WEB特集
トルコ ツイッター遮断の波紋
3月26日 16時30分
トルコのエルドアン政権は、今月20日、インターネットのツイッターを遮断する措置を取り、国の内外で波紋が広がっています。
民主化が進み、著しい経済発展を遂げてきたトルコ。
親日国としても知られ、去年は安倍総理大臣が2度トルコを訪問して注目が集まりました。
そのトルコで、なぜ民主化に逆行するような動きが出ているのか、その背景と今後の見通しについて、トルコを取材しているカイロ支局の西河篤俊記者が解説します。
ツイッター遮断の衝撃
始まりは、今月20日、西部ブルサで、エルドアン首相が行った演説でした。
この中で、エルドアン首相は、「ツイッターを根絶やしにする。国際社会がなんと言おうが構わない」と述べ、ツイッターを遮断する考えを明らかにしました。
その数時間後から、トルコでは実際にツイッターが接続できない状態となりました。
これに対し、国内外からの反発が一気に高まりました。
同盟国アメリカ、ホワイトハウスのカーニー報道官は声明を発表。
「トルコの人々に対する情報へのアクセス規制に反対する」として、エルドアン首相の対応を非難しました。
また、EU=ヨーロッパ連合のクルス副委員長も声明を発表し、「きょうは悲しい日だ。民主主義とヨーロッパの価値観に反するもので許されない。エルドアンは間違った方向に進んでいる」としてエルドアン首相を痛烈に批判しました。
国内からも野党勢力などから撤回を求める声が上がったほか、エルドアン首相と同じ政党のいわば身内であるギュル大統領も「ソーシャルメディアを全面的に遮断することはできない」とツイートし、懸念の声を上げました。
政権批判を抑え込むのがねらいか
なぜ、エルドアン政権は、ツイッターの遮断に踏み切ったのか。
背景にはツイッターが政権批判の手段として重要な役割を果たしてきたことがあります。
トルコでは、首相の政権運営が強引だとして、去年から、反政府デモがたびたび起きていて、その際、若者たちはツイッターなどを通じてデモを呼びかけました。
さらに、先月には、エルドアン首相みずからが汚職に関与していたと指摘する内容の音声ファイルがインターネット上に出回り、これがツイッターを通じて広がったのです。
これに対して、エルドアン政権は、「ツイッター上にはうその情報があふれている」として、投稿の削除をツイッター社に要請。
しかし、ツイッター社が要請に応じなかったため、エルドアン政権は、ツイッターの遮断に踏み切りました。
エルドアン首相は、さらに、世界最大の交流サイト「フェイスブック」や動画投稿サイト「ユーチューブ」の禁止も検討する考えを示しています。
今月30日には、統一地方選挙を控え、インターネット上での政権に対する批判を抑え込むねらいがあるとみられています。
遮断でも批判ツイート収まらず
ツイッターの遮断によって、エルドアン政権への批判は、少なくともツイッター上では抑え込まれるものとみられていました。
しかし、エルドアン政権に対する批判のツイートは、収まるどころか、逆に激しさを増す事態となっています。
ツイッター社が、「トルコのユーザーは携帯電話のSMS=ショートメッセージサービスを使ってツイートできる」とツイッター上に掲示するなど、政権との対決姿勢を鮮明にしたのです。
その後、遮断措置を回避するためのさまざまな方法がインターネット上に紹介され、地元メディアによりますと、遮断前には1日平均180万件のツイートがありましたが、遮断後の24時間には250万件に増えたということです。
混乱するトルコ
今回のツイッターの遮断を巡る騒動は、今のトルコの混乱ぶりを象徴していると言えます。
エルドアン首相率いる公正発展党は、2002年以来、総選挙で3期連続で過半数を獲得し、単独政権を維持しています。
イスラムの価値観を重んじながら経済発展を実現するという、エルドアン政権が進めてきた国づくりは、民主化運動「アラブの春」で独裁政権が崩壊した中東の国々から、国づくりの成功モデルとみなされてきました。
しかし、ここにきて、エルドアン政権にひずみが出てきているのです。
経済では、去年、アメリカが量的緩和の規模の縮小に踏み出したことに加えて、エルドアン政権を巻き込んだ汚職疑惑が表面化したことで、通貨リラ安に見舞われ、厳しい経済状況に陥っています。
外交では、隣国シリアの内戦で、反政府勢力を支援する立場を鮮明にしたことでアサド政権との関係が悪化。
反政府勢力の中でイスラム過激派が活動を活発化させると、国際社会の非難が高まり、トルコは劣勢に立たされています。
また、協力関係にあり、経済的にも結びつきの強かったエジプトのモルシ政権が、去年、事実上の軍事クーデターで崩壊に追い込まれると、エジプトとの関係も急速に冷え込み、地域での影響力の低下も指摘されています。
内政では、エルドアン政権の支持者の中で、エルドアン首相を支持するグループと、イスラム穏健派の宗教指導者ギュレン師を支持するグループの内部対立が表面化。
今月30日に行われる統一地方選挙で、与党・公正発展党の得票率が低下するのではという見方も出ています。
エルドアン首相の痛手に
こうしたさまざまな課題に直面するなか、ことし1月、NHKの単独インタビューに応じたエルドアン首相は、「混乱は長続きしない」と述べて、事態の鎮静化に自信を示していました。
しかし、その後も混乱は収まるどころか、むしろ拡大しています。
ことし8月には、国民が直接投票によって選ぶ初めての大統領選挙が予定されていて、エルドアン首相の立候補も取り沙汰されていますが、今回のツイッターの遮断を巡る問題は、強気の姿勢を見せてきたエルドアン首相にとっても痛手になりかねません。
トルコ情勢は、経済や外交面などで国際社会にも大きな影響を与えるだけに、この問題から目が離せません。