原爆症訴訟:新基準対象外で5人認定 2例目・熊本地裁
毎日新聞 2014年03月28日 22時13分
原爆症の認定申請を却下された熊本県内の被爆者8人が、国を相手に処分取り消しと総額2400万円の損害賠償を求めた訴訟で、熊本地裁(中村心裁判長)は28日、5人を原爆症と認定した。国は今年1月、認定範囲を広げたとする新基準を導入したが、8人は今月、この基準でも認定申請を却下されていた。残る3人は原爆症と認定せず、国家賠償請求についてはいずれも退けた。
同様の訴訟は広島、長崎、大阪、東京など全国7地裁に起こされており、判決は2例目。20日の大阪地裁も新基準で却下された4人を原爆症と認定する判決を言い渡しており、国の審査基準のあり方が改めて問われる。
認定された5人は、熊本県内に住む69〜87歳の男女。長崎原爆の爆心地から2〜3・8キロの距離で被爆し、放射線の影響で甲状腺機能低下やバセドウ病などを患ったとして、2006年以降に原爆症の認定を申請した。しかし、国は12年1月までに、当時の基準に基づく審査で放射線との因果関係を否定し、申請を却下していた。
判決は、申請を却下した当時の認定基準の科学的合理性を認める一方、爆心地から1・5キロ以遠の被ばく線量を過小評価している可能性や、内部被ばくの影響を考慮していない点を指摘。「地理的範囲と線量評価の両方を過小評価している疑いが強い」と判断した。
そのうえで、原告8人全員について「いずれも健康に影響を及ぼす相当程度の原爆放射線を被ばくしたと認めるのが相当」と断定。被ばくによって発病したと認められる5人を原爆症と結論づけた。国の新基準で積極認定の対象となっていない慢性腎不全や高血圧性脳出血後遺症などの疾病も含まれている。
一方、変形性脊椎(せきつい)症などを訴えた3人については「原爆放射線との関連性を示す医学的知見は存在しない」として退けた。
判決を受けて原告団は「大阪地裁判決に続いて新基準の誤りが明確に示された。国は司法と行政の乖離(かいり)を解消すべく認定制度を抜本的に改定するよう求める」との声明を発表。厚生労働省原子爆弾被爆者援護対策室は「判決は新基準を否定したわけではない。関係省庁と協議したうえで今後の対応を検討する」とコメントした。【取違剛、志村一也】