Nightmare Before Christmas

 時々、無理なことを訴える患者さんがいる。悪夢を見ないようにしてほしいと言うのである。悪夢を消すような薬を出してほしいと言うのであるが、そのような薬は開発されていないと説明している。自分の睡眠中の夢ですら自由にならないのに、ましてや、他者の夢まで自由に操作して消したりすることなどはできないように思える。しかし、悪夢は本人にとっては相当に苦痛な症状だと思われる。頻回に悪夢にうなされるのであれば何らかの対処が必要になろう。
 
 今回は悪夢の対処方法について触れてみたい。
 
 英語版ウィキペディア「悪夢 nightmare」によれば、夢の最中に感情が誘発されるのだが、ネガティブな感情を体験する時間は夢の総時間の約75%にもなるらしい。夢の中ではポジティブな感情よりもネガティブな感情を体験し易いのである。人の夢は元々心地よい夢よりも悪夢になり易いようにできているのかもしれない。ただし、夢の、特に、悪夢の内容は、過去のストレスの強い出来事の再体験として、さらに、いくつかの未解決として残ったままになっている問題の複合体から生じるようである。当然、PTSDのような場合は、心的外傷となった出来事が悪夢となって夢の中で再現され、私の中にトラウマとしてまだ残っているのだと再自覚されることになるのであろうが、日常生活の些細な出来事では心的外傷として当人自身には自覚されないことも多いだろう。悪夢は無意識のうちにPTSDのような体験をしていた暗示なのかもしれないし、未解決の問題が解決されずに放置されているぞという警告なのかもしれない。なお、一般的には悪夢はREM睡眠中に生じるが、夜驚症はNon-REM睡眠中(特に、徐波睡眠中)に生じるとされている。

 ここで、不眠と自殺、特に、悪夢と自殺との関連性が以前から指摘されている。悪夢という症状があると自殺の危険性は5倍にもなると言われている。悪夢に毎日うなされ続けることは危険なのである。映画「エルム街の悪夢」のように、悪夢によって死に結びついてしまう恐れがあると言えよう。問題があるようには全く見えなかった人が突然自殺してしまうことがあるが、もしかしたら悪夢に悩まされ続けていたのかもしれない。昨年度に出されたレビュー(下)によれば、悪夢がどのように自殺に追い込んでしまうのかが説明されている。悪夢によって眠ることへの恐怖だけでなく、日中の思考まで変化してしまい、絶望感が増していき、その結果、強い希死念慮が形成され、自殺に結びついてしまうと説明されている。論文では認知行動療法(CBT)で悪夢に対処できるとされているが、はたしてCBTで悪夢が消えるのであろうか。
(悪夢によって自殺の危険性は5倍となる)

 TV番組では刑事や探偵が活躍する殺人事件ドラマばかりが毎日放送されている。ゲームもゾンビを撃ち殺すゲームなど怖いゲームばかりがあふれている、あなたの悪夢はTVの見過ぎやゲームのし過ぎのせいかもしれないのである。そして、TVの見過ぎで悪夢にうなされ、いつの間にか自殺したくなるのかもしれない(゜∇゜;)。
悪夢の原因

 一般的に、うつ病では、レム睡眠の開始までの時間(REM潜時)が短くなり、REM睡眠の頻度が増す。さらに、REM睡眠の時間も延長する。夢を見る回数や時間が長くなるのである。こうなれば、当然、うつ病では悪夢の頻度も増えることであろう。従って、うつ病患者の悪夢への対処は重要なテーマの1つとなり得る。

 一般に、抗うつ剤によってREM睡眠は減ると言われており、抗うつ剤によってREM睡眠が抑制されるのであれば悪夢も当然減ることが考えられる。抗うつ剤はREM睡眠までに入る時間を遅くすると言われている(REM睡眠潜時の延長)。REM睡眠が抑制される化学的なメカニズムとしては、三環系抗うつ剤においては、抗うつ剤によって青班核からのノルアドレナリン作動ニューロンの出力増加が橋に存在するREM睡眠の発生に関与しているREM-onニューロンを抑制することや、前脳基底部(basal forebrain)への抗コリン作用によってREM睡眠中に増加する大脳皮質でのコリン作動性の活動が抑制されるというメカニズムが想定されている。しかし、PTSDのようにノルアドレナリンが上がり過ぎても、逆に、悪夢が生じてしまうようであり、必ずしもノルアドレナリンを上げればよいということにはならない。このあたりの生理メカニズムは複雑であり、まだ解明はされてはいない。なお、SSRIでは、セロトニン受容体のある種のサブタイプを介するREM睡眠の抑制というメカニズムが想定されている(しかし、セロトニン受容体のサブタイプによっては逆の作用も生じうる)。
TCAがREMを抑制するメカニズム
  
