| 卵子提供・代理出産を考える_卵子提供のいま Lecture-1 |
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どうも皆さん、初めまして加藤英明と申します。 白井先生にご紹介頂きましたが、AIDで生まれた子供の1人として、このような所にお呼び頂きありがとうございます。休みの日にこれだけの方に集まっていただいて光栄です。 先日は8月に大阪で、不妊治療を専門する産婦人科の集まりである受精着床学会というところでも発表してきました。そちらでは30分強でだいたい同じような内容でお話をしました。ただ、相手がプロフェッショナルだったこともありますし、今日は一般的な方向けに、それを1時間くらいでゆっくりお話しようと思います。メモしていただいたり、わからない事は途中で聞いて頂いたりできる位のゆっくりなペースでやろうと思います。 先に自己紹介としまして、私本業は医者をしております。横浜市立大学附属病院で、本来は内科の医師をしているのですが、今日は(スライドの)1番上の「DOG」と書いてありますけれども、「精子提供で生まれた子供の会」の者としてお話させて頂きます。ただこのDOGという会は別に会長が誰々で委員長が誰々というようなそういうものではなくて、なんとなく皆で集まってお互いに情報共有が出来る場としてありますので、すごい団体があるわけではありませんがまたそれはあとで写真をお見せしようかと思っています。
生殖医療の「当事者」とは 最初に、今日お話しするのはDI、精子提供の話ですが、前提として生殖医療というのは、患者と医師だけの関係ではないということです。私はどうしても医師という立場があるので考えてしまうのですが、患者と医師とが「治療してください」「治しますよ」というだけではなくて、そこに子供という新しいものができます。子供は医療によって出来た子供なのにも関わらず自分自身は「治療してください」とは一言も言っていないというところが、どうしても解決できないジレンマとしてあります。そのために、医療者と子供が対立する、また、親と子供が対立してしまうという誰もが満足できない結果が出来てしまう、そういう医療なんです。生殖「医療」と言っていますけれども、「医療」なのか「サービス」なのかちょっと難しい位置づけでもあるんです。本当にそれが医学なの?医療なの?というと、ちょっとわからない、という前提を頭に置いて頂けると、と思うんです。 そもそも日本、世界でも子供の視線というのが非常に欠けている分野です。今後これが、「卵子提供」そしてさらに実は両親とも違っても、卵子も精子も買ってくればいいという世界がもはや成立しつつあります。そうなってくると、今度子供はどういう立場なのか、子供の意見が欠けていると更に変な方向に行ってしまうんじゃないかということを危惧しています。 去年慶応大学でいつも小児科の授業に呼んでいただいて1時間お話をするんですが、そこで学生にこういうスライドを最初に出しているんです。ちょうど野田議員が出産するしないという頃作ったスライドなのですけども、野田聖子議員は、ご自身は子宮は持っているけれども、卵子の機能が落ちて妊娠できない。だけれど夫の精子は残したい、だから他の方の卵子を買ってきて、自分の子宮で産めるのならば生みたい、そういった希望だったわけです。そして、そのちょっと前に向井さんというタレントの方が若いころに子宮を病気で取ってしまった、だから自分は子供を産めない、だけれども、自分たちの遺伝子を持つ子供を残すことは出来るんじゃないかということで、「子宮を貸してください」という契約をアメリカの方と結んだ、という2例が日本で大きくメディアを騒がせた2つの事件だったのです。 これまで精子提供だけだったのに加えて今度は卵子提供、そして借腹まで普通に行われるように、まぁ、普通に、とは言いませんが、やろうとすれば出来なくはなくなってきましたね。ただ、これはちょっと言い換えると、マリー・アントワネットが「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言ったのと同じで、「なきゃ買えばいいんじゃないの?」で、実際卵子は数百万円位、百万円強くらいで取引が出来るだろうと言われています。特にタイとか東南アジア系の国では普通に売買が行われているとも言います。子宮に関しては、これは当然リスクが伴いますので、一千万円以上かかると言われていますけれども、向井さんなんかはお金を払って、一千万円を払ってでも借りたわけですね。実際、お金を払えば出来るというところまで来てしまいました。 ただ、それをやり続けるとあまり良い事にはならないよ、と皆さん少し疑問に思うんじゃないかと思います。