イッピン「奥深い黒の世界〜奈良 墨〜」 2014.03.16

さあ皆さんお待ちかね!登場するのは日本生まれのイッピン。
優れた技が生み出す珠玉の宝。
きょうはどんな技が飛び出すのか。
1300年の歴史を持つ古都・奈良。
訪れたのは女優の高梨臨さんです。
そのお目当ては…。
墨奈良では古くから墨作りが盛んに行われてきました。
今も国内のおよそ9割の墨が作られています。
私幼稚園の年長から中三まで10年間ぐらい書道をずっとやり続けていたので私の中で墨は身近な存在です。
どんな墨があるんだろうってすごく今楽しみです。
すごい建物。
最初に訪れたのは創業1577年。
奈良で最も古い墨の製造会社です。
こんにちは。
(岸田)いらっしゃいませ。
すごい!たくさん種類があるんですね。
そうですね。
店頭に並べられているのは100種類以上の墨。
どれも手作りの高級な物です。
代表的な墨みたいなものってあるんですか?
(岸田)今から270年ほど前に開発された墨です。
ずっと変わらずあるんですね。
デザインは変わりません。
こんなものも。
これは墨ですか?人形墨?これも全部墨なんですけれども。
これ使えるんですか?これはねコレクション的な要素ございますわね。
へぇ〜かわいい。
珍品の一つなんでしょうけども。
店に伝わる特別な品を見せてもらいました。
わ〜!これはもう非売品でございます。
門外不出。
年代物の墨です。
徳川の葵の御紋です。
貴重ですね。
この墨がですねうちの六代目七代目の頃に出来た墨です。
江戸時代中頃に作られこの店の墨作りの手本となっている墨。
墨は時がたつに従って優れた書き心地を生み出します。
墨って古いものが貴重だっていうこと自体も知らなかったですしいざ目の前にして見るとすごく歴史を感じるというか緊張してしまいました。
創業以来の伝統的な墨作りを見せてもらう事にしました。
この線路みたいなやつは?これは奥が工場になってますんでトロッコの上に原料を載せて運びます。
最初に案内されたのはこの蔵。
ここが墨の素になります煤を採る蔵になっております。
採煙蔵といいます。
どうぞ。
失礼します。
あ!すごくきれいですね。
そうですね。
幻想的な感じなんですけども。
ここで煤を…。
そうです。
このランプのようなものが煤を採るための土器です。
機械で煤を採る事もできますがこの工房では昔ながらの方法が大切に受け継がれています。
ゴ〜って燃やして渋い感じでやってるのかなと思ったらすごいロマンチックでびっくりしました。
燃やしているのは菜種油。
炎が蓋に触れて煤ができます。
煤は2時間ごとに集めます。
一日に採れる量はおよそ600グラム。
一般的な大きさの墨が40個ほど出来ます。
職人が最も気を配るのが炎の大きさ。
細かく均一な煤を採るためには炎が蓋に触れる部分を常に一定に保たなければなりません。
天候によって炎の大きさが変わるので灯心を調整し蓋に触れる部分を一定にするのです。
満遍なく煤がつくように20分に一度蓋をまわします。
墨の深い色や風合いを出すためこうした手間のかかる方法で煤を採ってきました。
さらさらっていうわけではなく…。
煤を固めるために使われるのがにかわです。
動物の皮や骨を煮出したゼラチンで天然の接着剤として古くから使われてきました。
墨作りが本格化するのはにかわが腐りにくい秋になってから。
こんにちは。
こんにちは。
すごい。
足で踏んでますね。
職人が足を使って煤とにかわを混ぜ合わせます。
足で練ると温度が上がってにかわが軟らかくなり材料がよく混ざるのです。
こんなに軟らかいんですね最初。
そうですね。
ちょうどつきたてのお餅くらいですかね。
仕上げは手のひらで。
手で触る事で混ざり具合を確認します。
あれ?よく見ると足元から墨の塊を取り出しています。
実は座布団の下で墨を温め練りやすくしているのです。
よく練れたのを確認し木型に入れます。
一日何個くらい作られているんですか?大きさにもよりますけど200〜300ってとこですかね。
200〜300!さっきのお餅ぐらいのやつがちょうど羊羹ぐらいの…。
へぇ〜。
墨ってこんなに軟らかかったんですね。
ここから徐々に乾燥させ水分を抜いていきます。
およそ1か月半かけてようやく完成します。
この工房に伝わる江戸時代中頃の資料。
墨の製法は当時と大きく変わりません。
長く培われてきた技法によって高品質の墨が作られてきました。
奈良で墨作りが盛んになったのには訳があります。
8世紀に都が置かれて以来学問の中心となり墨作りが発展していったのです。
伝統的な技法で作られた奈良の墨を愛用する一人です。
奈良の墨というのは非常に落ち着いた冴えが表現できる。