 さらに、抗うつ剤によって日中の夢の想起も減ると言われている。ノンレム睡眠でも夢を見ているらしいのだが、鮮明な夢の想起は殆どがレム睡眠中の夢で生じる。ところが、抗うつ剤によって嫌な夢を思い出さなくても済むようになるのである。うつ病では何らかの抗うつ剤が処方されるであろうから、抗うつ剤にて夢も減るし夢の内容も思い出さなくなるのであれば、うつ病の悪夢対策としては抗うつ剤にて概ねカバーされるのかもしれない。しかし、SSRI/SNRIでは夢の想起は三環系抗うつ剤程は減らないという報告もあるため注意が必要である。悪夢の記憶は鮮明に残る。うつ病のケースで思い出したくもないような過去の不快な出来事の悪夢にうなされるのであれば、三環系抗うつ剤の方を使用した方が良いのかもしれない。なお、就眠前の三環系抗うつ剤の内服は日中の内服よりも逆に夢の想起が増えてしまうとも言われている。夢の想起を防止する目的で使用するのであれば内服する時間にも注意する必要があろう。

 ここで疑問が生じる。本当に抗うつ剤によって悪夢は減るのであろうか。
 
 いいや、そのような好都合のことばかりでもないようである。皮肉なことに、抗うつ剤そのものによっても悪夢という有害事象が生じることが報告されている。さらに、SSRIではレム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder、RBD、レム睡眠中の異常行動など)が起き易いとも言われている。そして、注意しなければならないのは、抗うつ剤の離脱時にも悪夢が起こり易くなることである。特に、SSRIやSNRIでは離脱時の悪夢が三環系抗うつ剤よりも高頻度になると言われており、2~3夜連続してSSRIを飲み忘れたような夜は悪夢にうなされてしまう恐れがあると言えよう。
(なお、NaSSAであるミルタザピンでも悪夢が報告されている)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1780138/
 
 従って、一概に抗うつ剤で悪夢が減るとは言い難い。もし、うつ病で悪夢に悩まされ続けているようなケースでは、文献的にはトラゾロン(デジレル、レスリン。α1アドレナリン受容体ブロック作用を有する)を試してみるのも1つの方法かもしれない。トラゾロンによるレム睡眠の抑制効果が報告されているため、悪夢も減ってくれることが考えられる(逆に、非レム睡眠時随伴症 Non-REM sleep parasomniaが増える恐れもあるのだが)。

 一方、悪夢は抗うつ剤以外の薬剤、すなわち、抗精神病薬、抗ヒスタミン剤、βブロッカー、様々な薬剤でも生じる。そういった場合は使用薬剤を中止して別の薬剤へ変更した方が良いであろう。さらに、アルコールでも悪夢が生じ易くなる。アルコールでは交感神経系が亢進するため、PTSDと同じようなレベルにまでノルアドレナリンが亢進してしまうと悪夢になってしまうのかもしれない。毎日飲酒をして悪夢が続いていたら、断酒をした方が良いという危険サインだと認識すべきである。そのままアルコールを毎晩飲み続けていたら、急に自殺したくなるかもやしれない。次にタバコはどうであろうか。コリンエステラーゼ阻害剤であるドネペジルや禁煙用のニコチン経皮パッチ剤での悪夢の報告があることからは、寝る前のタバコのニコチンによっても悪夢が生じ易くなると言えよう。喫煙者で悪夢に頻回に襲われるような場合は、寝る前のタバコが原因なのかもしれない。酒やタバコをやりながら悪夢をなんとかしてほしいと言われても、それはもう諦めてもらうしかないだろう。

