藤野優子解説委員でした。
次回は今井純子解説委員と共にお伝えします。
ぜひ、ご覧ください。
落語と仏教のコラボレーションでブッダのありがた〜い教えをご案内!落語はもともとお坊さんの「お説教」がルーツともいわれる伝統芸能。
実はブッダの教えのエッセンスがちりばめられている。
そこでお寺の本堂に東西の噺家がそろい踏み。
仏教にまつわる古典落語を披露します。
今回の噺家さんは小気味よい啖呵に江戸の香り漂う…これからも一つよろしく頼むよ。
うん!ハッハッハ!せがれや。
開演です。
(読経)舞台は東京・新宿にある「火伏せの大黒天」として親しまれている…「落語でブッダ」へようこそ!番組講師の釈徹宗です。
落語を通じて仏教的に深読みをしていくというちょっとけったいな番組です。
第3回目のテーマは…演目は…江戸人情噺です。
「甲府ぃ」の「甲府」とは現在の山梨県甲府の事。
富士を望む甲府から車で1時間余り。
身延山の中腹に日蓮宗総本山・久遠寺はあります。
日蓮聖人が開いたこの寺の宗派は江戸時代法華宗や日蓮宗と呼ばれていました。
登場人物は甲府から出世しようと江戸へ出てきた善吉。
浅草で豆腐屋を営む親方女将さんそして一人娘のお花。
皆日蓮聖人の教えに帰依する法華信者です。
江戸に着いたもののすぐに浅草でスリに会ってしまう善吉。
空腹に耐えきれず豆腐屋の店先でうの花を盗み食いし捕まったところから噺は始まります。
まずはお聞き下さい。
入船亭扇辰師匠「甲府ぃ」です。
(拍手)豆腐屋の親方ががっくりうなだれる善吉に声をかけます。
お前さん何だね江戸の人じゃねえようだな。
ええわし甲州でございます。
甲州。
甲州のどこだい?甲府でごぜえやす。
甲府と言いましても甲府の在の山ん中でごぜえやして。
お話し申し上げますとわしごく小せえ時分に二親と死に別れまして。
それから今日まで叔父叔母の手で育ててもらいました。
いつまでも叔父の厄介になるのは心苦しいなんとか江戸へ出て出世がしてえと思いまして。
途中身延山寄って願かけしてどうぞ3年の間に江戸で出世ができますように一人前になりますようにとお願えをして江戸へ出て参りやしたのが昨日の事でございます。
あんまり腹が減ってたもんですから悪い事と知りながらつい手が伸びたわけで…。
どうぞ…勘弁して下せえやし。
このとおりでごぜえやす。
そうかい。
それは災難だった。
お前さん何だね今話の途中で身延山へ願かけ寄ったなんて事言ってなすったがなお前さんご宗旨は法華かい?ええ。
わし代々日蓮宗で。
そうか。
ハッハッハ!これはいいなあ。
というのはな私が法華なんだよ。
法華も法華!バカな法華でな。
こうして同宗のお前さんがうちに飛び込んできてくれたのも何かの巡り合わせだ。
いやいやよく来てくれた。
あっそうだ。
もしよかったらなうちで働いてみねえか?ありがとうごぜえやす。
こちらさまのようなご親切さまに使って頂きやしたらこんなありがてえ事はございません。
いいかい。
そうか。
そりゃよかった。
お前さんに頼みたいのは売り子なんだ。
ただ売り子ちゅう事になりますと初めての事でごぜえやしてそうたら難しい事がわしにできますか?難しくはねえんだよ。
やる気さえありゃあ誰にでもできるんだ。
豆腐屋の売り声ってのはなどこのうちでも大体決まったもんでな。
いいかい?こういう調子でやるんだ。
よく聞いとくれよ。
「と〜ふ〜なま〜あげ〜がんも〜ど〜き」。
こういう調子だ。
このがんもどきというのがなその家によって入れるものがいろいろ変わってくるんだよ。
私んところはねごま入れるんだ。
ごまってのは体にいいそうだよ。
皆さんにたっぷり召し上がって頂こうっていうんでなうちではふんだんにごまを使ってるんだ。
だからね売り声の方もちょいと変わってくるんだ。
いいかい?こういう調子だ。
「と〜」ここは同じだよ。
