スマートフォンなどのGPSは、時計を利用して位置を特定する。地球の上空には原子時計を載せたGPS衛星が24基あり、GPS受信機はそのうち4基と通信する。その際の送信時間と受信時間の差をナノ単位で計測して、現在位置を割り出す。3000年に1秒しかずれない原子時計があるからこそ、正確な場所が特定できる。
では、原子時計が生まれる前の時代、たとえば17世紀の大航海時代は、どのようにして船の位置を割り出していたのだろう。
南北の緯度は太陽や極星との角度で特定できた。太陽は赤道の真上を通るが、その赤道が緯度0度である事を考えると、計測方法がイメージできるはずだ。
東西の経度は月との距離を計測したり、母港との時間差を正確に計る必要があった。たとえば、太陽が真上にくる12時に母港を出発して、赤道上を西に進むとする。到着ポイントで空を見上げ、太陽が真上にくるまでの時間を計測する。それが1時間だったら、地球は24時間で360度自転するので、経度15度、距離に換算して約1600キロメートル移動したことになる。
だが、17世紀は振り子時計の時代で、揺れる海の上ではまともに時間が計れなかった。航海での遭難は死を意味する。そこでイギリスは1714年に経度法を制定し、正確に経度を測定した者に、現在の価値で数百万ドルの賞金を与えることにした。『経度への挑戦』は、その時代の時計にかける情熱を描いた物語だ。
本の目次第1章 仮想の線第2章 時のない海第3章 時計仕掛けの宇宙第4章 びんのなかの時間第5章 共感の粉第6章 賞金第7章 歯車作りの日記第8章 バッタ、海に飛びだす第9章 天の時計第10章 ダイヤモンドの時計第11章 火と水の試練第12章 二枚の肖像画第13章 ジェームズ・クック二度目の航海第14章 大量生産へ第15章 子午線の中庭で
物語の主人公はジョン・ハリソン。1735年、ハリソンは振り子の代わりにバネを使った時計「H-1」を完成させた。4枚の文字盤と2本のマストが印象的なH-1は、今でもグリニッジの国立海事博物館に展示されている。本書には写真が載っているが、唸るような存在感がある。
実際の航海でH-1をテストし経度をピタリと当てたため、議会はハリソンに賞金を渡そうとした。だが、ハリソンは自ら辞退する。もっと正確に、もっと小さくできる。時計職人としてのプライドが許さなかったのだ。
それから24年間、ハリソンは改良に改良を重ね、ついに懐中時計のような「H-4」を完成させ賞金を手にした。直径は13センチ、重さは1.4キログラム。文字盤に刻まれた精巧な模様が、機能美へのプライドを感じさせる。
H-4は81日間の航海テストで5秒しかずれなかった。当時としては抜群に正確な時計だったが、30時間に一度ネジを巻く必要があり、潤滑油を使っているため3年に一度分解して清掃する必要があった。
いま私の左腕で、オメガのシーマスターが時を刻んでいる。10年程前に購入した自動巻き時計だが、基本的な原理はハリソンの時代と変わっていない。最近、時間のずれが気になっていた。そろそろオーバーホールの時期だ。
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