スコラ 坂本龍一 音楽の学校 シーズン4「“電子音楽”編」(4) 2014.01.30

「schola坂本龍一音楽の学校」電子音楽編。
テクノロジーの発展という視点から20世紀の音楽史を学んでいます。
「schola音楽の学校」電子音楽を扱ってきたんですが今回のテーマは非常に漠然としてるんですけどメディアという事かなと思ってます。
今僕たち21世紀に暮らしてる訳ですけどもメディアを通してあるいはメディアに乗っかった…もっと言えば録音された音楽。
あるいは録音される事を前提にした音楽っていうものが作られるようになってそれを聴いている。
膨大な人が聴いてると。
その聴衆としても作り手としても実に大きな流れの中で影響を受けてあるいは条件付けられて表現活動などもしているという事ですね。
かつて音楽を伝えるメディアといえば楽譜が主流でした。
その後科学技術の発展はテープ・レコーダーCDなどの録音メディアラジオテレビなどの放送更にコンピューターといったさまざまなメディアを誕生させました。
「schola」ではそうした電気を使ったメディアを介して伝えられる音楽全てを広く電子音楽と捉えています。
今回はまずメディアに音楽を乗せるために必要となる録音について学びましょう。
最初は主に録音するという事はどういう事かという事をレコーディング・エンジニアでプロデューサーのオノさんを中心に話してみたいと思いますけど。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
ゲスト講師のオノセイゲンさんは世界的に活躍しているレコーディング・エンジニアです。
坂本さんとは「戦場のメリークリスマス」以来数多くの仕事を共にしています。
オノさんの仕事っていうのは主に音楽を録音する。
そしてそれを整理するっていうかミックスをする。
…で最終的な出口であるCDとか放送とかそういうものに合わせた形にしてあげるというような一連の流れがあると思うんですけど。
その録音するっていうのはどういう事かっていう事もう一度視聴者の方に分かりやすく話すとどうなりますか?録音するという事は何が入ってるかと言うと空気の疎密波を電気に換えてそれがたまたま何らかの形に記録されていればその電気をもう一度空気の疎密波に戻すと録音して再生したという事になりますね。
録音と再生の仕組みを見てみましょう。
私たちは音を認識する時空気中に伝わる振動を耳で感じ取っています。
この振動は空気が圧縮されて密度が高い部分と逆に密度が低い部分があるため疎密波と呼ばれています。
現在の録音方式は空気の疎密波をマイクによって電気信号に変換し記録するという仕組みです。
再生する時は記録していた電気信号を空気の振動に戻して音を再現しているのです。
ここにこう…空間があって音の何か事象があるという。
そこにメディアっていうのがあってですねマイクでこれをとるっていう事はこの音のイベントを電子的に変換すると。
…で蓄えると。
同じ空間かもしれません。
あるいは違う空間かもしれません。
ここは時を超えて時と空間も超えてるかもしれませんけどもう一度空気の疎密波に戻してやると。
ここが…とる方がマイクで出す方がスピーカーという。
みんなマイクやスピーカーっていうのはもちろんカラオケなんかもありますからよくご存じの事ですがよく考えるととても不思議な事をやってるんだなと思うんです私は。
こういう事ができる事によってある場所である特定の時間に起こっている事が全くかけ離れた時間や空間がここでもう一度空気の疎密波に戻す事ができる。
…だけではなくて例えば違う時間の違う場所に起こった事をここに重ね合わせて同時に再生する事もできると。
日本である時に起こった事とニューヨークで全然違う時に起こった2つ以上の事象を同時に重ね合わせたりもする事ができるという。
とても不思議なんですけども。
それでオノさんがよく言われる正確な録音とよい録音と言うんですかね。
よい音と正確な音の違い。
つまりここで必ず媒介…媒介ってメディアそのものですよね。
だからここで起こってる事自体とは異なる何らかの変換をやる訳ですけど。
この正確に変換をするあるいはよい音にする。
これは実は大きく違う事ですよね。
よい音っていうのはよいとかおいしい料理とか例えばね美しい写真それは全部それぞれ個人の主観的なもので。
