ハートネットTV シリーズ被災地の福祉はいま(3)相次ぐ新たな“こころの病” 2014.03.19

戦争など極度の緊張や恐怖がトラウマとなり後にさまざまな症状を引き起こす心の病があります
過去のつらい体験が度々よみがえり不眠やうつを引き起こす病気です
今被災地で同じような症状が起きているといいます
福島県相馬市でPTSDなど震災のトラウマを抱える人たちを診察してきました。
2年8か月たつ今なお深いトラウマを抱える人が数多くいると言います
今でも消える事のない心の傷
病名はつかないものの不安や気分の落ち込みに苦しむ人も少なくありません
原発事故のあと福島にやって来た精神科医。
被災者が抱える心の傷の深さに気付かされたと言います
地震津波そして原発事故が引き起こした深刻なトラウマ。
福島で暮らす人たちの心の中で今何が起きているのでしょうか
福島第一原発の北40kmにある福島県相馬市
町には仮設住宅が建ち並び津波や原発事故で被災したおよそ5,000人が今なお避難生活を送っています
震災後地域の精神医療の拠点として造られたメンタルクリニックなごみです
こんにちは。
山田と申します。
今年4月院長として赴任した…
多くのPTSDの患者を診てきた経験を持っています
震災から今2年半たちましたけれども診察していて患者さんをご覧になっていて何か実感する事ってありますか?これは私もびっくりしたんだけど一見うつ病でもない軽い不眠症で来た人で「死にたいと思った事はありますか?」と聞くと「あります」って言って。
それは病名として見るとうつ病というほどのうつじゃないんです。
蟻塚さんのもとには一日およそ30人の患者がやって来ます
その中である傾向に気付きました。
2年以上たった今になって現れる…
PTSDとは過去のつらい体験がよみがえるフラッシュバックにより不眠やうつ状態に陥る病気です
通常PTSDはトラウマとなる体験から6か月以内に発症します。
これに対し遅発性PTSDでは長年何もなかった人がふとしたきっかけで突然発症するのです
診療所では毎週3人から4人が遅発性PTSDと診断されています。
特徴的なケースを匿名性を確保しイラストで再現しました
震災の日住み慣れた町が津波にのまれる光景を目の当たりにした60代の女性
自宅と家族は無事だったため震災後は以前と変わりない暮らしに戻りました
しかし2年後かわいがっていた猫が死んでしまった事をきっかけに異変が起こります
毎日夜になると震災の記憶がよみがえるフラッシュバックに襲われるようになりました。
眠れず食欲も衰え誰とも話せない状態が1か月以上も続きました
震災のトラウマ記憶って震災を受けた人はみんな受けますよね。
仮設に行ったとか避難所に行ったとかその時眠れなかったとかとてもつらかったとか。
特に原発の人は7か所も転々としたとかっていろんなトラウマ持ってますよね。
頑張るんだけども…寝たふりするんです。
出てこない。
ふたをされたトラウマはいつまた暴れ出すか分かりません。
あるケースでは脳梗塞を患った事がきっかけになりました
「脳梗塞だよって言われた」って。
脳梗塞って言われても別にまひしてる訳じゃなくてそんなの心配ないんだけどもそれ言われただけでガクッと落ち込んじゃって2年間押し殺していたはずの寝たはずだったトラウマ反応が噴き出してくる。
そういう状態が2年後になって出てくる。
数十年たってからもなおPTSDを発症する事があると蟻塚さんは言います。
その事に気付いたのはかつて沖縄の病院に勤めていた時でした
68年前沖縄は太平洋戦争末期の地上戦で生活の場が戦場となりました。
その体験は住民たちの心に深刻なトラウマを残しました
蟻塚さんは福島に赴任する前まで8年間沖縄の病院に勤めていました。
この時診察した人たちの中で半世紀以上たって初めてPTSDを発症したという人が100人以上もいたのです
更に沖縄戦の経験者への聞き取り調査を進めると深刻な事実も明らかになりました。
不眠やうつを抱えるなどPTSDを発症するリスクの高い人が今でも4割近くいる事が分かったのです
それに気付いた時ってどうでした?びっくりしました。
60年たって実は戦争の時に子どもの時に逃げた時の記憶がよみがえってきて死体の臭いがして眠れないという人が最近60過ぎてから出てきたっていうのを見てびっくりして私どうしたらいいかと思ってね。
過去にあった事なんだけど思い出すとそれは今でも涙出てくるのよ。
ライブで。
だから現在進行形なのよ。
それをやるためには自分の現在があんなつらい事あったんだけど…ポジティブに捉えられて…
トラウマを治療するために欠かせないという生活の再建。
それを支援する独自の取り組みも始まっています
蟻塚さんの診療所に併設される…
看護師や保健師などが患者の家を訪問するアウトリーチという支援を行っています
薬などによる治療だけでなく家での暮らしぶりを見ながらあらゆる必要な支援を行います
おはようございま〜す!どうも毎度。
アウトリーチで立ち直るきっかけをつかみ始めた人がいます
どうもこんにちは。
お久しぶりです。
南相馬市に住む…
この地に生まれ育ち新聞販売員として地域を走り回っていた但野さん。
ふるさとの風景が津波で一変した事に大きなショックを受けうつ状態になりました。
食事が全く喉を通らず一時は精神科の病院に入院しました
但野さんへのアウトリーチは半年前に退院した時から始まりました。
スタッフたちは但野さんの暮らしを見ながら今どんな支援が必要なのかを考えていきました
アウトリーチを始めて2か月後スタッフは但野さんにプレゼントを渡しました
鈴虫です。
但野さんが「昔飼っていた事があって懐かしい」とつぶやいたのを聞いて近所の人から分けてもらったのです
来年卵がかえったら知り合いに分けて飼ってもらいたいと但野さんは心待ちにしています
トラウマを乗り越える試みの一つアウトリーチ。
一人一人の暮らしに向き合い続けられています
ただ医療っていうのが我々医者が少ないもんだから患者さんに来てもらって医療やってるけども本来的に言うと私が例えばあなたが患者さんで話聞いても人柄が分からないんですよ。
もしあなたのうちに行ってみるとどんなうちに住んでるか何飾ってあるかってパッと分かります。
何が楽しみで生きてるかって。
そうするとこの人をどうやって励まそうかって分かるでしょ。
だから生活の場に行かないと分からない。
そこまで私たちが一緒に会話して…
私が次に向かったのは福島第一原発により近い南相馬市です
南相馬市は原発事故によって市の広い範囲が避難区域に指定されました。
今も2万6,000人が避難生活を送っています
もともとあった地域のコミュニティーはバラバラになり町の空気は一変しました
去年4月この町の精神医療を支えるため東京からやって来た一人の精神科医がいると聞き訪ねました
失礼します。
堀有伸さんです。
堀さんがここに来てまず気付いたのは地域のつながりが失われる中で起きた住民たちの心の変化でした
今の南相馬のコミュニティーというのをどういうふうに感じてますか?そもそも日本人というのはあんまり角が立つような事を気にしないで仲良くやっていくという事で元気に健康に暮らしてきたんだと思うんですよ。
ところが放射線によって例えばそもそも自分の家に住み続けてるのが安全か危険かというような事について同じ家族の中で違う意見が生じてしまう事があると。
またほかにも津波の被害があった所なかった所警戒区域になって立ち入りが制限されている場所そうでない場所。
あるいは賠償金の支払われ方とかそういった事で…そういった事の心の負担というのはとても小さなものではなかったと思うんですよね。
そういう方って病院に皆さん来てます?出さない。
出さない。
我慢して。
自分の心がうつっぽくなってるとか悲観的になってるというのをある種公的な場面でさらけ出すという事が恥ずかしい避けるべき事だというふうに思われてるのかなと思います。
トラウマや悩みを一人抱え込む人たちの心をどうすれば開く事ができるのか。
堀さんは去年の夏ある取り組みを始めました

