クローズアップ現代「教育現場の“閉鎖性”を変える?〜大阪・教育改革の波紋〜」 2014.03.03

大阪府教育委員会の定例会議。
大阪の教育現場では今これまでにないスピードで改革が進んでいます。
誠に申し訳ございませんでした。
いじめや体罰による生徒の自殺。
そして、学力の低迷。
子どもたちを取り巻く問題に学校などの現場が対応できていないのではという声が高まっています。
そんな中、大阪府では、今まで横並びに近かった施策を改め教育長のトップダウンで新たな方針を次々と打ち出しています。
警察への通報など対応をマニュアル化したいじめ対策。
学力の高い生徒に英才教育を行うエリートコースの創設。
教員の評価には生徒や保護者の視点を入れるなど常に結果を問うものにしました。
しかし、こうしたやつぎばやの改革は現場に戸惑いと混乱を生じさせています。
教育の在り方に責任を持つべきは誰なのか。
大阪の改革から、ひもときます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
教科書の選定から、子どもたちにどのような教育を行うのかその方針や具体的な中身を決めているのが都道府県と市町村に設置されている教育委員会です。
教育委員会は戦前の国家主義教育の反省に立ち教育が政治家への影響を受けない中立性が求められています。
さらに地域住民の意向を踏まえて教育が行われることが求められています。
自治体のトップが委員会のメンバーを選び議会の承認を得て決定します。
その中から教育行政を実施する教育長が選ばれる仕組みになっています。
地域の教育の方向性を決める役割を担う教育委員会ですがいじめによって生徒が自殺に追い込まれた事件などへの対応を通してその隠蔽体質や迅速な対応が取れない機能の形骸化が批判されてきました。
教育委員会への批判が高まる中で今夜ご覧いただく大阪府は条例を独自に作り自治体トップの意向が教育行政に反映される制度変更を行いました。
具体的には知事が教育委員会と協議して教育が目指すべき目標基本計画を作ることを義務化しさらに、この計画を実行する責任者として教育長に大きな権限を与え各学校現場に目標の達成を強く求めています。
選挙で選ばれた府知事とそして、教育委員会が密に連携を取りながら進められています大阪府の改革。
今までの慣習や風習にとらわれない改革ができるという声がある一方で成果を求めるスピードが速く現場が顧みられていないという声も上がっています。
大阪府教育長の中原徹さんです。
この日、中原さんは府内屈指の進学校で行われている英語の授業の視察に訪れました。
中原さんは以前弁護士をしていましたが去年4月、改革を託され教育長に抜てきされました。
こんにちは。
お願いします。
大阪では、3年前から府内の進学校10校に対して学習指導要領のレベルを超える英才教育を試みてきました。
中原さんが教育長になってからは外国人と議論ができるエリートを育成することに力を入れています。
中原さんは今後海外の大学に進学することも視野に入れてTOEFL検定講座も取り入れる予定です。
学力が高い生徒には学習指導要領の枠にとらわれずさらに能力を伸ばしていこうとしています。
一方、学習面で困難を抱える生徒たちには全く別の学習内容を用意しようとしています。
家庭環境や不登校などで一度勉強につまずいた生徒たちにはどうしたら意欲を持たせられるか。
中原さんは、そうした子どもたちの状況を知ろうと各学校に何度も足を運んできました。
ここでは、学校の裁量で行う仕事に関わる授業を重視。
洋服のデザインや切り絵など生徒たちが学校に親しみを持って通えるように工夫しています。
カメラをカメラで撮ってあげて。
教師たちには授業についていけない生徒がどのくらいいるのか尋ねました。
中原さんは学年で一律だった学習内容を来年度から変え小中学校の内容から学び直せるようにしようと考えています。
例えば数学につまずいた生徒には小学校高学年の授業を用意。
生徒の到達度に合わせた授業を選択できるようにしようというのです。
教育現場は前例や習慣にとらわれ世間の常識からずれてしまっているという中原さん。
去年9月にはいじめ対応のマニュアルも作成しました。
子どもの問題行動を5つのレベルに分類し責任者と対処方法を明確にしました。
問題行動がからかいや無視など軽い段階は対応の責任を負うのは担任教師と学年教員です。
問題行動が重くなるに従い責任者は校長や教育委員などに代わりさらに深刻になると警察などが対処することを義務づけています。
今まで一定のルールがなく対応がまちまちだった問題点を責任者を明確にすることで素早く対処できるようにしたのです。
教育長に就任してから僅か1年。
これまでにないスピードでやつぎばやに改革を進める中原さん。
それが可能になったのは府知事の意向を受け大阪の教育方針の実行に関する強い権限を与えられているからです。
大阪府の条例では府知事と教育委員会が企業の事業計画と同じように年度ごとの教育目標教育振興基本計画を策定することを義務づけています。
これまで努力目標だった計画を義務化しさらに知事の強い関与を定めたのは全国初のことです。
基本計画にはグローバル人材の育成や学び直しの支援いじめ解消などの目標が定められ年度末に成果を検証することになっています。
この計画を実行するのは事務局を主導する教育長の中原さんです。
中原さんは各学校の校長に基本計画に沿った学校経営計画を策定させます。
