100分de名著 孫子 第2回「心をつかむリーダーとは?」 2014.03.19

およそ2,500年前。
古代中国の兵法家孫武が著した「孫子」。
当時の将軍は君主から預かった大軍を指揮します。
多くの部下を意のままに操るため「孫子」には人心掌握術が詳細に記されています。
最初はまずは信頼関係を築く。
そのための手段が優しさという事なんですね。
これって現代の中間管理職の人たちこういう苦労してると思うんだよね。
上司とどうつきあうか。
部下をどう操縦するか。
第2回では「孫子」が説くリーダー論に迫ります。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…古代の中国の兵法書「孫子」。
前回は「孫子」が考える兵法の神髄「戦わずして勝つ」というところをひもといてきたんですけれども今日は組織を運営するリーダー将軍のあるべき姿といいますかリーダー論という事でひもといていきたいと思います。
今日も指南役の先生は中国思想史研究者の湯浅邦弘さんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
今日はリーダーという事ですけど伊集院さんが考えるいいリーダーってどういうイメージですか?リーダー…落合監督ですかね。
どういう感じですか?一つは情に流されない冷静である。
…なんだけれども最後のところでポロッと優しさを見せたりそういう感じですかね。
「孫子」はとにかく組織をどうするかと。
その組織の中でリーダーがいかに大切かという事を説いてますね。
そういう中で孫子のリーダーとしてのエピソードが数少ないエピソードなんですけども残っております。
孫子自体の?はい。
さあ「孫子」を書いた孫武のエピソードからご覧頂き「孫子」が考えるリーダー像をひもといてまいりましょう。
孫武はもともと斉という国の出身でしたがいわれのない罪を着せられ呉の国に亡命。
ここで呉の王に見いだされたのですがそのきっかけとなった話が残っています。
孫武が宮廷に赴いた時呉の王から「兵法に従って宮中の美女180人を指揮してみせよ」と命じられました。
孫武は180人を2隊に分けそれぞれ…そして全員に「自分の指示に従って動け」と命令します。
ところが実際に命令を出すと女たちはゲラゲラ笑うだけで実行しません。
何度説明しても同じでした。
そこで「命令の意味が分かっているのにやらせないのは隊長の罪だ」と王の妃2人を斬り捨てようとします。
この時王は「この2人がいなくては食事も喉を通らない」と言って斬るのを止めさせますが孫武は「将軍として軍中にいる限り君主の命令といえども聞き入れられません」とはねつけ殺してしまったのです。
この後別の隊長を選んで命令を出したところ一糸乱れず動くようになりました。
そこで孫武は王に「ご覧下さい。
王の思うとおりたとえ火の中水の中でも行かせましょう」と報告したのでした。
このエピソードからは孫武の厳しい一面が見えてきます。
しかしそれだけではなくそこにはリーダーとしての普遍的な在り方も描かれているのです。
え〜!自分の仕える王様の妃まで首をはねてしまう。
ただ孫武が厳しいというだけじゃなくてまずこの王様もすごくない?王様がそれでも孫武を召し抱え続けるという。
逆に言うとそれを分からせるための孫武の覚悟みたいなのもすごいと思うんだよね。
これ一歩間違えば自分が危ないですよね。
クビどころか殺されるかもしれないんだけど孫武は「そういうものだ」という事を主張するために割と命懸けでやってるようなところもひしひしと伝わるんですけどね。
ありますね。
このエピソードは2つの事を言ってるんですけども一つは…組織というのはルールこのルールにみんなが従わなければ動かないわけですね。
このルールを徹底して従わせる。
この大切さを説くエピソードですね。
もう一つは…将軍というのは現場の最高責任者で…そうすると全権を委任されたあとはたとえ君主の命令とも言う事を聞かないとそれくらいの威厳を持つ存在だとそういう事を表すエピソードですね。
これは当時の君臣関係の中でそのような暗黙の了解はあったと思いますね。
それを分かってくれる君主の方にも度量が必要です。
いい社長がいてくれないとね。
ある程度いい社長がいてくれないとというところも僕あるかなと思う。
これは現代に言いかえればまさに中間管理職。
