうもありがとうございます。
「岩田良江様」…。
お母さんにだよ。
「東京都立川市KKモータース」…?何だろう一体…?何これ…!?遺骨…!?「岩田千吉」…。
お父さん…!?死んだんだあの人…。
でも…何で遺骨が宅配便で届くのよ!?
(右近・環)ただいま。
(山本静香)おかえりなさい。
どうでした先輩警察での小宮さんの評判?それがすごくいいの。
交通課の警官の鑑みたいな人であの人が事故を起こすなんて考えられないって。
ということはやっぱり病気のせいだったんですかね?いや。
それがたいした病歴もないんだ。
もし急激に体調が悪くなったとしたら全く病院へ行かなかったというのもちょっと不自然な気がするしね。
そうですよね。
勤務先が病院なんですもんね。
これ君が…?あそうなんですよ。
調べていた金原家の人間関係を書いてみたんです。
写真も付けて。
この方がわかりやすいかなぁと思って。
じゃ説明してもらおうか。
はい。
亡くなった金原記念病院の理事長夫婦には子供が2人います。
院長で精神科医の長男の彬さんと外科部長で次男の保さん。
でもこの2人本当は実の兄弟じゃないんです。
(環)ええっ!?そうなの?はい。
彬さんは理事長夫婦の子供ですが次男の保さんは理事長が愛人との間に作った子供だそうです。
(環)でも2人の仲は悪そうに見えなかったけど。
ええ兄弟仲は悪くないんです。
ただ理事長の奥さんと保さんとの仲は…。
そりゃそうでしょ!亭主の愛人の子供だもの。
それが…それだけの理由じゃないんです。
彬さんって車椅子ですよね。
うんそうだけど…。
(静香)そうなる原因を作ったのが保さんなんですよ。
(環)どういうこと?昔免許を取りたての保さんがお兄さんを乗せてドライブをして事故を起こしたんです。
(ブレーキ音)
(衝突音)兄さん!
(静香)保さんは軽いケガで済んだんですけど運の悪いことに車から放り出されて腰を打った彬さんは下半身不随になってしまったそうです。
それ以来理事長との関係も悪くなってしまったそうですよ。
なるほどね。
それで車椅子か…。
でも今彬さんは幸せよ。
この清美さんていう献身的な奥さんのおかげで。
えーっ!何よ?だってこの奥さん怪しくありませんか?結婚したの7年前ですよ。
そんな女盛りにいくら金持ちとはいえ夫婦生活だって…。
山本さん!…すいません。
実は清美さんは元保険外交員で彬さんとは再婚です。
元保険外交員?
(静香)そうです。
理事長夫婦が死んだことで病院には多額の経営者保険っていうのが入るんですって。
じゃ何?その保険を外交員だった清美さんが勧誘したっていうの?
(静香)さあそれはわかりませんけど…。
保険のことは調べてみる必要があるね。
(平田龍吉)悪いな。
ちょっと先に行っててくれ。
警察に用事ですか?どうぞお入りください。
中には婦人警官もいますよ。
どうぞ。
どうしたんですか?私でよければお話伺いますよ。
これは…?骨壷です。
多分私の父親の…。
多分…?
(レポーター)理事長夫妻の車での事故死は当初お抱え運転手による単純な運転ミスとみられておりましたがここへきて事件の可能性を指摘する声が挙がってきました。
金原院長は私たちのインタビューに応じようとはしません。
(取材陣の声)
(保)兄さん。
保…これ見ろよ!
(彬)とにかく警察に連絡して1日も早く処理するように言ってくれよ。
署長と親しいっていうから警察への対応をお前に頼んだんだ。
このままじゃ…。
このままじゃ…?清美だってあらぬ疑いを持たれかねないだろ!これが全部金原記念病院の保険ですか?
(所長)そうです。
経営者に万が一のことがあった時に病院に入るようになっていた経営者保険が5億。
それと理事長ご夫妻が個人で入られていたものがトータルで約1億7千万です。
じゃ6億7千万の金が実質的に後継者の彬さんに入るわけですか?そうです。
ここに書かれている「取扱担当者田辺清美」というのは…。
はい…金原清美さんの旧姓です。
やっぱり…。
どうもお忙しいところ勝手言いましてすいませんでした。
(田辺弘代)どうも。
ありがとうございました。
(環)あれ…?検事。
右近さん…丸山さんも!ああ最近マスコミが騒いでいるあれですか?ええ。
平田さんはどうしてみやこ生命の方と?いやいや…私の方は事件なんかじゃないんです。
言ってみれば人助けみたいなものなんです。
実は私先日立川西署の方に異動になりましてね。
3日前にその署の前に岩田美幸さんという若い女の子が骨壷を持って立ってたんですよ。
骨壷?ええ。
秋田の自宅に突然送られてきたっていうんです。
しかも10年間音信不通だったお父さんの遺骨が。
それも宅配便で!遺骨が突然宅配便で!?ええ遺骨宅配便。
いや〜何ともすごい世の中ですよ。
そうですね。
美幸さんのお父さんの岩田千吉さんは尾去沢の鉱山で働いてたそうなんですが閉山になって20年程前から東京に出稼ぎに来てたそうなんです。
しかしここ10年パッタリと連絡が途絶えて…。
そんな状況の中でお母さんは亡くなってしまったんですが何と遺骨宅配便はその葬儀の日に届いたんだそうです。
ひどい話ですね。
全くです。
で美幸さんは伝票に書かれてあった立川市内の住所を頼りに送り主に会おうと一人で上京してきたんだそうです。
でわかったんですか送り主は?ええそれはすぐわかりました。
ああ…中どうぞ。
千吉さんは立川市内にあるKKモータースという車の修理工場に住み込んでいたんですが…。
うわーっ!千吉さーん!ひと月程前社長と釣りに出かけた秋川渓谷で足を滑らせて水死していました。
