「NHK俳句」今日の選者は岩岡中正さんです。
どうぞよろしくお願い致します。
2年間選者をして頂きまして今日が最終回となってしまいました。
ちょっと名残惜しいけど今日も最後まで楽しく暖かく終わりましょう。
まさしく今日の兼題は「暖か」ですけれども冒頭の句は岩岡さんの…。
そうですね。
ちっちゃな句会なんですけども神社の社務所でありまして日頃だとお菓子がちょっと出るんですがその日は餡パンが出てそれがいかにも暖かという周りの感じと一緒でみんななごみましたね。
ちょっとお菓子変えただけでこんな変わるかなと思って。
顔がほころんだという感じ。
「暖か」というのはふだんも使いますが季題にも…。
季題としては物理的な暖かさですね。
でもやっぱり精神的内面的なあたたかさと気持ちの問題とも重なってまいりますよね。
非常に大きな季題だと思いますね。
今日もよろしくお願い致します。
それではゲストをご紹介致します。
今日は作家の瀬戸内寂聴さんにお越し頂きました。
ありがとうございます。
よろしくお願い致します。
瀬戸内さん寂聴さんとお呼びしてよろしいでしょうか?はい寂聴さんと。
最初から失礼なんですけれども御年もうすぐ90…。
あと2か月で満92です。
なられるんですね。
ホントに若くていらっしゃいますが俳句については一番最初は文壇の句会にお出になったという事なんですね。
木山捷平さんという方がいらっしゃいましてとてもいい作家なんですけれども私が懐いて慕ってたんですね。
いろんなとこ連れていってもらって。
その日は俳句の句会に行ったんです。
宗匠があの久保田万太郎さんでお名前は知ってたけども実際にお目にかかってなかった。
それでその時に皆さんが出した句の中でいいのがいっぱいあったんですけどね最後に久保田先生の句が満点全部が褒めたんですね。
その句がね「門下にも門下のありし日永かな」という句だったんですよ。
それはなぜかって言いますと新しく来た人に自己紹介があるんですね。
私に紹介が回ってきたから「私は木山捷平さんの弟子としてここへ参りました」って言った。
そしたらなぜかみんながドッと笑うんですよね。
なぜ笑うか分からなかったんですね。
それは木山さんって方は非常にいい小説をお書きになるしねそれから詩人ですしねそういう方なんだけど何となく飄々として面白いんですよね。
それで弟子なんか持つような方じゃないんですよ。
私が弟子って言ったもんだからおかしかったんでしょうね。
そしたらその日の句に久保田万太郎さんが「門下にも門下のありし日永かな」って書かれたんですね。
それでそれを色紙にお書きになったの。
私が「先生それ私の事を歌ったんだからその色紙下さい」って言っちゃったんですよ。
そうおっしゃったんですか?怖いもの知らないから。
そんなに偉い人がそばにいると思わない。
そしたら「あ〜そうかい」ってスッと下さったの。
そしたら周りの人が真っ青になりましてねとんでもない事を言う人が来たと思って。
怖そうな顔してねそれでも下さったもんですから私が「わ〜うれしい」ってもらったらみんなが私も下さい私も下さいって。
久保田さんが気持ちよくお書きになるの。
もうアリのようなちっちゃな字なんですよ。
それで書いて下さってねもう大切にしております。
ではまた後ほどご自身の作品をご紹介頂けたらと思います。
よろしくお願い致します。
さあそれでは今日の入選句ご紹介してまいります。
まず1番です。
これはお母さんのまなざしがいいですね。
あたたかなんですね。
全体としてもあたたかだし空気が。
普通通信簿まで言うんですが所見欄まで言うところが写生のうまいとこですね。
深いとこまで。
どんな会話があったかなとかあるいはあたたかだからきっとおおらかに「いいじゃないか」とそういう親子の会話が見えますね。
では2番です。
自由題です。
ホントにこれいい先生なんですね。
生徒が泣くのはよくある風景ですが先生が泣く。
これいろいろ想像するんだけどもこの先生新任の先生で初めて担任を卒業させる。
いろいろ難しい事もあったかもしれない。
そういう事をいろいろ思われますね。
