バラエティーに「出演する首相」と「出演しない首相」どちらが良いか?

片岡英彦 | 企画家/戦略PRプロデューサー

イメージ画像(提供:123RF)

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安倍晋三首相は、フジテレビの「笑っていいとも!」に、21日、生出演をした。「いいとも」のテレフォンショッキングに現職の首相がスタジオ出演したのは初めてだ。一方で、スタジオアルタ周辺では、首相の政策に批判的な約200名が集まり、プラカード等を持って、「バラエティーに出てる場合か」などと抗議を行った。

安倍首相の「いいとも」出演

JR新宿駅に面するスタジオアルタ正面玄関とは反対側の裏口周辺は、番組が始まる正午前から約200人が集まり道路を埋め尽くした。首相の政策に批判的な人がほとんどで「バラエティーに出てる場合か」などと怒号が飛び、「安倍晋三は今すぐ辞めていいとも!」のプラカードも。警察官が規制線を張り、一時もみ合いになるなど物々しい雰囲気に包まれた。

出典:安倍首相「いいとも」生出演のワケ アルタ周辺は騒然「辞めていいとも」(スポニチ アネックス 2014.03.22)

今回は安倍政権の政策に関する「是非」ではなく、「首相の『いいとも』出演」という広報戦略に関する是非について考えてみたい。

まず、出演に反対する人々は、なぜ首相の「いいとも」出演に反対なのだろうか?

安部首相の出演に対して批判する人々

そんなアルタ前だが、ただ単に映りに来た人ばかりではない。中には反安倍首相コールを掲げる人も居たようだ。『笑っていいとも!』のロゴをオマージュした「安倍晋三は今すぐ 辞めていいとも!」のプラカードまで作り「ファシスト出すな。帰れ!辞めろ」とコールが続いていた。

出典:アルタ前で「安倍晋三は今すぐ 辞めていいとも!」のプラカードを掲げる人達が(ガジェット通信)

首相の政策に批判的な人がほとんどで「バラエティーに出てる場合か」などと怒号が飛び、「安倍晋三は今すぐ辞めていいとも!」のプラカードも。警察官が規制線を張り、一時もみ合いになるなど物々しい雰囲気に包まれた。

出典:安倍首相「いいとも」生出演のワケ アルタ周辺は騒然「辞めていいとも」(スポニチ アネックス 2014.03.22)

少なくとも、報道で知る限りでは、反対のために集まった200人ほどの人たちの中に、具体的になぜ、首相が「いいとも」に出演してはならないかがわかる抗議はなかったようだ。要するに、もともと安倍政権に対して批判的な人々が、前日の同番組で出演することを知って、「いいとも」の出演者であれば、ほぼ必ず徒歩で通る楽屋口に集まって抗議をしたものと思われる。集まった方々は、安部首相のアルタへの出入りのほんの数秒間ずつの抗議のために、集まってくるのだから、筋金入りの安倍政権への反対派の方たちなのだろう。(日本は言論の自由を保障する国なので、こうした抗議は抗議で全く問題ない。保障されるべき権利であると思う。)

一方で、首相側はなぜ出演をあえて望んだのだろうか?

首相が「いいとも」に出演した理由は?

タモリさんが電話で「安倍さんですか? さっき、国会で答弁してらっしゃいましたよね?」と問いかけると、受話器からは女性の声が。女性初の秘書官である山田秘書官が「私は、秘書官でございます。はい、答弁させていただいております。国民的番組に出させていただけるということで、お伺いできると思います」と答えた。

出典:安倍首相、3月21日に「笑っていいとも!」出演(The Huffington Post Japan)

山田秘書官によると「いいとも」=「国民的番組」と位置づけていることがわかる。ここでいう「国民的」とは、通常出演するような「報道番組」「討論番組」では必ずしもリーチできない人々(「いいとも」であるから視る人々)のことを示しているのは明白である。

そして、ここ最近の安倍内閣の政治課題としては、消費税の増税、日米韓3か国の首脳会談、オバマ大統領来日等がある。一方で、「特定秘密保護法では強行採決」や、「靖国神社への参拝」「集団的自衛権の行使容認」「河野談話の見直し問題」など「タカ派」と思われがちな側面がある。

時の首相や政権が、「広報戦略」(メディア戦略)を持つのは当然のことである。むしろこれまでの政権があまりに「広報戦略」を持たなかったことの方が問題だった。

普通に考えれば・・・

【状況】 安倍内閣は、依然として支持率が高いが、一方で、「特定秘密保護法」「靖国神社参拝」「河野談話の見直し」などで「タカ派」としてのイメージが定着しつつある。

【課題】 4月1日の消費税導入を前に、主婦層や若者層の支持を固めたい。(内閣支持離れを防ぎたい)

【施策】 主婦層や、日頃、政治討論番組などは必ずしも視ない可能性のある若年層に対して「国民的番組」に出演することによって安倍政権の「ソフト路線」のイメージを定着させる。

公開情報からのみではあるが、上記のような、広報戦略上の課題と施策だったと想像がつく。

では、「いいとも」での出演内容はどのような感じだっただろうか。

「いいとも」でのタモリとのトーク

タモリ「昨日見ていると、麻生(太郎・副総理)さんが午前、午後1回きていますけど。午前中は2分、午後3分しか会っていないですけど。麻生さん嫌いなんですか(笑)」

出典:安倍首相「笑っていいとも!」出演詳報 サンケイ・ニュース

安倍「ストレスをため込むと、さっき言った発想になるんですよ。『あいつの花がないじゃないか』と(笑)。こうなるとマイナス志向がどんどんいきますから、そうなると国の政策を考えていく上においてですね、私がマイナス思考になると日本全体にも影響していく可能性がありますから、その意味においてもなるべくですね、気持ちを明るく、と」