じゃ宅配便はその社長が送ったんですか?それがそうじゃなかったんですよ。
(恭一)刑事さん。
これ俺の字じゃないっすよ。
えーっ!?じゃ誰?その宅配便保険屋のおばちゃんに頼んじゃったんですよ。
みやこ生命の。
保険屋さんに!?だって社長のところの従業員の遺骨でしょ!荷造りして置いといたら丁度保険屋のおばちゃんが来たんでつい…。
でも今は反省してます。
本当ですよ刑事さん。
社長によると千吉さんは長い間不義理にしてるんで今さら家族のいる故郷に帰ることは出来ないと常々言ってたそうなんですよ。
それで社長は自分で葬式も出したそうなんですが…。
しかし遺骨まで自分が持ってるっていう訳にもいかないんでどうしようかと迷ってるところへ丁度いつも懇意にしてる保険屋のおばちゃんが来たんで…。
頼んだんですか?ええ。
なるほど。
それで今日はその辺りの事情を確かめに来たんですね。
はい。
私がさっき会ってたのがその保険屋のおばちゃんなんですが確かに宅配便を送ってました。
ただ他にも私その人に訊きたいことがあったもんですからね。
実は…これなんです。
遺骨が届くひと月程前に千吉さんから奥さん宛にこの手紙が届いてるんです。
「前略良江様。
元気でやっていますか?」「私は今とても優しい人に雇ってもらって何とかやっています」
(千吉)「長い間連絡もせず本当に申し訳ない」「その詫びにもなりませんが私にもしものことがあったら保険金が出ることになっています」「わずかですが美幸と2人で使ってください」「ダメな父さんのせめてもの気持ちです」「でもいつか必ず秋田に帰ります。
それまで美幸をよろしく」「それではお体に気を付けて。
千吉」でこの手紙をお母さんは…。
知りません。
亡くなる1か月から母はもう意識がありませんでしたし…。
もしあったとしても私見せていたかどうか…。
どうしてですか?だってこの人私たちを見捨てた人なんですよ!10年も連絡を絶って。
その間私たち親子がどんな思いをしてきたか…。
今さらこんな手紙をもらったって…。
じゃなぜ私に今この手紙を見せるんです?ここに書いてる保険金のことが気になったからですか?違います!私決してお金が欲しくて言ってるんじゃありません。
ただ真実が知りたいんです。
この遺骨が本当にお父さんなのか…。
そしてこの人が本当に私たちのためにお金を残そうとしてくれていたのか…。
ただそれが知りたいだけなんです。
それで千吉さん本当に保険に入っていたんですか?いえいえ。
そんな余裕はとても。
ただ社長が言うには会社で入ってる法人保険のことを勝手に勘違いしたんじゃないだろうかって…。
(環)法人保険というのは従業員に万一のことがあった時のために会社が一括で従業員に掛けている保険のことですよね?そうです。
その保険金はどこに入ったんですか?すでに会社に入ってます。
でも検事そういう保険は普通退職金代わりに遺族に支払われるものではないんですか?確かにその保険は従業員が死亡したり高度障害になった場合に死亡退職金や見舞金として支払われる場合が多いがまあ約款上は企業も受け取れることになってるからね。
ということは絶対遺族に入ると決まっているものではないということですね?ああ…。
ただ千吉さんには保険の説明不足だったのかもしれないって保険屋のおばちゃんの田辺さんは恐縮してました。
田辺!?その保険外交員の名前田辺って言うんですか?ええ田辺弘代です。
それがどうかしましたか?
(環)検事清美さんとの関係一応調べましょうか?ただ同姓なだけかもしれませんけど…。
清美さんって?あの…今疑惑が取り沙汰されてる金原清美ですか?ええ。
金原清美さんの旧姓は田辺清美なんです。
(環)もしかすると2人は親子なんてことあるかもしれません。
保険会社って結構親子で働いている人が多い職場ですから。
検事私ちょっとみやこ生命に戻って調べてきます。
検事この2つの事故に何か関係があるんですかね?いやそれはまだ…。
しかしもし2人に何か関係があるとすれば両方の事故に保険が絡んでいるというのはちょっと気になりますがね…。
ええ。
それともう1つ引っかかってることがあるんですよ。
何でしょう?この手紙本当に千吉さんが書いたんでしょうか?はい。
美幸さんはこの封筒の字を見たとたんちょっとクセがあってお父さんのだってすぐわかったそうです。
そうですか…。
この数字もそうでしょうか?え?この数字は違う人が書いたように見えるんですが…。
それに手紙の内容です。
私にはどうも遺書のように聞こえるんですが…。
いや…それは私も。
でもそれもないでしょう。
「最後には必ず秋田に帰る」と書いてありますし本当に千吉さんあの日川に落ちての水死ですから。
うん…。
検事まさか千吉さんの死に疑問が…?
(携帯電話)はい…。
検事やっぱり親子でした。
弘代さんと清美さん。
私ここでもう少し2人のこと調べてみます。
うん。
田辺弘代さんと金原清美さんは親子でした。
親子…。
わかりました。
私これ早速署に戻って鑑識に回してみます。
私も何だかこの事故のことが気になってきましたよ。
検事ありがとうございました。
警察官として私この件を非常に甘く見てたような気がします。
ちょっと人助けのつもりって…。
しかし検事さんがいつもおっしゃってるようにちょっと変だなと思ったら素直な気持ちで調べてみる。
それを忘れておりました。
はっはっはっ…。
平田さんまたお互い力を合わせることが出来るかもしれませんね。
頑張りましょう!はいよろしく!保険金か…。
(鑑識官)違いますね。
えーっ違う!?