製墨法がやはり優れておりますのでどんな硯を使った中でもなじんでいくのが楽なような気がしますね。
ちょうど墨がいい状態になってくると非常に光を発してくるんですね。
書を学ぶ者にとってみれば至福の時といいますかねそういうものだと思いますね。
今奈良の墨を使ってあるプロジェクトが進められています。
日本を代表する禅寺の一つ…その塔頭の一つ退蔵院で400年ぶりに本堂の襖絵を新しく描こうとしています。
昔の御用絵師ですね。
住み込みで食べる物も画材も住む所もこちらで提供してそしてこの襖を全部新しくしようと。
こんにちは。
こんにちは。
平成の御用絵師?姿を現したのはうら若き女性。
思ったよりすごい若い方で。
いえいえ。
村林さんが既に描き上げている襖絵を見せてもらう事にしました。
わ!すごい!大胆な…。
迫力ありますね。
ありがとうございます。
四季折々の自然が奈良の墨を使って描かれています。
墨の濃淡を生かして女性らしい感性で描き上げました。
蟻ですか?そうです。
へぇ〜!かわいい。
いろんなものが隠れていて…。
トマトとキュウリが描いてあります。
本当だ。
すごい!いいですね。
見れば見るとほどすごく面白い。
墨の特性を最大限に生かして描き上げたのがこちらの2つの襖絵。
満開の桜で埋め尽くされた…しんしんと雪が降り積もる…テーマによって色合いが違って見えませんか?ちょっとこっちの襖の方がグレーっぽい感じしますか?冬っていうと冷たいとか寒いイメージがあるので青とかグレーっていうのを使っていてこちらは柔らかい暖かいというので赤みの強い墨を選びました。
比較してみると春は赤みを帯び冬は青みが強くと墨の色に微妙な違いがあります。
墨にも色ってあるんですね。
黒いイメージしかなかったので。
そうですよね。
なぜこんなに色味が違うんでしょうか。
この墨を作った会社を訪ねました。
創業から208年。
煤とにかわを混ぜる作業には機械を導入していますがその他は伝統的な製法を守り続けています。
重要な部分は全て職人が行います。
会長の松井重憲さんが見せてくれたのは…。
え!これ全部墨?100種類あるんです。
100種類ですか?え〜!煤の種類やにかわの配合比率を変えて作った100種類の墨。
全て微妙に色味が違うと言います。
でも本当にちょっとの差…。
同じ色って言ったら同じ色なので…。
全然分かるものなんですね。
奈良ではさまざまな植物の油を燃やして採る「油煙」や松の木を燃やして採る「松煙」などを煤の材料に用いてきました。
春と冬。
それぞれの襖絵に使われた墨は煤の材料が違っていました。
今回使われたのはこの4種類の墨。
上2つが青系。
下2つが赤系の色味が出ます。
冬の冷たい空気を表した青系の墨の材料は松の木を燃やして採った「松煙」。
春の暖かさを感じさせる赤系の墨は「油煙」の煤です。
なぜ煤が違うだけで墨の色味が大きく変わるのでしょうか。
そこで訪ねたのは…表現の技法や材料について研究している…襖絵に使われた赤系の墨と青系の墨を比較します。
それぞれの墨をすったものを光学顕微鏡でのぞいてみると…。
粒子の大きさに違いがありました。
赤系の墨の粒子は細かく青系のものは大きい事が分かります。
この違いが色味と関係していたのです。
人の目は可視光線というある波長を持った光によって色を認識します。
墨の粒子が大きいと短い波長が反射して青に。
細かいと長い波長に反射するため赤く見えるのです。
さまざまな煤を原料にする奈良の墨。
それが多彩な色を生み出す秘密でした。
製墨会社の松井さんは去年ある画期的な墨を開発しました。
新品なのに古い墨の味わいが出せるというもの。
一体どういう事なんでしょうか。
墨の風合いは時間がたつにつれ変化します。
新しい墨と古い墨。
古いものは文字と滲みの境界がくっきりと現れているのが分かります。
墨はにかわによって固められています。
しかし年月がたつとにかわは分解して少なくなり煤の粒子の大きな塊が出来ます。
古い墨を使うと大きく固まった粒子は動かないため滲みと文字の境界がくっきり出る現象が起こるのです。
にかわが減ったからって駄目ってわけではなくそれはそれで味があって良い。
そう。
古い墨の風合いを出すため松井さんはにかわの量を減らした墨を作ろうとしました。
しかし煤を固めることができず失敗。
そこでにかわの種類を変えるなどさまざまな研究を続けました。
試行錯誤すること3年。
ついに古い墨にしか出せない風合いを出す事に成功しました。
新品でもご覧のとおり。
味わい深い表情を生む事ができるようになったんです。
数いっぱい作ってほかして。
私の思いが入ってるそこへ。
へぇ〜。

