クローズアップ現代「なぜ進まない 再生可能エネルギー」 2014.03.05

私たちの電気料金には再生可能エネルギーの普及を促すための特別な料金が上乗せされています。
しかし今、その普及が思うように進んでいません。
3年前に起きた福島第一原子力発電所の事故をきっかけに国は、再生可能エネルギーの促進へと大きくかじを切りました。
普及の起爆剤と位置づけた太陽光発電。
しかし実際に発電できているのは僅か2割にとどまっています。

背景にあるのが制度設計の甘さです。
殺到した新規参入業者に対し当初は書類さえ整っていれば認定が出されていました。
太陽光パネルを設置できない農業用地。
土地の所有者の許可がない場所もありました。

一方、送電網がネックとなり発電量を増やせない事業者も続出しています。
国が普及を加速するとした再生可能エネルギー。
なぜ進まないのかその背景に迫ります。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
先週発表された、政府のエネルギー基本計画の案では風力、太陽光、地熱などの再生可能エネルギーの導入を最大限加速していくとしています。
福島第一原子力発電所の事故から3年。
政府案では原子力発電を時間帯にかかわらず一定の電力を供給するベースロード電源と位置づけるとともに再生可能エネルギーの普及を目指す政策の方向性を強調しています。
この政策の実現のためには発電設備や作った電力を送る送電網の強化など巨額の資金が必要になります。
どんな制度設計を行えば投資を抑えながら日本が持つ再生可能エネルギーの潜在力を引き出していくことができるのか。
2年後をメドに消費者が料金を比べながら自然エネルギーの発電会社をはじめさまざまな電力会社の中から好きな会社を選んで電力を購入できるようになる電力業界の大改革が進められようとしています。
そこに向けてどんな制度を作っていくのかが問われているのですけれどもここに来て制度設計の甘さが表面化しています。
ご覧ください。
一昨年の7月から国は固定価格買取制度を導入しています。
再生可能エネルギーの発電事業者は国に事業の申請を行い認定を受けます。
事業者は発電した電気を既存の電力会社に一定期間決められた価格で基本的にすべて買い取ってもらうことができます。
その分、高くなった料金は消費者が負担することになっています。
ところが国が特に力を入れてきた太陽光発電で認定された事業のうち実際に発電を行っているのは僅か2割であることが明らかになり国は600件以上の認定を取り消す方針を打ち出さざるをえなくなったのです。
この異例の事態はなぜ起きたのでしょうか。

東京にある太陽光発電を手がける会社です。
去年、ある発電事業の計画が持ち込まれました。
これが、その事業の計画に対して国が認定したことを示す書類です。
場所は九州。
1日に最大4万9000キロワットを発電できる能力があると書かれています。
一体どのような場所なのか。
業者に同行し現場を見にいくことにしました。
計画では、35万坪の土地に太陽光パネル20万枚余りを設置するとされています。
しかし、土地の多くは日当たりの悪い北向きの斜面。
中には農地以外への転用が厳しく制限されている土地も含まれていました。
なぜこの土地に認定が下りたのか。
今回の制度では、当初、申請の際事業者名や設備の概要などが書いてあれば土地の所有者の許可はなくても認められる仕組みでした。

この計画に対し太陽光発電を手がける会社では実現の見込みがないと判断し買い取りを見送りました。
この会社には、これまでにおよそ500件の事業計画が持ち込まれていますがそのほとんどが事業化できない案件ばかりだといいます。

当初、書類が整っていれば認定が受けられた今回の制度。
新規参入を狙う業者が殺到しました。
その理由は、国が設定した高い買い取り価格でした。
太陽光発電を手がける業者が作った電力は既存の電力会社が買い取る仕組みとなっています。
太陽光の買い取り価格は42円。
風力や地熱などに比べて2倍近く高く設定されていました。
制度では、20年にわたってこの価格で買い取ることが保証されているため初期の投資を差し引いても巨額の利益を得ることができるのです。
太陽光発電に関わっている業者は申請も、たやすく大きな利益が見込めたといいます。

一向に普及が進まない太陽光発電。
取材を進めるともう一つの壁が見えてきました。
大規模な土地が安く手に入り太陽光発電の計画が相次いでいる北海道です。

大体、場所なんですけどあの奥の白い柵、分かります?
はい。
あっちまでです。

この業者は競走馬の牧場だったこの土地をおよそ1億円で購入。
大規模な設備を整えすぐにでも事業をスタートしたいと考えていました。
しかしパネルの着工直前北海道電力から一通の通知が届きました。
発電を始めても電力を買い取ることはできないというものでした。