(鑑識官)ええ。
番地の中にある数字で比較すると違いがよくわかります。
非常に似ていますが筆圧や形が微妙に違います。
郵便番号は違う人が書いたとみるべきですね。
やっぱり右近検事が言ってたとおりか…。
それと切手の端に微量ですがカレー粉が付いてますね。
カレー粉ですか!?ええ。
このめくれてる所に。
(鑑識官)カレーでも作りながら切手貼ったんですかね?千吉さんがカレーを作って食ってたかって?いやそれはないっすよ。
ここには見てのとおり調理器具なんか揃ってないし。
千吉さんはよくホカ弁買って食ってましたよ。
まあたまには外食もしてたけど。
外食?どこですか?どんな店でしょう?さあ…。
あでも田舎の食い物が食える店が近くにあるって喜んで言っていたことがあったかな。
田舎って秋田だよね?…ですね。
(従業員)社長電話です。
はい。
すいません。
いやいや。
ありがとう。
秋田料理か…。
えーっ!?田辺弘代って…。
私の母のことまで何で調べてるんですか!?亡くなった金原の両親の事故と何か関係があるんでしょうか?いや直接関係はありません。
ただあなたがみやこ生命へ入られたのはお母様が働いていらしたからかと思いましてね。
そうです。
車の修理工場を経営している高原さんという方と離婚なすってからですよね?営業所で伺いました。
高原さんは離婚後もあなたのことを心配して保険にも入ってくださったとか…。
そんなことまで…。
失礼ですが離婚の原因について伺ってもよろしいですか?そんな優しい方となぜうまくいかなくなったのかなと思いましてね。
あなたのことも悪く言う方はいませんし…。
恐ろしい…。
何でもよくお調べになっているんですね。
確かに高原さんはとてもいい方でしたけど私はそんな…。
第一今度のことだって真っ先に疑いを持たれるような人間なんです。
検事さんだって本当は私のこと疑ってらっしゃるでしょ?離婚の原因は全て私のわがままです。
まだ若かったですから…。
でももう一度やり直そうと思って私彬さんと再婚したんです。
確かにきっかけは保険のセールスでした。
金原記念病院は私の担当でしたから。
でも私おかしな方法で保険を売ったりしたことなんか一度もありません!マスコミに何て言われようとそれだけは真実なんです!ではあの事故の日風邪をひいてらして老人ホームへは行かなかったというのも本当ですか?もちろん本当です!何でしたらお手伝いの者にお訊きになったらいかがですか?ここへ呼んできましょうか?どうもすいませんでした。
あーあここもダメか…全滅だな。
おーここも食堂か。
カレーでも食うか…。
「秋田のおふくろの味」…!?
(女将)いらっしゃい。
えーっ死んだんですか千吉さん!?どうして…?やっと仕事が見つかったって喜んでいたのに…。
やっとですか?ええ。
ほらこんな時代でしょ。
千吉さん長い間仕事にあぶれてて。
でもやっと…。
それで最近またこの店に来てくれるようになったんです。
この前来た時はあのテーブルで家族にラブレター書いていたのに何で…?ラブレター?ええ。
もしかして…この手紙じゃありませんかね?ああんだ。
この手紙です。
これ私が出したんです。
何書いているの?ラブレター?ま一種のラブレターだな。
田舎の家族にせめてもの俺の気持ち。
これまで何もしてやれなかったから。
ふ〜ん…。
そりゃ喜ぶわ。
あ…あれ?郵便番号書かねばダメだわ。
いいよいいよ。
私が調べて書いといてやる。
それで切手も貼って出しといてあげっから!すまねぇなあ!はっはっはっ…。
心優しき秋田おばこのサービスサービス!はっはっはっ…。
(女将)でもいかったなぁ。
いい人に雇われて。
(千吉)ああ。
それで刑事さん千吉さん何で死んだんですか?病気?釣りに行って川に落ちての水死です。
釣り!?ええ。
千吉さん釣りなんかしてたべか?…え?ラブレター…?そう千吉さんが言ったんですね?「家族へのせめてもの気持ち」…。
やはり千吉さんは自分が死ねば家族に保険金が入ると思い込んでいたようです。
しかし…何となくおかしくないですか?は?いえね何だかその手紙は近い将来保険金が入ることを前提として書かれているような気がするんです。
そのラブレターって言い方が妙に気になるんですよ。
まあそう言われれば…。
現に千吉さんはすぐに亡くなってますしね。
しかしあれは水死ですよ。
もしかして検事…。
ええ。
確かに千吉さんは水死だった。
しかし水死に見せかけての自殺だったということはあり得ないでしょうか?まさか…。
加入してのすぐの自殺では保険金は下りない。
だからしたこともない釣りに行って事故を装った。
そうは考えられませんか?そんな…。
いやもし検事の推理が当たってるとしたらあの保険屋のおばちゃんとんでもない人に保険を売ったことになりますよ。
…わかりました。
もう一度彼女を呼び出して問いただしてみます。
千吉さんに保険のことどんなふうに説明したのか。
でも弘代さん程営業所の中でみんなに信頼されている人いませんよ。
成績はいつもトップなのに腰の低い優しい人だって。
いやいや。
そういう人だからこそもしそうだとしたらなおさら許せないんだよ。
会社は彼女のことを信頼してる。
彼女が取ってきた契約はハナからおかしいなんて思わないんだ。
契約してすぐに加入者が死んだとしても疑いもしないんだ。
とにかく徹底的に彼女を追求してみますよ。
じゃ失礼します。
(パトカーのサイレン)
(所長)ああどうも。
立川西署の平田です。
いや〜無欠勤の人が今朝来てなかったもので…。
何てことだ…。
(弘代)「平田刑事様。
私は平田刑事のおっしゃるとおり保険のプロとして失格でした。
私の説明不足のために千吉さんが大事な命を絶ってしまったのだとしたら私も死んでお詫びをするしかありません」「みやこ生命の皆さん大変申し訳ありませんでした」「KKモータースの近藤社長にもご迷惑をおかけしました」「全て私の責任です。
田辺弘代」参りましたよ。
まさか自殺するなんて…。
そうですね。
平田さんこれで弘代さんは千吉さんの自殺の可能性を認めたってことにはなりますね。
事故が起こる3か月前その月の営業成績が足りないんで顧客の一人だった近藤社長に弘代さんは会社で保険に入ってもらえないかと泣きついたそうなんです。
そしてやっと契約にこぎつけた時被保険者の一人だった千吉さんがしつこく弘代さんに説明を求めたんだそうです。
ちょっと待ってけれ!その保険もし俺が死んだら必ず家族に金渡るんだよな?なぜ?なぜって…あんたさっきそう言ったべ?違うのか!?違うんだったら俺こんなもん…。
…やめて千吉さん!これは社長がちゃんとやってくれるから。
掛け金だって会社が払ってくれるんだし家族のためにも入っている方がいいんだから。
ちょっと待ってけれ!そのしつこさは尋常ではなくて弘代さんは正確な保険の説明もせずにとっさにそうだと嘘を付いてしまったそうなんです。
本当だな!?…ええ。
確かに私あの時は自分の成績のことで頭の中がいっぱいでした。
でも千吉さんがその保険金目当てに自殺するなんてそんなこと私思っても…。
しかし家族に宛てた最後の手紙を読む限りあなたが千吉さんの背中を押してしまったことは事実じゃないんですか?自分が死ぬことで家族にお金が残ると信じた老人の背中を!違いますか!?…すいません。
(嗚咽)そのことを気に病んで自殺を…。
はい。
しかしそんなことでベテランの保険外交員が自殺をするでしょうか?は?私はどうも彼女の自殺の動機が弱いような気がするんですよ。
何かもっと大きな理由があるんじゃないかな?自殺をしなければならない他の理由が…。
そうでしょうか?しかしいずれにしても虚しいですね。
保険を売った人間と加入した人間。
同じ保険に関わった2人とも亡くなってしまったんですから。
生命保険って一体何なんでしょうか?そうですね…。
でも平田さんが調べたおかげで千吉さんの思いだけは娘さんに届けることが出来るんじゃないですか。
せめてそれだけでも。
はあそう言っていただければ…。
検事大変なことがわかりました。
あ平田さん…。
(静香)私たち検事に言われて今高原さんに会ってきたんです。
高原さん?金原清美さんの前の旦那です。
調布で車の修理工場を経営してるんです。
20年前高原さんはそこに修理工として就職してきた清美さんを見初めて4年後に結婚したんです。
初めは車の修理工だったのか…院長の奥さん。
はい。
手に職を付けたいと志願してきたそうです。
そしてやがてそこに田舎から出てきた彼女の弟も就職します。
弟がいたのか清美さんには。
はい。
しかし弟は子供の時に養子に出されていたので田辺という苗字ではありません。
ちょっと待てよ。
ってことはその弟も自殺した弘代さんの子供なんだよね?
