この日本代表のサッカー選手は飄々とした物腰でその名を知られる。
今年ワールドカップブラジル大会に挑む日本代表。
その「心臓」と言われるこの男。
実は誰よりも熱い思いをたぎらせている。
戦術を深く理解し実行する能力は歴代の代表監督がこぞって高く評価する。
(主題歌)遠藤は日本代表として歴代最多の140試合に出場。
考え抜かれたプレーの深さに誰もが舌を巻く。
だがかつて代表に選ばれながらワールドカップをベンチから見つめるしかなかった。
去年6月日本代表は世界の強豪に惨敗を喫した。
間近に迫ったワールドカップ。
ベテランの遠藤にチームの立て直しが課せられた。
クールな男の知られざる覚悟。
その戦いの記録。
去年秋。
遠藤は所属チームの練習場にいた。
いつも飄々とした空気を漂わせている。
この頃ガンバ大阪はJリーグの2部J2で優勝を争っていた。
33歳の遠藤はこのチームのキャプテン。
だが気負った様子は全くない。
プロのサッカーは引退の年齢が平均26歳と言われる厳しい世界だ。
その中で遠藤は16年間第一線で活躍してきた。
(歓声)遠藤の武器の一つは芸術的なフリーキック。
前回のワールドカップではこのキックで日本をベスト16に導いた。
そして最大の強みは日本屈指のパスの能力だ。
遠藤のポジションは中盤やや後方の「ボランチ」。
ポルトガル語でハンドルを意味する言葉だ。
その名のとおり試合の流れを読みながらチーム全体を動かす舵取り役を担う。
速さや回転の違うさまざまなパスを繰り出す遠藤。
実は全てのパスには隠された意味がある。
例えばこの場面。
遠藤は一見無造作に緩いパスを回しているように見える。
これは守備が堅い相手に攻撃を急ぐなという仲間へのメッセージ。
相手がその動きに誘われ隙ができた瞬間。
遠藤は空いたスペースにピンポイントでパスを出した。
更に前方への素早いパス。
相手の守備に綻びがあり一気にゴールに向かえという意図を伝えている。
「チームにとって替えの利かない不可欠な選手」。
遠藤は歴代の代表監督から高い評価を得てきた。
(ホイッスル)遠藤はずば抜けたスピードを持つわけではない。
豪快なシュートが打てるパワーもない。
だが遠藤を支える一つの技術がある。
それは「ボールを止めて蹴る」というごく基本の動作の圧倒的な精度だ。
例えば足の内側で蹴る…遠藤はその正確さを究極まで求める事で誰にも負けない武器にしている。
インサイドキックで25mのゴロを正確に蹴る遠藤。
この精度はプロでも簡単には出せないと言われる。
ボールのコントロールが難しいアウトサイドキックを蹴り始めた。
遠藤は足のどの部分で蹴っても同じ正確さを出せる事を目指している。
試合を翌日に控えた夜。
遠藤さんはホテルにいた。
試合の前日はたとえ地元のゲームでも家族の待つ自宅には帰らないという。
どんな物を持ってきているのかスーツケースの中身を見せてもらった。
これゲームっすね。
これ…。
マッサージって言ったら変ですけど足の裏で乗ったりとか。
(取材者)どうやって使うんですか?足の裏で乗る時は普通にこうやって。
(取材者)あ〜なるほど。
気持ちいい所に。
あと腰をやったりとか。
これで…野球ボール使ってる選手は少ないかもしれませんけどゴルフボールとかテニスボールとか使ってる選手は多分結構いると思います。
(取材者)それいつぐらいから?かなり以前からやってます?これはえ〜と…今年のあれですWBCの時にもらったボールなんで今年の春からです。
(取材者)どなたからもらったんですか?これは杉内とか。
もらったというか変な言い方ですけど取ってきたというか。
(笑い)記念のボールなんでずっと使ってます。
あと本です。
これは「がんばらなくていいんだよ」。
(笑い)実はこの本厳しい修行を積んだ僧侶の手によるものだ。
(歓声)遠藤はコンフェデレーションズ・カップで世界の強豪と戦った。
だがブラジルには全く歯が立たず完敗。
イタリア戦では一旦リードしたものの最後は力負け。
3戦全敗。
ワールドカップに向け各選手の更なる進化が求められる結果となった。
番組の密着取材が始まった9月末。
遠藤はもう一つ重圧のかかる戦いに挑んでいた。
所属するガンバ大阪のJ1への昇格争いだ。
長い伝統を誇るガンバはおととし不振に陥りJ2に陥落。
遠藤は1年でJ1復帰を成し遂げたいとチームにとどまり戦っていた。
(ホイッスル)この日の相手はリーグ下位のチーム。
確実に勝っておきたい。
いつもどおり遠藤がさまざまなパスでチームを動かし攻撃を組み立てる。
だがこの日はなかなか得点に結びつかない。
