今日はこのところ僕が考え続けていることについて書きます。

それは「これまでの相場に対する取り組み方を、変更する必要があるのか?」ということです。

ここでの「これまでのアプローチ」とは、リーマンショック以降、世界の景気が愚図愚図しており、また米国連邦準備制度理事会(FRB)が超低金利を維持する中で、投資家が「成長」というものに対して喜んでプレミアムを支払っている状況を指します。

そういう言い方で分かりにくければ、ツイッター(ティッカーシンボル:TWTR)や、未だFDA(米国食品医薬品局)から新薬の承認を獲得していない小型バイオ株のような、業績ではなく、ストーリーで買い進まれる投資対象……と言い直してもよいでしょう。

先週の連邦公開市場委員会(FOMC)以降、そのような銘柄は大きく値を崩しました。それらのストーリーの賞味期間は、終了してしまったのでしょうか?

このことを考えるにあたって、まず長期的観点から米国の金利がどう変遷してきたかを説明します。

下は米国のトレジャリー・イールドカーブです。

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イールドカーブは「利回り曲線」と訳されます。具体的には短期金利から順番に1年、5年、10年……という風に米国の国債の金利をプロットしてゆきます。

その利回りを結んだ線がイールドカーブであり、時が経つにつれてそのイールドカーブをあたかもジュークボックスの中にずらりと勢揃いしたシングル・レコードのように横に並べてゆくと、上のグラフのような斜面が出来上がるというわけです。

手前の方が短期金利、奥へ行くほど長期金利です。

このイールドカーブをじっくり眺めると、まず昔は今よりずっと金利水準そのものが高かったことがわかります。

画面の一番左側の赤い矢印を見ると、この頃(1980年12月)の短期金利は15%以上だったことがわかります。

これはイラン革命で在イラン米国大使館員たちが666日間も人質になる事件、つまり「第二次オイルショック」の後で世界がインフレの嵐に包まれ、着任早々のポール・ボルカーFRB議長が政策金利をグイグイ引き上げたことが関係しています。

このイールドカーブのグラフを小学校の運動会のために設営されたテントに例えれば、突風でテントが舞い上がり、いまにも吹き飛ばされそうになっている状況と言えます。

こんな風にイールドカーブの短期金利の方(=ショートエンドといいます)が高く、風を孕んで、めくれ上がったような状況は、とても危険な状況です。

実際、短期金利の急騰はインフレの息の根を止めることには成功したけれど、景気そのものも殺してしまい、80年代初頭は弱気相場になります。

この時のイールドカーブの断面を示したのが、下のグラフ(水色:1980-12-1)です。

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上のグラフの水色の線のように短期の方が高く、長期の方が低い利回り曲線のことを「インバース(凹型)」と言います。普通、これは不景気がやってくる前兆です。

次に左から二番目の矢印の箇所、つまり1985年末を見ることにします。さきほどの「テントのめくれ上がり」が直り、ちゃんと手前(短期金利)の方が低くなっています。

このような状態(二つ目のグラフでは上から二番目のオレンジ色の線)を「正規の」イールドカーブと呼びます。

景気が大底に近く、これから改善の途上にある場合、正規のイールドカーブが現れることが多いです。

あと矢印は示しておかなかったのですが、1987年には再び「テントがめくれ上がった状態」になっていることに注目してください。

1987年は、言うまでもなく「ブラックマンデー」の大暴落があった年です。

それからこの辺りでグラフに黒い四角い影が出来ているのは20年債のデータが無いからです。同様に2004年から2006年にかけては30年債のデータがありません。これはその期間、30年債の発行が中断され、コンスタント・マチュリティーのデータが計算出来なくなったためです。

その後、世界の景気が暗転し、さらにサダム・フセインがクウェートに攻め込みます。

この1990年代前半の景気のボトムが1993年の、グレーの線になります。

この後、アメリカではドットコム・ブームが起こります。

次に「テントがめくれ上がった状態」になったのはドットコム・バブルの頂点だった2000年頃です。

その後、2001年には9・11の同時多発テロが発生し、世界が不況になってゆきます。次の矢印、つまり2001年末の時点では、再びイールドカーブは正規の状態に戻っていることに注目してください。

最後に「テントがめくれ上がった状態」が来たのは2006年です。この時はサブプライム・バブルでアメリカは不動産投機を冷やすのに苦労していました。

その後、リーマンショックが襲い、世界は不況になってゆきます。

最後の矢印、つまり2009年の時点では既にFRBは「ゼロ金利」体制を敷いています。

以上、アメリカの金利の歴史を駆け足で見てきました。

ところで現在(2014年3月25日)のイールドカーブはどうなっているかと言えば、二つ目のグラフの一番下の線(茶色)になります。太い水色の矢印が示しているように、イールドカーブは20年債あたりの膨らみが、ぺしゃんこになって、30年債の利回りも低下しています。

このような動きのことを「フラットニング」と言います。

普通、景気が強くなると山は高くなり、景気が弱いときはなだらかな裾野のようなグラフになります。

すると現在のイールドカーブはアメリカの景気がどんどん強くなるようなシナリオを示唆していないのです。

むしろどこかで景気が腰折れするリスクを織り込んでいるようにすら思えます。

すると冒頭で議論したような、愚図愚図した景気が、今後も続くかもしれないことを、少なくともイールドカーブは物語っているわけです。

また「テントがめくれていない」ので、アメリカ株が大暴落を起こすようなことも、すくなくともイールドカーブからは読み取れません。

それではブラジル株やインド株がなぜ最近強いのか? ということですけど、これは新興国の景気が良くなっているというよりも(良くなっていません!)、むしろFRBがどこかでテーパーリングの矛先を収めるシナリオに期待しているのではないかと思います。

下はどんな景気、金利環境下で個々のセクターが物色されやすいかを示した図です。

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これまでネット株(ハイテク)とバイオ株(ヘルスケア)が両方、買われてきたということは、金利が低いままで推移するということについては市場参加者の意見の一致があったけど、今後の方向性として景気が強くなるのか、それとも弱くなるのかについては強弱観が対立していたという風にも解釈できるわけです。

次にどのセクターが動き出すか、注視したいと思います。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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