(環)そうです。
その弟の名前は?近藤恭一。
(右近・平田)えっ!?KKモータースの社長ですよ!私たちももうびっくりしましたよ。
その名前が高原さんの口から出た時には!説明します。
ああお願いします。
(環)秋田の田沢湖町に住んでいた弘代さんには…夫の近藤正一さんとの間に…2人の子供清美さんと恭一さんがいました。
しかし近藤正一さんは早くに亡くなり弘代さんは…森下昭雄という男と再婚します。
その後恭一だけは亡くなった父方の祖父母の家に養子に入ったために近藤の姓に戻りました。
そしてその後弘代さんは森下昭雄と離婚して旧姓の田辺に戻り娘の清美さんを連れて東京に出てきたんです。
そして弟の恭一も姉を頼って東京に出てきた…。
ちょっと待てよ?じゃあの遺書は何だ?「KKモータースの近藤社長にご迷惑をおかけして…」って。
一体どういうことだ?なぜ彼女は…この弘代さんは近藤恭一が自分の息子だということを隠さなきゃならないんだ!?検事これは保険会社の人間さえ知らないことですよ!…いや親子だけじゃない。
姉弟いうことも隠してるんだ!平田さんもしかしたら千吉さんの死は事故でも自殺でもないのかもしれませんね?確かに千吉さんは自殺してでも家族に金を残そうとしたのかもしれません。
しかし千吉さんの手紙には「必ず秋田へ帰ります」とありましたね?事故でも自殺でもないとしたら千吉さんは恭一と弘代の親子に殺された…。
つまり2人はグルになって保険金を!くそーっ何てことだ!でも2人が共謀をしていたとしたらなぜ弘代さんは自殺をしたんでしょうね?平田さん明日一緒に秋田へ行きましょう。
血の繋がった親子3人が東京でなぜ他人のように暮らしていたのか…。
その秘密がわかれば手掛かりが掴めるかもしれません。
(元山澄子)はい。
弘代さんとは本当に親しくしていました。
娘の喜久代が清美さんと同級生で仲良しでしたから。
でも懐かしいねぇ〜。
弘代さん東京で今何してるんですか?保険の外交です。
今はセールスレディーと言うそうですが。
保険…?あんなに保険を憎んでいたのに…?それどういう意味ですか?あいえ…。
元山さん最初にお伝えすべきだったんですが田辺弘代さんは先日自殺しました。
えーっなぜですか!?その訳を調べたいと思って私たちもここまで来たんです。
元山さん弘代さんはどうして保険を憎んでたんでしょう?それは…保険金のために人生を大きく狂わされてしまったからです。
(澄子)役所勤めだったご主人の正一さんが交通事故で亡くなった時弘代さんに保険金が入ってきたんです。
(澄子)当時としては結構大きな額の金が。
その金目当てに弘代さんに近づいてきたのが建具職人の森下さんでした。
森下昭雄…弘代さんの再婚相手ですね?ええ。
森下さんはひどい人で…。
いえ…もちろん初めはそんなことわかりませんでした。
外面のとてもいい人で…。
でも森下さんのせいで結局恭一君もあんな目に遭ってしまって…。
あんな目って一体?すいません。
私の口からはちょっと…。
元山さん親しかった人の秘密を話したくないお気持ちはよくわかります。
しかしこれは私たちの捜査にとってとても重要なことなんです。
ぜひご協力をお願いします。
お願いします。
お願いします。
正一さんの保険金をほとんど使ってしまった森下さんはまた保険金で金を手に入れようとしたんです。
そりゃあひどいやり方で…。
(恭一)やだ…やだ!やだ…やだ!
(森下昭雄)待てコラ!
(恭一の悲鳴)…やだ!森下さんは恭一君の足の指と引き換えに障害の給付金を手に入れたんです。
ある時弘代さんが泣きながら私に打ち明けてくれました。
ああそれで…。
しかしそんなひどい目に遭った息子さんを彼女はなぜ養子に出したんでしょうかね?それは恭一君のためです。
恭一君は森下さんにずーっと虐待されていたんです。
そのとどめがあの事件でした。
弘代さんは一刻も早く恭一君を家から出さなければいけないと思っていたんです。
丁度その頃亡くなった正一さんのご両親が彼を養子に欲しいと言ってきたんです。
それで彼を守るために養子に…。
そうです。
誰が好き好んで自分の腹痛めた子供を養子に出しますか!?それしかあの子を救う道はなかったんです。
そうですか…。
で恭一君が養子に行ったというおじいちゃんとおばあちゃんの家はどこですかね?ここから車で1時間ぐらい行った所にある農家です。
おじいちゃんもおばあちゃんも随分前に亡くなりましたけど確か…弟さんがまだいらっしゃると思います。
森下から虐待を受けていたのは弟の恭一君だけですか?姉の清美さんは?さあ…。
清美ちゃんのことは逆に可愛がっていたように思いましたけど。
それはめんこい女の子で…。
ああ…でも清美ちゃんのことは娘の喜久代に訊いてください。
上京した後もしばらくは文通なんかしていたみたいですから。
娘さんは今どこに?角館の花葉館というホテルに嫁いでいます。
(近藤三郎)あの親子のことだばなーんも話したくねぇ!