「もっとも泣けり」がしっかりつかんでますね対象を。
こんな先生ばっかりだと問題起こらないですよね。
そうですね。
3番です。
これも伸びやかな句ですね。
おおらかというか間延びがしてて眠たげですね。
言われてみればホントにまぶた大きいですもんね。
「ばかりにて」というこの誇張がいいですね。
いかにもクローズアップして駱駝の姿が見えるようでね。
では4番です。
これも子どものにぎやかな声とかね遊んでるそういうものも聞こえてきますしだんだん広がっていくにぎやかさや暖かさが子どもの輪が広がっていく。
そういう水の輪が広がるようなそういう姿造形がありますね。
子どもの石を蹴ってる姿が目の前に浮かんできますね。
私もとっても好きですこの句。
では今度は5番です。
これも聖母子像っていうかなそれよりもっと親しみがあります。
波のように幸福幸せが広がっていく。
心が楽しいと調べも楽しいんですよねリズミカル。
「嬰が笑へばみな笑ふ」というふうにだんだん心の弾みが伝わってきますよね。
「嬰」っていうのはあんまり使わないでしょふだんね。
でも私たち子どもの頃はしょっちゅう使ってました。
赤ちゃんの事嬰児とね。
懐かしいなと思いました。
今あんまり使いませんねこの言葉。
では6番です。
自由題です。
地球儀拭う時には普通は手を回すんだけどこれは地球儀を回したという。
そこの切り替えをきちっと発見したところが面白いですね。
よくご覧になってる。
俳句はちょっとした面白いところを発見する好奇心みたいなところですかね。
うちにも地球儀あるんですがあんまり拭いた事ない。
地球儀には春の塵がふさわしいですね。
あった方がいいかもしれない。
今度は7番です。
これも九官鳥の生態がよく出てて。
母の声音っていうのでお母様の声が九官鳥に乗り移ってる。
お母さんはご健在なのかなという感じもちらっとはしますけれどもいろいろ解釈できます。
いいですね。
ハッと振り向いたら母の声だったというところがいかにもあたたかな感じ。
母の声が届くような…意外だし懐かしい感じ。
私が幼稚園くらいの頃なぜかうちが小鳥屋してたんです。
えっそうなんですか?徳島で?ほんの僅かな間ですけど。
ちょうど昭和の初めでね日本国中に小鳥屋がはやったの。
どのうちでも小鳥を飼うそういう時代だったんです。
それでうちが小鳥屋を始めた時父親がお客を呼ぶために九官鳥を店に置いたんです。
その九官鳥が「こんにちは」とか「ごきげんよう」とかって言ってたんです。
ところがある日突然「不景気でんな」と言ったの。
ホントにその時不景気だったんですね世の中が。
みんな大学を出たけれどなんていう時代なんですね。
お客が来る度に「こんにちは」の代わりに「不景気でんな」って言うのね。
それを九官鳥が覚えてしまってそんな不吉な事を言うともう値打ちがなくなるんです。
それで困った事を思い出しました。
さあ今度は8番です。
なかなか写生がしっかりしてますね。
「手足はみ出す」っていうのが具体的ですよね。
ベビーカーに赤ちゃんが乗ってるというのはよくある話。
それが「あたたかや」にはよくマッチしてるんだけども具体的によく写生できたと。
「手足はみ出す」というのが。
ちっちゃい子はやっぱり手足はみ出しますよね暖かかったりとか気持ちがよかったりすると。
そういう一瞬を捉えてるのがいいと思いますね。
では今度は9番です。
土の中が暖かっていうそういう詠み方。
普通暖かっていうと気温地上の話だけどもそれをあえて「土中の奴ら」。
啓蟄なんて言葉季語がありますよね。
だから啓蟄って虫についてはあるんだけどこの「土中の奴ら」って言ったところがまた面白い言い方してるなと思いました。
「奴ら」がいいですね。
親しみがありますね。
以上が入選句でした。
では特選三句をご紹介する前に「俳人のことば」をご覧下さい。
富安風生が数えで83歳の時の句です。
晩年に入ってもなお進歩し続けたという富安風生。
老いと向き合う日々の中で風生は自然を愛しそこに生きる命を慈しみました。
風生68歳の一句です。
それでは本日の特選句です。