なぜ電力会社の都合で電力が受け入れられない状況が起こるのか。
法律では、電力会社は再生可能エネルギーの買い取りを拒んではならないと決められています。
ただし電気の円滑な供給の確保に支障が生じるおそれがある場合には買い取りに限度を設けることができるとされています。
北海道電力は、電力需要を満たすためのベースとなる電源は再稼働を見込む原子力発電。
その次が火力発電など。
太陽光発電を増やし過ぎると供給が不安定になり過ぎると判断し太陽光発電の受け入れ限度を40万キロワットとしていました。
電力会社に買い取りを拒まれたこの業者。
今のままでは普及は進まないと感じています。

経済産業省の固定価格買取制度の見直しを検討するワーキンググループのメンバーでいらっしゃいます、東京大学社会科学研究所教授の松村敏弘さんにお越しいただきました。
固定価格買取制度のもとで、太陽光を普及させようとしたこの制度が、振り返ってみると、600件以上も、認定の取り消しを行わざるをえなくなった事態、どう見ていらっしゃいますか?
このようなずさんな計画というのが、こんなに多数出てくるというのは、考えていませんでした。
この点では、やはり制度設計に問題があったということはあると思います。
これの背景には、買い取り価格は確かに高い価格ではあるのですが、それが急速に下がってくるということが予想されていたために、一刻も早く枠を確保する誘因が働いてしまってこのようなことが起こってしまったのだと思います。
実際に、ですから認定を取った方が、本当に事業を行わないで、その枠だけを取ろうとしていた?
その可能性も否定できません。
ただ、一方で、入り口を厳しくし過ぎると、今度は、事業者が入りにくくなるということがあると思いますから、現在の制度の見直しでは、入り口については、あまりにもひどいものははじくということをしますが、基本的な大枠は変えず、認定を取ったあとで、一定期間、発電できないものに関して、認定を取り消すなり、あるいは買い取り価格を下げるなりという対応で、このような事態を防ごうという見直しが進んでおります。

具体的に入り口のところで少しハードルを上げるというのは、どんなことを考えてらっしゃいますか?
土地の確保の状況だとかについて、あまりにもひどいケースははじくということになると思います。
そしてその一定期間、発電が行われなければ取り消す、この期間はどれぐらい?
恐らく6か月ぐらいになるのだと思います。
それとは別に、今のリポートにありましたように、土地を確保して、そしてまさにその大規模な発電事業を行おうとしたやさきに、地元の電力会社から発電した電力を、送電できないと、地元の電力会社に断られてしまうと、電力会社の事情で、事業が行えなくなるような、こうした事態というのは、最大限、再生エネルギーを加速させていくという方向の大きなこれは障害になりませんか?
しかし一方で、電力の安定供給のためには、このような変動電源を受け入れる上限というのが生じてしまうということは避け難いことだと思います。
変動電源というのは?
太陽光だとか、風力だとかですね。
いつ、発電量が変動するということですね。
しかし、一方で、この40万という数字が、本当に妥当なのか、そこでの想定というのが妥当なのかということについては、議論の余地があると思います。
これに関しては、事業者にとっては、ある日、突然、不透明な理由でつなげないと言われたら、ビジネスが参入できなくなってしまいますから、これに関しては、透明性と妥当性というのを第三者がきちんと確認するということが今後、必要になってくると思います。
もし、そうしたぎりぎりの段階で、突然断られたっていうような企業があることが分かれば、やはり投資に及び腰になる可能性ありますよね。
はい、後から突然、言われるということになると、ビジネスへの影響が極めて大きいので、中立的な第三者機関が、ビジネスに入る前に分かるような形で、客観的に示すということが、非常に重要になってくると思います。

今のお話にありましたように、再生エネルギーの積極的な導入を阻む大きな課題として浮かび上がってきたのが、発電した電力をどうやって運ぶかという点です。
送電網のインフラ整備の遅れをご覧いただきましょう。

先週、東京で開かれた再生可能エネルギーの展示会です。
国内外1500以上のメーカーが参加し独自の技術を売り込みました。
各社が特に力を入れているのが太陽光よりも出力が大きい風力発電です。
アメリカのGE・ゼネラル・エレクトリックは台風の多い日本でも効率よく発電できる風車を開発したとアピールしました。

一方、再生可能エネルギーを普及させるうえで大きな障壁として指摘されたのが送電網の問題です。

一体日本の送電網の課題とはなんなのか。
これまで送電網は既存の電力会社が原発や火力発電所などから消費地に電気を送るためにつくってきました。
そのため新たに風力発電に参入した会社が自分の電力を送ろうと思っても基本的には、みずから設置しないかぎり送るすべがないのです。
日本有数の風力発電の拠点青森県六ヶ所村です。