(三郎)帰ってくれ!亡くなられたお兄さんご夫婦は養子に迎えた孫の恭一さんをあまり可愛がってはいなかったんですか?はんじめはそりゃ可愛がってたさ。
死んだ正一によく似てるっぺ。
だから養子にしたんだ。
んだども恭一は初めから全然なつかなくて…。
んでも美代子さんは恭一のことが可愛かったんだなぁきっと。
美代子さんというのは?恭一のばあさんだよ。
養子にしたから戸籍上は母親ってことになってるどもよ。
はあそうかそうか…。
死んだ後で恭一を受取人にした保険が出てきて…。
そのゼニこで恭一は東京に修理工場が持てたんだわ。
そのゼニこがねぇばなんぼしたって…。
立ち入ったことを伺いますがそれがどこの保険会社だったか覚えてますか?さあ…どこだったっけ?だども今でも俺ぁおかしいと思うんだよな。
何がですか?年とってけば保険の掛け金が高くなるから俺みてぇな貧乏な百姓にはとても払えないだわ。
だから義姉はよくあの子さそんな保険金残せたと思ってよ。
(三郎)あ!思い出した。
保険会社だ!みやこだ。
みやこ生命。
間違いありませんね?あーんだんだ。
間違いねぇ!だけどびっくりしましたよね。
あのおじさんの口からもみやこ生命の名前が出てくるなんて…。
もしかして恭一って男保険金を狙った殺人魔なんじゃないですか?静香君そういうことを軽率に言うもんじゃないよ。
すいません。
しかし保険の良いところも悪いところも彼が若い時に身を持って体験してしまったということは事実ですね?そうですね…。
彼は幼い時義理の父親によって自分の体が「保険」という名の金に変わることを知ってしまった。
彼にとって保険イコール金という感覚になってしまったのかもしれませんね。
(従業員)女将さんお客様です。
(滝本喜久代)えー清美ちゃん今お医者さんの奥さんなんですか?ええ。
よかった。
私清美ちゃんには誰よりも幸せな結婚をしてもらいたかったんです。
なぜですか?え?なぜ誰よりも幸せにって…?なぜって…。
喜久代さん恭一君は自分の過去をずっと根に持ってたというのは本当ですか?本当です。
俺は2度も親に捨てられた子なんだからって。
「2度も」って?1度目は養子に出された時。
2度目は清美ちゃんとお母さんが上京する時に連れて行ってもらえなかったことを言ってるんです。
なるほど…。
でもそれはあの子の誤解なんです。
東京にあの子を連れていけなかったのはおじいさんたちが養子にした彼を離さなかったからなんです。
決して捨ててなんて…。
(静香)でも私彼の気持ちもわかるような気がする。
寂しかったんですよきっと。
…え?だって自分は義理の父親に虐待まで受けて養子に出されたのに2人は勝手に東京に行っちゃうなんて…。
何がわかるんですあんたに!清美ちゃんは東京へ行ってもずっと苦しんでいました。
上京する時恭ちゃんが泣きながら自分たちを追いかけてきた姿を毎晩夢に見てうなされるって…。
だからあの子には大きくなったら何でもしてやるんだって…。
あの子に比べたら自分はって…。
でもそんなことないんです。
清美ちゃんだってそれはひどい目に…。
ひどい目に?…いえ何でもありません。
もしかして清美さんも森下から虐待を受けていたんじゃないんですか?違います!それは違います!それも普通の虐待じゃない。
性的虐待だ。
やめて!やめてください!私見てしまったんです。
清美ちゃんと遊ぼうと家に行った時…。
(喜久代)清美ちゃーん。
清美ちゃーん。
(喜久代)清美ちゃんは泣きながら今までおじさんにされていたことを私に話してくれました。
(喜久代)そして…。
(清美)誰そも言わないでな。
誰そもだで。
誰そも言わないでな。
誰そもだで。
私に何度も何度も…。
だから今まで誰にも私…。
喜久代さんよく話してくださいました。
ありがとうございました。
何て男なんだその森下って奴は!
(パトカーのサイレン)
(パトカーのサイレン)
(携帯電話)ああ丸山君か。
(丸山)「検事大変です!」今奥多摩署から連絡がありました。
金原清美が理事長夫妻を殺した犯人として自首してきたそうです。
何だって!?どうかしたんですか?金原清美が自首したそうだ。
清美が…!?しかしまさか本当に奥さんが犯人とはね。
我々はまんまと奥さんの演技に騙されていたってわけだ。
申し訳ありませんでした。
でも何であの日を狙ったんですか?運転手の小宮さんが車から離れるのはあのホームで昼食をみんなで一緒にとるあの日の30分間だけだったんです。
何せとても真面目な方でしたから。
ですからその間でしたら車に細工が出来ると思ったんです。
(高木)あの日本当はあなたもホームに行くはずでしたよね?はい。
風邪を理由に欠席しました。
嘘を付いたんですか?はい。
嘘を付きました。
しかし夫の彬さんも風邪を理由にホームに行かなかった。
ということはもしかしてあなたたちは夫婦で…?いいえ!夫のことは私の全くの誤算でした。
(高木)じゃああなたは彬さんも当然ホームに行くと思っていた?
(高木)ということは…彬さんも一緒に殺してしまうつもりだったんですか?…当たり前じゃないですか!彬さんが生きていたら保険金は全部彬さんのところに入ってしまうんですよ。
それじゃ意味がありません。
(高木)そんなにお金が欲しかったんですか?はい。
お金のためにあの人と結婚したんですから。
でももう限界でした。
優しい世話女房のふりをするのも。
いい嫁のふりをするのも。
(高木)それで自分の車で時間差でホームに出かけていって車のブレーキに細工をした。
誰にも見られずにまんまと。
…はい。
(家政婦)奥様はあの事故の日は一歩も家から出ていません。
私一日中看病してましたから。
(喜久代)清美ちゃんずっと苦しんでました。
あの子には大きくなったら何でもしてやるんだって…。
何でもしてやる…?
