いよいよ3月7日に開幕する障害者スポーツの祭典ソチパラリンピック。
今日から4回にわたって活躍が期待される選手たちを吉木りささんと共にご紹介していきます。
(2人)よろしくお願いします。
私たちの後ろには大会が行われるロシア・ソチの町並みを再現しました。
ロシア南西部黒海に接しています。
吉木さんは今回のソチパラリンピックどんなところに注目してますか?記者会見ではメダルを10個以上目標とおっしゃってたので日本選手の皆さんのメダルラッシュ期待したいですね。
どんどん取ってほしいですよね。
さあそのソチパラリンピック5競技72種目が行われます。
日本選手が出場するのはアルペンスキークロスカントリースキーバイアスロンの3つの競技です。
番組でご紹介するアスリートの顔ぶれご覧頂きましょう。
アルペンスキーの狩野亮選手鈴木猛史選手バイアスロンとクロスカントリーに出場する久保恒造選手出来島桃子選手。
皆さんメダル候補です。
第1回の今日はアルペンスキーの狩野亮選手ご紹介します。
下半身の不自由な選手が座った姿勢で滑るチェアスキーのクラスの日本代表です。
吉木さん冒頭の映像ご覧になってどんな印象ありますか?もう100キロ以上を超えるスピードにはちょっとびっくりしましたね。
その体感はどうなっているんだろうと…。
どんな世界なんでしょうね。
ねえ!そのチェアスキーの種目ですが5つあります。
急斜面をスピードに乗って滑り降りる滑降スーパー大回転。
ターンの技を競う大回転回転。
そしてスーパー大回転と回転を1本ずつ滑るスーパー複合。
この5つです。
そして狩野選手の強みは何と言ってもスピードです。
前回のバンクーバーパラリンピックではスーパー大回転で金メダル。
滑降で銅メダルを獲得しました。
ソチでは2種目制覇に期待がかかります。
まずは狩野選手の持ち味のスピード。
一体どこから生まれているんでしょうか。
じゃいっちゃいます。
狩野は本格的なスキーシーズンを前に走り込みを重ねていた。
心拍数を測りながら100mダッシュを12本。
限界ギリギリまで心肺に負荷をかける事で常に全力で滑れる体を作るのがねらいだ。
きついっす。
(歓声)最高時速100kmを超えるチェアスキーの滑降。
狩野の武器はそのスピードを落とさずに曲がる彼独自の技術…何が違うのか。
こちらは狩野と同じクラスの日本代表選手の滑り。
10の旗門をクリアーするのにかかった時間は16秒。
板全体のエッジを雪面に押し当てバランスを保ちながらターンしている。
一方の狩野。
同じコースを14.9秒。
1秒も速く滑りきった。
よく見ると先端を浮かせ板の後ろの部分だけを雪面に押し当てターンしてるのが分かる。
コントロールは難しいが抵抗が少ない分高速ターンが可能だ。
狩野が骨盤から下の感覚を失ったのは小学校3年生の時。
交通事故が原因だった。
チェアスキーに出会ったのはそれから2年後。
今まで味わった事のないそのスピードにたちまち魅了された。
そして2006年トリノ。
狩野は19歳でパラリンピックの大舞台に立てるほど腕を上げていた。
しかし世界の壁は厚く表彰台ははるかかなただった。
この挫折が高速ターンを生み出すきっかけとなる。
まず始めたのが当時苦手だったターンの改良。
板全体のエッジを使う技の習得だ。
ところが何度練習を重ねてもうまくいかない。
理由は狩野の障害にあった。
ターンをするためには前傾姿勢を保ち重心を板の前方に置かなければならない。
しかし狩野の骨盤は体を反らせるように変形。
どうしても体を前に倒す事ができなくなっていたのだ。
そこで考えついたのが障害を逆手に取ったターン。
体重を後ろにかけたまま曲がる滑り方だ。
体重を後ろにかけたままだとターンの時にスピードは落ちない。
成功すれば誰よりも速く滑る事ができるが転倒のリスクも高かった。
レースでは10試合連続でリタイアする事もあった。
しかし愚直に自らのスタイルを貫き4年掛かりで高速ターンを完成させた。
