政治とカネをめぐる重大な問題である。公開の法廷で真実を究明すべきではなかったか。

 徳洲会グループから5千万円を受けとった猪瀬前都知事に対し、東京簡裁がきのう罰金50万円を命じた。

 知事選を目前に控えた時期の金銭授受である。都議会や記者会見で猪瀬氏が繰り返してきた「選挙に関係ない」「個人的な借り入れ」という釈明では、およそ国民の理解は得られなかった。刑事処分は当然だろう。

 政治腐敗への不信を背景に、政治家のカネの流れの透明化が本格的に進んで20年になる。その後、政治家個人は企業献金を受けられず、政党だけに絞る法改正もされた。

 だが、政治家による企業からの「個人的な借り入れ」がまかり通るようでは、政治資金をただす制度は意味がなくなる。

 今週も、みんなの党の渡辺喜美代表に8億円を貸した、と化粧品大手の会長が明かした。

 こうして表沙汰になる闇のカネは、氷山の一角にすぎないとみるべきだろう。「個人的」という名目で政治につきまとうカネの横行を見過ごすことはできない。

 猪瀬氏に対し、書面審理の簡単な手続きで罰金刑が宣告されたのは、東京地検が略式起訴を選んだためだ。

 一応の刑事責任を問う処分ではあるが、事件の社会的な波紋を考えれば、あまりに中途半端ではないか。

 金銭授受が何であったのか、国民が公開審理で知る機会は失われた。

 授受の趣旨について、猪瀬氏と徳洲会側の主張には食い違いが大きかった。きのう会見した猪瀬氏は、これまでの釈明を修正し、「選挙に使う可能性があったのも事実」と認めた。

 それでもなお不明朗なことが多すぎる。

 徳洲会側は見返りに何を期待し、猪瀬氏はどんな形でこたえたのか。謝礼を受けた仲介役はどんな役割をしていたのか。そもそも、なぜ猪瀬氏は選挙前に見知らぬ人間とこんな関係を結ぶに至ったのか。

 裁判になれば、当事者たちが証言し、そうした問題がただされる可能性もあったはずだ。

 略式起訴は、容疑者の同意なしにはできない。猪瀬氏は有罪を認めることと引きかえに、自分のふるまいが精査される局面を免れた。

 本当に罪を認めるならば、やるべきことが残っている。自らが深みにはまった政治にまつわる利権の構造を、できる限り明らかにすることだ。