組織の最高責任者ではないんだけれども現場の最高責任者であると。
そういう人に向けてのお話だと思いますね。
急に立場が近くなったという方も多いんじゃないかと。
まあその中間管理職な将軍ですけれどもこの「孫子」の中には将軍に求められる資質について書かれているところもあるんですね。
そうですね。
それではこちらをご覧下さい。
将軍に求められる5つの資質。
「孫子」はこの中で最も大事なのは「智」だと言っています。
順番が重要ですか?これが重要ですね。
どうでしょう将軍というとこの「勇」というのが皆さん一番最初に来るんじゃないかなと思われるかもしれませんが。
「勇」「厳」が割と強いイメージでした。
勇ましくて厳しいけど実は優しい面もなくはないとか。
ところが組織を統括する時には…「智」であると言ってるんですね。
ここは面白いですね。
しかも並べて書くというか「将とは智なり」って書いて違う行でまた「でもこれも要るよ」じゃなくて全部は並べてるんですね。
はい。
こういう資質を持っているという事。
1つだけというのは困ると思うんですね。
ちょっとそのバランスなんですけどバランス感覚について説いた部分があります。
(孫武)将軍の資質が5つあるように5つのタブーもあるんじゃ。
生きて帰らぬ覚悟をする将軍は結局殺されてしまう。
逆におじけづいて絶対に死にたくないと思っている将軍は結局捕虜になるだけ。
怒りに任せた拙速の行動は侮られるし度を過ぎた清廉潔白さはそれを逆手に取られて辱めを受け民への慈しみの気持ちが過ぎれば戦闘に専念できない。
このようにバランスを欠いて極端な行動をとる将軍は駄目なんじゃ。
個人的な感情で戦争をしてはならない。
最も大事なのは主観に流されない冷静さなのじゃ。
これなかなか面白いですね。
5つのタブーもある。
タブーちょっと身近でしたね。
言葉としてすごく上手な…スパイスの利いた言葉だなと思うんですよね。
これちょっと自分に当てはめてみても。
将じゃなくても自分を高めるために「いいいい。
もう生きて帰るとか関係ないんだ。
もうケガしようが何しようがいい。
クビになる覚悟だ」みたいな高め方をしがちだけどそう思ってかかるのも間違ってるよって。
死んでもいいと思うと殺されるんだからって。
どれか一つにのめり込んではいけない。
常にバランス感覚を持ってクールな知性で判断していかなければいけないという事を言ってますね。
どれタイプ?どれも当てはまる気がして。
僕は逆説的なとこもあるんだけど必死だって思いがち。
必死で頑張ろうと思いがちだからたまにそれのエンジンがかかりすぎたりしちゃうんで。
そういう事じゃないよねみたいのをするのには僕はこれは今後頭の中に入れていこうと思う。
そういう意味で言うと私は「愛民は煩わさる」。
周りの事を考え過ぎちゃって大事にしてあげたいがために間違うという事が結構あるかもしれないです。
ただ難しいですよね両立させるのは。
バランスとれる人間リーダーというのはなかなかいないですよね。
確かに5つの要素これをバランス良く持っている人はそうそういないと思うんですね。
ただ問題はそれを自覚しているかどうか。
例えば自分はこの点は長所だこの点は短所だだから長所を伸ばして短所の方に行かないようにする。
そういう自覚があればいいんですね。
自覚がないというのがやっぱり敗北の原因になるんですね。
しかしこの孫武は将軍についてすごく細かい事言ってますけどここまで気にしないといけないという事はどうしてだったんでしょう?それは孫子が率いた部下たちがはっきり言ってしまえばアマチュアだったという事なんですね。
プロではない昨日までは農耕に従事していた農民たちを国家総動員で動員してるわけですね。
それまでの戦争だったらある程度プロだからみんなもちゃんといろんな事を意識してるし言う事を聞くのも当たり前だし勝とうとするのも当たり前だけどこれからはそういう時代じゃないぞという。
はぁ〜そうか。
これは大変だ!どの時代もそういう事を言うんだろうけど管理職からしてみたら最近の若者をちゃんと操縦するのにはみたいな事を…最近そういう事ってよく言われてるようじゃないですか。
それは一からちゃんと足元から自分のリーダー像が合ってるかどうかを見直すためにも恐らくいいんでしょうね「孫子」は。
その「孫子」の部下操縦法とは一体どんなものなのか?ご覧頂きましょう。