まず第三席はどちらでしょう?北村峰月さんです。
では二席です。
大森敏光さんの句ですね。
一席はどちらでしょう?田村治子さんの句です。
何か生命力みたいなものがこの句から感じられて。
暖かっていうのはやっぱり命を育むんですよね春になって。
そういったものがベビー赤ちゃんの生命力として表現されている。
大きい句ですね案外。
見た目はかわいいですけど。
以上が今週の特選でした。
ご紹介しました入選句とそのほかの佳作の作品はこちらNHKの俳句テキストに掲載されます。
俳句作りのためになる情報も参考になさって下さい。
続きまして「入選の秘訣」です。
入選までのあと一歩を教えて頂きます。
1字の言葉で随分違うなというね。
それによってまた組み替えていくともっとよくなるという事をちょっと申し上げます。
こちらの句でお願い致します。
これは警察官巡査さんがパトカーを洗っていらっしゃる。
家でも洗ってるんでしょうし洗う姿は同じなんだけど洗ってるのがパトカー。
勤務中に洗っている。
これが何かおかしいんですよね。
お巡りさんがパトカー洗っている。
それをあたたかだとフッと感じたんでしょうね。
いいとこに目をつけられたなと思ってね。
ただ「あたたかにパトカー洗ふ」って言ったって「に」がちょっと不自然ですよね。
だから後ろに持ってきましてこれを「あたたかし」というふうに。
そして「パトカーを洗ふ巡査や」というふうに。
切れ字は「や」の方に変えた方が合いますので「パトカーを洗ふ巡査やあたたかし」となればきちんとまとまった句になると思いますね。
ありがとうございました。
それでは皆さんからの投稿のご案内です。
4月から第3週の選者が櫂未知子さんに替わります。
締め切りが早まりました。
番組のホームページからも投稿できます。
それでは岩岡さんの年間のテーマ「小さきものへのまなざし」。
今日は「暖か」。
暖かっていうのはほんの小さな気温の変化に気付くという暖かいという季題。
やっぱり心が弾んできますよね。
そういう句を一つ紹介しますと…ワンパターンの事をよく「金太郎みたいだ」と言いますけどもこの場合は桃太郎…。
桃太郎なんですね。
明るいですよね。
いかにも春めいた暖かい。
「の中から」というところが事実そのものなんでしょうけどサプライズでちょっとハッとしますよね。
全体見た目で暖かいというのと体で感じた暖かい。
両方入ってますよね。
何となく幸福感というか…。
昔はこんな小さい事でも楽しかったんです子どもたちは。
今子どもも大人も刺激がないとゲームがないと楽しめない時代になりましたがささやかな事。
小さな事に楽しみや季節の感動動きを見つめるという。
やっぱり俳句の心はその中にあるのかなという感じがしました。
それではここで寂聴さんにご自身の俳句をご紹介頂きます。
書いてきて下さったんですね。
64〜65の時に…65だったかな?天台寺へ。
岩手県の…。
岩手県と青森県の境にある山にあるね。
そこに天台寺というお寺がありましてそれが荒れ果てて大変だったんです。
そこへその時の町長にだまされて連れていかれたんです。
それで復興しろという命令がお山からありまして毎月そのころは行って泊まってたんですね。
お寺誰もいませんからだから夜もひとりなんですよね。
私が5月に行きましてちょうど花盛りそのころ。
それで誰もいない山のてっぺんで戸を閉めて寝てたんですね。
その時ああひとりだなと思ったんです。
だけども戸の外の闇の中には花が咲いてるなって。
そういう感じだった。
それをスッと歌っただけなんです。
すてきですよね。
「花の闇」って何か艶なところもありますけどもやっぱり神秘的でちょっと…。
なまめかしい感じ…。
なまめかしい怖い感じがしますね特に山ですと。
真夜中ホトホトと戸をたたく音がするんですよ。
それはクマかイノシシかそういうのが来るんですよ。
だからうっかり戸が開けられない。
やっぱり文学って孤独にならなきゃできませんよね。
私は家庭を持ってる人が小説を書いてるのは不思議だと思いますよ。
本当に文学っていうのは孤独じゃないと書けないと思う。