「と〜ふ〜」このあとだ。
「なま〜あげ〜」というところをな「ごま入り〜がんも〜ど〜き」とこういう調子でな。
まあまこれはなおいおい稽古してくれりゃあいい。
よしじゃあ善さん明日から頼んだよ。
明くる日になりますと言われたとおり重い荷を背負ってあっちの町内からこっちの町内へ。
「と〜お〜ふ〜ゲホゲホッ!ごま入〜りがんもどき〜」。
この善吉という男は山育ちではございますが人間に愛嬌がございまして長屋の女将さんが洗濯してるってえとわざわざ荷を下ろしてせっせと井戸から水を運んでくる。
子供が路地にしゃがんで泣いてるってえと懐へ買っておいた一文菓子を子供にあげます。
…と行く先々でかみさんと子供の評判が良くなる。
商売というものは今も昔も変わりません。
かみさんと子供に受けたらこんな強いものはないんです。
おとっつぁんなんざどうでも構わない。
かみさんと子供に受けたら品物なんてのはバンバンバンバン売れるもんですな〜。
これが商売の秘けつなんです。
ここが落語界の弱点なんです。
(笑い)3年間必死に働き店を任されるようになった善吉。
その仕事ぶりと人柄を気に入った親方夫婦は一人娘・お花の婿に善吉をどうだろうかと相談し合っていました。
じゃあ何だ女は女同士という事を言うからな。
いいか?おめえそのうちにそれとなくだ。
いいか?それとなくお花の気持ち聞いておけ。
もう聞いてあります?何だこの野郎手回しがいいじゃねえか。
でお花は何て言った?それがさ〜あのおてんばが真っ赤になってね「おとっつぁんとおっかさんがよろしければ私は構いません。
どうぞよろしく…」。
(笑い)畳に「の」の字書いてんだよ。
そうかこりゃいいや。
よし!出来上がった。
じゃあ何だな〜月が替わったらパーッとにぎやかに祝言…。
ちょいとお待ちよ。
善公が何て言うか分からないじゃないか。
何だよその「善公が何て言うか分からねえ」って。
あれ?ちょっと待ておい。
それじゃあ何か?あの野郎この話に…ブーッ!不平不満が…!何してんだよこの人。
あの野郎畜生勘弁できねえ!善公!善公!親方お呼びでやんすか。
てめ〜3年前の事忘れやがったか!おめえになうちのかわいい娘とやかく言われる覚えはねんだい。
ごめんね善公びっくりしたろ?そうじゃないんだ。
いやもうおとっつぁんいつもこうだから嫌になっちまう。
あの〜お前が嫌でなければだよ。
嫌でなければねお花をね…嫁にもらってくれたらいいなあなんて…いやだからねうちの婿になってくれたらこんなありがたい話はないっておとっつぁんと話ししてたんだけど…どうだろうね?あ…いや…びっくり…びっくりしまして。
親方にも女将さんにも何から何までお世話になっていていつかご恩返しをしなくちゃならねえそればかし考えてました。
そのご恩返しのまね事もできねえうちに婿にして…。
ありがとうございます。
ありがとうございます。
こんなあっしのような者でございますがどうぞこれからもよろしくお願い…よろしく…お願いします。
ほら聞いたかい?バカオヤジ。
これからも一つよろしく頼むよ。
うん!ハッハッハ!せがれや。
何がせがれだよ。
まだ式も挙げてないじゃないかさ。
善吉はお花とめでたく夫婦となり豆腐屋の婿養子に収まります。
年中休みなしで働きづめの善吉。
店はますます繁盛。
そんな姿を見ていた親方が…。
善公ちょっとこっちへ来い。
いや話があるんだ。
店の方はいいんだろう?まあまあそこへ座んなさい。
いや小言じゃね〜よ。
たまにはおめえ休んだらどうだよ。
おとっつぁんありがとうございます。
お言葉に甘えるわけじゃございませんが実はおとっつぁんにお願いがございまして。
一度国へ帰って墓参りしたいと思ってまして。
それから何より身延へ願かけしたっきりでございます。
願解きに行かなくちゃならねえと思っておりまして。
