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オバマ夫人、中国1週間滞在は「日本外し」の兆候か?

2014年03月25日(火)12時35分
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 アメリカの「ファーストレディ」、ミシェル・オバマ夫人は、3月20日から1週間の予定で中国を訪問しています。2人のお嬢さんと、そして自身の母親まで伴って女性4人での「中国滞在」というわけです。

 どうしてこの時期になったのかというと、何よりも今週はオランダのハーグで「核安全保障サミット」が開かれ、オバマ大統領は「出張でワシントンを留守にしている」からです。どうせ「ダンナ抜きなら」母娘三代で春の旅行をというわけです。

 ちなみに、ハーグに同行することも検討したのでしょうが、今回は平和な国連の儀式的な会議ではなく、西側対プーチンであるとか、ギクシャクした中でのアジアの首脳外交など「真剣勝負」の仕事が多いわけで、お嬢さんたちを伴ってというのは不適切だと判断したのでしょう。中国では、習近平夫人の彭麗媛氏がすでに接待役になっていて、故宮などを見学したそうです。

 またハーグへ出発する前の習近平主席本人も姿を見せて、「中国主席と米ファーストレディの会見」が行われ、これはアメリカでも大きく報じられました。確かに1週間という期間は異例の長さです。

 ホワイトハウス側は「あくまで文化交流」だとしていますが、オバマ政権として中国を重視している姿勢を示しているという印象を与えるのは当然でしょう。ファーストレディの「ピンポン外交」などという報道にも、そんなニュアンスを感じます。

 では、ミシェル・オバマはこれで「中国寄り」になるのでしょうか? そうは簡単には行かないと思います。というのは、今回の「中国滞在」ということでは、あるもう一人の女性との比較論になるのは避けられないからです。

 その女性とは、ヒラリー・クリントンです。1993年に夫のビル・クリントンの大統領就任と共に、ファーストレディとなったヒラリーは、医療保険改革の特命担当を務めるなど「行動するファーストレディ」を実践しました。その象徴的な出来事が、1995年9月に北京で行われた「国連世界女性会議」への参加です。

 この頃から、日本の永田町や霞ヶ関では「クリントン政権は本籍左派だから中国重視で、日本は無視される(ジャパン・パッシング)」などと言う被害者意識が始まっていましたが、このヒラリーの中国滞在の際にも似たようなことが日本では言われていました。

 ですが、そのヒラリーが世界女性会議で行ったスピーチは「対中国宥和」どころか、「燃えるような勢いと、厳しい論理」によって、人類社会における女性の権利を主張すると共に、人権の無視された社会への告発を含むものでした。この20分のスピーチが世界を変え、ヒラリーという女性の運命を変えたと言っても過言ではないのです。

 中でも「女性の人権(ウイメンズ・ライト)の保証されないところでは、人間の権利(=人権、ヒューマン・ライト)が保証されているとは言えない。反対に人権の保証されていないところでは、女性の権利も保証されていないのだ」という言葉は、ヒラリーという女性を語る上では欠かせないものです。

 国連の会議ということで、こうしたスピーチが行われることを想定していた当時の江沢民政権は、会議場の周囲から「デモ隊」を徹底的に排除していました。その異様ぶりも含めて、そしてそうした「人権のない状態」への告発を、そのど真ん中で行ったことで、ヒラリーはヒラリーとして少なくともアメリカ社会には認知を受けたのでした。

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冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。主な著書に『チェンジはどこへ消えたか オーラをなくしたオバマの試練』(阪急コミュニケーションズ)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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