HOME > レビュー > TOHOシネマズ日本橋で、仰天のドルビーアトモスを体験!これぞまさに最先端の映画空間だ
2014年3月20日/吉田伊織
東京は日本橋の大商店街。その中央通りを挟んだ日本橋三越の向かい側に"COREDO(コレド)"を中核とした一大ショッピングゾーンが展開されている。三井不動産が官民地元協同で推し進める「日本橋再生計画」の一環である。
そしてこの3月20日にオープンしたビルCOREDO2には、シネマコンプレックス「TOHOシネマズ日本橋」が最先端の設備を備えてお目見えした。この地域では初の本格的映画館を取材してみた。
内装は「和のテイスト」「ラグジュアリーな空間」というだけあって、高級ブランド店を並べたホテルのフロアに迷い込んだような気分だ。絨毯からして落ち着いた暗色系の紋様があしらわれて柔らかい感触が心地よい。しかもハイヒールや車椅子でも支障のないよう過度に沈み込まないのがいい。壁のさりげない装飾や行灯風の透過光照明、アーチ状の天井を生かした反射照明など、明るさを控え目にしているからこそ生まれる形と陰影の配分が魅力だ。
こうした明るさを抑え光源を目立たせない照明は、落ち着いた雰囲気を作り出すとともに、映画を鑑賞する条件を整えることにもつながる。つまり暗い場内や晴天の陽射しより色温度が低い映写光源に視覚を順応させやすい効果があるのだ。これは映画館設計の基本であるはずだけれど、近年は"明るくキレイな映画館"ということばかりを強調してやたらに目を刺激する内装になっている例もあるのだ。
合計9スクリーンの中で特に注目されるのは、壁面一杯の大スクリーンであるTCXと最新の音響方式であるドルビーATMOS(アトモス)を備えたスクリーン8だ。今回は、そこで3D版の「アナと雪の女王」を鑑賞できた。
場内に入ってまず目を引くのは、天井に設置された2列、計16台のオーバーヘッド・スピーカーだ。緑のLEDに縁取られて背後の暗さに奥行をイメージさせる効果もあるのが巧みだ。両脇や後壁のサラウンドスピーカーも8個ずつであり、場内で簡単に視認できるサラウンド系だけで40台、それに計5台のサブウーファーのうちの2台は場内後壁側の両隅に配置されている。
結局、独立したチャンネルの総計は、サブウーファーを0.1として49.1チャンネル構成だという。これをドルビーATMOSのプロセッサーにて録音されたチャンネル数により効果的にチャンネルを再配分。録音の仕上げ時に想定した音空間を十全に再現できる、というのがこの「ドルビーアトモス」の要諦だ。
こうした「オブジェクト志向」の発想により、ダビングステージと市中の映画館との音響空間やハードの構成の違いにかかわらず、理想的な再現性を確保できるのは映画史上画期的なことだ。
従来のTHXシアターは、市中の劇場をTHXメソッドのダビングステージのハード的な環境に極力合致させようという企図だったのだが、それはいわば一対一的発想といえる。ドルビーアトモスは劇場の規模やスピーカー台数や配置状態にかかわらず再現性を高度に維持するという、柔軟にして包括的なシステムを目指しているのだ。
実際の音はこれまでの現代的な映画音響体験の中で最高であった。繊細な情報が実に的確にまた実体的に三次元定位するのであり、またチャンネル感のつながりもそれを意識させずに立体座標をきれいに埋めている印象だ。
ダイナミックレンジの広さは要所で自然に押し寄せる量感や低音の下支えに表れている。しかも声質の描き分けや伸びやかさ、音楽と効果音の一体感と多層構造もよく見通せる。THX劇場にありがちな力づくの印象ではなく、豊かで精妙な余韻の質を確保した上で、高度な過渡特性を発揮しているのだと思う。
こうした印象は比較的小スペースのよく整ったダビングルームでの体験に似ている。両脇や頭上に流れる音、頭上背後に実像として出現する音のふるまいなど、空間での音響的なロスの少ない聞こえ方に似ているのだ。しかもそれが大空間にて大スケールで展開するのだから素晴らしい。
3D映像も最高水準であった。吹雪のまっただ中にほうりこまれたような臨場感、あるいは雪氷の大展望など、作品自体の技術水準ということもあるけれど、デジタルプロジェクターの投影像を大きな湾曲スクリーン(幅16.0×高さ6.7m)に正確にフォーカスさせる基本設計と高度な調整技術の成果だろう。
反射率の高いシルバースクリーンにありがちな明部のぎらつきや階調性の劣化、色彩のデフォルメも感じられず、これは特別料金で鑑賞する価値のある3D体験であった。
ちなみに客席は座り心地がよく、しかも座席間隔が広いのも好印象だ。このサイズなら、さらに100席くらい増やすことができそうなのにゆとりを重視しているのだ。
日本橋というと華やかな銀座とも異なる、ゆとりのある年配層のための場所という印象があるわけで、劇場としても、歌舞伎やオペラのライブ映像や往年の名画の企画など、地域特性に合った番組作りを工夫している。しかしお客の年齢層を若い世代にも広げたいという意欲もあるわけで、TCXやドルビーATMOSに100円ずつ特別料金を上乗せする一方、格安で鑑賞出来るサービスデイや会員制も充実している。
首都東京の歴史的な重みと風格を感じさせる場所に、現代的な吸引力をそなえた商業スペースが展開され、そこに最先端にして地域特性にふさわしい豪華な映画館が構えている。古風を残した伝統の街並に、すでに新風が吹きはじめている!