正確な音っていう場合は先ほど坂本さんが書いて頂いた入り口と出口と言いますかね。
本来なら起こっているそこに行ければいいんですけどこちらの目的としてはそこと何ら変わらない測定データ上もうどんなに耳がいい人がいても坂本さんが行っても現地の人が行っても勘違いするぐらいな疎密波の再生ができればかなりよいですよね。
1対1と言うんですかね。
限りなくイコールに近く録音できればそれは正確な録音。
それが正確な音。
前にオノさんと話していてふと思ったんですけども究極の録音っていうのは何かって言うとある空間の分子の運動を全部記憶する事だと。
全方向にってね。
全方向に。
3次元の全ての時間軸上の分子の変化を全部記録すると完全に再現できるって事になるんですけども。
そんな事が可能かどうかは分かりませんけど。
セオリーとしては。
セオリーとしてはそう…。
エンジニアとしてはこのはざまを考えなきゃならないって事なんですよね?つまりよい音と正確な音っていう。
どっちの片方にも徹する訳にはいかないっていう事…。
マイクロホンもすごくよくなってるのでかなりそこはレベル高くなってるので色づけのない透明な音。
そういうところが正確なっていうのは。
大体できてるものとして考えます。
問題はどの場所からとるのがよいかという事ですね。
作り込むという意味ではマイクに入る音っていうのは広くするか狭くするか近づければその音しか入らないんですけど遠くにすると実は引きっていうだけじゃなくてその部屋の空気っていうのが実は反射音だったり響きだったりするのが入っていくんですね。
いい声よい声何がいいとかよいとか空気かなってやっぱり反射音なんですね。
楽器が鳴らしやすい部屋って必ず静寂と程よい反射音の響きがあるんですね。
そこは非常に僕の経験の中では昔は全然分かんなかったんですが30年を振り返ってみるとそういう事をやっているんだなっていうのが大事なとこですね。
一番考える事は何ですか?ちなみに。
一番考える事はホスピタリティーが大事だったりする訳ですね。
緊張してない事とかね。
一番いい演奏が起こってないって事はいい録音というか正確にとってもよい録音ではなくて悪い演奏の正確な録音になる場合があるんですね。
気分が悪いとね。
そうするとよい録音をとにかくどんな理由を使ってもいいから笑わせて笑顔をとるように音楽を起こさせると。
その時たまたまテープが回ってればそれが残るから空間がよかった時間に戻れるというかね。
そういういい録音は聴いてるとどのように演奏してるか肉体の動きまで見えるんです。
これはもちろん僕の幻想かもしれないし錯覚かもしれないんだけどもどうもそれだけではないような気がするんですね。
音楽を体験しながら学ぶ「scholaワークショップ」。
今回はCDなどのメディアに音楽を録音するレコーディングがどのように行われているのか実際に体験してみましょう。
参加するのはピアノやバイオリンなどのアコースティック楽器を学んでいる4人の高校生です。
今から何をするかって言うと僕がピアノを弾いてそれを録音します。
実際に今はオノさんの指示でマイクがいくつかあって何本使ってますかね?今回オノさんは2本1組のマイクを4か所にセットしました。
まずピアノのすごく近い所にね。
これよくスタジオレコーディングなんかでやる時にすごくオーソドックスな。
ポップスとかロックなんかやる時はこういう所に置いたりします。
すごく近いんですね。
ホントに。
実際にピアノの音を聴く時はここで聴く人はあまりいないんですけどもホントにここで聴いてるかのような位置ですよねこれはね。
そして2組目が…。
ちょっと離れた所に2つありますね。
マイクが耳だとするとこのくらいなイメージ。
普通の人の高さっていうかね。
イメージ的にね。
そして次にねここに遠くにあるんですけどこの上の所に。
距離で言うとこのくらい離れた…。
このぐらいの距離で…。
これでも例えばピアノのコンサートに行った場合なんかだったら最前列ぐらいではあったりすると。
今日ねもう一つだけねここにもう一つついてるんです。
何か関係ない方向いてるように見えるでしょ?ピアノとは違う位置に向いてる。
どうしてあんな所にあるかは後でお楽しみという事にして。
レコーディング作業では通常複数のマイクを使いそれぞれの場所で響いている異なる音を捉えます。
早速坂本さんのピアノ演奏を録音していきましょう。