 REM睡眠のメカニズムからは、アセチルコリン受容体を刺激するニコチンは、悪夢を防止する上では避けた方が良いだろう。特に、寝タバコは絶対に避けるべきである。悪夢の神経化学的なメカニズムはまだよく分かってはいないのだが、REM睡眠に関しての神経化学的なメカニズムはある程度は解明されている。これまでに分かった範囲では、アセチルコリンを上げるような物質はREM睡眠を強めてしまう可能性が高いため、寝タバコをしていると悪夢を防止することはできなくなると思われる。
(REM睡眠の神経化学的なメカニズムに関しては下の論文が分かりやすい)。
 
 橋や網様体に存在するREM-onニューロン(レム睡眠を発生させているニューロン)はアセチルコリン作動性である。さらに、レム睡眠中は大脳皮質のコリン作動性の神経伝達が優位になっている(下図)。従って、寝タバコはREM-onニューロンが作動していることと同じ現象を引き起こし、必ずREM睡眠を強めてしまうことになる。一方、レム睡眠中では昇順網状活性化システム(ascending reticular activating system、ARAS)を担っている脳幹に存在するモノアミンの諸核(青班核や縫線核など)の活動は、完全に停止した状態となっている。この状態の間はREM睡眠が維持される。逆に、これらの諸核の活動が生じればREM睡眠は抑制されることになる(下図)。抗うつ剤がREM睡眠を抑制できるのは抗コリンやモノアミンを介した作用だと考えられている。
REM睡眠ではコリン作動性が優位になっているモノアミンが上がればREMは抑制されるかもしれない

 次に、実際に、悪夢に悩まされている人はどの程度いるのであろうか。
 
 これまでの調査結果からは、頻回に(週に1回以上)悪夢にうなされている人の頻度(悪夢の有病率)は2~5%(平均4%)程度であり、子供や若者、女性に多い傾向があると言われている(下表のURLを参照のこと)。さらに、トラウマになったならないかに係らず、ストレスに晒された時にも悪夢が増加するらしい。フィンランドで悪夢の有病率を詳しく調べた昨年度に出された研究論文がある。その論文でも、ほぼ同様の結果であった。頻回に悪夢にうなされる人は男性3.5%、女性4.8%であった。しかし、従来の所見とは異なり、男性では高齢になるほど頻回に悪夢にうなされる傾向が認められた。男性では歳をとるほど悪夢に襲われ易くなっていくと言えよう。なお、男性の36.2%、女性の43.5%は、過去30日の間に1回以上の悪夢を体験していた。さらに、PTSD(戦争経験があるケース)が合併していると悪夢の有病率は増加する傾向があった。
悪夢の有病率

 一方、日本人の青少年への調査(90081名)では、悪夢の有病率は35%だったというデータがある。どのような頻度での悪夢の調査であったかは本文が見れないために不明だが、35%という数字は、おそらく1回/1ヶ月程度の悪夢を有する若者の比率かと思われる。日本でも意外に多くの人が、特に、若者が悪夢に悩まされているようである。フィンランドでのデータが日本でも当てはまるのであれば、国内には週に1回以上も悪夢にうなされるという嫌な体験をしている人は数%も存在する、すなわち500~600万人もいることになる。これはかなりの数の人が悪夢に悩まされていることを意味する。

 では、悪夢に対しては具体的にどのようにた対処したらいいのであろうか。

 まず、薬物によって悪夢を抑える方法が考えられうる。文献的には、PTSDへの悪夢(PTSDの80%に悪夢が生じる)対して有効な薬としては、α1受容体ブロッカーである降圧剤のプラゾシン(国内発売名、ミニプレス)がよく知られている(PTSD以外の悪夢にも効果があるかは不明だが)。PTSDではノルアドレナリンの亢進が悪夢を生んでいると推測されており、従って、ノルアドレナリン受容体のある種のタイプ(α1受容体)をブロックすることで悪夢も減ることが予想される。通常では、青班核のノルアドレナリンが高まれば逆にREM睡眠は減り、悪夢も減るようにも思えるのだが、PTSDではREM睡眠は減るという所見がある一方で、逆に増えているという所見があり、見解はまだ一致していない。しかし、皮肉なことに、REM睡眠の所見は異なっていても、悪夢だけはREM睡眠が減ろうが増えようが変わらないのである。正常なREM睡眠を保つ機能が障害されていることがPTSDでの悪夢を生じさせているのかもしれない。必ずしも理論通りにならないのが人体の不思議なところである。

