2万匹いるはずのホタルがなぜ2匹しかいないのか?――板橋区はいまだに、その理由を説明していません。
3月7日の区議会本会議で私(松崎いたる)が「実際にはホタルを飼育してなかったのではないのか?」と質問したのに対し、坂本健区長は「現在、飼育担当職員本人からの聞き取りも含めて調査をしているところだ」と述べるにとどまりました。
この区長答弁に先立つ2月19日の区民環境委員会では、「ホタルの成虫が他所から持ち込まれていたという証言があった」と区の環境課長は答弁しており、飼育実態が偽装されていた可能性も浮上しています。
これに対し、飼育担当職員は、マスコミの取材に対して「(ホタルの持ち込みは)あり得ぬ」と反論し、調査でホタルが発見できなかったのは、不適切な調査方法のためと主張しています。また、区環境課の上司からパワハラの被害を受けていると主張し、区に辞表を提出しています。
担当職員は、ホタル研究での論文が認められ理学博士の学位を取得しており、ホタル飼育の専門家として全国的に有名です。また、同職員が発明した「ホタル累代飼育システム」は板橋区の特許として区の財産になっています。
これらの業績から、飼育担当職員のファンも多く、少なくない区民が同職員を擁護しています。なかには「ホタルが見つからないのは、ホタル館を閉鎖させるための区の謀略」などの主張をする人たちもいます。
ホタル館での飼育実態は偽装だったのか? それとも区の生息調査に誤りがあったのか? 真相を確かめる必要があります。
真相を知るうえでカギを握るのは、当該の飼育担当職員とともに、区からホタル館の管理業務を受託していた個人業者「むし企画」、そしてホタル館で日常的に活動していた「ボランティアスタッフ」と称する人たちです。
飼育担当職員は、マスコミや支援者の問い合わせには応じていますが、区環境課による聞き取り調査には応じていません。
むし企画は法人ではない個人のグループですが、年間1400万円ほどの委託料を区から受け取ってホタル飼育や水路管理などを請け負っていました。
むし企画の現代表は、昨年春ごろから前代表から業務を引き継いでいます。区環境課は現代表に、じっさいにホタル館での業務のために雇用している人の氏名や人数、支払った給与額など聞き取ろうとしましたが、現代表はいずれの質問にも答えられませんでした。
そのため、区は「契約内容を履行していない」と判断し、契約を途中で解除しています。むし企画からは、契約解除に対しての異議申し立てはいまのところ、ありません。
現代表は千葉県成田市で観賞魚を卸す仕事をしており、ホタル館に日常的に通勤できる条件はありませんでした。区からの委託料を受け取る銀行口座の開設、ホタル館が必要とする資材の発送などを行なっていたことは確認でいますが、委託料が最終的に誰の手にわたり、何に使われていたのかは明らかになっていません。
むし企画の前代表は昨年の年末に病気で亡くなっています。埼玉県蓮田市の住所地を訪ねてみると、玄関前や裏庭に数多くの飼育箱、水槽がおかれ、束になった水道ホースや複数の酸素ボンベがある状況から、昆虫や水生生物を飼育していた形跡がありありと残されていました。
隣に住む親せきの方に電話で尋ねると、「ホタルを飼っていた」と話してくれました。
飼育担当職員は、ホタルの持ち込みを「あり得ぬ」と語っていますが、客観的条件としては、むし企画の前代表から、ホタル館に対してホタルを提供することは可能だったことがわかりました。もちろん、じっさいに実行されたかどうかはまだ確実なことはいえませんが、前代表の自宅は検証すべき対象であることははっきりしています。
じっさいにホタル館では、前代表が「カワニナ」をホタル館に発送したことを示す宅配便の伝票が発見されています。少なくともホタル館で飼育していると報告されてきたカワニナの一部は、むし企画の前代表から発送されていたことを示す証拠です。
むし企画から送られてくる資材を受け取り、ホタル館で活動していたのは、区の職員である飼育担当職員とともに複数のボランティアスタッフでした。
スタッフのなかには、むし企画に雇用されたアルバイトもいたとみられますが、区では誰が無給のボランティアで、誰が有給のアルバイトなのかも正確に把握していませんでした。
これは公共の施設ではありえない、とんでもない行政の怠慢だといわなくてはなりません。
このボランティアのなかには、本来なら、ホタル館にかかわるべきではない人たちが複数含まれていることが、最近になってわかってきました。
板橋区ホタル生態環境館とその飼育担当職員の信用によって、収益事業を行なっていた人がボランティアと称して、ホタル館の運営を行なっていたことが、浮かびあがっています。(つづく)