私たちは高度に発達した資本主義社会に暮らしています。
しかし世の中は経済至上主義となりお金で簡単に買える「幸せ」ばかりが求められるようになりました。
精神分析家エーリッヒ・フロムは資本主義社会において「愛」は「商品化」され人々は「本当の愛」を見失ったと言います。
私たちは一体どうすればいいのでしょうか?「愛するということ」第4回は現代人に残したフロムのメッセージを読み解きます。
(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…「愛するということ」第4回でございます。
どうですか?ここまで。
第3回あたりでかなり具体的に分かってきたつもりなんですが。
みんな多分知りたいんだと思う愛って。
おかげさまでテキストを参考にしつつ見て頂いてる方も多いみたいですけどありがとうございます。
今回もまた迫りますよ。
さあ指南役の先生ご紹介いたします。
鈴木晶さんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
前回大抵の人は愛を誤解しているという話でした。
今日はそれは必ずしもあなたの問題ではないですよと。
つまり社会の問題現代の社会ひと言で言えば資本主義の社会ですね。
その社会に問題があって今愛が成立しにくくなっているそういう面についてお話をしていきたい。
それともう一つは具体的な愛をマスターしていくそういう問題に触れたいと思います。
さあ資本主義社会のせいで愛が成立しにくくなっているというのは一体どういう事なのかまずこちらをご覧頂きましょう。
「愛するということ」が出版された1956年。
アメリカは空前の好景気に沸いていました。
フロムは資本主義社会が求める人間像を辛辣に表現しています。
組織の命令に疑問を抱く事なく従順に仕事をし他人からの影響を受けやすい個性のない人間。
資本主義社会はそんな都合のよい人間を作り出しているというのです。
フロムはこのように均一化された人間をロボットに例えています。
ロボット化した人間は愛を商品として捉えているとフロムは警告したのです。
「愛の商品化」みたいな事出てきましたけどこれはどういう事ですか?一つ資本主義社会の特徴として何でも商品にする。
商品にならないもの売れないものあるいは商品的価値が付かないものには価値がないというのが一つの資本主義の理屈ですよね。
商品になるという事は交換ができるという事なんですね。
それこそお金と交換できるようなものとして金さえ出せば愛だって買えるそう豪語する人もいますね。
愛はお金で買えると思ってないよと思ってますけどでもやっぱりプレゼントをするとか。
尺度をそこにばかり求めてるところがありますからそれは偽りの愛ですか?私たちは人を見る時に心だけ見るわけではない。
顔も見るんですけどそれプラス例えば仕事更には収入学歴とかいろんなものがついてきてますよね。
それを丸ごと考えるとやっぱりフロムの言っている偽りの愛という事になるんだと思うんです。
あと損得ってやっぱり考えますね。
相手との釣り合いというのが今の損得ですよね。
要するにこれはいい買い物じゃないかもしれない。
あるいはかなりお買い得だと考えてしまうという事は買い物と同じように考えてるわけですよね。
これ面白いですね。
本当の愛は絶対的に損得じゃないと言ってるって事はその現代社会というか経済と愛は本当に水と油なはずだというのはすごく理解できますね。
今の日本人の愛というものにもこの社会の構造というか資本主義というのもすごく影響してるという事でしょうか。
そうですね。
この日本の社会の在り方によって愛の形も随分変わってきちゃってると思うんですね。
まず自分の側でコントロールできる。
都合のいい時はつきあって要らなくなったら物と同じで捨ててまた次の物を買うみたいな自分がコントロールできると思ってる人が意外に多いんじゃないかという気がします。
更には愛なんか要らないよ。
そんなもの無くても生きていけるよという人が増えているような気もします。
なるほど。
今「愛なんか要らない」とか「一人でも生きていける」とか言ってる人間が多くなってるような気がするがどうかね?