作家で文人俳句というのはよくありますけどもどんな時に俳句が出来たり…。
小説だけ書いてたらやっぱり気が詰まりますよね。
その時にフッと俳句を作ったら気が楽になる。
小説とかだと批評が気になりますけどね俳句だったらどうせ下手だって分かってるから誰に何言われても平気でしょ。
だから気が楽なんですよ。
円地文子さんが「源氏物語」をお書きになる時にちょうど私が仕事場にしているマンションにいらっしゃったんですよ。
それで同じ所で仕事してたんですね。
マンションですから食べ物がろくなものないでしょ。
そうすると「文藝春秋」の車谷さんが毎月「銀座百点」の編集してらしてそこに俳句のページがあるんですよ。
そこへ連れてってくれるんです。
俳句は私たちは全く興味なかったんだけどそこへ行くとごちそうが食べられる。
おいしいものが出るんですよね。
だから「行こう行こう」なんて円地さんが誘って毎月出てたんですよね。
専門家がいらっしゃってみんなお上手でしょ。
一番下手なのが私とそれから円地さんなの。
だからビリがどっちかなんですよね。
やっぱり円地さん目上ですからね円地さんをビリにする訳にいかないから…。
ビリになるのも難しいんですよこれ。
寂聴さんがいつもビリを…。
そうそう。
そうするとビリの2人には必ずトイレットペーパーくれるんですお土産。
おトイレにトイレットペーパーばっかり…。
たまって。
それ行っておいてよかったような気がする。
やっぱりそこで上手な人の句を聞かされてそれでやっぱり今日のように批評なさるじゃないですか。
それがやっぱりどこかに入ってる。
これからもますます俳句を…。
ますますお元気で。
ホントにどうもありがとうございました。
今日は瀬戸内寂聴さんにお越し頂きました。
ありがとうございました。
それでは最後に今年度1年間の入選句の年間大賞をご紹介頂けますか?鄭元彪さんの句です。
大変誰にでも共感できる普遍的な句だなと思いますね。
ここから出ていった子帰ってくる子。
いろんな家族の思いというものが門に象徴されてますね。
秋の暮だからいよいよ望郷とか郷愁とかそういったものを象徴してますそこでね。
大きな句だなと思って僕は大好きでしたこの句は。
境涯の句ですね一種の。
鄭さんおめでとうございました。
おめでとうございました。
冒頭にも申し上げましたけど岩岡さん2年間選者を務めて頂きましたが今日が最後となりました。
あっという間でしたね。
何か人に伝える事の難しさみたいな事。
優しく分かりやすく自分では分かってても人にお伝えするその勉強になりました。
それとたくさんものすごい量の句を頂きましてそれを選句する楽しみ選ぶ楽しみこれも学ばせて…。
また人にお話しするには正しい知識っていうかなそれがないといけないなというホント不勉強でしたからこの機会に勉強させて頂きました。
これからも一生懸命今生きている自分の感動をどう表現するかという事にお互い努力していきたいというふうに思います。
ささやかなものに喜びを幸せを見つけていく。
小さな発見を見つける。
その辺りすごく勉強にさせて頂きました。
ありがとうございました。
それでは次回またお目にかかります。
今日はこの辺で失礼致します。
2014/03/19(水) 15:00〜15:25
NHKEテレ1大阪
NHK俳句 題「暖か」[字]
選者は岩岡中正さん。ゲストは瀬戸内寂聴さん。寂聴さんは、久保田万太郎の句会に参加して以来、俳句を作り続けている。文章に無駄がなくなるため小説の修行にもなるという
詳細情報
番組内容
選者は、岩岡中正さん。ゲストは、瀬戸内寂聴さん。寂聴さんは、久保田万太郎の句会に参加して以来、俳句を作り続けている。文章に無駄がなくなるため、小説の修行にもなるという。題「暖か」。【司会】桜井洋子アナウンサー
出演者
【出演】瀬戸内寂聴,岩岡中正,【司会】桜井洋子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
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