はい。
どうでしょうか。
わざと今強く弾いたり弱く弾いたりいろんな音が出るようにしてみました。
その違いがいろいろ分かるように。
じゃあ聴いてみましょう。
ミキシングルームで収録した音を確認します。
場所によって収録した音がどう違うのか聴き比べてみましょう。
まずはピアノの弦のすぐ上にセットしたマイクの音。
続いて高い位置でピアノとは違う方向に向けられたマイク。
もう一度聴いてみましょう。
1−2って近い音。
まさに近い音なんですね。
例えば最後のだとピアノの上の方にあったんですけど何が聴こえてましたか?何か1ー2番は弦と近かったので…大切なところ言ってますね。
まるで仕込みじゃないですよ。
ちゃんと…いきなり。
一番近いやつだと最初にピアノの弦はじいた反響が全然聴こえなかったんですけど…いいとこ聴いてますね。
反響っていう言葉は大事だよね。
一つ大事な事は広がっていった空気の疎密波がこういうこう…ぶつかってこういうふうに反射してきますよね。
あらゆる方向に無限と言っていいほどそういう事がこの中で起こってる訳ですね。
だから誰かが反響って言いましたけど反響ってまさに行って帰ってくる事が反響ですので。
特にこういうものとかこういうものには行って…。
直接ピアノから来た音だけではなくてむしろこういうとこから反射してくる音がなぜこっち向いてるかって言うとそういう事なんですが。
…が随分入ってるっていうようなね。
楽器やる人にとってすごく大事な事はホールを鳴らす。
ホールは楽器の一部でここでフルート吹いてるんだけどフルートを2階席に向けて吹く。
目の前の3m先の室内楽の人ではなくて遠くに向けて飛ばすように吹いたりとかね。
音色っていうのがダイレクト音だけじゃなくて反射音によってすごく変わるっていう事が分かってきます。
ピアノとの距離とマイクの向きによって直接音と反射音のバランスは大きく変わります。
同じフレーズで順に聴いてみましょう。
もう一度。
それぞれのマイクが捉えた響きや音質の異なる録音。
それらを混ぜ合わせるミキシングという作業で音楽家やエンジニアは目指す音楽を作り上げていきます。
オノさんのミキシングを見てみましょう。
それは演奏者とか曲によっても自由です。
だからふだんみんなが何気なく聴いている録音された音楽っていうのは必ずこういうプロセスを経てまとめられているというものなんです。
それはもうテレビの中継でもそうだしもちろんCDでも何でもそうですね。
そういう意味ではこういう生演奏なんだけど録音を通してとかメディアを通してっていうのは一種の電子音楽になってるという事ですよね。
電気的に操作されたコントロールされた音楽という事で。
これも広い意味では電子音楽と言っていいかもしれないですね。
すごい面白いなと思います。
納得できるとこで。
ああ今まで自分気付かなかったな。
現在私たちはさまざまなメディアを通して音楽を耳にしています。
そのほとんどが電気の力で録音され再生されている広い意味での電子音楽です。
「schola」電子音楽編。
最後に講師の皆さんに現在の音楽をどう捉えているのか聞きました。
録音された音楽とそれと生演奏っていうのは実は違うっていう事を三輪さんはかなりはっきりおっしゃっていてその辺りを三輪さんにお聞きしたいなと思うんですよね。
だからあまりにも例えば今の技術水準で言ったらそれこそ目隠しテストをしたら本物かどうか分からないぐらいクオリティーが高いものですよね。
なんだけど逆に言えばあまりにも近いからこそ意識化されないというか…という部分っていうのは音楽を考える上で非常に意識しなきゃいけない事なんだろうなと思うようになったんですね。
やっぱり録音っていうものが一度入っているとまず目の前で起きてる現象として違うのは当たり前ですよね。
人がいないんですし今だったらマイクロチップが動いてるんでしょうし。
もちろんそんな事言い始めたら今ここでしゃべってる事が例えばテレビで見られているとかそういう事も全部含めてそういう枠組みみたいなものメディアですよね。
メディアみたいなものっていうのを僕らはもっと意識しないとそこから先が考えていけないんじゃないかっていう。
録音・再生技術っていう事を考えるとジョン・ケージが「レコードは絵葉書にすぎない」みたいな発言をして家にはレコードが全然なかった。