(助手)私そうですよ。
どこでも「おひとりさま」で全然問題ありません!それそれ!「おひとりさま」。
人間はね孤独に耐えられない生き物なんだよ。
いえいえちゃんとお給料も頂いてますし一人で十分に生きていけますよ。
一人で飲みにいくのも平気です。
一人で生きていても孤独を感じないという人間は資本主義社会に都合がよいと言えます。
人々が別々に暮らした方が消費活動が進み経済が成長するからです。
例えばテレビや洗濯機などの家電も4人家族に1台というより1人に1台の方が多く消費されます。
「おひとりさま」という現象も経済至上主義がもたらしたものではないのでしょうか。
おひとりさまを生み出してるのは資本主義社会というこれはまたちょっとびっくりする視点でしたけど。
みんなが一人一人になった方が当然物は売れるわけですよね。
一家に1台だったのが1人に1台になればその分売れます。
昔の社会というのは村であれあるいは家族であれ集団単位ではみ出した人がいると何とかそれを取り込もうとするあるいは村からはじき出す事によってその人は社会から放逐されてしまう。
そのために例えば結婚してない年頃の人がいるとおせっかいな人がいて縁談を持ってきて。
非常にこのおせっかいな人が社会的に機能してたわけですねある意味でね。
ところが今はそれが嫌だという事でどんどん家族というのもバラバラになり村社会って言われたわけですけども村社会は打倒しなくちゃいけないものだというのでバラバラにかなりなった。
そういう事を目指してた人から見ればほぼ実現された社会だと思うんですよ。
どうなったかというと一人一人バラバラになって孤独になってしまったそれがまあ結果ですよね。
ただこれの難しいところはそのしがらみの中できつくてきつくてしょうがない人間はまだ目指しますしある程度年齢いってくると何か俺が求めてた事は自由だったけど確かに自由と孤独がこんなに表裏一体というか同じ意味を持ってるなんてって。
僕なんかそういうショックを受ける世代だけどまあそうじゃない人もいっぱいいるしもともとは当然愛も欲しかったし愛もあげたかったし一人は嫌だったんだけど一旦一人になんないともたないぞとかもしくは誰も入れてくれないぞという人がその心のつらさを解決するために一人でいいって結論を出したりもするんで。
悟りよりもむしろ相手がいる分大変だよっていう。
そっちの方がやや楽なのにもかかわらずかっこよくも見えるから俺は一人でいいんだっていう人の気持ちすごい分かります。
そっちの方が特に日本人は強いんじゃないかと思いますが…そのために最低限…だからもう一歩進めて言うと…その愛は本当の愛でないといけないとフロムは言うわけですね。
そこで今日これからはその本当の愛を手に入れるあるいは自分が愛する事ができるようになるにはどうしたらいいのかという話をしていきたいと思うんですけどまずこれをご覧下さい。
道場に墨で書いてあるような。
何か寒稽古の朝にまず「規律集中忍耐」。
まさかこの道場が愛を教えてくれてるとは思いませんけど。
フロムさん武道をやってらっしゃる感じですよね。
ここで思い出して頂きたいのは「愛するということ」というのは日本語のタイトルですけれども原題は「愛の技術」という本でした。
この本の一番の特徴はこれは技術であって…いよいよ具体的に愛する技術を身につけていくにはどうしたらいいのかと。
何でもいいんですけどピアノを弾くあるいはテニスをする何でもやりたい時にはそれを練習しなくちゃできませんよね。
これは全ての何かを習得したいと思った時に必要な原則だと思うんですよ。
それは皆さん納得すると思うんですけれどもところが愛になるとこれは練習必要ない俺は生まれつきできるんだとこう思ってる人がほとんどなわけです。
それが愛にも必要であるというのがフロムが言いたいところです。
そしてテニスと違ってスクールは無いんですねこれは。
愛を教えてくれるところは無いですよね。
ほったらかしといたらできるわけじゃないという。
自分で身につけるしかないですね。
いわゆる自習です。
自習するといっても自習をするためには私たち何かきっかけってありますかね。
一番最初に大事な事はなぜ例えばテニススクールに行くかそれはテニスがやりたいからですね。
ですから愛を学ぶためにはまずどうしても愛が欲しい愛する事ができるようになりたいと思わなかったら行かないですよね。
これが一歩ですね。
この一歩を超えないと誰もやろうと思わないですね。
愛は技術だという事を知る一歩は今日踏み出しましたんで。
さあフロムは更に愛の技術を身につけるために必要な事がまだ他にもあると最終章で語ります。
こちらご覧下さい。
人を愛するのに必要な事。
はいここ大事!それは信じる事です。
信じるって宗教みたいな感じですか?いや違う。
言いかえれば「信念」を持つ事だ。
他の多数の意見や権威に左右される事のない自分だけが持った独立した信念の事だ。
第4章で私はこう書いている。
そして更に必要なのが「勇気」。
人を愛するには勇気が必要です。
「愛する」という事は…愛するには信念と勇気。
本当の愛を手に入れるためには信念と勇気を持って努力すべきなのだ!人を愛するには信念と勇気が必要であるという事なんですがまず「信念」このように書かれております。
人間は心理学的に言うと自分の知らない部分の自分というのがあって…自分が人を愛してると。
この愛が本物だと自分では信じてるんだけどもっと底の方では自分で自分を信じてないかもしれないですね。
これちょっと偽りの嘘の愛だ。
無意識のうちで気が付いていても自分で気が付かないという事が結構あるんですよね。
信念というのは毎日変わっちゃいけないわけです。
やっぱり信じ続けなくちゃいけない。
