ミートソース
・一応ファンタジーです。
・剣も魔法も存在しますが、あまり活躍はしません。
・店主は普通のおっさんです。料理以外できません。
・訪れる客は毎回変わります。ただしたまに常連となる客もいます。
・あまり早い時間のご利用はお控えください。準備中です。
以上のことに注意して、お楽しみいただけると幸いです。
トマス=アルフェイドは小麦を中心に様々な食材を商ってきたアルフェイド家中興の祖といわれている。
店の主力の売り物である小麦を捏ねて乾燥させた、麺。
しっかり乾燥させておけば保存が利くが、味付けが簡素であったためあまり人気は無かった食材。
庶民の食べ物と位置づけられていたそれを王侯貴族の主食にまで祭り上げたのがトマスであった。
その秘密は…トマスが考案した数々のソースである。
乳と小麦粉で作る庶民的なソースに王国では馴染みの薄い魚醤を加えて茸を炒めて作るソース。
西の港の名物である魚の卵の塩漬けを大胆に使ったソースやその塩漬けに辛いトガランの粉を加えることで新たに辛味を追加したソース。
アルフェイド印の麺ソースはそれまで塩やチーズ、ハチミツや胡椒といった単純な味付けしか無かった麺の地位を大きく引き上げた。
かくして古くから麺を扱ってきた、どちらかと言えば小さな商会であったアルフェイド商会は王国屈指の商会にまで急成長し、それを成し遂げたトマスは『料理発明の天才』と称えられた。
…だが、トマスは知っている。
自分は天才などではなく、ただ運が良かっただけなのだと。
実家の小麦を入れておく倉庫の奥の暗がりの中で、ひっそりとたたずんでいた、黒い扉。
それをたまたま見つけたのがトマスだったというだけであることを。
30年近く前から、トマスは28日間に1度は客ではなく商人としてあの店に赴いている。
すっかり商売から引退しご隠居と呼ばれる身にはなったし、もう商売には関わってはいない。
だが、トマスには先代の店主との約束があった。
互いの『店』が続く限り『取引き』を続けると。
今日、トマスは店へと出かける準備をしていた。
「―――よし。こんなもんだろう」
長年愛用した、とにかく多くのものが入るのが売りの背負い袋に店主に頼まれていた数々の品が入っていることを確認し、トマスは一言言葉を漏らした。
同じ場所の『扉』が使えるのは1回ごとに1度だけ。
1度扉を閉じてしまえば外側からは決して開けられない。
そしてその扉に入ったものが内側から扉を開けて食堂を出れば、扉は消えてしまう。
それが扉…異世界食堂への入り口のルールであることを他の客から話を聞いているトマスは知っている。
そのため、トマスは毎回怠りが無いかをよく調べてから扉をくぐるようにしている。
準備を終え、いざ出かけるべく、今回初めて連れて行くことにした孫に声を掛ける。
「よし、行くとしようか。シリウス」
「この扉が異世界に繋がっているって…本当ですか?おじいさま…
確かにうちの商会の古い蔵の中なんかにこんな立派な扉があるのは不自然ですが…」
トマスの孫であり、次代のアルフェイド商会の後継者である少年シリウスは困惑顔だ。
無理も無い、とトマスは思う。
異世界へと繋がる扉と言うのは、あちこちを旅する冒険者の類でも魔法に恐ろしく長けたエルフでも無い一介の商人にとっては御伽噺の領域だ。
それが、こんな街中の蔵に異世界と行き来が出来る扉があると言われてほいほい信じるのは夢見がちなバカというものだろう。
「行けば分かる。なに、大丈夫だ。異世界と行ってもさほど儂らの世界とそう変わらん。
なによりこの先にあるのは、儂…アルフェイド商会にとっては恩人とでも言うべき店だからな」
そんなことを言いながら真鍮製のドアノブに手を掛け、回す。
手入れが行き届いた扉のドアノブはくるりと回り、聞きなれたチリンチリンという音を立てて、扉が開いていく。
「恩人の、店?…一体なんの店ですか?」