それは録音してしまうといつ再生しても同じでリアルタイムの創造性がないというふうに多分ケージは考えたんだと思います。
そのあとの作曲家たちっていうのはリアルタイム性みたいものをどうやって獲得するかっていう歴史でもあったんじゃないかと思うんですけど三輪さんはその辺りいかがお考えですか?僕自身はいわゆる録音を前提とした作品というのは基本的にあまり作ってこなかったんですね。
やっぱり人力でというか人間の演奏で成立するものと。
ただし作曲のプロセスにおいてはコンピューターとか現代のテクノロジーを大いに使うっていうやり方を考えた訳です。
コンピューターを使って音符を選ぶという可能性みたいなものに僕は非常に引かれまして。
またり〜はい。
三輪さんの作品「またりさま」。
コンピューターを使って鈴とカスタネットを組み合わせた演奏の規則を作成。
演奏者たちはその規則を覚えて2つの楽器のうち定められた一方を鳴らしています。

(鈴カスタネット)講演会場で発表された解説には…音楽作品の根底には必ず物語があると考え架空の設定を付加したのです。
こうした人間とコンピューターの関係性に改めてスポットを当てる斬新なコンセプトにより世界最高峰といわれるメディア・アートの祭典でグランプリを受賞しています。
このような作曲方法はアルゴリズミック・コンポジションと呼ばれます。
多くの場合は演奏もコンピューターが自動的に行います。
しかし三輪さんはあえて人間の手に演奏を委ねているのです。
長い間僕自身もコンピューターでシミュレーションするなりやらせれば正確に間違いなく早くできる事を何でわざわざ人間がやらなきゃいけないんだという素朴な疑問に答えられないでいたんだけれどもこれ人間がやらなかったらそもそも音楽にならないじゃないかというふうに思うようになって。
作曲のとこはコンピューターが自動的にやっている。
それを今度演奏も機械が自動的にやるんだったらどこにも人間がいないんじゃないかという事ですよね。
僕の場合は人間じゃなきゃ意味がないっていうふうに信じてるとしか言いようがないんですけども。
そういう事です。
そういう意味で三輪さんのある種の作品がフィクショナルな成り立ちというかなある物語みたいなもの歴史みたいなものを加工してそれをプログラムノートに出しておいて作品と一緒に提示するっていうような事もある訳ですかね。
それが音楽作品であるっていう事には必ず何らかの物語が付きまとう訳です。
例えばベートーヴェンの作品だって言ったらそれだけでさまざまな意味が付加される訳ですよね。
ただし僕の場合は全く数学的なシステムに従って人間が行為をして音が奏でられるというようなものなんだけど。
それ自体の数学的な何か理由を説明する事はもちろん簡単な事なんですけれどもそれの代わりになるものとしてまた作品の一部としてそういう物語もペアに…セットになっているというそういう事ですね。
なるほど。
複雑な問題だな。
含んでいるな。
面白い。
この辺りでまとめなきゃいけないんですけれども…。
僕たちはねいやがおうにもそのほとんどの音楽を録音という形で聴いてる訳でそこから逃げられない訳だし科学技術の変化っていうのはこれから早くなるでしょう。
どうしても拒否するにしろ受け入れるにしろつきあっていかなきゃいけないという事でこれはもう音楽を享受する方も研究する方も作る人間もみんなそうですので。
そういう現代の自分たちの生活を考えるあるいは文明を考えるいい切り口だったかなと思いますこの電子音楽というのはね。
最後に最新のテクノロジーを使ったメディア・アートで国際的に注目される真鍋大度さんの作品を紹介します。
人間の体に流れている微弱電流を特殊なセンサーで計測しコンピューターを使ってリアルタイムで音に変換していきます。
同時にその値に応じて顔の筋肉を刺激。
音と連動して表情も変化させます。
人間の体とコンピューターが織り成す新しい電子音楽をお聴き下さい。
2014/01/30(木) 23:25〜23:55
NHKEテレ1大阪
スコラ 坂本龍一 音楽の学校 シーズン4「“電子音楽”編」(4)[字]

「電子音楽」編4回目は録音の本質と電子音楽の今後を学ぶ。空気の振動をいかに記録し、再現するかという録音の真実に迫る。またテクノロジーと人間の関係を考える。

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