(喜久代)私見てしまったんです。
あーっ!はあ…。
(嗚咽)調書を読ませてもらいましたが昨日警察で言ったことに間違いありませんか?間違いありません。
そうですか…。
(ペンが落ちる音)あなたがやったんですか?…はいそうです。
清美さんあなた方親子はどうしてそうやって嘘を付くんですか?親子!?お母さんの弘代さんはその月のノルマは達成していたのに営業成績が上がらないというので修理工場の社長に無理に頼んで法人保険に加入してもらったと嘘を付いた。
なぜでしょう?お母さんはその社長と親子だということも隠していた。
あなたも姉であることを隠していた。
秋田に行ってきました。
え!?あなたの幼友達にも会ってきました。
あなた方親子3人がこの東京で他人のように生きてこなければならなかった心情は察します。
しかし私は真実が知りたいのです。
全てを話していただけますか?
(所長)どうぞ。
じゃちょっと失礼します。
いやーしかし几帳面な方ですね。
はい。
右近さーん!検事!恭一の養母の美代子さんが恭一を受取人として掛けてた保険の真相がわかりましたよ。
私あの保険の話を聞いてちょっと気になったんで調べてみたんです。
保険の集金取扱者は田辺弘代でした。
ふ〜ん…。
これがその保険の領収書です。
彼女のロッカーの奥に大切にしまってありましたよ。
(静香)「近藤美代子様」…?え?あれ?何で美代子さんの領収書を集金した弘代さんが持ってるんですか?わかりましたよ。
保険料を実際に支払っていたのは養母の美代子さんではなくて母親の弘代さんだったんですよ。
私もそう思います。
そして美代子さんから集金したこととして弘代さんが保管していた。
弘代さんは多分やむを得ず養子に出した恭一に何か出来ることはないかと養母の名義を借りて受取人を恭一にして保険に加入したんです。
そうしておけばいつか必ず恭一に金が渡りますから。
つまり恭一は実の母親のおかげであの工場を持てたんです。
しかし彼はそれを知らない。
(環)すごいですね〜母の愛って。
母の愛…。
私検事と一緒に秋田に行って3人の過去を知るまではこの事件はやっぱり2人の共謀だとばっかり思ってました。
しかし今はとてもそうは思えない…。
あんなつらい過去を背負った弘代さんに千吉さんのような弱い人間を騙せるはずがないんです。
だとしたら恭一に脅されるか頼まれるかしてやったとしか思えない。
彼女はずっと息子の恭一に負い目を感じてたはずですから。
(静香)それも母の愛ですか!?おかしいですよそんなの!何か変だよ…。
平田さん弘代さんの自殺は千吉さんのせいでも平田さんに激しく追及されたからでもありません。
もしかしたら弘代さんは恭一が保険金殺人を企んでいたことを全く知らなかったのかもしれない…。
知っていてそれに荷担するようなそんな人には私には思えない。
だから千吉さんの遺骨を安易に宅配便で送ってしまったりしたんでしょうか?ああ…それが恭一を容疑者として浮かび上がらせる結果になってしまったんだ。
平田さん一緒に来てください。
はい。
ひょっとして千吉さんの事件と金原夫妻の事件この2つは同時に解決するかもしれませんよ。
え?ということはあの車の事故も恭一が犯人ってこと…?丸山君KKモータースに千吉さんの保険金が入金された日をもう一度確認してください。
それと死亡報告書を書いた病院も。
(環)はい。
じゃ行きましょう。
はい。
(高原勇)ええ。
確かにブレーキの細工ぐらいやろうと思えば清美にも出来ると思います。
そうですか…。
でも検事さん…私は今でも清美が保険金目当てに人を殺すなんて信じられないんです。
私の知ってる清美は金にとてもきれいな女でした。
別れる時当座の金でもと渡そうとしたんです。
でも全て私が悪いんだからと受け取らなかったぐらいですから。
じゃ離婚の原因はやっぱり清美さんにあったんですね?それは…。
高原さん失礼を承知で伺っています。
本当のことを話していただけませんか?清美は…子供を作ろうとしなかったんです。
多分好きではなかったんでしょう。
でも僕は無類の子供好きで…。
後継ぎも欲しかった。
だから…。
清美さんは子供を作ろうとしなかったのではなくて本当は作れなかったんじゃないんですか?つまり清美さんは性生活が出来なかった。
違いますか?清美さんはあなたを愛していてもあなたを受け入れることは出来なかった…そうですね?…そのとおりです。
清美さんは警察でこう言ってます。
金のために彬さんと結婚し彼を殺そうと思った。
しかしそんなことは嘘だ。
金原彬さんは精神科の医者だ。
清美さんがこれまで誰にも話せなかった心の傷も彼になら話せるだろう…。
そんな彼を彼女が殺そうと思いますか?じゃ誰かをかばって清美さんが自首したっていうんですか?検事はそれが恭一だと?しかし何で恭一は病院の保険金まで狙わなきゃならないんですかね?逆恨みをしてた姉への復讐ですか?それとも何か他に病院との接点があるんでしょうか?
(高原)ありますよ!接点なら…。
えーっ!?外科医の金原先生です。
弟の金原保ですか?
