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磯部涼『踊ってはいけない国で、踊り続けるために ---風営法問題と社会の変え方』(河出書房新社)
クラブと風営法の問題が節目を迎えようとしている。3月22日には「毎日新聞」が「“ダンス議連”風営法改正案を提出へ」と題した記事を配信(*1)。超党派の国会議員からなる、風営法のダンス営業規制について検討するための会合「ダンス文化推進議員連盟」(以下、ダンス議連)が「規制緩和を盛り込んだ風営法の改正原案をまとめ」終わり、「今国会に改正案を提出する」と伝えた。結論からいうとこの報道は勇み足で、実際には、議連はまだ改正案をまとめている真っ最中だ。しかし、彼らが今国会中の法案提出を目指しているのは確かだという話も聞くし、プロデューサーのつんく♂氏が「深夜に踊る所がない国って音楽文化の発展を相当妨げてると思う」とツイート(*2)するなど、同記事をきっかけに改めてクラブと風営法の問題が注目を集めている感じもある。そんなわけで、この機会に、経緯を振り返ってみよう。
日本では、DJがかける音楽に合わせて踊ったり酒を飲んだりする、いわゆる“クラブ”は、【風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律】(通称、風営法)という法律が定める風俗営業・3号【ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ、かつ、客に飲食をさせる営業】に区分され、ライセンスの取得が義務付けられている。ちなみに、2号にはキャバクラやホスト・クラブ、7号にはパチンコ店や雀荘、8号にはゲームセンターなどが該当するのだが、そもそも、風営法第1条によると、同法の目的は「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持」し、「少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する」ことである。つまり、クラブもそれらの店と同じように、営業の仕方によっては公序良俗に反し、子供に悪影響を及ぼす可能性があると考えられているからこそ、ルールが設けられているのだ。
ただ、そのルールの中には、「客室が66平方メートル以上ないといけない」ことだったり、「最長でも深夜1時までしか営業できない」ことだったり、「フロアを5ルクス以上の明るさにしないといけない」ことといった、“小箱”と呼ばれるような小規模の店舗も多く、真っ暗なフロアの中、オールナイトで遊ぶのが一般的なクラブ業界には、どうしても、相容れないものも多い。そのため、ほとんどの店舗は「“客にダンスをさせ”ているわけではなく、音楽をかけているだけだから、3号営業にはあたらない」などと脱法的な言い逃れをして、風営法のライセンスを取らずに営業を続けてきた。また、長い間、大々的な摘発がなかったことも、その常態化を後押しした。ところが、2010年末、突然、日本有数のクラブ密集地だった大阪・アメリカ村で一斉摘発が始まり、福岡や東京といった他の大都市でも取り締まりが強化される。
そして、2012年春、その事態に危惧を抱いたクラブ・ユーザーや弁護士が立ち上げた「Let's Dance」(*3)という、風営法改正を求める署名運動によって、クラブと風営法の問題は広く知られるようになったわけだ。しかし、それが一定の成果をあげ、タームが問題提起から法改正の検討へと移るに従って、運動が、「Let's Dance」に代表されるような市民を巻き込んだ“オープン”な形から、専門家が国会議員に働きかけるロビーイングのような“クローズ”な形に切り替わり、一般の人にとっては、いまいち、何が起こっているのかわかりにくくなってしまった感も否めない。
そんな中、昨年11月には、前述したダンス議連が、クラブ関係者やクラブのある地域の住民、風営法を所管する警察庁などに行ってきたヒアリングの結果を踏まえ、中間提言を発表している(*4)。同文によると、彼らは「ダンス文化を成長戦略のコンセプトとしてとらえ、魅力ある街づくりのために活用して」いけるよう、ダンスと風営法の「時代に合わせたあり方を検討する」ことを決定したという。政治の言葉に疎い人間からするとやけにもったいぶった言い回しに感じられるが、要は、クラブは晴れて自由になるということなのだろうか? では、それによって、風営法が守ってきたらしい“公序良俗”は脅かされないのだろうか? 風営法とクラブの問題に関するロビーイングの中心を担ってきた齋藤貴弘弁護士に素朴な疑問をぶつけてみた。
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