前作を読んでくださった皆さんありがとうございました。なんとか今作も最後まで書ききることが出来ました。新人賞応募のため、4月頭に削除予定ですのでご注意ください。
【小説家になろう様にも投稿しています】
(3/7 2-3が2-2になっていたので修正しました)
あらすじ
時は2024年。
「公営ギャンブル法」によって賭博が許可され、アーケードゲームが復古した時代。15歳の少年、レイこと宮本亜鈴はその中でもランカーと呼ばれるトップレベルのゲーマーだ。
彼にはそれ以外にも「検索士」という国が認めたハッカーの資格を持つという秘密があった。
5月の始め、亜鈴は人探しを依頼され、そして不思議な声の少女に出会う。
建築家を目指す同居人の英国少女リーナ、『最強の女』氷子とともに亜鈴は連鎖する事件に立ち向かう。
プロローグ
二〇一二年四月一日
「……よし、これで大丈夫」
男が、薄型テレビの電源をつけてそう言った。リモコンから照射された反応を受けるのは、アナログ放送に比べて一拍分遅い。見た目はまだ若いが、どこかくたびれた印象の男の横には、背の低い老齢の女性がたたずんで安堵の息をついている。
「繁、ありがとうね。急にテレビがつかなくなったものだから……」
「うちは父さんも昔から機械に弱かったからなぁ。地デジ切り替え、散々宣伝してたと思うけど。まあ、こんな田舎じゃしょうがないかもね」
テレビの入っていた段ボールや、説明書などを片付けながら二人は会話を続ける。
「あなたがコンピューターに興味を持ったのが不思議なくらいだものねえ。あら、もうこんな時間。春海さんは、まだかしら?」
二人は、居間に飾られた壁掛け時計を見た。時刻は昼の一時を指している。
「父さんのことだから、あの子に何か買うとか言い出して困らせてるんじゃないかな」
「そうねえ。初孫だし、レイちゃん、可愛いものねえ。……あら」
トタトタと軽い音が響き、障子がするりと開けられる。小さな手が苦労してそれを閉める。
「おとーさん! にかいのテレビ、つかないよ!」
「あー、だから言ったろ? 昔のテレビは見れなくなっちゃったんだよ」
父は屈んで子に視線を合わせ、苦笑しながら答えた。子供の方は首を傾げ、切り整えられた髪を一緒に揺らす。どうやら、理解するには幼すぎるようだった。
「あ、そうだわ。あなたの部屋、全然いじってないから。レイちゃんでも遊べそうなものが何かあるんじゃないかしら?」
繁、と呼ばれた男の母親がそう言うと、首を傾げていた幼児は両目をきらきらと光らせる。
「おとーさん。たのしいの、あるの?」
その言葉を受け、父は大きな手で子の頭をガシガシと撫でつける。
「そう言えば、もう何年も仕事ばっかりだったな……。よし、父さんに着いて来い!」
「うん!」
「おとーさん、これ、なあに?」
まあ、見てろよ。そう言うと父は灰色のそれを持ち、ハーモニカのように一度息を吹きかけてホコリを払う素振りを見せる。そして、それを端子のついた穴にかちりと差し込んで、穴の手前にある、もうすっかり色の変わった安っぽい作りの電源を入れた。
先ほどまで砂嵐を映し出していた画面をビデオ入力に切り替える。するとそこには、原色で構成された動く画面と十六ビットの合成音が現れる。
「なにこれ!」
父は口を横に開き、歯を見せて笑う。そしてテレビにかじりつく子の脇の下を両手で抱き膝に座らせて、その小さな手を支えるようにコントローラーを持った。
画面の中の赤いキャラクターが、父と子の手の動きに合わせてぴょんぴょんと動く。
ぼーっとしばらくその画面と手の動きを見比べた後、子供は唐突に理解した。
「すごい! すごいすごいすごい! ぼく、これ! ぼくがこれうごかしてる!」
子供は父親からコントローラーを奪い取り、画面に目を釘付けにして何度も何度もキャラクターを動かす。稚拙だが、そこには遊びに対するこれ以上ないほどの真剣さがあった。
――ああ。そうだ。俺はずっと、これを忘れていたんだ。
そして父親はコントローラーをもう一つ引っ張り出し、食事の時間だとしびれを切らした妻が電源を無理矢理切るまで童心に帰って子供と二人で遊び続けた。
それが、すべての始まりだった。