「無観客試合」。浦和レッズのサポーターで思い出したこと

小野寺 俊明 | スポーツマーケティングプロデューサー/スポーツ企画工房 代表

完成前、2001年4月の「埼玉スタジアム2002」

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浦和レッズのサポーターにいい思い出はない。昔、駒場スタジアムの『出島』で囲まれ、数時間軟禁状態になったこともあるし、こけら落としの宮城スタジアムで取材中に凄まれたこともある。そして、今回のことも許されないことだ。しかし、一方で自分が今までにサッカーで経験した一番素敵なシーンの中心にいたのも、浦和レッズのサポーターだった。

それは12年前、日韓ワールドカップを半年後に控えた2001年12月29日、天皇杯の準決勝。浦和レッズvs.セレッソ大阪戦でのことだった。会場はその年の10月に出来たばかりの『埼玉スタジアム2002』。この日はセレッソ大阪のゴール裏で一人で試合を見ていた。試合は1対0で、翌年J2に降格することが決まっているセレッソ大阪が勝ち、決勝へ進出したが、正直、試合内容は全く覚えていない。

2001年12月29日、天皇杯準決勝
2001年12月29日、天皇杯準決勝

鮮明に覚えているのは試合後、電光掲示板に「来年はいよいよワールドカップ 皆さん、よいお年をお迎えください」という文字と、セレッソ大阪のゴール裏で起こった些細な出来事だ。決勝進出の余韻に浸るセレッソ大阪のゴール裏に、一人の浦和レッズサポーターがやってきた。かなり怖そうな風貌をした『その男』は、それほど人が多くないゴール裏を見渡すと、若い女性二人に目をつけた。

手すりに寄りかかり、ピッチを眺めていた二人に『その男』は近づくと、声をかけた。「よお」。振り返った二人は、突然現れた強面の浦和レッズサポーターを見て、驚くとともに怯えた。その場面を見たら、負けた腹いせに相手のサポーターを脅しに来たと、誰もが思うだろう。

しかし、『その男』はポケットに手を入れ、何かを取り出すと「これ…」とつぶやいた。手には20枚ほどの紙の束があった。それは元旦に行われる天皇杯決勝戦のチケットだった。『その男』はこう続けた。「これ、俺たちいらなくなったんで、もらってくれ」。最初は事態が飲み込めなかった女性二人だったが、顔がみるみるほころんでいくのがわかった。

「もらって、いいんですか?」

女性二人がチケットを受け取ると、『その男』は「決勝、がんばれよ」と言うと、照れたように小走りで去って行った。その後ろ姿にセレッソ大阪サポーターの女性も「ありがとうございます!」と、さっきより大きな声をかけた。

今回、浦和レッズのサポーターが起こした事件と、それによって3月23日の試合が無観客になったことについて、何か言うつもりはない。ただ、自分が一番サッカーを素敵だと思ったシーンに浦和レッズのサポーターがいた。そのことを久しぶりに思い出した。ただ、それだけのことだ。

小野寺 俊明

スポーツマーケティングプロデューサー/スポーツ企画工房 代表

同志社大学卒業後、リクルート入社。2001年、スポーツマーケティング会社を共同で設立し、スポーツ団体、選手、放送局のWebサイトやSNS戦略をプロデュース。2012年スポーツ企画工房を設立、代表取締役就任。2000年からスポーツライター、2004年からプロバスケットボール「bjリーグ」のPRマネージャーを兼務。2006~11年は中央大学の客員講師。スポーツとWebをテーマに教壇に立った。

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