この会社では、すでに50基以上の風車を設置。
しかし今送電網が不十分なことが問題となっています。
これまでは近くの変電所までみずから送電線をつくって電気を送ってきました。
さらに規模を拡大しようとしたところ電力会社から、この変電所は容量がいっぱいでこれ以上受け入れられないと言われたのです。

接続できるといわれた変電所までの距離は40キロメートル。
そこまでの送電線の建設には40億円以上かかり発電事業者が負担しなければなりません。
その上、建設した送電網は自分たちで維持管理していくことが求められその負担の重さから事業の拡大に踏み切れずにいるのです。

さらに再生可能エネルギーを飛躍的に普及させるためには電力の大消費地と結ぶ大規模な送電網の整備が必要です。
日本の風力発電の潜在能力のおよそ半分を占めるといわれる北海道北部です。
国の試算では400万キロワット近い風力発電の電力が得られるとしています。
ここで大きなプロジェクトを立ち上げようとしているのが大手通信会社ソフトバンクグループです。

子会社SBエナジーを立ち上げ北海道で150基以上の風車を設置する計画です。

北海道北部で作った電力を仮に大消費地の首都圏に送れれば首都圏の電力需要のおよそ1割を賄えるとしています。
しかし、問題となっているのが北海道と本州を結ぶ北本連系と呼ばれる送電設備です。
現状では容量が不十分でさらに大規模に増強するには5000億円かかると試算されています。

この会社では国が主導して全国的な送電網を構築する枠組みを作ってほしいと考えています。

再生可能エネルギーの積極的な導入に向けて、やはり大きな鍵を握っているのが、この送電網の強化、そこにお金を投資しないといけないということですね。
日本の送電網というのは、VTRにも出てきた北海道と東北をつなぐ連系線だけでなく、地域内の送電線も含めて、極めて貧弱だったと思います。
設備投資は圧倒的に足りなかったと、私は思っています。
しかし一方で、風力の適地に、発電機を敷き詰めて、それで消費地まで大送電線で運んでくるというのが、本当に効率的かどうかというのは考える必要があります。
仮に消費地に近い所のほうが、発電コストは高かったとしても、送電コストまで考えれば、そちらのほうが安いということであれば、バランスも考える。
地産地消と、それから大規模な送電線による送電というののバランスを考えていくということが非常に重要になってくると思います。
その観点からも、日本全体をにらみながら、最も効率的なインフラ整備、送電投資というのができるように、機関を新たに作り、その機関が投資計画を作り、日本全体にとって最も合理的な再生可能エネルギーを導入するために、最もコストが低くなるような形で、効率的な設備形成ができるような機関というのを作ることが、極めて重要になってくると思います。
今、おっしゃった機関の設置というのは、ちょっとこちらをご覧いただきたいんですけれども、電力システム改革が行われる見通しで、2015年にその設立を、設置を予定しているわけですよね。
ここは本当に全国を見て、考える機関ですか?
今まで地域ごとの電力会社が、基本的に地域の事情を見ながら、作っていた計画というのを、全国をにらんで、最も効率的な計画を作るという機関になるはずです。
そのような、実効性があるような、透明で公正な費用負担のもとで、みんなが納得できるような設備形成というのを、推進できる機関にしていかなければいけません。
再生可能エネルギーをどうやって、導入を加速させていくのか、最大限、考えたときに、これから、どういう制度設計が一番の鍵になっていくと思われますか?
再生可能エネルギーに関しては、一番のキーは、固定価格買取制度ですから、この固定価格買取制度の大きな枠組みというのをしばらく守って、それで再生可能エネルギーの普及を促すということが、きわめて重要だと思います。
しかし、再生可能エネルギーを、これだけに頼って、長期間、維持しようとすれば、膨大な国民負担になってしまうので、最終的には、自立できるようにならなければいけません。
そのためには電力システム改革で、電力市場を自由化し、消費者が選択できるようになる。
その結果として、再生可能エネルギーを支持する消費者が、多く再生可能エネルギー、事業者から電気を買うことによって、普及を後押しするというようなことも必要になってくると思います。
自分は安い電力が欲しいのであれば、ある電力会社を選ぶでしょうし、少し高めでも自然のエネルギーがいいわという人たちがいれば、そっちに投資が行われていくと。
再生可能事業者も、コストを下げれば、それでシェアが上がってくると思います。
どうもありがとうございました。
2014/03/05(水) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「なぜ進まない 再生可能エネルギー」[字][再]

政府の「エネルギー基本計画」でも導入を最大限加速させていくとうたわれる「再生可能エネルギー」。だが新たに始まった制度の綻びも見えてきた。今後の普及への行方を探る

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京大学教授…松村敏弘,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京大学教授…松村敏弘,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:17219(0×4343)