(ジャズ)ジャズが流れくつろいだ雰囲気の部屋。
ここは女性限定の書道教室です。
集まったのは美しい字を書いて女子力を高めたいという30〜40代の女性たち。
今書道のイメージは大きく変わろうとしています。

(BGM)
(女子高生)書きます!こちらは女子高生たちの間で話題の書道パフォーマンス。
音楽とともに書とダンスを披露します。
全国50以上の高校で行われるほどの人気です。
ここ埼玉県立川口高校でも日々墨まみれになりながらダイナミックなパフォーマンスの練習に余念がありません。
(一同)イッピン!イッピン!墨!墨!
(女子高生)書き上げました!たっぷりとした書道液で書かれた作品。
液垂れ一つありません。
さらにカラフルな書道液など時代とともに墨も大きく変化しています。
黒を基調としたものもすごく魅力を感じるんですけどメタリックとか蛍光色のようなものが出てきてすごい新鮮だなと思う。
出来上がった時の作品がちょっと垂れてしまって…。
パフォーマンスの墨は皆見やすいんじゃないかなぁと思います。
この書道液を開発したのは奈良市にある老舗の製造会社です。
墨もあるし書道液がたくさんありますね。
型入れしてますねぇ〜。
伝統的な固形墨に加え昭和30年代から書道液を作ってきました。
これは何でしょうね?こちらは液体墨の生産工程になります。
伝統的な技術をいろいろ展開して新しい商品を手がけております。
液体の方は機械で作るんですか?
(綿谷)そうですね。
はい。
書道液は固形の墨を液体にするだけでは作れません。
煤ににかわや合成樹脂を混ぜ何度もローラーにかけ細かい粒子を作っていきます。
粒子は細かくなると液体の中で浮遊する「ブラウン運動を」始めます。
粒子が沈殿しない質の良い書道液となるのです。
我々既存で持ちえてるいろんな技術を応用した形の中でどんどん新しい商品を開発していくというのは企業の使命だというふうに思っています。
この会社では専門のチームを編成し新しい書道液開発に取り組んできました。
これまで作られた書道液は300種類以上。
中には書道液の概念を大きく変えたものもあります。
一見普通の書道液のようですが…。
次第に文字が金色に変化していきます。
わ〜すごい!え!楽しいですね。
ここに含まれる金色の染料と煤は粒子の大きさが違います。
煤は粒子が小さいため紙に染み込み繊維に沿って広がっていきます。
そのため文字のまわりを黒く縁取るように見えるのです。
びっくりして…。
黒で書いてるつもりなんだけど金色が出てくる。
「あれっ?」みたいな感じです。
書道だけじゃなくてそれこそ年賀状とかにも使えます。
いろいろ広がりますよね。
高校生たちが使っていたパフォーマンス用の書道液は4年前に開発されました。
高校生たちが大きな筆を使って大きな書道をやっていると。
そういった事を目にすることがあったんですけども非常に液が垂れててボタボタボタボタ落ちると。
思いっきりつけちゃいますね。
筆から滴るほどの液をつけて書いてみました。
書き心地が滑らか。
(野田)見た感じよりも…。
これだけつけて頂いてもすぐに垂れてこないですね。
全然垂れてこないですね。
普通の書道液で書いてみるとご覧のとおり。
粘りけがあるため大きな筆を使っても滑らかに書けるようこれまでの製法を一から見直し完成させました。
例えばパフォーマンス書道メタリック書道で使ってもらえれば次はまた違う本来のある種の昔の書道というものにも慣れ親しんでもらいやすいと。
今回感じた事を漢字一文字でまとめてみました。
それがこれです。
ずっと書道をやってきたんですけど墨は墨としか私は思ってなかったので本当に墨というものを極めて襖絵やアートを極めていっているその世界に私は今回魅了されて本当に墨が好きになったしもっと知りたいってすごく思ったのでこの字にしました。
伝統を極める奈良の墨作り。
職人たちが作る多様な黒は今も日本の芸術を支えています。
2014/03/16(日) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
イッピン「奥深い黒の世界〜奈良 墨〜」[字]

今回は、奈良の墨。伝統に忠実な驚きの方法で作る職人や、これまでの概念を覆す新商品を開発している会社を訪問。実に多様な表情を持つ黒を生む墨に秘められたワザを紹介。

詳細情報
番組内容
今回は、奈良で伝統的に作られてきた墨。国内で生産されるものの9割は奈良産だ。安土桃山時代に創業の製墨会社は、伝統に忠実な方法で墨を作っている。手足を駆使する驚きの職人の技を紹介。さらに従来の書道液の概念を覆すような新商品を次々と開発している会社を訪問。奈良の墨は、絵画や書など日本の芸術に欠かせないもの。墨が生みだす黒は、実に多様な表情を持っている。女優の高梨臨が、墨に秘められたワザに迫る。
出演者
【リポーター】高梨臨,【語り】平野義和

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

OriginalNetworkID:32080(0x7D50)
TransportStreamID:32080(0x7D50)
ServiceID:43008(0xA800)
EventID:26464(0×6760)