(上司)君!ここゼロが1つ足らないじゃないか。
ここもここもだ。
(部下)すいません。
この間もあったよなこういうミスが。
兵士は優しくすれば親しんでくれ従ってくれる。
だからまずは優しく信頼関係を保つ。
これが先。
信頼関係ができたら今度は厳しく罰を適用していく。
この順番が大事。
初めから厳罰だけでは反感を買って信頼は得られないぞ。
なあ。
へ〜…2,500年前にこの考え方があるんだ。
僕が唯一所属した事がある集団で落語会みたいなところなんですね。
圓楽一門に若い頃入りましたから。
そういうところはね最初厳しくしてるふるいにかけるところもあるんです。
もちろん優しさもあるんですけど。
ちょっと特殊なのは覚悟はできて来てるでしょうねってところだし。
みんな弟子入りしたい人たちはね。
しかも師匠が好きじゃなきゃ弟子入りに志願しないからというのはあるんでしょうけど。
最初まず優しくするっていう考え方を軍がしてるってすごいなと思って。
ものすごく新しい考え方な気がするんですけど。
アマチュアだからねみんな。
そうなんだね。
今どきの子はこうなんだよという感じでしょこれって。
組織をコントロールするためにどういう手順をとるべきかを言ってるわけですね。
これって現代の中間管理職の人たちってこういう苦労をしてると思うんだよね。
みんな正社員じゃなかったりするじゃないですか。
昔はそのお店で働いてる下っ端でも一生懸命頑張れば出世もしていくしのれん分けもしてもらえるから当然お客さん大事にするのなんか当たり前だろなんて言わなくてもよかったと思うのね。
だけど「じゃあ辞めりゃいいんだろ。
どうせ俺最後までここにいるわけじゃないし」って関係の人の場合はあらかじめきちんとこういう事を頭に入れて接しないと多分ちゃんとお店も立ち行かないと思うんだよね。
すごく分かりやすいと思います。
その事をもう少し詳しく書いた部分がありますのでこちらをご覧下さい。
…という言葉があります。
将軍と部下には血縁関係はないわけですね。
実の親子ではない。
しかしかわいい赤ん坊を見るかのようにする。
そうして初めて危険な谷底にも出かける事ができる。
また卒を見るまなざしこれはまるでかわいい我が子を見るようにするんだと。
そうして初めて死生を共にできるんだと。
そういう心持ちでいろと?ええ。
そうじゃなきゃきつい仕事一緒にやんないだろという事だよね。
でも上司と部下の関係って親子ではない血縁はないから無償の愛みたいなものとは違うわけですよね?それとは違いますね。
ちょっと面白いエピソードがあるんですけれども同じく春秋戦国時代に呉起という兵法家がいたんですけどもこの呉起という将軍は常に兵卒と寝食を共にしたというんですね。
そして傷を受けて腫れ物を病んだ兵士がいると自分から…これ非常に愛を感じますね。
するとその兵士のお母さんが泣いたというんですよ。
なぜ泣いたと思いますか?これは決して愛に感動して泣いたからじゃないんですね。
つまりその兵士は将軍からそんな事をしてもらったという事に感激して後日必死の覚悟で命を捨てて奮闘したんですね。
その事を予見したお母さんが「この子はもう死んでしまう」と思って泣いたと。
それはすごいな。
そっちか!そのお母さんがすごすぎるな。
私今ただ感激しただけの母でした。
ここでまたぐっと気に入るのはやっぱり道徳論じゃないですよね。
要するにそこまでしたら一個になるよというテクニック論じゃないですか。
もちろん人間は全くその気持ちがなくて行動だけでそれがとれるかというと別だけれどもただ単に部下を愛せよという話じゃない。
今この数分に何段階もつかまれましたね。
私リーダーになれないと思っちゃった。
これはもう何か分かりませんね。
偽善がどこまでやれば善なのか偽愛がどこまでいけば愛なのかは僕は分かりませんけどでも多分どこかに冷静じゃなきゃ駄目だから。
自分が自らうみを吸い出してやるという行為がみんなにどう見えるか相手にどう伝わるかという事をクールに判断しているんですね。
母親だけはお見通しだったけど少なくとも軍の中ではきちんと機能したという事ですよね。
さあ一方将軍も君主に仕えてるわけですよ。
じゃあその君主との関係は一体どうあるべきなのか?こちらをご覧頂きましょう。
(部下)部長これは明らかに不正です。
(上司)これは君…黙っておいてくれないか?すいませんその命令には従えません。