おとっつぁんにお願いをしてお暇を頂こうと思いまして。
ああそうだ。
いやおめえの言うとおり。
あららららら!これはおとっつあん気が利かなかったな。
いや〜勘弁しとくれ。
行ってこい行ってこい。
何だいお花?え?何?おめえなに口の中でグジュグジュ言ってんだい。
何だよ?この人にとって叔父叔母なら私にとっても叔父叔母?そらそう…会いてぇ?善公のそば離れるのが嫌なんだろう?おい善公これは荷物になるよ。
足手まといになるがなまあおとっつぁんからも頼む。
一緒に連れてってやっとくれ。
でいつ立つんだ?…明日!?いやいいいい!こういう事は早い方がいいんだ。
思い立ったが吉日ってんだ。
出かけるか?ああそうか。
行ってこい行ってこい。
いや〜いい!店の事なんざ心配する事はねえよ。
ああ行ってこい。
はいはい。
はいよ!はい!はいよ…。
はい…。
じゃあな。
水が変わるから気ぃ付けて行ってこい。
ちょいとおみつさんにおたけさん!出といでよ。
いいから!出といでよ!何がじゃないよ。
豆腐屋の若夫婦どっかへ出かけるようだよ。
何だい何だい?あらまちょいと!まあ〜!珍しい事があるんじゃないかさ!縁日だって出た事がないんだよ。
今日は旅支度までしてどこ行くんだろうね。
いいよ。
あたしが聞いてみるよ。
ちょいと!善吉さん善吉さん!こんちおそろいでどちらへ?「甲〜府〜お参〜り〜願解〜き」。
(拍手)いや〜江戸落語らしい人情噺しみましたね!さあこのあとの仏教のお話も楽しみです。
師匠ありがとうございました。
どうもありがとうございました。
大変すばらしい「甲府ぃ」で。
いえいえ恐れ入ります。
このお噺ね勤勉な人たちが出てきてそして人情が厚くてまじめでそれほど豊かじゃないけどみんな仲良く暮らしててそして同じ信仰を持ってる。
一つの庶民のモデルのような感じ。
珍しいんですよ落語の中で悪人が出てこないのは。
そういやそうですね。
大体ろくでもない人間が出てきてそれを笑うというところ…。
…が圧倒的に多いですよね。
このお話は割と善人を描いた…。
私にぴったりですか?分かりませんが。
この「甲府ぃ」というのはすごく宗派色が明確な。
そうですね言われてみれば。
我々いろんな宗派のお寺さんへ伺ってやりますけどやっぱりこれやる時は一応お断りしますよ。
浄土真宗のお寺へ行って「すみません。
こういう話なんですけどやってもよろしいでしょうか?」とご住職に一応お許し頂いてやる事が多いですね。
なるほど。
99%のご住職が「どうぞどうぞ」と。
一遍だけありましたね「やめてくれ」ってのが。
法華信仰の代表である「日蓮宗」は日蓮聖人の教えに基づく宗派です。
「法華経」を唯一のよりどころとし苦しい現世における救済を力強く説きました。
「南無妙法蓮華経」の「妙法蓮華経」とは「法華経」の事。
「法華経に帰依します」という意味のお題目です。
お題目をひたすら唱えれば大きな功徳になるというやさしい教えが江戸庶民の心を捉え広まっていきました。
日蓮はこの事を強調して才能や貧富男女の差別なく誰もが救われる道を指し示したのです。
ここで日蓮宗・経王寺の互井観章住職に加わって頂きます。
いかがでしたか?扇辰師匠の「甲府ぃ」。
楽しかったですね〜。
最後ほろっとするところもねいい噺だな〜と思って。
それにしても見ず知らずの男をですね…。
行き倒れですからね。
行き倒れ…。
雇ったあげくに最終的にはお婿さんにまで迎えるというお噺。
「お前さんも法華かい?じゃあ上がっていきなよ」というそういう気質がこちらの宗派にはあるんじゃないかと思うのですが。
そうですね。
江戸でも例えば長屋に住んでいる人たちであったり庶民の方々。
本当に今日生きるのが精いっぱいというような方々が一生懸命お題目信仰をしていて同じような仲間たちだからこそ支え合って生きていかなきゃいけない助け合って生きていかなきゃいけないというそういう気持ちが強いんじゃないんでしょうかね。
