広島、長崎で被爆しながら、国に原爆症と認められなかった人たちが起こした裁判で、またも国は敗訴した。

 11年前の最初の提訴から、国は30回以上負け続け、厚生労働省は昨年、認定基準を一部改めた。だが先日の大阪地裁判決は、新しい基準でも対象外とされた被爆者4人を原爆症だとはっきり認めた。

 被爆者らは「認定制度を根本から見直し、生きているうちに問題解決を」と訴えた。平均80歳近い人々に、いつまでも法廷闘争を強いるのは、もはや人道問題ではないか。国は司法判断に従い、制度をすみやかに改めるべきである。

 焦点は、爆心地から数キロという遠距離で被爆した人や、投下後に爆心地付近を歩いた人(入市被爆者)だ。今回は4人全員が勝訴したが、うち3人は遠距離・入市被爆だった。

 厚労省は、こうした被爆は、浴びた放射線量は多くないはずだとして、病気との因果関係をもっぱら否定してきた。

 裁判所は、この対応は違法だとの判断を一貫して示してきた。だが厚労省の有識者検討会は昨年末、「司法判断を一般化して認定基準にすることはできない」との見解をまとめ、一連の判決は非科学的であるとの認識さえにじませた。

 だが、遠距離や入市被爆者の病気については、体内に入った放射性物質による内部被曝(ひばく)の影響を疑う見方が根強い。今回の大阪地裁もこの点を踏まえ、厚労省が依拠する学界の通説には限界があると指摘した。

 被爆地をどれだけ歩き回ったかといった当時の状況のほか、加齢など病気につながる被爆以外の要因も検討した。そうした結果、原爆放射線と病気の因果関係が否定できなければ、原爆症と認めるべきだとした。

 被爆者援護法の趣旨にかない、実に合理的な判断だと言っていい。

 被爆者の多くは国が起こした戦争で被爆し、病気になった責任を国に認めてほしいとだけ願っている。

 認定後には月13万円余りの手当が一律支給される。厚労省は原爆症認定を増やせば予算も膨らむと懸念するが、だからと言って認定を絞るのは誤りだ。まず幅広く認定し、手当については病気によって調整するなど、被爆者団体との話し合いで適切な額を考えていけばいい。

 安倍首相は昨年夏、「一日も早い原爆症認定に最善を尽くす」と被爆地で誓った。司法判断を重く受けとめ、人道的な決断をしてもらいたい。