(高原)はい。
恭一と保さんは遊び友達です。
遊び友達…?はい。
清美と離婚した後も私は恭一をしばらくここで働かせてました。
清美のためにも何とか弟を一人前にしてやろうと思って…。
頼むよ。
わかりました。
(高原)その頃保さんが車のメンテナンスをうちに頼んできて…それで2人は知り合ったんです。
(高原)生活環境は極端に違う2人でしたが不思議に気が合ってよくつるんで遊びに行ってましたよ。
どこへですか?店の名前覚えてませんかね?六本木のコパカバーナというカジノによく入り浸ってたようです。
六本木のコパカバーナですね。
平田さん!はい早速当たってみます。
信じていらっしゃるんですね清美さんを…。
当り前です…。
私には誰よりも清美が必要です。
そして清美にも私が必要なんです。
検事さん世の中には例えそういう関係がなくても誰よりも深く愛し合える夫婦もいるんですよ。
わかります…。
清美に伝えて下さい。
何があっても必ず私のところに帰って来るようにと…。
(保)ではさっさとお願いしますよ署長。
それ次第では約束していたポストも考え直さないと。
(高木)まぁまぁ保さんもう少し待ってて下さいよ。
そう時間はかかりませんから。
何てったって今度は犯人が自首して来たんですから。
ねっ署長?さっ。
失礼します。
検事六本木のカジノバーに恭一は多額の借金がありました。
驚いたことにその借金を肩代わりしていたのは金原保でした。
先月の23日に恭一は保に借金を全額返してます。
(保)よーし今日は貸した金が戻って来たお祝いだ。
その翌日店にやって来た保は金が戻って来たお祝いだとバカ騒ぎをしてチップをはずんでくれたんだと女の子が証言してくれました。
丸山君千吉さんの保険金がみやこ生命から入った日先月の23日で間違いないね?はい間違いありません。
そしてその日のうちに恭一はそのお金を全額下ろしています。
1千万。
平田さん恭一が保に返した借金の額は?1千万です。
半端はまけてやったと保は豪語してたようです。
それから千吉さんの死亡報告書を出した奥多摩第二病院なんですけど調べてみたらあそこは金原記念病院の系列なんです。
そこの医者に頼んだんだな。
単純な事故死として報告書を書くようにと。
検事これで恭一に千吉さん殺しの容疑がかけられますね。
そうですね。
でもそれが清美さんの事件とどういうふうに関係してるんですか?平田さんもう一度奥多摩の老人ホームへ行って何とか目撃者を捜し出しましょう。
はい。
確かに職員さんたちが言うようにここじゃ誰かが入ってきても全く気が付きませんね。
周りは山だし…。
あ平田さん…。
ちょうど園の昼食が始まる時間ですね。
(男性)そうっすね〜大体この時間に来ますね。
だからあの日事故を起こした病院の車がここに停まっていたのも覚えてますよ。
でも不審な人物なんていなかったなぁ〜。
そうですか…。
ああでも俺が野菜を納めて出て行く時入って来た車は見ましたよ。
えどんな車ですか?いやいや正確じゃなくてもいいんですよ。
覚えてるっすよ正確に。
俺の欲しい車だったから。
黒の四駆でさぁ…。
その車に乗ってたのはこの人じゃありませんでした?あそうそうこの男!確か洋服も黒だったんだよね。
検事。
どうもありがとう!検事間違いありませんね。
うん。
何やってんだあんたら。
近藤恭一さんですね。
検事の右近です。
検事?検事が何で俺の車見てんだよ!奥多摩で起こった2つの事件について君に訊きたいことがあるんだ。
実は事件のあった日あの老人ホームで君とこの車を見たという人が出てきたんだ。
待ちなさい!待ちなさい!離せ…!無駄だ無駄だ!緊急執行逮捕します。
君の車のダッシュボードの中からこのメモが見つかった。
(高木)あなたの字ですね?バカヤロー!あいつ何で捨てないんだよこんな物を!金原保が書いたホームまでの地図。
ご丁寧に事故を起こす日時や車のナンバーまで書いてある。
このメモから既に君たちの指紋は検出された。
君がやったんだね?答えなさい!そんな熱くなるなよおっさん!じゃもう1つの事件について訊こうか。
岩田千吉さんを殺して保険金を取ったことは認めるね?必要のない人間をわざわざ雇って殺して保険金を取った。
家族とも疎遠になってる老人なら後で問題になることもないと思った。
そうだろう?君が千吉さんの保険金1千万円で保に借金を返したことはもうわかってるんだ。
(恭一)ああそうだよ!
(恭一)全て保のせいだ。
(恭一)あいついとも簡単に金を貸してくれやがった。
カジノの店の借金も肩代わりしてくれた。
しかしそれがあいつの作戦だったんだ。
借金が1千万に膨らんで返す目処が立たなくなった時俺はやっとそのことに気が付いたんだ…。
返せないだ?冗談言うなよ。
俺がお前に貸してるのは10万や20万のはした金じゃないんだぜ!俺は怖いお兄さんとも知り合いだってことはお前も知ってるだろう。
これ以上怒らせんなよ俺を!なぁ恭一。
死んでも金は返してもらうぜ!「死んでも金は返せ」と言われた時死んで金を簡単に作る方法が頭に浮かんだんだ…。
それが保険さ…。
(恭一)おいじいさん!今日寒いなー。
ああ寒いなー。
(恭一)どうだい?ええっ?あは…へへっ…ああありがとう!うわぁ!
(恭一)いや寒いって言ってもよ俺の田舎の秋田の田沢湖町よりずーっとマシだけどよ。
えーっ田沢湖町?俺西木村。
尾去沢の炭鉱で働いてた。
そうかいいやぁ懐かしいな。
まあじゃあ乾杯!乾杯!
(恭一)じいさんは仕事がなくて困っていた。
(恭一)だからちょっと優しい声でうちに誘ったらほいほいとついてきやがった…。
だからよ法人保険ってヤツに入りてぇんだよ。
新しい従業員も入ったし。
あの千吉さんって人?ああ。
じじいだからよいつ死ぬかわかんねぇだろ。
早く手続きしてくれよ。
もしもん時の受取人は会社。
不景気だからようちも全額退職金に回すわけいかねぇんだよ。
いいんだろ?それでも。
…うん。
うわーっ!それで殺してしまったんだね君は千吉さんを。
ああ。
しかしそのことをネタに保はとんでもないことを言ってきやがった。
(恭一)4人を殺してくれだって?