そのまま扉の向こうに身体を押し込もうとしているところで、背後に居る孫から疑問を投げかけられる。
「異世界食堂…料理屋だよ」
トマスはそれに答えながら、扉をくぐった。
暗い蔵とは対照的な、明るい店内がトマスの眼前に広がる。
「いらっしゃい…ああ、トマスさんですか。ちょいと待っててくださいね」
扉をくぐると、店主は店のテーブルを水で濡らした布で拭き終えたところだった。
厨房からは、コトコトと煮える、鍋の音。
商売の邪魔をしないよう、他の客が来るにはずいぶん早い時間にトマスは訪れることにしている。
「はいよ…適当に座らせてもらうが、良いか?」
「はい、そっちのテーブルは拭き終わってるんで、大丈夫ですよ…ちなみにそちらは?」
「初めまして。僕はトマスの孫でシリウスと言います。いつも祖父がお世話になっております」
店主に聞かれ、シリウスは商人らしい愛想のよさで頭を下げる。
「聞いての通り、儂の孫だ…これから時々連れてくるから、そのときも頼むよ」
「なるほど。お孫さんですか。確かに昔のトマスさんの面影がありますね」
店主が頷きを返す。
トマスはこの店主がまだ幼い子供の頃だった頃から知っているし、店主の方もトマスのことは良く知っている。
長い付き合いとなる2人の間には、対等な取引相手でありながら、どこか友人のような親しさが流れていた。
「それじゃあまずはコーヒーでもお持ちしますんでちょいと待っててください」
そう言うと店主は奥へと引っ込んで行く。
「コーヒー?」
「異世界の茶の一種だ。黒くて苦味がある。
中々にうまいし、飲むと元気が出る」
コーヒーのことを軽く説明しながら、物珍しげにあちこちをキョロキョロと見回す孫を微笑ましく眺める。
「やはり、もの珍しいか?」
「はい。ここが異世界ですか?」
キョロキョロと見回すシリウスの目に映るのは、見慣れないものばかり。
「そうだ。良く見きわめるのだ。調度品や店の中のつくり、そう言ったものが儂らの常識から外れとるのが分かるだろう?」
「…なるほど。確かに」
トマスの言葉に王都の商人として自分の世界のものならば相当に目が肥えているシリウスは納得する。
確かにこれは…異国とかそういうレベルじゃない文化の隔たりを感じる。
「お待たせしました。コーヒーです」
そんな話をしていると店主がコーヒーを持ってくる。
2つのカップに注がれた、黒い液体と小さな金属製の水差しに入れられたミルク。
それが2人の前に置かれる。
「おお。すまんな」
「いえいえ、それじゃあ売り上げ持ってきますんで、ちょっと待っててください」
そう言うと店主は再び奥の厨房に引っ込む。
「では、頂くとしよう。
シリウス、すまないがそちらの青い壷…砂糖を取ってくれないか?」
「あ、はい…」
シリウスから砂糖壷を受け取り、匙で2杯分、コーヒーに加えてかき混ぜる。
ミルクは入れないのがトマスの好みである。
「うむ、うまい」
砂漠の国には似たような飲み物があると言う話をこの店の客から聞いたことを思い出しながら、コーヒーを飲む。
精製した職人の腕が良いのか、余計な味のしない砂糖の甘みと、独特の香りと共に飛び込んでくるかすかな酸味を含んだ苦味が渾然と口に広がる。
その熱さと味が身体に染み込み、活力がわいてくるような感覚。
トマスが来ると『無料で』振舞われるこのコーヒーは、トマスにとって密かな楽しみである。
「ほれ、冷めないうちにお前も飲みなさい。砂糖をいれてな。
好みだがミルクも良いぞ。味が柔らかくなる」
「はい…頂きます」
祖父に習い、シリウスも砂糖を2杯入れて一口飲んで味を確かめた後、ミルクをたっぷりと入れて飲みだす。
「…甘くておいしいですね。これ」
ミルクをたっぷり入れて、柔らかに甘くなったコーヒーに、シリウスも顔を綻ばせる。
近年、砂糖キビから精製した砂糖が異国から入ってくるようにはなったが、甘いものはまだまだ少量でも銀貨で取引される貴重な品である。