新たな技術は狩野の滑りに更なる進化を生み出した。
ほかの選手に比べ攻めるラインを取れるようになったのだ。
通常板が雪面に着く部分が長いほど描くカーブは大きい。
一方板の後方だけ使うとカーブは小さい。
精度を上げれば誰よりも短い距離で滑り降りる事ができる。
しかしタイミングがずれれば修正は難しい。
コースアウトの危険とも隣り合わせだ。
そして迎えた…狩野は誰もが成しえなかった高速ターンで金メダルに輝いた。
スタジオには狩野亮選手にお越し頂きました。
(3人)よろしくお願いします。
体重をかけられないという弱点を逆に武器にするという発想の転換によってああいう高速ターンが生まれたんですね。
そうですね。
やっぱり自分にできる滑りはどんな滑りなのかっていうのを突き詰めていったら今の滑りが出来上がったという感じですね。
その狩野選手が実際に競技で使っているチェアスキー今日持ってきて頂きました。
こちらですね。
すごいスタイリッシュですよね。
もうかっこいいです。
実は私先ほどちょっと試乗させて頂いたんですがあまりにも細身なのでお尻が全く入らなくて…。
でもそれほどフィットしなければいけないんですよね。
僕らはふだん立って歩かないので筋肉は落ちてしまって小さいというのもあると思うんですが更にその体にしっかりと合わせた物を乗ってあげないとすごくバランスが悪かったり操作性が下がったりという感じですね。
重さはどのぐらい…?17〜18kgだと思うんですけども。
重ければ重いほどいいんですか?やっぱり落下スポーツなので重い方がスピードは出るとは思うんですけどもあくまでも自分のコントロール下に置ける物にしていかなきゃいけないので体は重くしていってあげてマシンとかは軽くしてあげていこうという今はそういう流れになってますね。
ちょっと触ってみていいですか?どうぞ。
すごいでもやっぱりどうしても不安定というかアンバランスになってしまいますよね。
板も1枚なので…。
そうですね。
こうやってどんどんどんどん地面に迫っていくんですよね?この辺がホントに雪面をこすりながら滑っていくっていうのがギリギリのラインなのでそこをどれだけ攻められるかというような滑りになってますね。
そうですか。
その上で100キロのスピードっていう…。
ちょっと想像するだけで怖くなってしまうんですけれども。
ホントにこれと体が一体になってしっかりとコントロールできる状態でなければ100キロっていう世界はすごく危ないのでまず体にしっかり合わせた物を造っていくっていうのも僕らには大事になっていきますね。
その100キロの世界っていうものはどうなんですか?車に乗ってればそんなに怖くないけれど…。
でも生身の体で100キロを体感するっていうのは…。
高速系の種目はホントに世界としてはすごくゆっくり流れている。
その中でハイスピードなのでいろんな小さなギャップであったりだとか変化をしっかりと察知しながら滑っていかなければいけないというような感じで…。
なので皆さんが思っている以上にゆったりした世界なのかなというふうには思うんですけどもね。
ゆったりしてるんだ!それは滑ってみないと分からないですけどね。
ケガしちゃったらどうしようっていう考えとか浮かんできませんか?やっぱり滑るのが怖いなって思う時だとかここでケガしたら怖いなという時はありますけどそれをやっぱり打ち消すためにふだんのトレーニングがあると思いますし夏場の体作りがあると思ってるのでまずは自分にどれだけ自信を持っていけるかっていうところが大事なのかなと思ってますね。
でもそのオリジナルの滑りを確立するまでというのは不安はありませんでした?まずそれを模索してる時というのはやっぱり不安もあったし大変な事もあったんですけど自分の滑りはここなんだというのが分かってからはそこをがむしゃらに追い求めていくだけだったのですごく楽しく充実した日々だったように思いますけどね。