将軍は戦場における最高責任者じゃ。
主君の命令が100%完璧だとは言えない。
時には「いけませんよ」と言ってストップをかけるという事もありうる。
これは分かるけど難しいね。
できないですよねなかなか。
現場の判断が優先されるという事を「孫子」は言うんですがこういう言葉があります。
戦争のルール在り方に従ってもし計画段階で勝つ事ができるのならばたとえ君主が戦ってはいけないと言っても戦っていいのだと現場の判断でやってもいいのだという事を言っています。
これは君主から将軍への上意下達という上下関係から見ると一見不思議な感じがするんですけど…そういう事を言っている部分です。
将軍は上には物申すし下には愛情もかけなきゃいけないしと非常に真ん中にいる人は苦労が多いですね。
大変なこれは役回りですね。
こんなに大変なのに「褒められてはいけない」と言ってるんですね。
「褒められてはいけない」?はい。
これは昔の戦上手の者というのは計画段階で十分に勝算が立っている敵に勝つんだと。
だから戦上手の者の戦争勝利については戦上手だなという名声があがる事もないし武勇を奮ったなという評価があがる事もない。
勝つべくして勝つからだという事を言ってるんですね。
スポーツでもドラマチックな勝ち方って到底負けるだろうってところを逆転するからそれ無茶っちゃあ無茶ですからね。
その一戦一戦はドラマチックであの試合は名勝負で名監督だって言うけどじゃあトータルの勝率が高いかって言ったらそんな事もないと。
西武がすごい強い時代の森監督って強すぎちゃって実際ファンもあまりに勝ちすぎてちょっと来なかった。
後から森監督やっぱりすごかったと思うけど…という感じ。
でも「三国志」とかねいろいろすごい武将いるわけじゃないですか。
こういうのはどうなんですか?これは歴史ドラマの中でかなり脚色はされているんですね。
むしろ歴史には名前が残っていないんだけども非常に優秀な将軍は数多くいたんではないかと思いますね。
ここから導き出される事はどういう事なんでしょう?こういう言葉があります。
名声を求めて進んではならないと。
つまり将軍というのは中間管理職非常に哀愁漂う存在なんですね。
なぜかというと仮に成功してもそれは全て君主のもの失敗したら自分が全ての責任を負うとそういう悲哀に満ちた存在なんですよ。
そういう事ですね。
そうなりますね。
そこを割り切るという事ですか?はい。
ですからこれは大変な役回りなんですね。
人間というのは目立ちたがり屋な存在なんですけれどもしかし「孫子」が言ってるのは一人の英雄一人の傑出した才能で勝ちを求めるという事ではないんですね。
むしろ凡庸な将軍でも…これがむしろ「孫子」が読まれ続けている大きな原因だと思いますね。
今回は「孫子」が考えるリーダー論に迫りました。
次回は「孫子」が説く戦争で勝つための知略についてひもといていきたいと思います。
勝たなきゃやっぱりいけないから。
負けてもいいなんて兵法はないからね。
勝つんです。
先生次回もよろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
2014/03/19(水) 05:30〜05:55
NHKEテレ1大阪
100分de名著 孫子 第2回「心をつかむリーダーとは?」[解][字]

古代中国の兵法書「孫子」。第2回では、組織の中でどのようにすれば目的を達成できるのか、その心得を読み解く。上司や部下への接し方など、中間管理職必見の名言も満載!

詳細情報
番組内容
古代中国の将軍は、国という大きな組織の中では、中間管理職のような存在だった。そのため「孫子」には、上司(王)や部下(兵士)に対する人心掌握術が細かく記されている。そして、実現が出来ないような道徳論は説かなかった。そのため「孫子」に書かれたリーダー論は非常に具体的で、今でも実用性が高い。第2回では、上司になめられない方法や、部下から愛される態度など、中間管理職には必見の心得を紹介する。
出演者
【ゲスト】大阪大学教授…湯浅邦弘,【出演】斉木しげる,【司会】伊集院光,武内陶子,【語り】山崎和佳奈

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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