腐海の生物? グーグルの使者? 砂漠で最強のアゴを持つ謎の生物、ヒヨケムシとは
ナショナル ジオグラフィック日本版 1月30日(木)14時59分配信
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ヒヨケムシの顔。2つの黒い点が眼。よく見ると別の方向に。(撮影:川端裕人) |
『孤独なバッタが群れるとき-サバクトビバッタの相変異と大発生』(東海大学出版会)の著者で、アフリカ西部のモーリタニアでサバクトビバッタを研究する“バッタ博士”こと前野ウルド浩太郎さん。作家の川端裕人さんがはるばるその研究フィールドをたずねた際、ヒヨケムシという実に奇妙な生物に出会ったのだった――。
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ヒヨケムシ、と単に字面だけではひ弱なイメージを抱く。しかし、どう猛な肉食で、異形の生物。
英語ではキャメルスパイダー。湾岸戦争の時に、砂漠でこいつと出会った米兵が「うぎゃー、きっしょくわりいぃぃ!」と叫んだという逸話(本当かしらないが)からも分かる通り、その姿形は、どうも地球生物の範疇をどこかではみ出している。
昆虫ではない。スパイダーといっても、蜘蛛でもない。別の何者かだ。おまけに頭から尻の先まで優に5センチはあり、脚も長いから非常に大きい。体の質感は、カマドウマ的か。
いったいどんな生き物なんですか、前野さん。
「夜に活発的に動いて、日中はほとんど見かけることはない、まさにその『日』を避けて出てくる虫っていうところから、ヒヨケムシと呼んでいると思います。で、肉食。バッタなんかもよく食べてますけども、その時の動きがキモイ! アゴが2列あるんスけど、それが交互にこう動いて、地球のムシのアゴの動きじゃないッス」
それこそ、腐海に住む生き物のようなのだとか。残念ながら、ぼくは捕食シーンには出会うことにはなかったのでその異様さは分からない。もっとも、頭頂部についている目が、よくよく見ると左右別方向をむいていて、それぞれGoogleカメラみたいな雰囲気でもあり、なにげにハイテクな雰囲気を感じてしまっていた。腐海の生物とはまた違う方向性ではあるが、異色なのである。
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そのヒヨケムシの腹部(撮影:川端裕人) |
それに加えて、ぼくがなにか変な模様と質感だなあと思って撮っておいた接写写真が後で、大きな物議を醸すことになる。
腹部の写真を拡大すると……これなに? というものがはっきりと映し出されていた。
「これは謎すぎますね」と前野さん。「こんなにパンパンになってるのは見たことないし、このボツボツしたのは、卵みたいに見えるし、いったいなんなんッスか!」
たしかに、そのヒヨケムシの腹部はパンパンで、変な模様に見えたのは、小さな卵がぎっしりつまっているかのような構造が透けて見えていのだ。キモい! しかし、興味深い!
ネットで調べると「ヒヨケムシは体内である程度子どもを大きくする」みたいな記述があるが、本当かどうか確証はない。前野さんもヒヨケムシの専門家ではないので、この腹のブツブツが本当になになのかははっきりとは分からない。しかし、あまりに目をキラキラ輝かせ「すげー」を連発するものだから、聞いてみた。
「ヒヨケムシを研究対象にするのは、将来的にはありえないんですか」と。
「超やりたいッスね」前野さんは即答した。「砂漠の昆虫学はものすごく面白くて、みんなそれぞれ、過酷な環境を生きのびるための工夫をいっぱいしてるので、どれをやっても面白いと思います。正直、サバクトビバッタの研究をしていて一番困るのは他の虫からの誘惑ッス」
今後、もしも、前野さんがサハラ砂漠で、ファーブル先生よろしくあらゆるムシに研究の対象を広げたら……想像すると楽しい。今にもまして、「すげー、すげー」が砂漠に響き渡ることになるだろう。そして、今そこで、これを読んで「すげー」を共有しくれているあなた。特に若い人。こんな魅惑的、蠱惑的なムシたちを、前野さんに全部、やられちゃっていいの? と煽ってみたくもなるのだった。
文・写真=川端裕人
最終更新:1月30日(木)14時59分
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