(ラジカセ)
毎朝6時半公園でのラジオ体操です
避難してきた人元からここに住んでいた人あらゆる人が参加し交流していく事が心を開くきっかけになるのではと考えたのです
(堀)はいチーズ!
体操が終わると毎回全員で記念撮影
ありがとうございました。
1年間毎日同じメンバーが顔を合わせる中少しずつ交流が深まってきています
参加者の一人…
去年夏から毎朝欠かさず参加しています
佐藤さんは公園の隣にある仮設住宅で暮らしています
夫勝治さんと2人暮らし。
この仮設住宅には夫婦にとって親しく話せる相手は一人もいませんでした
震災前は息子夫婦4歳の孫と同居。
娘の一家も近くに住み毎日がにぎやかな暮らしでした
しかし原発事故による放射能汚染で避難を余儀なくされ家族は離れ離れになりました
息子夫婦は孫を連れ宮城県へ移住。
放射能の影響がどれだけあるのか分からない中福島に戻る事はできないと言われました
夫の勝治さんはこの仮設に来てから一人ふさぎ込み一日の大半を部屋に閉じ籠もって過ごすようになりました
厚子さんは朝のラジオ体操に通うようになって気持ちが変わり始めました
毎朝話をする友達ができ抱え込んでいた悩みを少しずつ吐き出せるようになりました
一方夫の勝治さんは厚子さんが朝のラジオ体操に誘っても出かけようとはしませんでした
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
数日後朝6時佐藤さん夫妻の姿がありました
妻を心配させ続けてはいけない。
そんな気持ちが勝治さんの背中を押しました
初めての顔を見つけた堀さんが声をかけてきました
お世話になります。
初めてなんで…。