江戸時代の法華の人気は大変なもので。
誰もが同じように救われていくというのはかなり日本の宗教文化の土壌に大きな影響を与えたような気が…。
そうですね。
もともと仏教が日本に入ってきた時にいわゆる高貴な方々天皇や貴族のお金持ちの方だとかそういう方たちのために仏教が広まっていくわけですが…やっと鎌倉時代になって庶民の人たちにも仏教が届いた時その庶民の人たちはもうそれは苦しい生活を毎日毎日送っていたわけですからその人たちにとっては暗闇に明かりがさすみたいなそんなところがあるんでしょうね。
本当に日蓮宗のお寺の本堂ではまさにぴったりのお噺。
ダブル住職の深読みコーナー。
「甲府ぃ」は法華信者の善吉が身延山に願かけをし最後に願解きに行くというのが噺の骨格です。
この落語の下げをもう一度。
実にきれいにオチてますね。
仏教の教えで「願」というのはしばしばもちろん出てきます。
基本的には悟りを開きたいという願いであったり人々を救いたいという願いであったりしてこの願かけと願解きがこのお噺に出てくるというのは本当に人々の暮らしの中に信心深さというか信仰の様子が投影されてるなあと思います。
これはね僕自身も忘れてた事なんですが…というのを改めて今回の噺を聞いて胸に響いたんですよ。
私たちはいろんな事を神様仏様にお願いします。
神社に行ったりお寺に行ったり。
お願いしますからこれがかなうようにとお願いするんですが…。
そういう生き方が願解きという生き方なんだと。
そういう一種の生まれ変わりのチャンスというんですかね。
信仰のしかたなんですね。
そうですね。
だから今回の「甲府ぃ」ですねこの人たちはなかなかいい方向に進んでるんじゃないかと思うんですけど。
そこまで考えてやってなかったです。
ほんとに。
そこまで考えてないのを無理に深読みするのが我々の楽しみなんです。
ありがとうございます。
何かいい作品だな〜。
ほんとですね。
「願かけ」には「願解き」。
願いがかなったら恩返しする。
当たり前とされてきた日本人の習慣を今改めて大切にしたいものです。
今回の内容はこちらのテキストに詳しく紹介されています。
今後の放送予定も掲載されています。
「願かけ」とかけまして「娘さんの帯」と解きます。
その心は解けるのが楽しみです。
今日は「Eテレ」でしたねこれは。
(笑い)しかもお寺の本堂でございます。
ほんどうにすみませんでした。
(拍手)
(警笛)2014/03/18(火) 10:15〜10:40
NHK総合1・神戸
趣味Do楽 落語でブッダ第3回▽入船亭扇辰“甲府ぃ”〜江戸っ子人情と法華信仰[解][字]
古典落語から仏教を深読みする「落語でブッダ」。第3回は入船亭扇辰師匠の江戸人情噺(ばなし)「甲府ぃ」から、日蓮の教えと法華経に帰依する「法華信仰」について。
詳細情報
番組内容
落語を通してブッダの教えを学ぶ教養エンタテインメント番組「落語でブッダ」。第3回は、入船亭扇辰師匠が「甲府ぃ」を披露する。日蓮の教えと法華経に帰依する「法華信仰」について、仏教の名解説者・釈徹宗が解説。「南無妙法蓮華経」のお題目は、「法華経に帰依します」の意。「願掛け」と「願ほどき」(お礼参り)についても解説する。
出演者
【出演】噺(はなし)家…入船亭扇辰,【講師】釈徹宗,【語り】三宅民夫
ジャンル :
趣味/教育 – 生涯教育・資格
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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日本語(解説)
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