(保)ああ。
このままじゃ俺がどんなに病院のために尽くしても結局俺は一介の外科医でしかないんだ。
病院も金原家の財産もみんな兄貴の物だ。
あの事故で俺の人生は終わっちまったんだよ。
(恭一)あいつと俺には同じような孤独感があった。
(恭一)家族に愛されずに育ったという寂しい思いが…。
(恭一)もちろん俺だってやりたくなかったさ…。
(恭一)でもやらなきゃじいさんのことを警察に話すと言われて…。
(恭一)でも結局あの日…車には理事長夫妻しか乗ってなくて…。
ちっくしょー!おかげで俺は一銭ももらえなかった…。
だから俺はあいつに電話で文句言ってやったんだよ。
どうしてあの日にホームに行かなかったんだって。
そうだよやったのは俺だよって。
こうなったらあいつから金を取るしかねぇもんな。
弟が殺人者だとわかったらあいつだって金原家にはいられなくなるんだから…。
そしたらあいつ何を考えたんだか俺の代わりに自首しやがったんだ。
お姉さんのことをあいつと呼ぶのはやめなさい!あんな奴姉さんなんかじゃねぇよ!恭ちゃん!恭ちゃーん恭ちゃん!お前なんか姉さんなんかじゃねぇ。
黙りなさい!君が幼い時に義理の父親に体を傷つけられ養子に出され寂しい思いの中で成長してきたことはよくわかる。
しかしつらかったのは君だけじゃないんだ。
お母さんもここにいるお姉さんも君以上に苦しんで生きてきたんだ。
嘘だ!嘘じゃない!だからこうして君のためにおばあさんの名前を借りて保険を掛けてきたんだ。
これは…。
君が工場を持てたのはお母さんのおかげなんだよ。
義理の父親からひどい仕打ちを受けていたのは君だけじゃない。
お姉さんも同じなんだ。
違う!こいつは十分に可愛がられて育てられたんだ!幼い君にはわからなかったかもしれない。
しかしお姉さんはあの男に…あの男にずっと性的虐待を受けていたんだよ。
やめて…。
性的虐待…!?男性への恐怖という心の傷を抱えてしまったお姉さんは高原さんと結婚生活を続けることも出来なかったんだ。
やめて…やめて下さい!だからあの医者と…。
でも…でもこいつらは俺を捨てたんだ!それは事実なんだ!違う!それは違う!あたしも母さんもあんたのことを捨てたりなんかしていない!あのままあんたをあの家に置いといたらいつかあんたはあの男に殺されてしまうかもしれない。
母さんはそれを心配して…。
じゃ何で俺だけ置いて2人で東京へ行っちまったんだよ!?もちろんあんたも連れて行くつもりだったのよ!でも…おじいちゃんたちにはその願いを聞いてもらうことは出来なかったのよ…。
(弘代)お願いします。
恭一を連れて行かせてけれ!
(養父)ダメだ!恭一が戻って来るから早く帰ってけれ!
(清美)お母ちゃん!ダメだ!ほら…。
運転手さん早く出してけれ!ほら早く出してけれ!あっ恭ちゃん!停めて!恭ちゃーん!恭一…。
お母ちゃーん!ダメだダメだ!出せ早く出せ!お母ちゃーん!恭一ダメだ!連れてってけれ!俺も連れてってけれ!お母ちゃん!恭ちゃんが追ってくるで!俺を置いていかないでけれ!お母ちゃん!お姉ちゃん!お母ちゃん恭ちゃんも一緒に連れてってけれ。
(恭一)お母ちゃんお姉ちゃん!ねぇお母ちゃん!無理なんよ。
養子に出してしまったんだもん。
だから今優しくしたらあの子がかえって可哀想だもん。
ごめんね恭一!
(嗚咽)お母ちゃーん!
(恭一)お母ちゃん…。
お母ちゃん!
(清美)あたしたち…あんたを捨てる気なんてこれっぽっちもなかった…。
でもあたしもお母さんもあんたへの負い目をどうすることも出来なかった…。
あんたに申し訳ないと思う気持ち…あんたを犠牲にしてしまったという心の傷が…何をしていても消えなかった…。
だからあんたを守れるんだったらあたしも母さんも…。
彼の罪を被っても構わないと思ったんですか?それは違う。
そんなことで心の傷は治りはしない。
あなたもお母さんも彼をかばうことが愛情だと思ってる。
しかしそれは違う!本当の愛情とはそんなものじゃないはずだ。
はぁ〜あこれで俺もおしまいだな!あいつが遺骨なんか宅配便で送んなきゃ何もバレることはなかったのによ。
仏心出してあんなもん送ったのが運の尽きだ。
でもってテメエは自殺かよ。
ふん全くバカな母親だ!バカは君だ!お母さんは思ってもいなかったんだよ。
君が初めから保険金殺人を計画していようとは。
息子の君を信じていたんだ。
そうだろう?お母さんは君が不憫で不憫でしょうがなかった。
君にすまない本当にすまないことをしたと思い続けてきたんだよ。
ずーっと。
だから君のために保険も掛け続けてきた。
「今息子が罪を犯してしまったとしたらそれは自分のせいだ」。
「自分が死んで息子を守りたい」。
わかるか?自分が死ぬことそれがお母さんにとってたった1つの生きる道だったんだよ。
つらいじゃないかお母さんの気持ち…。
悲しいじゃないか。
え?恭一君。
そうよ!わかってよ恭ちゃん!わかってよ…恭ちゃん!
(清美)恭ちゃん!検事私子供を育てるのが何だか怖くなってきましたよ。
子供の時に受けた心の傷があんなに深く残るなんて…。
そうですね…。
難しいですね。
でもね人間って意外にしっかりと自分の人生を生きていくものですよ。
苦しくても自分の人生ですからね。
人の人生を生きる訳にはいきませんよ。
そりゃそうです。
なら我々も前を向いて精一杯生きていくしかありませんね。
そうですね。
じゃ検事これから精一杯生きていくためにも何か美味い物でも食べに行きますか?
(静香)行きましょう行きましょう!何だ何だ!?君たちいたのか…。
(丸山)いましたよ!やっぱりご飯はみんなで食べた方が美味しいですから。
ね〜静香ちゃん!
(静香)ね〜。
何だか急に賑やかになっちゃったな。
まあいいか。
検事4人で行きますか。
行きましょう!私いいお店知ってますから。
こっちこっちこっち!
(静香)先輩私フグが食べた〜い!
(環)えーっ!?
(環)検事静香ちゃんフグですって。
(静香)イエーイ!本当いいの?
(静香)やった〜!2014/02/19(水) 13:55〜15:46
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遺骨宅配便が暴いた保険金完全犯罪!東京〜雪の角館に秘められた家族の謎!!冤罪を何よりも憎む「捜査検事・右近誠の殺人調書」シリーズ第3弾!
詳細情報
◇番組内容
遺骨宅配便が暴いた保険金完全犯罪!東京〜雪の角館に秘められた家族の謎!!冤罪を何よりも憎む「捜査検事・右近誠の殺人調書」シリーズ第3弾!雪の秋田・角館・田沢湖・尾去沢に大ロケーション敢行!!
◇出演者
加藤剛、前田吟、新井康弘、芦川よしみ、沢向要士、布川敏和、矢野宣、田中規子、片山万由美、中野今日子、浜田万葉
◇音楽
大山日出男
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
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