実際マリー・アントワネットはその後処刑されちゃいましたよね。ここからが用意したスライドです。今日は60枚位ありますけれど、ゆっくり目で、1時間ちょっとで終わるようにしたいかなと思っています。 非配偶者間の不妊治の問題 先ほどお話しましたように、不妊治療での医療の当事者は、普通は医者がクリニックなり病院を構えていて、患者さんが「妊娠できないんです」って来る。そして患者と医師の間で契約を結ぶわけですね。実際医療行為とは契約なのです。非配偶者間の不妊治療となりますと、非常に人間関係が複雑になります。そこで生まれてくるのは新しい人間、「子供」なんですね。子供が出来るための医療材料と言っていいかも知れませんが、精子もしくは卵子、場合によっては子宮を提供した提供者がいます。 提供者の立場はどうなのかという新しい問題と、そして今度は子供が孫を更に産む。そういった非常に複雑な関係があるのが、非配偶者間の生殖補助医療です。家族の構成が非常に複雑化しています。これは非常に模式的な図ですが、兄と弟が例えば本当の兄弟じゃなくて親が違う、更に複雑なことに、お兄さんと弟が親が違うだけじゃなくて、両方とも実の親じゃないとか、そういったことが普通に起こり得るようになってきています。家族関係というのが我々が常識で思っていた家族関係と、これからの家族関係って大きく異なってくる可能性があるんです。日本で行われてきた中で、一番古いのが、AIDという、非配偶者間の生殖補助医療です。 戸籍に跡が残らないDI 民法上というのがなかなか難しいところなんですが、これが大前提なんです。法律上生まれた子供はどうなるか?と、いいますと、民法772条の規定があって、産んだ人がお母さん、産んだお母さんとその際に結婚している人をお父さんとみなす、法律上で決めるという風になっています。精子が提供されたものであっても実際夫婦であっても、それは、民法は関係ない、という風に言い切っています。なので、(DIでは)戸籍には全く跡が残りません。私の実際、入学の時とかに戸籍謄本を取り寄せてみても、どこにも精子提供なんて言葉は一言もないです。しかし例えば養子の場合、「養子」って一言入りますよね。あとは特別養子縁組だと、何法の何条の規定によりって一言入るんです。なので自然と子供に事実がわかるんですが、DIは、民法上で規定がないものですから、戸籍を見ても何にもわかりません。だから子供に事実は永久にわかりません。ただし、親が偶然にしゃべってしまっただとか、親から突然言われた、何かのきっかけで知ってしまった、そういったものが増えてきています。 DIの施行数について だいたい1970年代から80年代にかけてこれ位の数が報告されていますが、慶応大学だけの数ですので、実際の日本全国の数字は、統計がありません。この辺りから「日本全国の統計を集めましょう」といったガイドラインが出て、そこからは、このような形で登録施設は報告する、ということになっています。ただ、これも実際は、海外に行ってだとか、通信販売で買ってきただとかですね、色んなのがあるようです。最近あまり悪質なものは見ませんが、やっぱりまだそういう斡旋業者が有るのかも知れません。実際のところはわかりません。登録施設はやはり東京、名古屋、大阪、北九州が多いですけども、このような分布になっています。これは各施設が私たちはDIを行いますという風に登録しているので、その分常識的、良識的と考えています。 DIの2つの問題点について DIの実際の問題点を先にお話しするとこの2つです。 ・家族の危機的状況で突発的に知らされる ・血液検査で偶発的に知ってしまう 先ほどお話したように民法上、戸籍に全く跡が残りませんので子供は何も知らずに育ってくるのですが、ある時、家族の危機的状況で、突然知らされてしまう、という家が非常に多い。 例えば、ご両親がどうしても離婚しなければいけなくなった、そして、お父さんお母さんが喧嘩をしている中で抱え込めなくなって、「実はあなたは…」っていうようなことは、よく言われています。そしてもう1つは、病気が重たくなったりしてお父さんが亡くなりそうになった、そういった場合に、「お父さんは今病気で大変だけれども、実はあなたは…」っていうことを突然言われるということが、海外でも日本でもよく言われています。そしてもう1つ、こちらの血液検査のほうは、かなり例外的です。あんまり多くはありませんが、私も含めて時々、あると言われています。だいたいこの2つですね。 予期せず、そして特に、家族が離婚するだとか、病死しそうだとかいう危機的な状況で、更に子供にとって聞いたこともない、DIの話をされるという、極めて不幸な状況になることが多いのです。
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