アルフェイド商会自体は下手な貴族よりも豊かな懐があるが、儲けに繋がらない贅沢は家訓で慎まれているので、こんな機会でもなければ甘いものなど口にできない。
(甘いものを喜ぶ辺りは…まだまだ子供だな)
一気に飲んだときの熱さに顔をしかめながらコーヒーを味わうシリウスを微笑ましく思いながら見る。
生まれた頃から大商会の御曹司なせいか叩き上げ商人らしい図々しさには欠けているが、頭の回転は速い孫はトマスのお気に入りだった。
しばし2人して異世界のコーヒーを楽しみ、飲み終えた頃、鉄の箱を抱えた店主が戻ってくる。
「お待たせしました。今月分の異世界食堂の売り上げを持ってきました。
そっちの袋はこっちで預かってもいいですかね?」
「ああ、頼むよ。その間に儂らで勘定しておこう」
店主に空になった杯を返し、持ってきた袋を渡す。
「はい。確かに、それじゃあちょいと上に置いてきます」
そうして店主が重そうに袋を運んでいくのを見ながら、鉄の箱を開く。
「うわ…金貨が8枚もありますよ…」
「…うむ。それはいつものことだ」
何故か毎回入っている、普通は貴族か豪商くらいしか縁が無い貴重な金貨が8枚。
出所がバラバラな銀貨が41枚。
そして銅貨がざっと700枚ほど。
その中には異世界食堂の1ヶ月の売り上げが鉄の箱に詰め込まれていた。
「ふむ。今月の売り上げは先月より少し多いか」
熟練の商人の技で大体の額を見極めて算段する。
「これって…このお店の売り上げですか」
「そうなる。そして…」
頷きながら答える。
この店の売り上げは毎月トマスが責任を持って預かっている。
「あの袋の中身の代金でもある」
『商品』の対価として。
「あの袋の中身というと…食材ですか?」
その商品、トマスが持ってきたのは食品の扱いを得意とするアルフェイド商会で無ければ用意できないような高級品を含む異世界産の食材。
小麦や各種野菜といったごく普通に市場に出回るものから異国から長い旅を経て運ばれてきた交易品、果ては狩人や冒険者の類が命がけで倒した魔物から切り取った珍味。
異世界食堂の売り上げを対価にそう言ったものを卸すのがトマスと異世界商店の取引である。
「そうだ。まあ、たまに癒しの霊薬なんかもこっちには無いとかで頼まれるがな。
基本的には食材を売っている」
「なるほど…」
シリウスは祖父の言葉に頷いた。
確かに食品の扱いにかけては今や王国一を自負するアルフェイド商会らしい取引ではある。
「しかし、その食材をどうしてるんでしょう?
この店の料理として出すには些か量が少ないように思いますが」
先ほどの様子を見るに、異世界食堂の1ヶ月の売り上げは金貨で10枚に届かない程度。
店が7日に1度しか開かないと考えると、1日辺りの売り上げは金貨2枚と少し。
老人であるトマスが運べる程度の量の食材で足りるとは思えなかった。
「ああそれはな…店主自らが食べるため、らしいぞ」
同じ疑問を、最初に取引を持ちかけられたときのトマスも持ったことがあり、直接尋ねたことがある。
その答えが、これだった。
「食べる?この店の店主が、ですか?」
「ああ、先代もそうだったがここの店主が言うにはな、味付けの研究だそうだ」
トマスが卸した食材は店の客全員に出せるほどの量ではないし『エイセイ』とやらの問題もあるので、自分で食う。
それを先代と今代の店の店主は研究と称していた。
「研究?」
「儂にも料理人の考えと言うのは分からんがな…」
なおも困惑顔のシリウスに前置きをして簡単に説明する。
昔、店主から聞かされた、異世界の食材を求める理由を。
異世界食堂は、トマスの世界の人間を客として迎えている。
故にその舌が旨いと思う基準はニホン人…異世界の人間である店主とは、微妙に違う。
幸い大きなズレは無いらしいが、それでも厳然としてズレはある。
だからそれをあわせるために、トマスの世界の食材を味見し、その味を元に異世界の食材で作る料理の味付けを決める。