信じ続けるためには努力を続けなければやっぱり信念と言えないわけですからそういう事を愛に関してもおやりなさいというふうに言ってるわけですねフロムは。
信念が揺るぎないものであると思ってるのかもしれないけどでもどこかでこける事もあるでしょうしそうやってね。
小さな子供ってなかなか固い信念はまだ持てないわけです。
影響を受ければ変わってしまいますよね。
ですからここにおいてもやっぱり成熟しないとなかなか信念は持てないわけですね。
愛に関して何が難しいかというとある悟りの境地に達する方がむしろ優しいんじゃないかと。
一人でできるから。
一人でね。
なるほど。
相手がいるわけでしょ。
自分がどんなに信念を持ってても否定されちゃうかもしれないんですよね。
もう一つすごく大事だっていうのが「勇気」っていう事なんですけどそれが関係してきますか?そうですね。
どうしても相手が必要なものですから通じないんじゃないかあるいはひどい目に遭わされるんじゃないか。
やっぱり私たちそれを恐れてますよね。
私たちはある面でみんな孤独なわけですけどもそこから一歩踏み出せない最大の理由は傷つけられたくない。
傷つけられるぐらいだったらやらない方がいいと思ってしまうとどうしても最初の一歩が出ないわけですよね。
ですから愛って簡単に言いますけどこれは裏で傷つく事とどうも表裏一体になっていて一歩間違えばすごい痛い目に遭うものでもありますね。
ただフロムはその辺はあんまり強調していない。
なぜかというとそれ強調するとみんなもっと一歩踏み出さなくなっちゃいますよね。
さっきの3つの心構えと信念勇気というのがあれば本当の愛というものは私たち得られる手に入るんでしょうかね?やっぱりそういう努力の先にあるものでしょうね。
やっぱり始めなければ到達しない。
これは99%の人が誤解している。
それともう一つは与えられるものではなくて与える事なんだとこれを本当に納得できるかどうか。
これによって愛に向かって一歩踏み出せるかどうかという事が決まってくると思うんですね。
何かでも自分は愛が技術だと思った事もなくて素質だと。
愛は素質。
しかもコンプレックスが強かったから容姿にかなり影響される素質だと思ってたのね。
思ってたし今もそれがゼロだとは思ってない。
けど一旦それで諦めてたけどもどうやら技術の面がすごくあるという事を書いてる人がいるならもう一回このチェックポイントを全部チェックしてみようかとか自分の中で洗い直してみようかという感じにはなってほしいし自分もそうありたいと思いますね。
何か自分と妻の関係みたいな事の中にも今俺が主張してる事の中でもしかしたら足りない面がフロムの言う意味での愛において足りない事はどこだみたいな事をチェックするだけで物言いは少し変わると思うしもしそのチェックリストに当てはめてもきちんとしてるならばより信じられるようにはなるかなと。
フロムの「愛するということ」を何度も何度も読んでそれで愛がマスターできるものではなくてこれはあくまで実際に経験しないと深まっていかないものなんですね。
愛を経験して失恋を経験したとかうまくいかなかったそういう実際の経験があった上で読むと何が問題だったのかというのがちょっと見えてくる。
そういう意味で繰り返し読める本だなという気がしてます。
1950年代に書かれた本ですけれど今でも読むという事は…今読む価値というのもすごくありますよね。
そうすると何か今でこそ今こそ読んでみるといいかなという気はちょっとしますね。
何か愛したいと思った人が増えたかな?実際僕はそうなんですけどここで収録終わるじゃないですか。
帰りに旦那と考えます?自分の夫婦間について考えます?どうだろう?考え直してみようかな。
僕相当考えますよ。
自分がかみさんの事をいつもどう考えてるんだろうという事をなぞってちょっとはフロムの言ってる事に沿ってるところが見つかるとホッとするしそうじゃないなと思うとここはもう一回考えなきゃいけないなと思ったりとかしますからね。
私もそういえば途中で夫に「あなたは『愛するということ』を読んだ方がいいわ」って思わず声を荒げて…。
これ違いますよね。
これフロムの言ってるやつと違いますよね。
「あなたが先に読め」は絶対違いますよね。
そうか!もう間違ってるどうしよう。
出直します。
鈴木先生本当にありがとうございました。
ありがとうございました。
愛はすばらしい!たゆまぬ努力と修練を期待する。
グッドラック!2014/03/05(水) 05:30〜05:55
NHKEテレ1大阪
100分de名著 愛するということ[終] 第4回「本当の愛を手に入れる」[解][字]
精神分析家・エーリッヒ=フロムの作品で、愛の本質を考察した「愛するということ」を読み解く。第4回では、本当の愛を手に入れるためにはどんな信念が必要なのかを学ぶ。
詳細情報
番組内容
高度に発達した資本主義社会に生きる我々は、社会の歯車になりやすい。こうしたことからフロムは、現代人は自我を抑制して生きざるを得ない存在で、常に大きな孤独を抱えているとした。人生に疲れ、愛どころか、殻にひきこもってしまう人が少なくないのはそのためだという。フロムは、自我の成熟と安定のため、さまざまな提言をしている。最終回では、本当の愛を手に入れるため、愛に対するフロムの信念をまとめる。
出演者
【ゲスト】法政大学教授…鈴木晶,【出演】斉木しげる,【司会】伊集院光,武内陶子,【語り】山崎和佳奈
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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