過去40年。
その女性の通訳は日本と世界をつないできた。
日本が直面している問題というのは債務比率が高いという事だけが問題なのではないのです。
各国の思惑がぶつかり合う…そして…。
「TOKYO」。
(拍手と歓声)その招致活動でも大きな力を発揮した。
(長井の英語通訳)長井鞠子。
熾烈な国際会議を飛び回る通訳のプロ中のプロ。
研ぎ澄まされた集中力と瞬発力が求められる…全身全霊をささげて話し手の思いを伝えていく。
(主題歌)年間200もの国際会議を任される長井。
(長井)これも東方政策の話であります。
世界中の要人から熱い支持を集める。
仕事も家庭も失った40代。
支えたのは母の言葉。
震災から3年。
被災地に募る思い。
(長井の英語通訳)福島から世界に発信する国際会議。
届けたい言葉があった。
beautifulNamietownasourhome.この日会議通訳者長井鞠子は朝6時から仕事の準備に追われていた。
(取材者)おはようございます。
マレーシアの首相が参加する経済協力会議で同時通訳を行う事になっていた。
外交の最前線で仕事をする長井。
政治や経済の最新ニュースを常に頭にたたき込んでおく。
出勤直前長井はいつも願かけをする。
(かしわ手)この日の仕事場は都内にあるホテルの会議場。
会議は8時間半。
夕食会も含めれば12時間に及ぶ長丁場だ。
長井は会議場を一望できるこの通訳ブースで同時通訳を行う。
同時通訳は通常2〜3人のチームを組み交代しながら行う。
訓練されたプロでも集中力を最高度に持続できるのは20分が限度。
過酷な仕事だ。
(男性アナウンス)拍手でお迎え下さい。
(拍手)マレーシアのナジブ首相が閣僚を引き連れてやって来た。
日本企業の担当者たちに首相自らマレーシアへの投資を呼びかける。
長井の「同時通訳」が始まった。
日本マレーシアの経済協力の件においていつも日系企業…。
日本語から英語への通訳も行う。
(長井の英語通訳)同時通訳を行うためにはネイティブ並みの英語力が不可欠だ。
だがそれだけではこの仕事は務まらない。
求められるのは発言を瞬時に理解し自然な翻訳を時間差なく行う事。
この技術において長井は並ぶ者がないと言われる。
猛烈なスピードで訳しながらも同時通訳が陥りがちなたどたどしさはない。
長井は通訳の間発言者をにらみつけるように見据える。
同時通訳の仕事をこう例える。
会議終盤難しい発言者が壇上に上がった。
話すスピードが速くしかも独特のアクセントがある。
熱く訴える女性。
その熱意が乗り移ったように長井は額に汗を浮かべ体を動かしながら通訳していく。
中小企業を高い次元に一番下の40%の人たちをグローバルなところにまで引き上げるという努力でありました。
ご清聴に感謝します。
20分以上に及んだプレゼンを長井は1人で訳しきった。
70歳にしてなおトップ通訳者として活躍を続ける長井鞠子さん。
サミットから軍縮会議まで40年にわたって日本の外交を陰で支えてきた。
その腕を頼って歴代首相や政府要人が長井さんを通訳に指名する。
長井さんの通訳が相手の心に突き刺さっていくのにはある秘密がある。
長井さんの日本語はとにかく分かりやすい。
耳なじみのいい表現を巧みに取り入れながらよどみなく通訳する。
日本語の力をより研ぎ澄ますために…。
取り組んでいる事がある。
(朗詠)なんと和歌の稽古。
月に1回京都銀閣寺まで通い和歌を詠んでいる。
(長井)そう。
そんな感じで。
和歌を作る事で日本語らしい柔らかい表現を身につけたいのだという。
1月半ば長井に難しい仕事の依頼が舞い込んでいた。
古代日本の中心地奈良飛鳥・藤原。
その遺跡の価値を審査に関わる国際機関のスタッフに説明する専門性の高い仕事だ。
現地での視察が始まった。
今回訪れたのはカナダ韓国そして中国から来た専門家たち。
日本史の専門ではない彼らに遺跡の価値を説明するのは簡単ではない。
1,400年前飛鳥時代を今に伝える遺跡群。
独特のニュアンスを正確に伝えられるか。
同時通訳に臨む前長井には必ず行う大切な準備がある。
会議で出そうな言葉をノートに書き出す単語帳作りだ。
書き出すのはその会議で使われる専門用語ばかりではない。
カギになりそうな言葉はごく基本的な単語でも書き出し最もふさわしい訳語を見つけていく。
ここに長井のこだわる信念がある。
会議当日。
いえいえ。
いやいや。
会議の冒頭専門家からは厳しい意見が伝えられた。
(英語)遺跡の価値は認めるが人類の共通遺産にする意味があるか疑問だという。
地下に遺跡が残っている…。
日本側の研究者が反論を述べ始めた。
(長井の英語通訳)長井は専門用語を的確に翻訳していく。
(長井の英語通訳)4時間が経過した頃両者の溝が埋まり始めた。
(英語)会議は専門家たちから前向きなアドバイスをもらって幕を閉じた。
どうもありがとうございました。
(拍手)
(長井)今日はこちらこそありがとうございました。
どうもありがとうございました。
あっくん!