そうやってトマスの世界の住人の口にできるだけ合うように調整しているという。
「わざわざそんなことを…大した益にはならないでしょうに」
その話を聞いて、シリウスは納得したような、微妙に納得いかないような顔をする。
正直、売り上げから見ても7日に1度しか開かぬ異世界食堂でそこまでするのは、割に合わない。
「まあ、店主にとってはこの異世界食堂自体が趣味みたいなもんらしいからな。
客に旨いものを食ってもらって、喜んでもらうのが何より楽しいそうだ。
…今の代の当主もその辺りは先代そっくりだよ」
そんな孫を諭すように、トマスは笑う。
思えば先代の店主も料理が仕事であると同時に趣味でもある人間だった。
異世界食堂がトマスの世界に開かれ30年。
今なお愛され続けているのは、2人の店主の努力の賜物でもあることを、トマスは知っていた。
「お疲れ様でした。納品分、確かに確認しました」
そんな話をしていると、2冊のメニューを抱えた店主が戻ってくる。
「いつもどおり、一品奢りますんで、好きなもの注文してください。
そっちのシリウスさんもどうぞ」
いつもの習慣でそう言いながら2人の前にメニューを置く。
「儂はいつもどおり…そうだな、スパゲッティのミートソースを大盛りで。
シリウス、お前もそれでいいか?」
「はい。お任せしますおじいさま」
そのメニューを開くことなく、トマスはメニューを注文する。
「はいよ。ミートソースを大盛りで2つですね」
注文に頷き、店主が厨房へと戻る。
それからしばしして…お目当てのものが来る。
「お待たせしました。ミートソースです」
2人の前に、緑色の筒と銀色に輝くフォークと一緒に大き目の皿にたっぷり盛られた麺料理が置かれる。
上に掛けられているのは細かく刻んだ肉がたっぷりと入った真っ赤なソース。
「うむ。やはりスパゲッティはミートソースに限る」
ミートソースこそ幾度と無くこの店で食べてきた…トマスにとっての始まりの味。
30年の間に麺料理の数は随分増えたし、ミートソースと双璧を為す麺料理ナポリタンをはじめとしてあれこれ食べた時期もあったが…
やはり最後の『目標』はこれに収まった。
「あれ?これは…おじいさま?」
一方のシリウスはそのことにきづき、困惑している。
困った顔で、トマスに説明を求める。
だが、トマスはそれに対して、ただ一言だけ、言う。
「なに、食えば分かる。色々とな。さあ、冷めないうちに頂くとしよう」
ミートソースの側にそっと置かれた良く磨かれたフォークを手に取り、そっとミートソースに差し込む。
ゆっくりとかき混ぜて、ソースをしっかりと麺に絡めてから一口分だけ巻き取る。
ごくりと唾を飲み…頬張る。
うまい。
毎回のことながら、最初に出てくる感想はシンプルなその一言。
肉を取るためだけに、労働をさせずに育てたという柔らかい牛の肉と豚の肉の味がまず口の中に広がる。
手間隙を掛けて細かく刻んだ風味の違う2つの肉は互いに混ざり合い、どちらの肉だけでも出せぬ味となる。
それを包み込むのはミートソースの根幹を為す煮込んだマルメットの実に良く似た野菜の味。
10年ほど前、小さな山国で僅かに作られているだけだったマルメットの実を干した物を口にしたときの興奮を思い出しながら、それを味わう。
煮込まれた野菜から出るのは酸味と、たっぷりの旨み。それが肉に良く合い、味を引き立てる。
(ふむ…薄切りの茸に砕いて炒った木の実、それに油で炒めたオラニエに、後はハーブ…やはりまだまだ届かぬか)
ゆっくりと麺を飲み込み、息を吐く。
このソースに含まれる材料の多さと複雑さを感じ取れるようになったのは、いつの頃からだったか。
まだ青年と呼ばれていた時代、初めてこの店を見つけて先代の作ったミートソースを食べた時は、ただ旨いと言うことしか分からず一気に食べつくした。
それほどの衝撃だった。
