DV防止教育:なぜ…加害者同士が語り合う場

毎日新聞 2014年03月29日 12時32分(最終更新 03月29日 15時26分)

DVの原因の一つとなる考え方を説明する岩瀬さん
DVの原因の一つとなる考え方を説明する岩瀬さん

 なぜ暴力を振るうのか、考えて−−。ドメスティックバイオレンス(DV)被害が増加する中、アメリカで始まった「加害者教育」を行う団体が日本でも増えつつある。DVは、家庭環境や性格や病気など多くの要因が絡み合う。どんな内容なのか。東海3県で唯一、加害者教育を行っている名古屋市中村区の「DV防止教育センター」を訪ねた。【石山絵歩】

 「私が最後に妻に暴力を振るったのは○月○日です」。毎週末に同センターで開かれる講座では、冒頭、輪になった参加者が最後に行ったDVの内容や近況を告白する。身体的暴力だけでなく、無視や物に当たる行為もDVに含まれ、長い間DVをしていない人もいれば、センターに通いながらも暴力を振るったと話す人もいる。同センターの岩瀬祥代代表(64)は「誰にも言えない自分の行為を言葉として吐き出すことで、冷静になれる。他の参加者の話を聞くのも、自分を見つめるきっかけになる」と説明する。

 参加者同士で約1時間話した後は、主に教材を使った座学だ。岩瀬さんがコーディネーター役となり、物語の登場人物の気持ちを考えながら、相手への接し方を学んでいく。参加者の雰囲気は穏やかで、夜には飲み会が開かれることもある。岩瀬さんは「元々暴力的ではなく、『妻や彼女を教育するため』として、暴力を正当化する人がほとんど」と話す。

 センターに通う30代男性は昨年、妻の浮気をきっかけに、激しい暴力を振るうようになった。元々は男性が先に浮気したのが原因だったが、妻がごろごろしているのを見ると「疲れている夫を癒やすのは妻の役目」ととっさに首を絞めたり、殴ったりすることもあるという。「怒りの根本には『なんで理解してもらえないのか』という寂しさがあり、先に手が出て、自分が何をしているか分からなくなってしまう」と話す。暴力への抵抗もあまりなかったが、連日のけんかを聞いた近くの住民が通報し、警察署で初めて自分のしていることがDVと知ったという。

 妻と3人の子供と別居し、センターに通って5カ月になる。「今までは妻を所有物と思っていたが、それはエゴだと分かった。考え方を変えるのは簡単ではないが、寂しさを暴力以外で表現できるようになりたい」と思っている。

 警察庁によると、昨年のDV認知件数は、全国で4万9533件に達し、過去最多となった。愛知県は2127件で、前年より524件増えている。

最新写真特集