さらに、学校経営計画をもとに教職員たちも自己目標を定めます。
年度末になるとその成果が教職員たちから校長へさらに校長から中原さんに報告されます。
取り組みが成果を上げたかどうかは最終的には公表されオープンになります。
2月末に行われた教育委員会の会議では各学校から挙げられた成果報告に対して中原さんが苦言を呈しました。
教育長主導の改革は教育現場の取り組み内容が分かりやすくなったという評価がある一方で教師たちの間には戸惑いの声も上がっています。
さらに、ネットを通じて結成された100人を超える保護者たちのグループからもさまざまな議論が噴出しています。
「首長のやりたい教育になりましたが子どもに寄り添う教育ではありません」。
「その時々に必要とされる流行に振り回されることなく人として普遍的に必要な発達をじっくりと見守るという姿勢を大切にしていただきたい」。
教育長トップダウンの改革を巡って寄せられる賛成、懸念の声。
取り組みの経過や成果がはっきり現れたことで議論はさらに、活発化しそうです。
今夜は教育行政がご専門でいらっしゃいます神戸大学准教授の山下晃一さんにお越しいただきました。
かなりのスピードで改革に取り組んでいる様子が伝わってくるんですけれども、これまで現場に与えたこのインパクト、影響というのを、どのように感じてらっしゃいますか?
功罪半ばするといいますか、ともにあるかなというふうにも思うんですけれども、まずはその市民目線で、非常に分かりやすい、そしてまた生活実感に合うといいますか、これまでの体験に根ざして、非常に分かりやすい改革が行われているというようなところがあると思います。
全体としてその改革を見える形でというふうな意識を非常に感じます。
大事な問題提起もいくつかあるかなと思います。
例えばVTRの中で、同じことを教えるのだけが公平ではないんだということばがありましたが、大変考えさせられます。
教育っていうのは、一人一人の発達可能性、あるいは教育上のニーズというものがあって、それをどれぐらい満たしていくかという営みだとすれば、これをどの程度満たしたか、そこの部分を平等にしていく。
充足率の平等というような考え方もありますので、そういった意味では現状に一石を投じる、そういうふうなところが非常に大きいのかなと思います。
またあるいは、いじめ対策ということで、話も出ていましたけれども、子どもたちを守ります、あるいは救いますという、非常に強い決意表明が感じられまして、こうしたことは非常に市民の目線から言うと安心できる、あるいは分かりやすいといったところがあるのかなと。
ただ、その進め方ということを見ると、中でも、いくつか不安が述べられていましたけれども、これだけのスピード感、あるいはやや強力な進め方、強心的な進め方っていうのがどれくらい必要だったのか、あるいは有効だったのかということも、ちょっと立ち止まって考えてみる必要もあるのかもしれない。
中で出ていた不安といいますか、そういったものについて、恐らくは、例えばこれまで現場でも学び直しができる、そういったようなこともたぶん取り組まれていて、学力だけじゃなくて心のサポートというふうなこともされてきたと思うんですけれども、そういったようなノウハウでありますとか、あるいはことばにあったように、先生方のプライドなり、自負なり、そういったものが流されてしまうんじゃないか。
そういうふうな懸念も残るところだと思います。
ちょっと気になりましたのは、毎年、基本計画を作って、そしてそれに基づいて学校側が、学校経営計画を作って、そしてそれぞれの目標を各教師が自己目標として設定をしていて、毎年度になると、その成果を上に上げて、最終的にはそれを克服されると。
教育というのは、非常に長い時間かかるものの中で、こうした年度、毎年毎年の成果が求められるようになることの、なんていうんでしょうか、教育にそぐうのかなという感じも持ったんですけれども。
そうですよね。
確かに非常に難しい問題が残ると思うんですね。
今の勉強が苦手なお子さんだとか、学校に行きづらいお子さん方を先生方が一生懸命サポートされたりケアされたりしている。
じゃあ、彼らが晴れて3年後、あるいは4年後に笑顔で卒業できた、そういったようなことについては、一体どういうふうに評価すればいいんだ、評価されるんだというようなそういうふうな不安なりというのは、やっぱり残ると思いますし、そういったものを一体これからどういうふうに位置づけていくのか、そういったことは非常に気になるところです。
またそもそも教育というのはある程度、学び手の側の、抵抗感とか摩擦とかがあって、それを受け止めながら、先生方は日々、実践されている。
そういった意味では非常に難しくて、繊細な面も残るのが教育というものだと思うんですけれども、そういったことが一体、これからどういうふうに扱われていくのかというのは気になるところです。
短期的な成果ばかりを追うようになると、また弊害が出るのかなという気もしないではないんですけれども、さて、その地域住民の意向の反映が大切だとしています、教育委員会。
市民参加に向けて、大阪府の箕面市では、その市民を積極的に参加させるという取り組みを始めています。
大阪府の箕面市では市民の声を教育行政に生かそうという取り組みが始まっています。
見やすく書いてくれてるねっていうのが…。
この日市内の小学校の授業見学に4人の女性たちが訪れました。
