F1レーシング・チームの英マクラーレンが、今シーズンの開幕戦である3月16日のF1オーストラリアグランプリ決勝で、久々の明るいニュースに沸いた。新人ドライバーのケビン・マグヌッセンが2位を獲得して鮮烈なデビューを飾ったほか、ジェンソン・バトンも3位となった。
シーズン開幕直前、記者はマクラーレンの「総帥」と呼ばれるロン・デニス氏に英国本社で面会した。デニス氏は今年1月、F1レーシング・チームなどを傘下に持つ英マクラーレン・グループのCEO(最高経営責任者)に復帰したばかり。インタビューでデニス氏は、「今の会社は、私が望む姿ではない」と語り、F1チームの成績に不満をもらしていた。昨シーズンの結果は5位と低迷し、一度も表彰台に上がることができなかったからだ。
デニス氏は1981年にマクラーレンを買収し、F1の名門チームを育て上げた人物。アイルトン・セナなどスター・ドライバーとともに、90年代末にはホンダのエンジンを搭載した「マクラーレン・ホンダ」として圧倒的な強さを誇った。
デニス氏は年齢などを理由に、執行権限のないグループの非常勤会長の座に退いていた。だが、低迷するF1の成績に痺れを切らし、チームを立て直すためにグループの全権を掌握することを株主に自ら提案し、CEOに復帰した。
マクラーレンはF1チームのほか、高級スポーツカーの製造事業や、F1車両の開発で培った電子制御技術のソリューション事業にも手を広げている。数あるF1チームの中でもユニークな存在だ。このビジネスモデルを作り上げた人物こそ、デニス氏である。
デニス氏は、グループCEOとしてF1事業を再びテコ入れし、トップ奪還を目指す。来年からは、ホンダがマクラーレンにエンジンを提供し始める。英ロンドン郊外にある本社で、本誌や英フィナンシャルタイムズ、独フランクフルト・アルゲマイネとの共同インタビューに応じた。(関連記事「英国にあった『美しい工場』」も併せてお読みください)
グループCEOに復帰した今の気分はいかがですか。新しい「おもちゃ」を手に入れた子供のような感じでしょうか。
デニス:そういう感覚ではありません。よく復帰した感想を聞かれますが、これまでどこかに消えていたわけではありませんし、ずっとこのマクラーレンのオフィスにいたわけですから。
ただ、今の会社は、私が望む姿ではありません。年齢を理由に非常勤のグループ会長という立場に退いていましたが、昨年からマクラーレンに情熱とエネルギーを注ぎたいという思いを強く感じるようになっていました。もちろん、これまでも私のビジョンは社員と共有してきたのですが、そのビジョンの実現という面では、私の思うように事が運んでいませんでした。
そこで株主に対し、私を執行権限のある立場に復帰させてほしいと頼みました。このまま、非常勤という立場で居続けることは、選択肢としてあり得なかった。1月16日にCEOに復帰した背景には、そうした経緯があります。
CEOとしてやりたいことはたくさんありますが、その中でも最大の目標が、マクラーレンをもう一度、レースで勝てる組織に再生することです。
早速、チームがレースに集中できるように、収益や投資に関するすべての責任を切り離し、グループ内のマーケティング専門部門に移管しました。