台湾の江宜樺・行政院長(首相)は28日、今後中国と協定を結ぶ際に情報公開と立法院などによる監査を義務付ける法律を制定する考えを表明した。中国と締結したサービス貿易協定の撤回を求める学生らの運動を契機に市民の間で中国の影響力が強まることへの懸念が広がり、譲歩を余儀なくされた。対中融和路線を推し進めてきた馬英九政権は難しいかじ取りを迫られている。
江氏は記者会見で「監査メカニズムの法制化については基本的に前向きだ」と表明し、与党・国民党などとの協議を通じ、法制化に向けた文書を準備する姿勢を見せた。
監査法の制定は立法院の占拠を続ける学生らが要求していた。江氏は「産業界や学界からも要請があり、(学生らの)要求に応じるわけでない」と主張した。サービス貿易協定については、「撤回・再協議はあり得ない」と言い切り、早期の発効を目指す意向を示した。
中台は昨年6月、医療や金融などの市場を相互開放するサービス貿易協定を締結した。これに対し、「事前の情報公開が不足している」との批判が噴出。国民党はかねて協定を結ぶ際に立法院への報告や関連業界への説明を促す制度を馬政権に提案しており、法制化ではこうした案がたたき台となるもようだ。
馬政権が軟化に転じた背景には、「台湾統一」を志向する中国に対する市民の警戒感がある。台湾のケーブルテレビ大手、TVBSグループが24日夜に実施した世論調査では、サービス貿易協定を撤回し、中国と再協議することを「支持」するとの回答が6割を超えた。
2008年に誕生した馬政権は、10年に中国と実質的な自由貿易協定(FTA)を結び、経済交流を加速した。今年2月には1949年の中台分断後初めてとなる中台当局間の直接対話を実現するなど、今後の政治協議にも前向きになっている。
現状では対中関係について「独立」でも「統一」でもない「現状維持」を求める声が8割超を占める。中国に急速に接近する馬政権に対する学生らの抗議運動を政権が抑え込もうとしたことで、警戒感は台湾全土に広がりつつある。
中台間で今後結ぶ協定の監査を法制化するという今回の提案の背景には世論を沈静化したいとの政権の焦りが透ける。法律が成立すれば、今年前半に予定していた関税の原則撤廃を含む物品貿易協定などの中国との締結が遅れることは確実だ。
馬総統は25日から学生代表への対話の呼び掛けを始めたが、学生らはあくまでサービス貿易協定の撤回を求めて30日も総統府前で大規模な集会を開く構え。約2年の任期を残す馬政権の対中融和策に狂いが生じてきた。(台北=山下和成)
FTA、馬政権