妻以外は話をした事のない人たちばかり
立って手つないでたら?そこで。
体操が終わるとみんなが話しかけてきました
(堀)ありがとうございます。
はいチーズ!もう一枚撮ります。
はいチーズ!ありがとうございました!
(拍手)
失われた地域のつながりをもう一度よみがえらせたい。
堀さんがそう考えるようになったのは去年ある住民が自ら命を絶つという出来事があったからでした
去年の4月に旧警戒区域の20km圏内に立ち入りが可能になってからそこを見た住人の一部の方にそういう事例が発生したというニュースが地域に伝わってみんなとても衝撃を受けたのですね。
そんな事は防がれるべきだと。
人が独りぼっちになってしまって困ってる事や嫌な事が誰にも伝えられずに自分が重荷を背負い続けなければならない。
かつその重荷からは逃れられるすべもないと。
こんなふうに追い詰められた時に人間が選んでしまう可能性がある選択肢が自殺であると。
という事であるならば…傷ついてるコミュニティーですけれどもその中できちんと一つにまとまって物事をやり遂げようとしている人々の集まりなのでそういう事はその中の仲間に入れさせて頂いているとそういうふうに思ってます。
今回私は被災地を訪ねて2年8か月たつ今も新たにさまざまな問題が起きている事に気付かされました
しかし同時にそこに暮らす人々と共に歩む手探りの支援も始まっていました
誰もが取り残される事のないこれからの復興のために
被災地の福祉の今を見つめ続ける大切さを改めて感じています
2014/03/19(水) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV シリーズ被災地の福祉はいま(3)相次ぐ新たな“こころの病”[字][再]

震災シリーズ第3回は「相次ぐ新たな“こころの病”」。原発被災地でいま相次ぐ「遅発性PTSD」や「慢性的気分の落ち込み」。その現状と治療に挑む精神科医たちの日々。

詳細情報
番組内容
原発事故から2年半以上たったいま、福島ではこれまで見られなかった新たな“こころの病”に苦しむ人が続々と現れている。「ハートネットTV」震災シリーズ第3回は、原発被災地で起きている“異変”と、その治療に取り組む精神科医たちの取り組みを追う。週に3〜4ケース見つかる「遅発性PTSD」。“うつ”の定型にはあてはまらない「慢性的な気分の落ち込み」。精神科医たちは新たな“こころの病”の治療を手探りで始めた。
出演者
【出演】精神科医師…蟻塚亮二,雲雀ヶ丘病院精神科医…堀有伸,【キャスター】山田賢治

ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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