時論公論 「除染と生活再建を進めるには」2014年03月27日 (木) 午前0時~

菊地 夏也  解説委員

東京電力福島第一原子力発電所の事故から3年余り、生活圏で受ける放射線の量を減らす除染の進み方が、被災した人たちの生活再建に影響を与えています。
福島県の現地を取材すると、これから除染と被災者の生活再建をどのように進めていくのか、改めて考える時期にきていると思います。
今夜は除染と被災者の生活再建について考えます。
 
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除染は、放射線量が高く国が直轄で行う福島県内の11の市町村の「除染特別地域」と、東北から関東の100の市町村が主体となって行う地域に分けて進められています。
しかし、「除染特別地域」でも除染の進み方に大きな差が出ています。
 
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田村市の一部は、去年6月に除染が完了し、来月1日には避難指示が解除される予定で、楢葉町それに川内村と大熊町の一部も今月末に完了予定ですが、南相馬市など6つの市町村は除染計画の完了予定を最長のところで3年程度、平成28年度末まで延長しました。
放射線量が高い「帰還困難区域」それに双葉町では除染の計画すら立てられていません。
 
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除染が計画より遅れている理由を3つにまとめました。
▼除染には地権者などの同意が必要ですが、避難中で手続きに時間がかかるほか、除染の手法に反対したり、除染の必要性に疑問を持ってきたりして同意の取得が遅れていること。
▼除染で出た廃棄物を一時的に保管する仮置き場の確保が難航していること。
▼さらに国が双葉町と大熊町に集約する方向で調整している除染廃棄物の中間貯蔵施設や、福島県外に作るという最終処分場の建設のメドがたっていないため、このまま除染廃棄物が増えていくことに対する住民たちの不安もあります。
 
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また、除染には巨額の費用がかかります。
除染の費用は国が一旦肩代わりして後から東京電力に請求することになっています。
国は、除染の作業や仮置き場の設置、それに中間貯蔵施設の建設費などを含めて、
およそ2兆8000億円と推定しています。
このように時間と費用のかかる除染に対して原発事故から3年経った福島県の現地を取材してみると被災者の考え方が変わってきていることに気づきました。
 
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それに、そもそも放射線の影響については、人によって受け止め方が違います。
除染について、国は、まず、年間の追加被曝線量が20ミリシーベルト未満になることを目標に行い、長期的には年間1ミリシーベルトになることを目指すとしています。
しかし、特に子どものいる世帯は目標に捉われず、できる限り放射線量を低くしてほしいと願っています。
また、除染の効果についても疑問があります。
一旦、除染したしても、雨が降ったり、風が吹いたりすると、放射性物質が落下したり、飛んで来たりして、再び放射線量が高くなる恐れがあります。
さらに、除染した住宅や農地の周りの山林が手つかずのままであれば、山林に残る放射性物質からの影響も心配されます。
このように、放射線の影響は人によって受け止め方が違い、除染の効果についても疑問があることに加え、時間の経過によって被災者の置かれている状況や除染に対する考え方も変化し、除染と生活再建の進め方をどうするかはますます難しい問題になってきています。
 
こうしたなか、できるだけ詳しく放射線量を測定しながら元の環境と生活を取り戻そうと取り組んでいる人たちに出会いました。
(映像:福島県伊達市・3月15日)
福島県伊達市霊山町の小国地区は、福島第一原発から北西に55キロ離れていますが、局所的に放射線量の高いところがありました。
そして、地区内の420世帯のうち、玄関と庭先の測定で放射線量の高かった90世帯が、避難を自主判断する「特定避難勧奨地点」に指定されたため住民たちは戸惑いました。
 
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また、伊達市が作った放射線量の測定マップは、市内を1キロ四方の升目に分けて、地上1メートルの空間線量を測ったものでした。
小国地区の住民有志は、もっと詳しい宅地や農地の放射線量を知りたいと、福島大学などの協力を得て自分たちで放射線量を測ることにしました。
 
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測定では、宅地や農地を100メートル四方の升目に分けて地上10センチと1メートルの空間線量を測りました。
平成23年10月の最初の測定には延べ113人の住民が参加し1週間かかりました。
 
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そうして作られた最初の測定マップです。
533の升目に分かれていて宅地や田んぼごとの放射線量が分かります。
避難するのか、住み続けるのか考えるための参考になり、大半の住民が住み続けました。
 
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去年4月から5月にかけて行われた3回目の測定マップです。
原発事故から2年余り経って自然に放射線量が下がったことや、宅地や一部の農地の除染が終わったことで1時間あたりの放射線量が2マイクロシーベルト未満の青い升目、年間の換算で20ミリシーベルトを下まわるところが多くなっています。
住民たちには個別に身に付ける線量計も配られていますが、協力して自分たちの生活圏の測定を続けることが、事故前の生活を取り戻す励みや結束力にもなっています。
来月には4回目の測定を行う予定で、新たに山林などの除染も求めたいと考えています。
まだ、全ての住民は帰ってきてはいませんが、科学的な測定データを積み重ねながら生活再建を進めるリスク管理の取り組みは、今後、除染が進んで住民が帰還する地域の参考になると思いました。
 
一方、除染がなかなか進まず、元の町への帰還を諦めて移住を考える人たちもいます。
(映像:福島県浪江町・2月28日)
私は福島県浪江町に住んでいた50代の夫婦が先月、一時帰宅した際に同行取材しました。
住民は全国各地に避難していて、JRの駅近くの商店街の店や住宅は壊れたままです。
一時帰宅した家の中は、ネズミに荒らされ、雨漏りの被害もあり、除染だけでなく、住むためには大きな改修が必要な状態でした。
引っ越しを重ねて現在は千葉県に住む夫婦は苦渋の思いとともに「除染しても仕方がない。その費用や手間を新しい生活の支援にあててほしい」と話しています。
元の町への帰還が難しく、やむにやまれず移住を考える人たちが増えている状況を踏まえて
去年12月、国は、原発事故の被災地への全員帰還の方針を転換して、帰還できない住民が、移住先で住宅を取得する費用を賠償の対象に加えることなどを決めました。
 
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しかし、被災者の置かれた状況はさまざまなため、住宅の取得だけでなく、医療や介護、保育などに関する支援や、まだ帰還するか、移住するか判断がつかない人への支援など、実情に応じた生活再建の支援策を考えることも大事だと思います。
また、除染は一定の地域全体で進めないと効果がないので、移住するため除染は必要ないと考えている人には、お願いして協力を求めなければならないなどの対応も迫られます。
さらに、移住して住民が帰らない地域の除染を続けるのか、そうした地域の将来像をどうしていくのかも検討していかなければなりません。
難しい問題ですが、これからは住民の帰還の意思を踏まえながら除染の優先順位を改めて考え直す、いわば除染の仕分けも求められてくると思います。
原発事故から3年経って、除染は新たな段階に入っています。
放射線の影響や除染の効果に対する受け止め方が人によって違うということを前提に、時間の経過による被災者の置かれた状況の違いも考慮しながら、除染と被災者の生活再建は進められなければなりません。
国や自治体には除染の進め方や被災者の生活再建の支援の在り方を柔軟に考えていくことが求められます。
 
(菊地夏也 解説委員)