STAP細胞:遺伝子解析された細胞は?

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昨日、3月25日の夜7時のNHKニュースで、以下のニュースが流れたようです。

129系統というマウスから作ったとされていたSTAP細胞が、遺伝子を調べてみたら、B6などという別の系統のマウスの細胞だったという内容です(NHKのサイトにはB6とF1という系統とありますが、F1は系統の名前ではなく、2つの系統の雑種という意味です)。

私はまだ職場にいたので、このニュースを見ていないのですが、いささか、情報が混乱しているようなので、ちょっと整理をしておきましょう。


まず、Nature誌の論文に出てくるのはSTAP細胞だけではありません。そのほかにSTAP幹細胞、FI幹細胞というのが登場しています。どちらも、STAP細胞から、培養条件を変えることで性質がちょっと変わった細胞です。

今回の遺伝子解析(の速報データ)が出たのは、STAP細胞ではなく、STAP幹細胞のほうです。

では、この2つはどう違うのでしょう?

論文によると、著者たちはSTAP細胞とSTAP幹細胞について、以下のように主張してます。

STAP細胞
①体細胞に刺激を加えることによって、万能性をもつようになった細胞
培養皿のなかではあまり増えない
③キメラマウスをつくると、マウス胎児の身体のあらゆる細胞と胎盤の一部の細胞になった

STAP幹細胞
①STAP細胞の培養条件を変えることで得られた細胞
②培養皿の中でもES細胞と同じくらい増える
③キメラマウスをつくると、マウス胎児の身体のあらゆる細胞になったが、胎盤づくりにはかかわらない

注目すべき点は②と③です。STAP幹細胞の②と③はES細胞の性質と非常によく似ています。逆にいうと、STAP細胞での「培養では増えない」「キメラマウスの胎盤の一部になる」はES細胞にはない性質です。この記事での文章は、ES細胞をiPS細胞と入れ替えても成り立ちます。

これまで、このブログを含め、ほかの一般メディアでもSTAP幹細胞はあまり取り上げられていませんでしたが、STAP幹細胞はSTAP細胞の存在を前提にした細胞です。

繰り返しますが、今回、遺伝子解析調査の速報データが出たのはSTAP細胞ではなく、STAP幹細胞の方です

今回の報道では、調査に出して遺伝子解析をした細胞がSTAP細胞なのか、STAP幹細胞なのか、という点でまず混乱がありました。報道の中には、遺伝子解析の結果から、実はES細胞だったのではないかということをほのめかしている記事も散見します。

STAP幹細胞とされていたものが、ES細胞だったのだとしたら(それがなぜSTAP幹細胞として扱われたのかはともかく)、実験結果として得られたデータは整合性がつきます。ES細胞なみに増えるのはあたり前ですし、キメラマウスにも不思議はありません。

ですが、STAP細胞とされていたものがES細胞だというのは、ちょっと無理が残ります。培養皿で増えないこととキメラマウスの胎盤が光ったことをES細胞で説明するには、もうひとひねり、何かがないと説明がつきません。

以下は、ご参考までです。

培養皿では、増えない細胞というのはけっこうあります。むしろ、がん細胞由来でもないのに増える細胞の方が例外的です。基礎研究にせよ、医療や創薬で使うにせよ、「増えない細胞」というのは、あまり使い勝手が良くありません。その都度、入手しなければならないわけですから。がん細胞でもないのに大いに増えるという点で、ES細胞やiPS細胞は非常にありがたい存在です。STAP細胞の論文が発表された当初も、ES細胞なみに増えるという点で、STAP幹細胞は期待されていました。

ニュースを見聞きするときのご参考まで。

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