タモリ「前の首相のときとの心境の変化はそういうことですか」

安倍「前のときにはですね、もっと若いですから肩に力が入るんですね。そうするとですね、うまく息抜きをしようということがなかなかできなかったですね。ええ。そういう意味では今回は息抜きできるときは息抜きをしようと」

安倍「あの、32年間、辞めようと思ったことはないんですか?」

タモリ「それがないんです。よく聞かれるけど、思い当たるふしがない。それで私は、お酒は、お酒は飲まれますか?」

安倍「最近は飲めるようになりました。前は全然飲めなかったんですけどね」

タモリ「今度一緒に飲みましょうか?」

安倍「ぜひ、ゆっくりですね、長続きの秘訣を聞きたいなあと思います(場内拍手)」

安倍首相「笑っていいとも!」出演詳報 サンケイ・ニュース

このあたりの、生放送での安倍首相とタモリとのやりとりをみると、事前にかなりの打ち合わせをしたであろうことがわかる。一方、それ以上に、タモリの会話力のセンスが光る。

番組出演を批判する人々は、「いいとも」が「バラエティー番組」であると言って、ある意味「嘲る」のだが、「バラエティー番組」といっても、この前半のトーク部分は、タモリと現職首相との「サシ」の「トーク」である。

政権ナンバー2の麻生氏に対して「麻生さん嫌いなんですか?」と真正面から切り込んでいる。この場が「いいとも」であり「タモリ」であり「生放送」だからできる会話である。(政治部の記者や討論番組では、このような直接的な聞き方をするのは少しムリがある。)

さらに、安部首相に対しては、もっとも「聞きにくい」内容であろう「ストレス」について、第一次安倍内閣の時との「心境の変化」についても、しっかり聞いている。安部首相もごまかすことなく真摯に正面から答えている。そして「長続きの秘訣」という言葉でタモリに聞き返すことで、自らの「長期政権」への意欲を、間接的にではあるが表明している。

「出演する首相」と「出演しない首相」どちらが良いか?

たしかに「いいとも」は「バラエティー番組」ではあるが、タモリはしっかりと他の報道番組や討論番組とは一線を画した上で、聞くべきことを聞き、引き出すべきことを引き出しているではないか・・・。

フジテレビだけに出演するのは不公平だという意見はもっともである。しかし、それは他の民放局の社員が言うべきことである。視聴者には全く関係ないことなので、この反対意見を視聴者が言う意味はない。他の民放の「国民的番組」が、自由に首相に出演依頼をすれば良い。

では、バラエティーに「出演する首相」と「出演しない首相」と、どちらが良いのか?

私は「出演する首相」の方が良いと考えている。

生放送の場合、現職首相が出演することによるリスクも多い。特に「お笑いタレント」と共演の場合は、事前の打ち合わせをいくら行っても、予定にないアドリブを生放送で入れてくることは当然予測される。だからこそ、本来は現職の首相や政権中枢にいる人物は、公式発表やごく限られた「コントロール可能」なメディアにしか登場したがらない。これが普通である。

しかし、首相及び政権中枢が、現状の「広報的課題」をしっかり認識し、その課題を解決するために、どういう「施策」を行うべきか把握し、明確に実行した点は評価すべきだと思う。

一方で「国民的番組」に出演するからには、「出演する意図」が政権側にあるという政権の「広報戦略」を、視聴者である私たちはしっかり理解しなくてはならない。一国の首相が「なんとなく」全国ネットの生放送に出演することは100%ありえないからだ。「リスク」を負ってでも生放送のバラエティーに出演するからには、出演する明確な理由があるのだ。

広報戦略の「意図」を知ることの重要性

冒頭で、

「いいとも」のテレフォンショッキングに現職の首相がスタジオ出演したのは初めてだ。

と、書いたが、過去にスタジオ出演ではなかったが、「いいとも」に電話で出演した現役首相がいた。

5000回 2002年4月5日(金) *5000回を迎え、タモリが「生放送単独司会世界記録」としてギネスブックに認定される。記者会見を行った翌年2003年1月15日(水)には当時首相の小泉純一郎氏と生放送中に電話が通じ、タモリへ首相から直接お祝いの言葉が贈られた。

出典:いいとも!トピックス!(フジテレビ)

長期政権を担う首相は、メディアと時に反目しあう。同時に相互補完的役割を互いに果すこともある。「白か黒か」といった相反する関係でなく「清濁併せ呑む」関係となる。現職の首相がバラエティー番組に「出演すること」自体を「良い」「悪い」と論じることよりも、その「出演の意味」(広報戦略)を、しっかりと考える(リテラシー)ことの重要性をつくづくと感じた、今回の現職首相のバラエティー番組への生出演であった。

片岡英彦

企画家/戦略PRプロデューサー

1970年生まれ。京都大学卒業後、日本テレビで、報道記者、宣伝プロデューサーを務めた後、アップルのコミュニケーションマネージャー、MTV広報部長、日本マクドナルド・マーケティングPR部長、ミクシィのエグゼクティブ・プロデューサーを経て、2011年、片岡英彦事務所(現:株式会社東京片岡英彦事務所)設立。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。2013年、一般社団法人日本アドボカシー協会を設立、代表理事就任。2011年以降はフランス・パリに本部を持つ国際NGO「世界の医療団」の広報責任者を務める。戦略PR、アドボカシーマーケティング、新規事業企画が専門。

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