 プラゾシンは脂溶性であり、BBBの通過も容易である。メイヨークリニックでも悪夢に対してはプラゾシンを推奨しているようだ。1mgから開始して、通常は2~5mg/dayが使用される。最大の使用料は論文では16mgであった。症状の改善は数日~数週間以内に得られるとされている。しかし、プラゾシンは主流の降圧剤ではなく、しかも、一般的に睡眠中は血圧が下がるのだが、さらに血圧が下がってしまうおそれがあり、血圧が低めのケースではあまり勧められない薬剤かもしれない。
 
 悪夢に対しての対処方法のレビューとしては、少々古くなるが(2010年度)、下の文献がある。この文献は悪夢への対処方法が分かりやすくエビデンスのグレードと伴に記載されており良い参考資料となる。まずは、特発性の悪夢なのか、PTSDによる悪夢なのか、うつ病による悪夢なのかといった悪夢の鑑別から始めなければならないとされている。

 薬物療法では、レベルAのエデビデンスグレードは、PTSDの悪夢へのプラゾシンのみであり、レベルBはPTSD以外の悪夢へのベンラファキシンのみである。他の薬剤は全てがレベルCと低いエビデンスのグレードである(ただし、レベルCでも試してみる価値は十分にあり得る)。悪夢への高いエビデンスを有する薬剤は殆どないのが現状であり、確実に悪夢を抑えることができる薬剤はないと思っていた方が良いのかもしれない。一方、薬物以外の方法では、認知行動療法(CBT)が、特に、CBTとしてのイメージリハーサル療法(Image Rehearsal Therapy 、IRT)がエビデンスグレードがAとなっている。 他の方法はどれもがレベルAではなく、レベルBかCである(下表。この表ではレベルは1~4として記載されているが、本文中のレベルでは1か2がAである)。
悪夢治療のエビデンスレベル

 ここで、薬物による対処の中心となる効果は、レム睡眠などの夢そのものを抑制する方法であることに注意しなければならない。はたして薬物でREM睡眠を抑制してもいいのであろうか。特に、長期的に夢(REM睡眠)を抑制し続けてもいいのであろうか。なぜならば、人では夢(REM睡眠)を見ている最中に重要な生理現象が起きている可能性があるからである(それに関しては次回で触れる予定である)。
 
 特に、脳の発達や成熟、シナプスの恒常性の維持、記憶や学習に関するREM睡眠の重要性が指摘されている。脳の発達や恒常性を維持する上でREM睡眠も必要なのである。睡眠中の夢を抑制せずに済むのであれば、それにこしたことはないと言えよう。

 さらに悪夢はREM睡眠だけが関与しているのではなく、Non-REM睡眠の異常が関与しているという所見もある(Non-REM睡眠中に覚醒メカニズムが働いてしまうなどのNon-REM睡眠の異常な所見がある)。

 一方、悪夢(nightmare)と通常の悪い夢(bad dream)をどのように線引きするかを、夢の内容から、単なる悪い夢と感じたか悪夢と感じたかを比較検討した研究がある。その結果、夢の結末が悪夢になるかどうかに大きく関与していることが分かった。さらに、悪夢の内容では、体が攻撃される夢が一番多かった(Physical aggression、体に危害が加えられそうになる夢か)。さらに、悪夢では奇妙な内容の夢が多く、侵略されたり、攻撃されたり、不幸な結末で終る夢を悪夢と感じていた。この所見は、結末が変われば悪夢ではなくなる可能性があることを意味する。夢の結末を変えてしまえばいいことになる。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24497669

 私は夢を抑制しない方が好ましいと思っている。夢自体は睡眠中の正常な生理現象であり、何らかの重要な機能を担っているはずだと思えるからである。可能な限り安易に薬物で抑えない方が良いではなかろうか。もし、夢を抑制することなく悪夢へ対処するのであれば、上のレビューに書かれているイメージリハーサル療法(IRT)が試みられるべきである。これは夢の内容や結末を変えてしまおうという方法である。
 
 しかし、国内でこのIRTを行っている医療機関は殆どないように思える(当院も含めて私がよく知っている医療機関でIRTを行っているところはない)。
 
 IRTの概要は、眠る前の覚醒時に事前のリハーサルをして、夢の内容や結末を書き換えてしまう方法である。夢をイメージしながら、良い内容や良い結末へと書き換えるトレーニングをしていくことで悪夢を減らす方法である。決して夢を見ることそのものを減らす方法ではない。そして、IRTにて悪夢以外のPTSDの重症度などの症状自体も改善すると言われている。