更にキーマンである遠藤。
激しいプレーを仕掛けられる事もある。
だが遠藤はどんな状況でもほとんど表情を変えない。
平常心というか…しかしこの日唯一のゴールを奪ったのは相手の方だった。
(歓声)痛い敗北を喫し首位から滑り落ちた。
だが遠藤は落胆する様子をみじんも見せる事はなかった。
苦しい状況でも冷静さを保てるのはなぜか。
ある日練習に行く道中。
遠藤の独特の発想が垣間見えた。
運転は制限速度よりもゆっくり。
ここでもやはりマイペースだ。
目先の事で焦らない。
周りに何を言われようが今できる事を淡々とやる。
その考えは遠藤の練習に対する姿勢と全く同じだ。
練習のメニューは皆と同じごく一般的なもの。
だが遠藤は練習の合間を見つけては筋力トレーニングも行う。
そしてチーム全体の練習のあと。
一人黙々と走り込む。
世界で互角以上に戦うにはただ地道な事を積み重ねていくしかない。
それが遠藤の戦い方だ。
遠藤さんのふるさとは鹿児島桜島。
ここは遠藤さんが3歳の頃から2人のお兄さんとボールを蹴っていた庭だ。
庭の片隅にはお母さんがどうしても捨てられない物がある。
ボロボロになるまでこのボールを蹴り続けた少年は今日本代表として世界と戦う。
その道のりをたどる。
遠藤さんはサッカーが大好きな3人兄弟の末っ子として育った。
幼い頃から丸い物を与えておけばニコニコして手のかからない子どもだった。
遠藤さんと同じくプロで活躍した兄彰弘さん。
サッカーを始めた頃の遠藤さんには一つの特徴があったという。
遠藤少年はいつしか大きな夢を抱くようになった。
小学3年の時遠藤さんはサッカーの少年団に入り練習に明け暮れた。
遠藤さんはめきめき上達した。
(歓声)コーチは基本の技術にうるさかった。
練習は地道な「止めて蹴る」の繰り返し。
一見クールに見える遠藤さんだが根は誰よりも負けず嫌いだったという。
桜島の中学校には伝説となっている壁がある。
遠藤さんは排水のための小さな穴を狙いひたすらボールを蹴り続けキックの精度を磨いたという。
そして高校サッカーで活躍した後18歳で念願のプロ入りを果たした。
すぐに気付いたのは自分が周りより体格やパワーの点で劣っている事。
自分の武器は「ボールを止めて蹴る」基本の徹底だと信じ鍛練を重ねた。
そして26歳の時。
ついにチャンスが訪れた。
子どもの頃からの夢ワールドカップの代表に選ばれた。
だがドイツで待っていたのは厳しい現実だった。
3試合とも控えに回りゴールキーパーを除くとただ一人出場の機会が全く与えられなかった。
一体自分に足りないものは何だったのだろう。
そんな時出会った人がいた。
日本代表監督になった…遠藤さんをチームの中心選手に抜擢した。
冷静な判断ができるというのがその理由だった。
オシムさんが唱えた「考えて走るサッカー」。
その思想に触れる中で遠藤さんは自分に足りないものが見えてきた。
自分に必要なのは単に技術を磨く事だけではない。
仲間のためにプレーし最後まで走り切るという意識。
そしてそれを可能にする体だった。
遠藤さんはそれまで力を入れてこなかった体幹トレーニングにも打ち込んだ。
全体練習のあと持久力を高めようと一人走った。
そして迎えたワールドカップ南アフリカ大会。
30歳になっていた遠藤さん。
ついに夢の舞台に立った。
チームで誰よりも長い距離を走った。
そして…。
自ら得点を挙げベスト16進出の立て役者となった。
「ワールドカップに出る」。
子どもの頃に抱いた夢を成し遂げた遠藤さん。
だが大会のあと湧き上がった思いは遠藤さん自身にも意外なものだった。
今33歳。
遠藤さんは思う。
去年10月。
遠藤は日本代表のヨーロッパ遠征に加わっていた。
この時遠藤は左足首のケガで本調子ではなかった。
あのコンフェデレーションズ・カップでの敗戦からどこまで成長できたか。
その真価が問われる試合だ。
だが結果は極めて厳しいものだった。
遠藤が担う攻撃の組み立てが封じられる。
結局この試合1点も奪えず敗れた。
そして次のベラルーシ戦もノーゴールで敗北。
守備と共に攻撃の組み立てに大きな課題が残った。
遠藤はいつになく歯切れが悪かった。
試合後代表には厳しい目が注がれた。
若手の選手をもっと起用すべきだとの声も上がった。
代表最年長の33歳正念場の秋。
帰国すると僅か中2日でガンバでの試合が待っていた。
往復1万キロを超える移動。
疲労は当然たまっている。
足の状態も万全ではない。
だがチームは調子を落とし勝ちに恵まれていない。
休む事は許されない。
この日チームは攻撃のテコ入れのため異例のポジション変更を行った。