女性たちは皆箕面市の教育委員です。
一般に教育委員会のメンバーは1人を保護者から選ぶことになっていますが箕面市では、去年4月から過半数を地元の保護者から選ぶことにしました。
教育の課題を市民に広く開示し委員の公募を行ったのは市長の倉田哲郎さんです。
倉田さんが望んだのは教育委員会を子どもたちの目線に立ったものに変えることでした。
多くの教育委員会では、月に1、2回しか行われない会議も箕面市では、週に2回行われ委員の意向が、くみ取られます。
この日の議題は事務局が作ったいじめ対策の検討です。
事務局の案ではいじめ防止のために道徳教育を重視する方針が示されていましたが保護者の委員からは思わぬ指摘が出されました。
いじめられた子どもが相談しやすい窓口を作るべきだという提案も出されました。
教育の専門家だけでは思いつかない対処法。
保護者の教育委員が多数、加わることで教育現場に幅広い意見を生かそうとしています。
これまでに小学1年生からの英語教育や学童保育での学習支援などの導入が決まっています。
地域の民意を取り入れた教育委員会の取り組み。
子どもにとって最善の教育を市民と行政が一緒に模索する試みが続いています。
箕面市の場合は、教育委員会の構成の過半数を超えた人数が保護者で占められていると。
そのことによって教育委員会の形骸化を防ごうとしているわけですけれども、この取り組みをどうご覧になられました?
市長さんも教育の課題をオープンにして、そして皆さんに呼びかけて、皆さんの参加で、この箕面の教育が変わっていくんですよということをおっしゃったというふうに聞いておりますので、大変非常に興味深い取り組みだと思います。
府の場合は、府知事の意向がより反映しやすくする形で、連携を教育委員会と強めながら進めていこうというやり方、そして箕面市の場合はどちらかというと、保護者の方々、本当に住民の方々の参加を呼びかけるやり方で、対照的なやり方だというふうに思うんですけれども、教育委員会の形骸化を防ぐうえでのこの民意の反映、民意をどうやって反映させるかっていうことを考えたとき、この2つのアプローチ、どのように考えたらいいんでしょう?
もちろん府の府教委さんの取り組みも教育改革を見える化していって、外から見え方を意識しながら、そして賛否両論が出てくる。
これから恐らく議論が生まれてくるところだと思うんですね。
箕面市さんの場合だと、まず市長さんが、自分は確かに有権者に選ばれたんだけども、それは今の有権者に選ばれた、現在の有権者に選ばれたのであって、未来の有権者が選ばれたわけではない。
ただ教育っていうのは、実は未来の社会に関わることであって、だからこそ自分は十分に分からないところがあるから、市民の皆さんもお願いします、保護者の皆さんもお願いしますと、自分がいったん受け取ったリーダーシップを返してるわけですよね。
こうした返されたリーダーシップを保護者の皆さん、地域の皆さんが受け止めて、それで実際にじゃあ、どういうふうに教育を考えていきましょうかということを考えていかれていると、そういった意味では非常に特徴的な取り組みだと思うんですね。
教育っていうのは、単に子どもたちのことに関係するだけじゃなくて、未来の社会の在り方に、まさに関わるところでもありまして、それで、首長さんもそういう市長さんも、自分はそれまで担ったわけじゃないんだという謙虚さを持って、そしてそれに対応するかのように、保護者の皆さんも今からの教育、どうしていきましょうかということを一生懸命考えて、そういった意味では単に民意を反映するというよりは、むしろそこで、皆さんが教育についていろいろ議論をしていただくことによって、学んで、成長していってるというようなところは指摘できるのかなと思います。
文科省の教育委員会制度の在り方についても、やはり中立・公正、政治的な中立公正ということがうたわれていて、まあ一応リーダーシップが反映されるような仕組みになったときの、そこをどうやって担保していくかというのも、一つの課題として出てくるでしょうね。
そうですね。
教育委員会制度っていうのは実は本質を考えてみた場合に、まさにこの、未来のことは誰にも分からない、だけれども、誰かがやらなくてはいけない。
そのためには自分たちが学んで成長していって、そして今の社会の問題とかをあとの世代に引き継がないようにする、そういったためにこそたぶんあったのであって、そうした本質、原点に立ち戻って、もう一回、2014/03/03(月) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「教育現場の“閉鎖性”を変える?〜大阪・教育改革の波紋〜」[字]

大阪府では知事の意向を受けた新たな教育長のもと、矢継ぎ早の改革が行われている。注目されるのがエリート教育など新たな公平性の導入だ。教育長主導の改革を検証する。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】神戸大学准教授…山下晃一,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】神戸大学准教授…山下晃一,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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