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Listening:<時流・底流>英警察のネット活用 事件や警官の情報を公表

2014年03月17日

講演するエドワード・ハウリン氏と、話を聴く警察官や研究者ら=京都市下京区の京都産業大校舎で2014年3月1日午前9時39分、日下部聡撮影
講演するエドワード・ハウリン氏と、話を聴く警察官や研究者ら=京都市下京区の京都産業大校舎で2014年3月1日午前9時39分、日下部聡撮影

 英国を参考に、警察の情報公開と市民の関係を考える珍しいシンポジウムが今月1日、京都産業大で開かれた。日本の現職警察官や研究者ら約80人が参加。警察行政などを所管する英国内務省の担当官との質疑応答で、共通する課題とともに、根本的な考え方の違いも浮かび上がった。

 「透明性、信頼性、説明責任の三つが原則」。講師に招かれた英国内務省「警察活動透明化ユニット」のエドワード・ハウリン上席政策アドバイザーはそう語り、2012年に各地の警察本部を結んで発足した英国警察のポータルサイト「Police.uk」の解説を軸に話を進めた。

 同サイトでは、英国各地の犯罪の発生場所と件数を地図に表示し、随時更新している。「自動車盗」「性犯罪」「万引き」などと細かく分類し、それぞれの事件をクリックすると「捜査中」「判決待ち」など、現状も分かるようになっている。さらに、各地域の担当警察官の氏名、電話番号、メールアドレス、顔写真なども掲載されている。

 被害者が自分の事件の捜査状況をネットで知ることができ、捜査官に直接問い合わせや情報提供できるシステムが一部の警察本部で運用されていることも紹介された。また、ロンドン警視庁は、全警察官にツイッターの公式アカウントを取得させ、住民との情報交換に役立てるよう指示しているという。ハウリン氏は「情報公開とプライバシー保護のバランスには日々、苦心している」と話した。

 今後は、警察への苦情や意見を同サイトに投稿できるシステムの構築を検討する。狙いについてハウリン氏は「今も文書で受け付けているが、うやむやにされることも多い。意見が公開されれば、市民や警察組織全体の目にさらされ、よりしっかりした説明や問題解決を迫られる」と語った。

 質疑応答では京都府警の捜査員が「警察官の顔や連絡先をネットに出すと、支障があるのではないか」と質問。ハウリン氏は「警察官のプライバシーが侵害されたり、攻撃の対象にされたりするのではないかという懸念はあった。そこで、警察官の顔写真に肖像権を設定し、目的外利用を違法行為とすることで規制している」と答えた。

 また、ツイッターによる市民への情報提供を始めた大阪府警の担当者は「日本では警察官個人が発信することへの心理的なハードルが高い。そもそも、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の使い方を知らない警察官が多い」と指摘。ハウリン氏は「ロンドン警視庁でも同じような問題があり、組織内でツイッターの使い方や意義を理解してもらう取り組みが行われている。よかったら日本でも共有してほしい」と応じた。

 こうした取り組みの背景には、英国政府のデジタル政策と警察制度改革がある。英国政府は行政情報を国民に電子データで提供することで説明責任を強化するとともに、民主的な警察運営を目的に12年、各警察本部を監督する「警察・犯罪コミッショナー」の公選制を発足させている。

 ハウリン氏は警察庁警察大学校で講演するため来日。福岡県警本部長や警察大学校長を歴任した田村正博・京都産業大教授が企画した、このシンポジウムにも参加した。田村教授はシンポで英国警察の政策について「自分たちが市民の統制を受ける存在であるという姿勢が一貫している。警察にとって有益かどうかではなく、市民にとって有益かどうかという発想がある」と評価し、「日本の警察がホームページなどで行っている情報発信とは思想的な違いがある」と総括した。

 田村教授は取材に対し「防犯に役立つかどうかという観点だけでなく、広がりのある議論ができた。今後も警察と市民の関係について、さまざまな立場の人たちと議論したい」と話した。【日下部聡、写真も】

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