読むナビDJ :第104回:大瀧詠一 SONG BOOK 21+10 <Vol.1>

2014/03/27(木)更新

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第104回:大瀧詠一 SONG BOOK 21+10 <Vol.1>

3月21日にアルバム『EACH TIME 30th Anniversary Edition』リリース、お別れの会も行なわれた大瀧詠一氏の作品集3部作を一挙に公開します。

この記事の筆者

小川真一

音楽評論家。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。ミュージック・マガジン誌、レコード・コレクターズ誌、ギター・マガジン誌などの音楽誌に定期的に寄稿。『木田高介アンソロジー~どこへ』『THE FINAL TAPES はちみつぱいLIVE BOX 1972-1974』『ベルウッド40周年 三浦光紀の仕事』などのCDの解説、共著など多数あり。

2013年の暮れもおし迫った12月30日、大瀧詠一が永遠の休暇に旅立った。悲報を聞いた時の背筋が凍るような驚きを、一生忘れることはないだろう。あまりにも衝撃が大きく、未だに実感がないほどだ。3月21日に東京・SME乃木坂ビルにてお別れの会がとりおこなわれ、はっぴいえんどのメンバーであった細野晴臣氏が「一緒にまたやりましょう。またね」と言葉を送った。

やはり、はっぴいえんどを抜きにしては語れない。日本語をロックを作り出した偉大なるこのグループで、ヴォーカリストとして作詞作曲家として、大瀧詠一が果たした役割は大きい。そんな功績を挙げるよりも、ともかくあの声が大好きだった。ソロ活動を始めてからの活躍はご存じの通りだ。ソングライターとして、プロデューサーとして、コーディネーターとして、さまざまな形のさまざまな音楽を作り出していった。マルチな行動をとったというよりも、ともかく音楽が好きで、それを作り出すことに大いなる歓びを感じていたと思う。

今回はその多大なる才能の中から、ソングライティングに焦点を当ててみた。色々な様式の曲があるのだが、どれもポップであり、ポップス独特の華やかさを持った曲が多い。中には、遊び心で自分をルーツを教えてくれているような曲もある。その珠玉のヒットの数々を、じっくりと味わっていただければと思う

かまやつひろし

「お先にどうぞ」1975年(作詞:松本隆/作曲・編曲:大瀧詠一)

75年といえば、ナイアガラ・レコードを立ち上げ、アルバム『NIAGARA MOON』を手がけていた時期だ。提供楽曲としては、かなり初期のものとなる。ドゥーワップ+ニューオリンズR&Bのセカンド・ラインという、当時一番凝っていたラインナップで作られているが、イントロの部分が沢田研二に提供した「あの娘に御用心」に似ていて、この2曲は対になっていると言ってもいいだろう。



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吉田美奈子

「夢で逢えたら」1976年(作詞:大瀧詠一/作曲:大瀧詠一)

大瀧詠一が生み落とした名曲中の名曲。北原佐和子桜田淳子桑名晴子薬師丸ひろ子など沢山のシンガーにカヴァーされていることもあり、日本のスタンダード・ポップスだと言ってもいいだろう。吉田美奈子、もしくはシリア・ポールのヴァージョンで知った方も多いかと思うが、もともとはアン・ルイスのために書き下ろされた曲だ。この吉田美奈子版は76年のアルバム『FLAPPER』に収録され、のちにシングル・カットされた。



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西田敏行

「いかすぜ! この恋」1980年(作詞:大瀧詠一/作曲:大瀧詠一)

大瀧詠一のエルヴィス・プレスリー愛がもろに出た曲であり、歌詞はエルヴィスの曲タイトルを並べたもの。大瀧の72年のアルバム『大瀧詠一』に収めれられているが、この西田敏行の出来映えも見事。西田もエルヴィスが大好きなのだろう、しゃくり具合も堂に入ったもので、随所でエルヴィスそっくりの歌い回しを聞くことができる。



