コンテンツ市場は、メディアに紐付いて成立する
—— 第8回で、みんながクリエイティブな活動をするようになっても、世界はクリエイティブの楽園なんかにならない、コンテンツの実質的な多様性は減る、というお話がありました。でも、インターネットによって、今まで流通しなかったようなコンテンツの新しい市場が生まれる面もあるように思うんですが、それはいかがですか?
川上 まあ、一時的にはそうなりますよね。でも、それはその市場が飽和したら終わりです。そして、そんなに新たな市場がどんどん出てくるわけではありません。ニコニコ動画がコンテンツ市場において何を起こしたのか。そこでJ-POPやアニメが生まれたかといったら、そうではない。既存の商業コンテンツのマーケットは侵食してないんですよ。
—— はい。
川上 コンテンツ市場にあったニッチを拾って、これまでなかったニーズを生み出した。ボカロなどのニコ動特有のコンテンツですね。でもこの市場も、ある程度時間が経ったら飽和して終わり。ニコニコ動画という新しいコンテンツの枠ができたということになります。新しい市場が生まれつづけることはなくて、、みんなが思っているような、牧歌的な「インターネットの未来」ということにはならないと思ってます。
—— うーん、そうかあ。
川上 けっきょくコンテンツはどこに紐付いて市場ができるかといったら、メディアなんです。コンテンツにはメディアが必要なんですよ。
—— プラットフォームではなく、メディアですか。
川上 はい、メディアです。露出する場所において、一定の市場が生まれるんです。アプリだと、App Storeはプラットフォームであり、メディアでもある。そこに紐付いて市場ができる。ニコ動も同じです。そういうメディアが新しく誕生すると、そこに市場ができる。
—— そして、それはそんなに新たにできるものではない、と。
川上 コンテンツ市場の成熟の過程について、ちょっと解説しますね。どんなコンテンツ市場も、成熟していくと、コンテンツそのものではなくてブランドが評価されるようになるんです。その典型例は、ゲームですね。コンテンツの中身より「ドラゴンクエスト」あるいは「任天堂」などとついているかどうかが、売れるかどうかを左右する。
—— 「続編が一番売れる」という話ですね。
川上 そうなると、その市場では、無名の新しいクリエイターがコンテンツを出しても、ほとんど評価されないんです。そんななか、そことは別の新しい市場ができるというのは、ブランド名が関係ない世界がぽっとできあがるということです。その市場では、新しいクリエイターでもブランドを獲得できて、売れる可能性がある。
—— インターネットの初期もそうでした。
川上 はい。ニコ動も、その時期は終わってしまったんですけどね。そして、コンテンツ市場が成熟した先に何が起こるのか。それは、プラットフォーム間の競争です。この競争って、僕は基本的にただのディスカウント競争だと思っています。新しいプラットフォームが競争を仕掛けていくときっていうのは、ひとつはコンテンツそのものの値段を下げて消費者にアピールする。もう一つは、クリエイターの配分比率を上げて、クリエイターにアピールする。この2つのディスカウントで勝負するんです。
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