ふだん遠藤はボランチのこの位置。
だがこの日はフォワードとして最前線に立つ。
遠藤はこの変更を一つのチャンスだと捉えていた。
右サイドに走った遠藤。
味方選手にパス。
このパスが起点となりゴールが生まれた。
(歓声)前線の遠藤。
素早く斜め前方に飛び出し相手を引きつける。
そしてその空いたスペースに飛び込んできた味方選手に足の裏でワンタッチのパスを出した。
チームは4試合ぶりに勝利を収めた。
遠藤は手応えを口にした。
ところが3日後の事だった。
遠藤がチームの練習から離れていた。
前の試合で新たにケガを負ったという。
今度は右足の親指の付け根だ。
しかし実はこの時ボールを蹴れば蹴るほど痛みが増す状態だった。
だが翌日。
練習場に遠藤は姿を現した。
チームとは別メニューで体を動かす遠藤。
負けられない試合が迫っていた。
昇格が懸かるリーグ戦。
そして年内最後となる代表のヨーロッパ遠征だ。
遠藤がボールを蹴り始めた。
痛みで感覚が狂っていないか確かめるようにボールを蹴る。
リーグ戦の前日。
験を一切担がないという遠藤にある事を聞いてみた。
う〜んどうですかね。
まあやっぱり…30年前桜島でサッカーと出会った。
以来ずっとボールを蹴り続けてきた。
仲間の中には既に現役を退いた者も少なくない。
どこまで自分を信じて努力を続けられるか。
昇格が懸かったこの日の試合。
サッカーの神は遠藤に少しだけほほ笑んだ。
(歓声)遠藤としては極めて珍しいヘディングシュートを決め先制点を奪った。
そしてその後も得点チャンスを生み出しディフェンスでも冴えを見せた。
(ホイッスル)この日ガンバのJ1復帰が決まった。
そして2週間後。
いよいよこの秋最大の戦いがやって来た。
日本代表としてヨーロッパの強豪中の強豪と戦う。
遠藤に課せられているのは攻撃の立て直しだ。
だが初戦のオランダ戦。
遠藤のポジションに起用されたのは若手の選手だった。
遠藤に出番が回ってきたのは1点をリードされた後半だった。
攻撃の起点となれるか。
遠藤は冷静にパスを出し攻撃のリズムをつくる。
遠藤は逆サイドの選手に正確なロングパスを出した。
これが同点に追いつくゴールを生む攻撃の起点となった。
(歓声)この日も遠藤は後半からの出場だ。
前半遠藤はベンチでどう攻めるかを分析していた。
頭にあったのはガンバでフォワードを経験し改めて確認した「前に出る意識」。
(ホイッスル)1対1の同点から後半が始まった。
ベルギーはランキング5位世界屈指の強豪だ。
次々と攻撃を仕掛けてくる。
僅かな隙を突いて前に上がった遠藤はパスを受けた。
(歓声)遠藤は本田のゴールをアシストした。
積極的に前に出る意識。
そしてアウトサイドでの正確なパス。
サッカーの基本を極めた遠藤ならではの動きだった。
(ホイッスル)ついに強豪を相手に勝利を手にした。
帰国した遠藤。
ワールドカップへの思いをこう語った。
もっと成長できる。
もっと強くなれる。
遠藤はまだ上を目指す。
(主題歌)はいすいませんお疲れさまです。
すいません。
今年1月。
遠藤のワールドカップイヤーが始まった。
ものすごい影響を与えられる人が真のプロフェッショナルだと思います。
サッカーしてる僕ですらイチローさんのようになりたいとか思うんでねやっぱりその領域まで行きたいなとは思ってますけどね。
2014/01/31(金) 00:40〜01:30
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「プロサッカー選手・遠藤保仁」[解][字][再]
ワールドカップまで5か月を切った、サッカー日本代表。その大黒柱、遠藤保仁。ふだんはひょうひょうとして多くを語らない男の、胸に秘めた熱い思いと哲学に徹底的に迫る!
詳細情報
番組内容
ワールドカップまで5か月を切ったサッカー日本代表。そのチームに欠かせない男が遠藤保仁だ。歴代の代表監督から高く評価され、日本代表出場試合数は史上最多の140を誇る。遠藤の強みは、華麗なドリブルでも豪快なシュートでもない。「ボールを止めて、蹴る」という基本技術を究極まで突き詰めること。昨秋、強豪相手に苦戦が続く代表戦と、リーグ戦を平行して闘う姿に密着。ひょうひょうとした男が胸に秘める熱い思いに迫る!
出演者
【出演】プロサッカー選手…遠藤保仁,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – サッカー
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