西寺郷太インタビュー
音楽が売れない時代の「やりやすさ」
インタビュー・テキスト:柴那典 撮影:柏井万作(2014/3/28)
初のソロアルバム『Temple St.』を完成させたノーナ・リーヴスのフロントマン、西寺郷太。彼の根っこには「ポップミュージックへの巨大な愛」がある。それがミュージシャンとして、そして語り部としての莫大な知識量と熱量に結びついている。特にここ数年では、マイケル・ジャクソン関連を中心にした書籍やコラムの執筆、ラジオのレギュラー番組やテレビ出演などでも名を知られるようになってきている彼。今回のインタビューでも「終わりの時間を言ってくれないと、ずーっと喋り続けちゃうから(笑)」と最初に念を押され、実際、取材は予定時間をオーバーして幅広い音楽談義になったのがとても印象的だった。そういうところに、彼の魅力、そしてその才能を多方面に開花させてきた原動力があるに違いない。
バンドのメジャーデビューからは17年。V6やNegiccoなどへの楽曲提供など音楽プロデューサーとしてもキャリアを重ねてきた彼。満を持してのソロアルバムのリリースはVIVID SOUND内に立ち上げたプライベートレーベル「GOTOWN RECORDS」から。アルバムにはジャクソン5、ジャクソンズのティト・ジャクソンがギターとコーラスで参加し、レーベルからはアナログ7インチも先行リリースされる。今回の作品にどんな思いで臨んだのかを紐解くうちに、話は今の音楽ビジネスのあり方にも膨らんでいった。
音楽が好きになればなるほど周りと話が合わなくなってくる(笑)。しょうがないからずっと一人でデモテープを作る。そんな時期が10年続いたんです。
— 今回、初めてのソロアルバムを制作するというのは、ご自分にとってどういうタイミングだったんでしょうか。
西寺:なんというか、「時が来た」という感じがあるんですよね。僕は運や巡り合わせのようなものをすごく大事にしていて。物事が上手くいくときって、そうなんですよ。で、そもそも遡ると、僕は21歳の時にスタートしたノーナ・リーヴスが初めてちゃんと組めたバンドだったんですけど、そこに至るまでが長いんですよ。10歳で曲を作り始めて、中高生の頃は自分の身の回りに、大人も含めて僕よりポップスに詳しい人がいなかったんですよね。で、わりと早い段階で音楽の趣味が固定されたんです。ブルーアイドソウル的な、ブラックミュージックの匂いのする、だけど黒人音楽そのものではないっていうものになっていって。
西寺郷太
— かなり早熟ですよね。なんでそういう少年に育ったんでしょう? 誰かの影響があったんでしょうか。
西寺:それはありますね。3つ上に鈴木元昭くんっていうお兄さんみたいな役割の存在がいて、彼が持ってきたマイケル・ジャクソン“ビリー・ジーン”のVHSを観たのが9歳の頃でした。そこから洋楽が面白くなっちゃって。あと、親父が英語の先生をやっていた関係もあって、カーペンターズ、ボブ・ディラン、ビートルズ、ジェームス・テイラーなんかを普通に聴いていたんですよ。もちろん、さだまさしさん、アリス、近藤真彦さん、田原俊彦さん、松田聖子さんみたいな歌謡曲にも夢中になって。
— 子供の頃から幅が広いですね(笑)。
西寺:その中でも本当に好きになったのは、マイケル・ジャクソンやビートルズ、あとはモータウンでした。でも、そんなことをやってると、バンドが組めないんですよ。中学生とか高校生の頃はバンドブームだったのに。
— なるほど。周りの友達と趣味が合わない。
西寺:そう、音楽が好きになればなるほど周りと話が合わなくなってくる(笑)。しかも僕はボズ・スキャッグスとかボビー・コールドウェルみたいにセンスもテクニックも必要な音楽がやりたくて、でも、まず自分にもそんな能力がないんですよ(笑)。で、しょうがないからずっと一人で悶々としつつデモテープを作る。そんな時期が10年続いたんです。
— そういう不遇の時期があったんですね。
西寺:東京にくれば話の分かる奴もいるだろうと思って、18歳で早稲田に入って、ノーナ・リーヴスのメンバーに出会ったんです。でも、その頃から彼らはいろんなバンドをやってて忙しくて。メンバーの小松(シゲル / ドラム)にも「あの頃の君は、不遇だったよなぁ」と、酒を飲むと言われます(笑)。最後に「もうソロでやるしかない」と思って開き直って作ったのが、結果的にノーナ・リーヴスの1曲目になった“自由の小鳥”っていう歌だったんです。それを小松や奥田(健介 / ギター、キーボード)が誉めてくれて。それからバンドが始まって、これまで辞めることなく17、8年続いてきて、その上でまた今、ソロもはじめた。というか戻ってきたっていうことなんです。自分の中では。
— なるほど。バンドどうこうというより、音楽人生の中でようやくソロをやるタイミングが来たっていう話なんですね。
西寺:そうなんです。そもそもノーナ・リーヴスを結成して以降、自分からソロをやりたいって言ったことは一度もなかったんですよ。幼少期からのトラウマですから(笑)。むしろ、本を書くとか、ラジオに出るとか、プロデュースするとか、そういう方面で個人活動をやってきた。曲を作って俺が歌うなら、小松と奥田を呼んできた方がいいものができる。最近までそう思っていたんです。
ノーナ・リーヴスのフロントマンであり、V6やNegiccoといったアイドルへの楽曲提供などで音楽プロデューサーとしてもキャリアを重ねてきた西寺郷太、満を持しての初ソロアルバム。参加ミュージシャンにはNONA REEVESの奥田健介、小松シゲルをはじめ、冨田譲、松井泉が名を連ねるほか、さらにジャクソン一家の次男ティト・ジャクソン(The Jacksons、The Jackson 5)が友情参加している。共同プロデューサーは宮川弾(ラヴ・タンバリンズ)。幼少期からモータウンサウンドなどを愛聴してきた西寺らしい、モダンでダンサブルな素晴らしい現代のポップミュージックが完成した。
西寺郷太(にしでら ごうた)
近年、V6、Negicco、bump.yなどのプロデュースや、マイケル・ジャクソン関連書籍、コラムを中心にした執筆、TV、ラジオ への出演など、各方面でマルチな才能を発揮し活躍するノーナ・リーヴスのボーカリスト。キャリア初のソロ作『Temple St.』には、スヌーピー展のテーマ・ソングとなった「I CAN LIVE WITHOUT U」、TBSラジオ『 M u s i c 2 4 / 7 』でも耳馴染みとなっている「SILK ROAD WOMAN」 など全8曲を収録。参加ミュージシャンにはノーナ・リーヴスの奥田健介(g)、小松シゲル(dr)はもちろん、ノーナのサポート陣、冨田謙(prog.,keys)、松井泉(per)、そしてジャクソンズ/ジャクソン・ファイヴのティト・ジャクソンが友情参加!! 共同プロデュースは宮川弾(ex.ラヴ・タンバリンズ)。メロウでポップ、無国籍感満載の西寺郷太ワールド全開でお届けします!
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