でもそれだけにバンクーバーで金メダルを獲得した時の喜びは大きかったんじゃないですか?やっぱりトリノでの自分の惨敗があったのでしっかりと成績を残して周りの方々に成長した姿を見せたいというところはあったんですけどもただ僕自身実力で勝ち取った金メダルという感覚ではなかったのでホントにいろんなタイミングが重なって取れた金メダルなんだなというふうには思ってました。
じゃそれだけに今度はホントに真の実力で金メダルを取りたいという気持ちは…?やっぱりここで取れればバンクーバーで取った金メダルとは違う意味合いのものになってくると思いますしここで取れるだけの実力をしっかりとつけていかなきゃ駄目だと思ってやってきた4年間なので目指していきたいなと思いますけどね。
スーパー大回転では前回金でしたけども滑降では銅メダルでしたから滑降への思いというのは強いんじゃないですか?僕の中ではやっぱり一番スピードの出てコースも長く攻略が難しいダウンヒルという種目で一番高いとこに立ちたいなという気持ちの方が強いのでまずはしっかりとそれに向けて体もそうですし技術もイメージも全部作っていきたいなと思うんですけど。
さあ狩野選手更なる飛躍を目指すソチですが実はこんな難敵との闘いもあります。
狩野の最大の敵。
それはパラリンピック史上最も難しいといわれるソチのコースだ。
10ページにわたる手書きのメモ。
そこにはコースの詳細と共に理想のライン取りが記されていた。
去年3月パラリンピック本番と同じコースで開かれたワールドカップ。
狩野はこれまで体験した事のない急斜面にはじき飛ばされた。
滑る事が怖い。
本番まで1年。
競技人生で初めて窮地に追い込まれた。
恐怖を克服するため持ち味のスピードを落とさず急斜面を制覇できる体作りに乗り出した。
まず始めたのがバランス感覚を磨くトレーニング。
不安定なディスクの上で次々とボールをキャッチ。
しかし最初は座る事すらできなかった。
更に麻痺した下半身に近く鍛えにくいと感じていた部分の強化も始めた。
脇腹の筋肉…腹斜筋を鍛えればたとえバランスを崩しても瞬時に上半身を立て直す事ができる。
腹斜筋を使い4kgのボールを斜めに素早く投げ続ける。
周囲の筋肉との連動を意識する事で狩野はより強い力が入るようになってきていると実感している。
磨き上げるのは肉体だけではない。
向かったのはチェアスキーのシートを製造する福祉器具メーカー。
チェアスキーのシートはスキーをコントロールする要となる。
力を無駄なく伝えるため背骨や骨盤の凹凸に合わせミリ単位で調整していく。
更に鍛えた筋肉を生かす工夫も。
脇腹とシートの僅かな隙間を塞ぐためのスポンジだ。
肉体と技術の融合。
それが勝利への鍵だ。
オーストリアで行われた日本代表合宿。
おはようございます。
狩野はこの冬初めてゲレンデに立った。
多くの選手が新雪にスキーを取られバランスを崩していく。
そんな中狩野。
夏の間に磨き上げたバランス感覚と鍛え抜いた体幹で見事滑り降りた。
しかし納得がいかない。
スピードに乗った滑りができなかったのはスキーの調整が問題なのではないか。
どういう事ですか?さっきはナツメさんの方が低く見えてて…。
狩野はより体重を後ろにかけられるようサスペンションを軟らかい物に換えテストする事にした。
お願いします。
天候やコース状況全てはソチの本番で対応できるようデータは毎回細かく記録している。
翌日。
練習前にもう一度チェアスキーの状態を確認する。
スキーのセッティングは読みどおり。
滑りはスピードを増した。
パラリンピックまで残り2か月。
狩野は日本男子初の滑降の頂点を目指す。
肉体の調整はもちろんの事このマシンの調整の綿密さにちょっとびっくりしましたね。
こちらも自分の意思どおりに動いてもらわなければなかなかかみ合ってこないので…。
なのでもうほぼ自分たちで徹底的に調整されるんですね。
日本でメーカーの方々と綿密に打ち合わせをさせてもらった上であとは現地では自分たちで調整して…という感じですね。
