まつもとゆきひろ×増井雄一郎のオープンソース談義 「1人の熱烈なフォロワーがいれば、OSSで世界を変えられる」
2013/03/25公開
Matz まずはテーマそのものが面白くないと求心力は生まれないでしょうね。それに、変化し続けないと求心力は落ちるでしょう。あとは、OSSに限らずどのソフトウエアも一緒ですが、テクノロジー面で使いものにならないと求心力は生まれない。この3つがそろっているプロジェクトが生き残るんじゃないかな。
増井 なるほど。
Matz あと、意外に大事だなぁと思っているのは、「他人がかかわる余地があるかどうか」、「隙があるかどうか」。僕はドキュメントを書かないんだけど、あれはコントリビューターが「ドキュメントがないよ」って文句を言えるっていうのも、かかわり方の1つだから(笑)。
川井 それは戦略的にやっておられるんですか?
Matz いや、実はめんどくさいだけ(笑)。
一同 (笑)
川井 でもまぁ、まつもとさんの性格的なものと、かかわる余地を残すというのがうまくマッチした?
Matz 結果的にそうでしたね。「じゃあオレがやってやるよ」っていう人が出てきてくれたので。
増井 Rubyの場合は、まつもとさんのキャラクターによるところが大きいですよやっぱり。4~5年前、あるカンファレンスで「Matz Is Nice, So We Are Nice」っていう標語があったじゃないですか。OSSの普及には、作り手のキャラクターも重要な要素になるんだと思います。
Ruby普及の原動力は、Matzの「否定しない姿勢」にあった?
―― Rubyは今年で20周年を迎えたわけですが、まつもとさんにとって、オープンソースとしてここまで普及するまでの転換点は何だったのでしょう?
1993年のRuby誕生から「20年の道のり」を語るまつもとゆきひろ氏
Matz 最初のきっかけは、1995年にネットニューズ(インターネット上の複数のサーバで主にテキストデータを配布・保存するシステム)で公開したこと。わりと反応があって、すぐ後にメーリングリストを作ったところ、参加者が3週間で100人くらいになったんです。
増井 ここで最初のフォロワー、デレクが言うところの「リーダーシップの一形態であるフォロワー」が生まれたんですね。
Matz そう。ありがたいことに、わりと早い時期にかかわってくれる人がたくさんいました。2つ目の転機は1999年。最初のRubyの本を出版したんですが、それに続いて、Rubyに関する日本語の本がたくさん出たのが大きかったですね。
川井 当時は本の出版が大きなインパクトを持っていたんですね。
Matz 3つ目は、2000年に英語でも『Programming Ruby』という本が出て、英語圏でも本を通じて知名度が上がったことですね。そして、2004年にRuby on Railsがリリースされた。こうした動きが重なって、2005~2006年ごろになって、ちょっとずつムーブメントとして認められるようになっていったと感じています。
増井 さっき話した「リーダーのキャラクター」について言うと、まつもとさんって、いろいろ出てくる反論や異論に対して否定しない人だなぁといつも感じているんですが。
Matz 自分とは違う意見を聞くのは大事ですから(笑)。
—— CRubyにしてもmrubyにしても、「作り手としての思い」は強くお持ちだと思うのですが、そういうところに触れてくるような意見でも否定しない理由は?
Matz 例えば、Rubyとしては取り込めないかもしれないけど、アイデア自体はほかの言語でやれば面白いものができるかもしれないよね、と。だから、すぐに「そのアイデアはゴミだよ」なんて言ってはいけないなと思っています。
増井 まつもとさんがそういう姿勢だから、皆が意見を言いやすいっていうのも、Ruby普及の一因だったんじゃないですか?
Matz まぁ、自分では分からないけど。僕はやりたいことをやってきただけだし(笑)。
川井 CRubyは今年2.0に進化して、機能としては落ちついてきた時期だと思いますが、まだやり残していることってありますか?
Matz いくつかありますよ。言語レベルで考えているのは、サブクラスからインスタンス変数って完全に見えるじゃないですか?
増井 そうですね。
Matz モジュールのインスタンス変数ってけっこう衝突するんですよ。だから、特定のクラスからしか見えないインスタンス変数を作りたいですね。Private側からしか見えないもの。ただ、記号が残ってない(笑)。
増井 残ってないですね(笑)。でも、コアな機能としてはだいたい落ちついてきましたよね。
コントリビューターを増やすために「とっつきやすいサイズ」にする
「OSS開発とビジネスの両立」について2人に質問する川井氏
川井 ところで、お2人はOSS開発をビジネスにする発想ってないのですか?
増井 プログラミング言語もそうですが、そもそもフレームワークや開発ツールってビジネスになりにくいんですよ。ビジネスにすることを目標にすると、相当ハードルが高くなりますし、思いつかないというのが正直なところです。
Matz うん。コンシューマーに近い方が、ビジネスにはなりやすいよね。ゲームを買う人はいても、ゲームを作るためのツールにお金を払う人はあんまりいない。ましてやプログラミング言語のためにお金を払う人は、さらに少ないでしょう。かつてプログラミング言語をコアテクノロジーにしたベンチャー企業がたくさんありましたけど、全部なくなりましたよね。
川井 でも、はじめに増井さんがおっしゃっていたように、プログラマーとしてのアイデンティティをオープンソース界隈で示すことで、収益につなげていくというやり方はありますよね?
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