(長井)いやぁアザラシ。
見える?日本の国際交渉を裏方として支え続けてきた長井さん。
ずっと作り続けている手書きの単語帳。
40年分捨てずに保管してある。
大ベテランになった今も地道な準備を欠かさない。
その姿勢の陰には今なお消えない苦い記憶がある。
長井さんは昭和18年東北仙台で生まれた。
3姉妹の末っ子でものおじしない子供だった。
終戦直後アメリカ軍の兵士にだっこされた時もおじけづく周囲をよそに平気な顔をしていた。
いつも活発な長井さんに通訳になるきっかけを与えてくれたのは…大正生まれでは珍しく英語が達者。
GHQの通訳も務めるほどだった。
母の姿に憧れて高校生の長井さんはアメリカに留学。
周囲は「女の子なのにむちゃだ」と反対したが長井さんは平気だった。
帰国後その英語力を生かしてアルバイトを務めた。
東京オリンピック水泳競技の選手紹介。
そして長井さんは大学卒業と同時に通訳の会社に就職した。
初めは一生の仕事とまでは思っていなかった。
でも通訳を終えてブースを出ると容赦ない陰口が聞こえてきた。
「今日の通訳さっぱり分からない」。
持ち前の負けん気に火が付いた。
徹底的に資料を読み込み単語帳を作って妥協なく仕事に臨むと決めた。
間もなく結婚し子供の世話にも追われたが睡眠時間を削っても絶対に準備は手を抜かなかった。
地道な努力を続けるうちに長井さんの評価は少しずつ上がっていった。
そして35歳の時。
長井さんは通訳の最高峰サミット先進国首脳会議の仕事に抜擢された。
皆さんの期待にですね十分応えていきたいという決意を表明いたしました。
以後長井さんは歴代首相の通訳を担当する事になる。
しかし何もかも順調だと思ったやさきの事だった。
40代に入って間もなく人生の試練に直面した。
2人の子供をもうけていた夫との離婚。
仕事も家庭も子供の世話も全てを完璧にこなしたいと願ってきた。
なぜそれをかなえられなかったのだろう?持ち前の負けん気は影を潜め思い悩む日々。
ウジウジする自分をどうにもできなかった。
そんなある日事件が起きた。
あるシンポジウムの通訳に臨む前20年欠かさず続けてきた単語帳作りを初めて怠った。
それは致命的な結果を招いた。
発言者は早口で専門用語を連発。
訳が全く浮かばずしどろもどろになった。
全てが終わったあと長井さんは言われた。
「もうあなたは来なくていい」。
ただただ情けなかった。
失意の中で迎えた誕生日一通の手紙が送られてきた。
差出人はずっと憧れだった…手紙には水遊びをする少女が写った新聞の切り抜きが添えられていた。
「あなたの子供時代を思わせる写真がのっていたので送ります。
ひとりまっさきにぬれるのもかまわず一心につきすすんでいるすがた…まさにマリ子そのもの」。
「がん張れマリコ!!」。
自分を誰より知っている母の言葉。
「くじけてたまるか」と思った。
以来長井さんは次の仕事への地道な準備を欠かした事はない。
一つまた一つ。
70歳の今も目の前の仕事に全力で挑んでいる。
この日長井は福島に向かっていた。
重要な仕事があった。
東京電力福島第一原発の事故に関する国際会議の通訳だ。
海外の専門家を交え福島の復興に向けた知恵を出し合う。
同じ東北で生まれ育った長井。
特別な思いでこの仕事に臨もうとしていた。
海外の専門家たちが福島にやって来た。
国連のナンバー2を務める…世界の人道支援に影響力を持つ人物だ。
そしてチェルノブイリの事例に詳しい…ドイツのエネルギー政策に深く関わっている。
その他国連大学の研究者など18人で福島の復興をさまざまな角度から議論する。
まずは除染の現状を視察する。
(長井の英語通訳)震災直後から福島に関わってきた長井は専門用語を熟知している。
(長井の英語通訳)この日最後に向かった場所があった。
放射能の影響で避難生活を強いられている人々が暮らす仮設住宅だ。
海外の専門家が来ると聞き大勢の人が現状を訴えたいと集まってきた。
(長井の英語通訳)メモにまとめてきた不安や悔しさをとつとつと語った。
