「マンガ大賞2014は……『乙嫁語り』とさせていただきました!」。自らも実行委員を務めるニッポン放送、吉田尚記アナウンサーの口からマンガ大賞2014が発表された。受賞作は『乙嫁語り』(森薫)。過去にも2度ノミネートされ、ともに2位を獲得。3年前の2011では『3月のライオン』にわずかに及ばず、昨年の2013でも大賞の『海街diary』に続く2位、と過去にノミネートされた回では、惜しいところで大賞を逃していた。「3度目の正直」という言葉が軽く聞こえるほど「ようやく」という印象もある。
マンガ大賞では一度上位入賞した作品は翌年以降、選を外れることが多い。2013に大賞を獲得した『海街diary』は2008に3位入賞。2011の大賞『3月のライオン』も2009に3位に入賞したが、ともに初ノミネートの翌年はノミネート候補(一次選考を通過した最終選考の10作品)に残らなかった。
例外といえば2009、2010と2年連続2位となった『宇宙兄弟』と、2010に4位、2011に3位となった『ドリフターズ』くらい。3度のノミネートは過去に例がなく、上位入賞作は、翌年はノミネートから外れることが多い。
マンガ大賞という賞は、手弁当で運営されている。その原点は「面白いのに、知られていないマンガをもっと知ってほしい」というマンガ好きの思い入れからスタートしている。投票する側としては、「去年上位に入った作品は、一定の認知を得たのでは」という心理がはたらく。ルールではなくとも「上位入賞作品にさらなる認知が必要か」という、もうひとつのハードルが無意識であっても設定され、前年の上位入賞作品には票を投じづらくなるという面もあるのだろう。
過去にその壁を突破しかけた唯一の作品が2009、2010に2位となった『宇宙兄弟』だった。そして今年の『乙嫁語り』は「最多ノミネート回数は2回」、「前年の上位入賞作は上位に入らない」という、選考にまつわる心理的な壁──ジンクスを打ち破る結果となった。
それは、昨年発売された全対象作のなかで、圧倒的な作品だったということでもある。
中央アジアを舞台に、描き出される暮らしにあるもの──。遊牧民と定住民の暮らしや結婚観、家族や血縁というコミュニティのあり方など、さまざまな角度からその姿を立体的に描き出す。細密な筆致は描画のタッチのみならず、物語の構成や登場人物の心情の機微にまでも及ぶ。…