滑るのが怖いというようなソチのコースですからここまでホントギリギリギリギリやらないと勝てないという事なんでしょうかね?はい。
僕の意思どおりしっかりと体と一体になって動けば必ず去年の転倒のような事にはならないって僕は信じてやっているのであれを克服するためにも今はやってるという感じですね。
でもやっぱり滑降で金メダルを取りたいと…。
ホントにコースを見ると厳しいコースだなと思いますよね。
非常にホントに僕らの障害者のレースの滑降では一番多分難易度の高いコースが用意されていると思うのでしっかりとそこを見せてずっとやっていかなければいけないなと思っていてイメージトレーニングとかもふだんからするようにはしているんですけども…。
滑降の世界はすごいフィールドも大きいですし山一つをどう攻略するのかどう自分が戦っていくのかというのをコーチ陣とチームみんなで考えて滑る競技でもあるのでそういった種目で一番高い所に立ちたいなというのは僕の中ではすごい強い気持ちでいるんですけども…。
12月に行われた今季の初戦ではスーパー大回転で金メダルを取ったという事でこれは自分の中では自信になりました?この時期しっかりと大会で成績を残せるというのはバンクーバー終わってはなかったのでこの時期の今の自分のレベルとしてはすごくいいのかなと思ってるんですけど…。
ただ各国これからどんどん力をつけてくると思うのでしっかりとここからも先を見据えてやっていかなければなというふうには思ってます。
もう残り2か月を切っているところですからこれから少しでもよくするためには改善するためには何が必要だと思ってますか?まずはより多く雪上に出てしっかりとトレーニングを積む事。
そしていろんな事を考えながらそれを自分の中で改善していく。
…でマシンと自分をホントに一体化させるという作業が必要になっていくのかなというふうには思うんですけど。
その滑降ですが吉木さん大会の競技の初日なんですよ。
競技の初日!そう!これまたちょっとプレッシャーがありますよね。
そうですね。
やっぱりそこでしっかりと自分の滑りを出せて成績も出してどんどんチームにも勢いをつけたいですし自分の中でも勢いをつけてどんどん進んでいけたら最高だと思うのでまずはそこに自分らしい滑りをできるように整えていきたいなと思うんですけども。
目標はやはり金2つ…?そうですね。
もちろんそこは目標になってくるかなと思うんですけどもそれに多分縛られてしまってとらわれてしまうと自分の滑りが出せなくなってしまうんだろうなと思うのでまずはしっかりと自分の滑りを4年に1度という大舞台で出すという事が目標になってくるかなと思うんですけど。
表彰台に2回上がる姿楽しみに…。
楽しみにしていますね。
頑張って下さい。
今日はどうもありがとうございました。
2014/02/19(水) 13:05〜13:35
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3月に開幕するソチパラリンピックの注目選手を紹介するシリーズ。第1回はチェアスキーの狩野亮選手。最もスピードが要求される滑降で日本人初の金メダルに挑む日々を追う
詳細情報
番組内容
3月に開幕するソチパラリンピック。「ハートネットTV」では4回連続シリーズで注目選手を紹介する。第1回はチェアスキーの狩野亮選手。前回のバンクーバー大会では、スーパー大回転で金メダルを獲得。今大会は持ち味のスピードを武器に、滑降とスーパー大回転の2種目制覇を目指す。パラリンピック史上、最も難しいといわれるコースを攻略できるのか。障害を逆手に取った独自の高速ターンとそれを支える肉体改造の日々に迫る。
出演者
【ゲスト】狩野亮,吉木りさ,【キャスター】山田賢治,【語り】風間俊介
ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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