(長井の英語通訳)
(長井の英語通訳)長井は言葉に込めた思いを丁寧に訳していく。
(長井の英語通訳)
(長井の英語通訳)震災から3年報道も徐々に減る中で自分たちが見捨てられていくのではないかと恐れていた。
明日の国際会議は国連機関を通して世界に動画が配信される。
被災地の訴えを直接世界に届ける貴重な機会となる。
(長井の英語通訳)
(長井の英語通訳)その夜会議の準備をする長井の姿があった。
長井の手元には1冊の資料が届けられていた。
明日の国際会議で被災者代表として現状を訴える浪江町町長のプレゼン資料だ。
浪江町は全町民2万人以上が避難生活を強いられている。
その町長の訴えをどれだけ深く世界に伝えられるか。
長井は一つの言葉に注目していた。
「ふるさと」。
明日の発表のキーワードになる言葉。
通常「ふるさと」は「hometown」と訳すが長井はもっと適切な言葉がないか考えていた。
「ancestralhome」かな…。
「reconstructinghometown」。
たった一つの単語に込められた切実な思い。
(取材者)「ふるさと」っていう言葉…。
言いたいですよね〜。
「reconstructingourhome」でもいいかな。
会議当日を迎えた。
会場には150人もの聴衆が集まった。
国連事務次長のマローンが海外での事例を紹介し始めた。
皆さんこんにちは。
皆さんようこそおいで下さいました。
チェルノブイリの事故では多くの人たちが新たな土地に移住して生活を立て直したという。
汚染された土地を捨てるという選択肢。
だが今福島で求められているのはそれではない。
すぐに非常に深い形での…。
ふるさとへの特別な思いを世界に伝えたい。
被災者代表浪江町町長の馬場有さんが壇上に立った。
皆さんこんにちは。
ただいまご紹介を頂きました福島県浪江町の町長の馬場有と申します。
勝負の通訳が始まった。
(馬場)帰る帰らないではなく…。
(長井の英語通訳)
(馬場)あのきれいな「ふるさと」の再生もですね…。
長井は考え抜いた訳で「ふるさと」という言葉を伝えた。
「Namieasourhome」私たちの生まれ故郷浪江。
(長井の英語通訳)
(長井の英語通訳)
(長井の英語通訳)
(長井の英語通訳)
(拍手)たとえ難しいと言われても生まれ育った土地に帰りたい人は大勢いる。
長井は「ふるさと」という言葉に込められた思いを世界に届けた。
(主題歌)
(長井)ありがとうございました。
一心にその道に邁進するという意味でのわがままな力を持っている人だと思います。
でもこれで私は極めたトップにいったと思ってしまったらもうそれは終わりだと思います。
常に来る仕事にちゃんと向き合って準備を怠らないそれもプロの条件だと思います。
Thankyouverymuchforyourkindattention.2014/03/03(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「言葉を超えて、人をつなぐ 通訳者・長井鞠子」[解][字]
サミットから貿易交渉まで、日本外交を40年も陰で支えてきた凄腕の通訳がいる!!長井鞠子(70)。発言を瞬時に「同時通訳」するワザ。その裏の知られざる覚悟とは?
詳細情報
番組内容
サミットから貿易交渉まで、日本外交を40年間も陰で支えてきたすご腕の通訳がいる! 長井鞠子(70)。あらゆる専門用語に精通し、発言を瞬時に「同時通訳」するワザは、並ぶ者がないと言われる。言葉を越え、心の思いまでも伝えてくれると言われるその腕は、歴代首相や政府要人から直接指名されるほどの信頼ぶり。去年のオリンピック招致活動でも、力を発揮した。通訳47年のプロ中のプロ、その知られざる覚悟と信念とは?
出演者
【出演】会議通訳者…長井鞠子,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:16386(0×4002)