自分の家で商っていた、素朴な味の麺を食べるための料理とは思えぬ代物だった。
「…ふむ。どうだ?シリウス。異世界の麺料理の味は」
一口食べ、口を押さえて絶句している孫に声を掛ける。
シリウスは少し呆然とした後…トマスに思わず尋ねた。
「なんでこの店でウチが開発中のはずのものが!?」
そう、この味には覚えがある。
最近ようやく山の小国から金を積んで招いた農夫と学者の協力により王国の畑で育てられるようになり、新鮮なものを安定して手に入れる算段がたったマルメットを使ったソース。
夏にはアルフェイド商会から“新たに”売り出すはずだった麺のソース。
それと良く似ており…更に洗練された味がシリウスの舌の上に広がっていた。
「まさか…もしかして!?」
思わずシリウスは見知らぬ名前の並ぶメニューに添えられた説明文を確認し…確信する。
祖父の言葉『恩人の店』の意味を。
「…おじいさま。貴方は」
「そう。料理発明の天才などといった言葉はまやかしだ。
私は…『向こう』でも食べたかっただけなのだよ」
笑いながら認める。
真実をようやく明かせる日が来たことを喜びながら。
トマス=アルフェイドは商人だ。
例え動機がどうであれ、儲かると言う確信を得たのならば商売にするのが商人というもの。
それが、アルフェイド商会の栄光の始まりだった。
「さて、食事を続けるとしよう」
そう言いながら、緑の筒と、テーブルに備え付けの赤い汁が入ったガラス瓶を手に取る。
「こちらの緑の筒に入っているのは、粉になるまで挽いたチーズ。ミートソースに掛けるとまろやかになる。
そしてこちらの赤い汁がタバスコと言うソース。辛味と酸味があり…ミートソースの味を引き締める」
初めて食べるであろう孫に説明をしながら、慎重に少しずつ掛けていく。
こうして味を自分好みに少しずつ変えて味わうことが出来るのも、ミートソースの楽しみである。
「最初に慎重にな。量が過ぎるとどちらもミートソースの味を損なうぞ」
かつてやらかした失敗を思い出しながら孫に注意を促す。
新たに辛味と酸味、そしてチーズの風味が加わったミートソースを楽しむ。
「こんにちは!もうやってるよね!?」
背後に響く、気の早い客が扉を開いたチリンチリンという音を聞きながら。
それから2人は一皿のミートソースと食後のコーヒーを楽しんだ後、店を出た。
パタンと、扉が閉じて…消える。
トマスとシリウスの2人は、また薄暗い小麦倉庫に戻ってきた。
「おじいさま…」
シリウスがどこか呆然としながら言葉を吐き出す。
扉が消えてしまうと、今までのことが夢だったように思える。
だが、背負い袋一杯の食糧は消え、変わりにずっしりとコインが入った袋が手の中にあり、舌は確かにミートソースの味が覚えている。
夢ではなく現実。
その事実に、シリウスは後に紡ぐ言葉を失う。
「あの店にいけるのは7日に1度…次は7日後だ」
そんな孫の反応を楽しむように、トマスは告げる。
「儂は28日に1度あの店に行く。他の日は…お前が好きにしろ」
自分は『客』としては引退するという決意を込めながら。
「いいのですか!?」
その言葉の意味を悟ったシリウスが思わず唇に僅かに残ったミートソースを舐めながら祖父に尋ねる。
「ああ良いとも。商人ではなく、普通の客として行くのなら店主も嫌な顔はせんからな」
物分りの良い老人を装い、後ろ髪を引かれる思いで頷く。
だが、そのほうが良いと、商人の勘が告げていた。
「ありがとうございます。おじいさま…そっか…次は何を食べようか…」
間違いなく7日後には行くであろう孫の様子を、目を細めながら見つめる。
孫が、自分の目標…未だあの店にあるものの半分に満たぬ数しか『再現』できていない麺料理の作り方を見出してくれないかなと考えながら。
今日はここまで。
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