政府の途上国援助(ODA)をめぐる疑惑がまた発覚した。

 鉄道コンサルタント会社がベトナムなど3国で計60億円の事業を受注した見返りに、計1億円のリベートを相手国の公務員らに渡した疑いがある。

 政府は民主主義や法の支配を広める「価値観外交」を掲げ、東南アジア諸国への2兆円規模のODAを表明した。インフラ輸出の拡大も打ち出している。

 それだけに、断じて腐敗に甘い国とみられてはならない。

 現に、国際NGOの報告書では、日本は海外への贈賄の摘発に熱心でない国に分類されている。汚名返上のためにも、国内の取り締まりはもちろん、相手国への腐敗防止の働きかけも強化すべきだ。

 海外で贈賄した企業への罰金は最高3億円と、決して軽くない。それでも、事業のうまみが罰金額を上回れば抑止にならない。そう指摘されてきた。

 国連腐敗防止条約は、賄賂を使って獲得した事業の収益を没収する法の制定を求めている。日本が署名してから10年以上たつ。法改正を急ぐべきだ。

 最近、日本の商社もインドネシアでの贈賄で米司法省に罰金90億円を科された。英米は不正防止策を怠った企業への制裁を強めている。法を守らない企業は深手を負う時代だ。

 贈賄工作は海外の子会社が実行することが多いとされる。企業グループ全体でチェック体制を敷き、親会社が子会社や関連会社へ指導する仕組みが要ると識者は言う。傾聴すべきだ。

 賄賂は相手側から求められるケースが多いようだ。しかし、腐敗に手を貸すのは成長を邪魔するのに等しい。腐敗した国は投資を避けられ、市場が育たない。ODAの本旨を損なう。

 裏返せば、相手国に腐敗根絶を働きかけ、支援することも立派な途上国援助になる。

 賄賂で受注を競うと、支援国の側は出費がかさみ、相手国の事業額にもはね返る。双方に害をなす背信行為だ。

 一国だけで浄化を働きかけても、効果は薄い。他国と連携し、援助の条件として汚職対策を求めるべきだ。

 外務省は新時代のODAの重点の一つに「法制度整備支援」を打ち出した。法の専門家を派遣し、腐敗防止を含む法制度作りや法律家の育成を支える。

 実は6年前にベトナムへの贈賄事件が発覚した際も、再発防止策として掲げていた。だが、現実にはこの分野の日本の支援額はまだ多いとはいえない。

 日本の信頼を取り戻すため、今度こそ有言実行を求めたい。