 通常は、セラピストの指導に沿って行うのであるが、日本国内ではIRTを受けることはできないため自分でやっていくしかないであろう。上のJAMAの論文によれば、セラピストが行う場合のIRTは、通常、3つセッションを行うのが標準的な方法のようである。セッションの中では悪夢が生じる素地なども学ぶことになる。重要なことは、夢の階層理論からは、悪夢は深層の夢のリソースから生じるものかもしれないが、表層の夢のリソースの内容はIRTにて十分に変更することが可能であり、夢は必ず別のストーリーに変更できるという理解と信念を持ってクライアントはトレーニングに臨むことが重要であるとされている。さらに、脱感作を目的として不快な出来事への暴露も行われるようであるが、詳細は省略する。
 
 IRTは3(~4)つのステップからなるとされている。
 
 ステップ1: 最近見た悪夢の内容(ストーリー)を簡単に紙に書き留める。もし、最近見た悪夢が強烈な内容であり悪夢を思い出し考えることで非常に動揺してしまう場合は、別の悪夢を選択して書き留める。このステップでは最も最悪な悪夢ではなく中程度の悪夢を選択することが重要である。

 ステップ2: ステップ1で選択された悪夢のストーリーを変更する方法を考える。適切な変更をしていくためには直観に頼って変更していくべきであり、それが悪夢の変更を促進させるため、どのような内容に変化させるのかは、患者から求められてもセラピストは患者に伝えることはしない。自分の直感に頼って書き換えるトレーニングを積み重ねることがポイントだと言えよう。この場合は、決して、復讐や暴力で相手を倒すような結末にしてはいけない。夢の中での自分の感情を平穏な感情にもっていくような結末にしなければならない。そして、最後にこの新しい夢の内容(ストーリー)を紙に書き書き留めておく

 ステップ3: ステップ2の内容を具体的にイメージとして想像するため、毎日数分間(10~20分、最低でも3分間)、1日に2回、そのイメージを思い浮かべるトレーニングを行う。この際、注意しなければならないこととしては、1週間に2つ以上の新しい夢を描くことは絶対にしないことである。1週間に1つの夢のイメージまでとする。まず、静かに快適な椅子に座り眼を閉じて、新しい夢のストーリーを頭の中でイメージする。イメージは言葉による思考ではなく、画像をイメージしなければならない。もし、悪いイメージが浮かんできてしまったらそのままやり続けてはいけない。いったん眼を開けて、大きく深呼吸をして、再度眼を閉じて最初からやり直す。トレーニングの最後に、イメージされた夢の内容を精神内界の絵として単純に紙に描く視覚イメージを描くことで、脳内へ確実にフィードバックさせることができ、それによって夢の内容がトレーニングで変更したような内容に書き変わることが期待できる。

 IRTの参考資料としては下のPDFファイルやWEBサイトがお勧めである。PDFの方はスライド原稿方式で説明されており、簡潔に書かれており非常に分かり易い(上で示した各ステップは下の参考資料をまとめて記載してある)。

 なお、IRTリハーサルの後で筋弛緩レラクゼーション(Progressive Muscle Relaxation、または、Progressive Deep Muscle Relaxation Training、PMR)を行い、PMRを併用すればさらに効果的かもしれない。PMR自体も悪夢へのレベルAのエビデンスグレードの対処方法である。
 
 IRTならば自分独りでも十分にできる方法のように思える。そして、IRTはPTSD以外の悪夢にも効果があることが確認されている(ただし、途中で脱落したケースや効果がないケースも多々あり、逆にIRTでPTSDの悪夢が悪化したケースが1例だけ報告されており、必ずしもうまくいく方法でもないようだ)。

 最後に、どうしても悪夢が消えない時には、曝露療法などの療法にて悪夢の内容と直接対決して消し去るといった方法もある。映画「エルム街の悪夢」はまさに悪夢と直接対決して悪夢を倒すという映画であった。
(次回に続く) 

悪夢の主との直接対決「エルム街の悪夢」
http://www.youtube.com/watch?v=M-EUGp-9VxY