名古屋市は26日、南海トラフ巨大地震が起きた場合、市内で最悪6700人が死亡するという独自の被害想定を公表した。国の想定を踏まえて愛知県が公表した死者数の約1・5倍。津波による死者が66%を占める見通しだ。

 国が一昨年夏に公表したマグニチュード(M)9クラス想定での震源域などから、「あらゆる可能性を考慮した最大クラス」について分析。地盤や堤防などに関し市が独自に持つ情報を採り入れ想定した。市レベルでは異例の取り組みだ。

 南海トラフ地震対策では、国想定に基づく都府県レベルの被害想定を市町村が活用するケースが多い。名古屋市は東海の中枢都市として対策を急ぐため、市の詳細なデータを生かした想定が必要と判断。2月に震度や津波高、浸水面積についてまとめたうえで、今回は死傷者や建物倒壊など具体的な被害を試算した。

 就寝中の被災者が多い冬の深夜に地震が起きた場合、死者は湾岸付近や市西部を中心に6700人。うち津波で4400人、建物倒壊で2100人が亡くなる。重傷者3千人、軽傷者1万2千人と想定した。

 建物の全壊・焼失は最悪で6万6千棟。原因別では、揺れで3万4千棟、火災で2万1千棟、津波で7500棟、液状化で2800棟にのぼる。コンクリート製堤防の倒壊など国が想定していない条件も含むため、浸水面積は国想定を踏まえた県公表の4倍になり、死者も県試算の4600人を大きく上回った。

 ただ、地震後に全員がすぐ高台や津波避難ビルへ避難を始めたり、すべての建物が耐震化を済ませたりする対策を進めれば、死者は4分の1以下の1500人、重傷者は半数の1400人に抑えられるとした。

 一方、1707年の宝永地震(M8・6)や1854年の安政東海地震(M8・4)のような、100~200年周期の「過去の地震を考慮した最大クラス」での想定も公表。最悪で死者1400人、重傷者600人で、建物倒壊などによる直接的な経済被害は3・54兆円と算出した。(岡戸佑樹)

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 〈南海トラフ〉 駿河湾から九州東方沖まで海底で続く深さ約4千メートルのくぼみ。陸にプレートが沈みこむ境界で、東海地方中心に死者1223人が出た1944年の東南海地震などを繰り返し起こしてきた。地震が連動し、巨大地震になる可能性が指摘されている。