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松田聖子

「風立ちぬ」1981年(作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一/編曲:多羅尾伴内)

松田聖子の7枚目のシングル盤としてリリースされ、グリコのポッキーのCMソングにもなった。81年といえば、『A LONG VACATION』を発表した時期と重なるが、このシングルもフィル・スペクター的なサウンド・デザインがなされている。アレンジは、多羅尾伴内こと大瀧詠一が担当。なお松田聖子はこの曲で、日本レコード大賞のゴールデンアイドル賞を受賞した。



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太田裕美

「恋のハーフ・ムーン」1981年(作詞:松本隆/作曲・編曲:大瀧詠一)

大ヒット曲「さらばシベリア鉄道」に続くシングルとして、81年の3月にリリースされた。大瀧楽曲の中でも複雑な構造を持っていて、いくつものブリッジがありEメロまであるという変わり種。さらには、イントロから歌が始まり、間奏がなく歌で終わるというスタイルも珍しい。とはいえ、太田裕美の甘い声に似合ったポップな曲であり、隠れ名曲のひとつとされている。



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百瀬まなみ

「カナリア諸島」1982年(作詞:松本隆、作曲:大瀧詠一)

百瀬まなみは、その後の女優としての活動のほうが知られているかもしれない。82年に「少女時代」でデビュー、セカンド・シングルとなったのが、この「カナリア諸島」だ。オリジナルは81年の『A LONG VACATION』に収録の「カナリア諸島にて」で、百瀬版は「にて」が抜かされたタイトルとなっている。せっかくの名曲も歌い手によっては… といった見本ではないかと思う。

松田聖子

「Rock'n'roll Good-bye」1982年(作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一/編曲:多羅尾伴内)

松田聖子の82年のアルバム『Candy』に収録された曲だ。このアルバムは、ソングライティングに細野晴臣財津和夫南佳孝原田真二が参加している。大瀧詠一は、「四月のラブレター」と、この「Rock'n'roll Good-bye」を提供した。アレンジは多羅尾伴内=大瀧詠一で、間奏では童謡の「むすんでひらいて」のメロディを使用する遊び心を発揮している。



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うなずきトリオ

「うなずきマーチ」1982年(作詞・作曲:大瀧詠一、編曲:多羅尾伴内)

80年代のMANZAIブームは、今よりもはるかにパワーがあったように思う。そのMANZAIコンビの、目立たずにうなずいてばかりいる三人(ビートきよし松本竜介島田洋八)が集まって結成されたのが、うなずきトリオだ。こんなユニットが、大瀧詠一プロデュースでレコードを出してしまうのが、ブームの恐ろしいところ。リヴィングトンズの「パパ・ウー・モウ・モウ」にヒントを得たポップ・チューンとなっている。シングルB面の「B面でうなずいて」は、「A面で恋をして」のセルフ・パロディ。



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河合奈保子

「すこしだけやさしく」1983年(作詞:松本隆、作曲:大瀧詠一)

「すこしだけやさしく」は、映画『探偵物語』の同名の主題歌とのカップリングで、薬師丸ひろ子の2枚目のシングルとして発売された。この曲は、テレビ番組「わくわく動物ランド」のエンディング・テーマともなった。薬師丸版でヒットしたのだが、ここでは珍しい河合奈保子のヴァージョンで。これを聞くと、大瀧詠一と河合奈保子の組み合わせも悪くなかったのではと思う。

ラッツ&スター

「Tシャツに口紅」1983年(作詞:松本隆、作曲:大瀧詠一)

シャネルズはアマチュア時代から大瀧と関係があり、78年の『LET'S ONDO AGAIN』には、モンスター名義で「ピンク・レディー」に、鈴木雅之が竜ヶ崎宇童名義で「禁煙音頭」に参加していた。83年にシャネルズは、ラッツ&スターに改名、その第二弾シングルとなったのが、この「Tシャツに口紅」だ。あえてドゥーワップではなく、切ないミディアムのバラードに仕上げているところがミソだ。




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